2026年8月30日更新
学習障害(LD)のある社員について、「文章の内容は理解できるのに、手書きになると非常に時間がかかる」「数字の入力だけミスが多い」「長い文章を読むと、必要な情報をつかみにくい」といった状況が見られることがあります。
他の仕事は問題なくできているため、周囲からは「なぜこの作業だけできないのか」「もう少し注意すればできるのではないか」と受け取られることもあります。
しかし、学習障害では、読む・書く・計算するなど、特定の領域で困難が表れることがあります。仕事全体の能力が低いということではありません。
また、「読むことが苦手なら口頭で伝える」「書くことが苦手なら書く仕事を外す」と、診断名や苦手さから対応を直接決めればよいわけでもありません。
学習障害(LD)のある社員への職場対応で大切なのは、「何が苦手か」だけを見るのではなく、「この仕事のどの工程で支障が起きていて、仕事の目的を保ちながら方法を変えられないか」を確認することです。
この記事では、読み・書き・数字などで仕事上の困難が見られる場合に、企業や管理職がどのように仕事との接点を確認し、調整方法を考えるのかを整理します。
- 学習障害(LD)を「仕事全体ができない」と考えない方がよい理由
- 読み・書き・数字などで仕事上の支障があるときの見方
- 仕事の目的を変えずに、方法を調整する考え方
- PCや読み上げなどのツールを使うときに確認したいこと
- 本人の苦手さだけでなく、仕事の側も見直す理由
学習障害(LD)は「仕事全体ができない」ということではない
学習障害(LD)は、全般的な知的発達に大きな遅れがない一方で、読む、書く、計算するなど、特定の能力を使う場面で著しい困難が見られることがあります。
そのため、仕事によっては問題なく能力を発揮しているのに、ある作業だけ極端に時間がかかったり、同じ種類のミスが繰り返されたりすることがあります。
この「できることと、難しいことの差」が大きいと、周囲には困難が分かりにくくなります。「他のことはできているのだから、この作業も努力すればできるはず」と考えられることもあります。
しかし、本人の努力だけで解決しようとすると、必要以上に時間がかかったり、疲労が強くなったりして、本来できる仕事にまで影響することがあります。
職場で見る必要があるのは、「LDだから何ができないか」ではなく、現在の仕事のどこで支障が生じているのかです。
「読む・書く・計算が苦手」だけでは、必要な対応は決まらない
例えば、「読むことに困難がある」といっても、すべての文章が読めないわけではありません。
短いメールであれば問題なく確認できるものの、情報量の多いマニュアルでは必要な箇所を探すのに時間がかかる場合があります。紙の資料より画面の方が読みやすい人もいれば、反対に紙の方が確認しやすい人もいます。
書くことについても同様です。手書きでは時間がかかる一方、キーボード入力では問題なく文章を作成できることがあります。
数字についても、計算そのものに困難がある場合もあれば、似た数字を入力するときや、多くの数字を転記するときにミスが起きやすい場合もあります。
そのため、診断名や「読みが苦手」「書くのが苦手」といった大きな括りだけで対応を決めるのではなく、**どの仕事で、どの方法を使ったときに、どのような支障が起きているのか**を具体的に確認する必要があります。
仕事で起きている場面から、調整方法を考える
学習障害のある社員への対応では、苦手なことを仕事からすべて外すのではなく、仕事の目的と現在の方法を分けて考えることが重要です。
ここからは、職場で起こり得る場面から見ていきます。
読むことが仕事の負担になっている場合
マニュアル、メール、社内資料など、仕事では多くの文章を読む必要があります。
本人が文章を読むことに時間がかかっている場合、「口頭で説明すればよい」と決める前に、何が読みづらさにつながっているのかを確認します。
例えば、一度に表示される情報量が多いことで必要な部分を見つけにくい場合もあれば、文字の大きさや行間、紙と画面の違いによって読みやすさが変わる場合もあります。
必要に応じて、重要な部分を分かりやすく示す、情報を小さなまとまりに分ける、読み上げ機能を使うなどの方法も考えられます。
ただし、どの方法がよいかは本人によって異なります。
「読むことが苦手だからこの方法」と決めるのではなく、必要な情報をどの方法なら正確に受け取れるのかを確認します。
書くことが仕事の負担になっている場合
文章の内容を考えることには問題がないものの、手書きでは非常に時間がかかる場合があります。
このとき、その仕事で本当に必要なのが「手書きすること」なのか、それとも「必要な情報を正確に記録すること」なのかを考えます。
例えば、日報の目的が仕事の内容を記録して共有することであれば、手書きではなくPCやタブレットから入力しても、求める成果を変えずに済む場合があります。
一方で、仕事上どうしても手書きが必要な場面があるのであれば、その部分まで一律に外すということではありません。
方法を変えられる部分と、仕事として必要な部分を分けて考えることが重要です。
数字や計算でミスが起きている場合
数字の読み取り、計算、入力、転記など、数字を扱う仕事でミスが起きることがあります。
この場合も、「数字が苦手だから数字を扱う仕事から外す」とすぐに判断するのではなく、どの工程で問題が起きているのかを確認します。
例えば、同じ数字を何度も手入力する工程でミスが起きているのであれば、入力方法を選択式にしたり、元データから自動的に反映できる仕組みにしたりすることで、ミスを減らせる場合があります。
計算自体ではなく転記でミスが起きているのであれば、計算業務そのものを外す必要はないかもしれません。
「数字が苦手」という結果だけでなく、仕事のどの工程で正確さが失われているのかを見ることで、調整すべき場所が見えやすくなります。
口頭で整理して伝えることに時間がかかる場合
学習障害のある人すべてに見られるものではありませんが、質問されたことをその場で整理して答えることに時間がかかる人もいます。
例えば、面談で突然複数の質問をされたときには答えにくい一方、事前に確認したい内容が分かっていれば整理して話せる場合があります。
このようなときには、質問事項を事前に伝える、少し考える時間を設ける、必要に応じて後から文章で補足できるようにするといった方法が考えられます。
大切なのは、「LDだから口頭での説明が苦手」と一般化することではありません。
本人に実際にどのような困難があり、仕事上どの場面に影響しているのかを確認して対応します。
仕事の方法を変えても、求める成果まで変えるとは限らない
学習障害のある社員への対応では、「方法を変えること」と「仕事の基準を下げること」が同じものとして捉えられることがあります。
しかし、この二つは分けて考える必要があります。
例えば、手書きではなくPC入力を使ったとしても、正確な報告書を期限までに作成するという仕事上の成果は変わらない場合があります。
文章を読み上げてもらう方法を使ったとしても、その情報を理解し、必要な仕事を行うという役割までなくなるわけではありません。
仕事で本当に求めているものが何かを明確にすると、変えられる方法と、変えずに求める成果を分けやすくなります。
逆に、この区別が曖昧なままでは、「配慮だから仕事を減らす」「仕事だから従来の方法で行う」という二者択一になりやすくなります。
PCや読み上げなど、ツールを用意するだけでは職場対応は終わらない
PC入力、タブレット、読み上げ機能、音声入力、入力フォームなど、仕事を進めやすくするために使える方法はさまざまです。
ただし、ツールを用意しただけで、仕事上の支障がなくなるとは限りません。
例えば、新しい入力システムを導入しても、どの仕事で使用するのかが決まっていなければ使われなくなることがあります。本人にとって操作が複雑であれば、別の負担が増えることもあります。
導入するときには、実際の仕事のどこで使うのか、本人が利用できる方法なのか、その方法によって仕事上の支障が減ったのかを見ることが重要です。
「配慮のためのツールを導入した」で終わらず、仕事の中で機能しているかまで確認します。
本人の苦手さだけでなく、仕事の側にも改善できるところがないかを見る
社員が長い文書を読むのに時間がかかっているとき、本人の読み方だけに問題があるとは限りません。
社内資料そのものが長く、重要な情報がどこにあるのか分かりにくかったり、複数の資料に情報が分散していたりすることもあります。
数字入力のミスが多い場合も、同じデータを複数のシステムへ何度も転記する仕事になっていれば、本人への注意だけではミスを減らしにくいでしょう。
もちろん、すべての仕事を本人に合わせて変更するという意味ではありません。
しかし、本人への個別対応を考える過程で、**そもそも現在の仕事の方法が分かりやすく、ミスが起きにくい設計になっているか**を見ることには意味があります。
これは学習障害のある社員だけではなく、他の社員にとっても仕事を進めやすくする改善につながる場合があります。
一度決めた方法を、そのまま固定しない
本人にとって使いやすい方法が見つかっても、それを一度決めたままにする必要はありません。
仕事に慣れることで必要な調整が変わることもありますし、仕事内容や使用するシステムが変われば、それまでの方法が使いにくくなる場合もあります。
重要なのは、「この人にはこの方法」と固定することではなく、現在の仕事でその方法が機能しているかを見ることです。
本人の仕事への影響と、会社側の実施状況を確認しながら、必要に応じて見直していきます。
- 診断名だけで、任せる仕事や対応方法を決めていませんか
- 実際の仕事のどの工程で支障が起きているか確認していますか
- 本人にとって使いやすい情報の受け取り方・記録方法を確認していますか
- 方法を変えることと、求める成果を分けて考えていますか
- 実施した調整が、実際の仕事で機能しているか見直していますか
学習障害(LD)のある社員への職場対応でよくある質問
Q:学習障害のある社員には、文章を使わず口頭で指示した方がよいですか
一律に口頭で伝えればよいということではありません。
文章を読むことに困難があっても、本人によって使いやすい情報の受け取り方は異なります。短い文章であれば確認しやすい人、紙より画面の方が読みやすい人、読み上げ機能を使うと理解しやすい人などさまざまです。
実際の仕事で、どの方法なら必要な情報を正確に確認できるのかを本人と確認します。
Q:手書きが苦手なら、PC入力へ変更してもよいですか
仕事の目的との関係から検討します。
その仕事で必要なのが手書きそのものではなく、必要な情報を正確に記録・共有することであれば、PC入力など別の方法で同じ成果を得られる場合があります。
一方、仕事内容として手書きが必要な部分がある場合は、その部分まで一律に外すのではなく、どこまで方法を変えられるのかを分けて考えます。
Q:学習障害のある社員に向いている仕事はありますか
診断名だけで、向いている職種を決めることはできません。
本人の経験や得意なこと、困難がある領域に加えて、その仕事で読む・書く・数字をどの程度使うのか、どのような方法で情報を扱うのかを見る必要があります。
同じ職種でも業務内容や仕事の進め方は異なるため、職種名ではなく、実際の仕事を構成する条件との相性を見ることが重要です。
Q:数字のミスが多い場合、数字を扱う仕事から外した方がよいですか
すぐに外す必要があるとは限りません。
まず、計算そのものに困難があるのか、数字の転記で間違いやすいのか、入力項目が多いことで混乱しているのかなど、どの工程でミスが起きているのかを確認します。
入力方法や確認方法を変えることで安定するのであれば、仕事そのものを外さずに対応できる場合があります。
Q:本人が使いやすい方法を希望した場合、すべて実施する必要がありますか
本人が希望する方法を確認することは重要ですが、その方法をそのまま実施することだけが対応ではありません。
何に困っているのか、その方法によって仕事上の支障が減るのか、会社として実施可能なのかを確認します。
希望された方法以外にも同じ目的を達成できる方法がある場合には、本人と相談しながら検討することができます。
まとめ|学習障害への対応は「苦手な作業を外すこと」ではない
学習障害(LD)のある社員は、読む・書く・数字など、特定の領域で仕事上の困難が生じることがあります。
しかし、それは仕事全体ができないということではありません。また、「読むのが苦手なら口頭」「書くのが苦手なら書く仕事を外す」と、診断名や苦手さから対応を直接決めるものでもありません。
職場で確認したいのは、「この人が、この仕事をするときに、どの工程で支障が起きているのか」です。
そのうえで、仕事の目的を確認し、方法を変えても同じ成果を得られないかを考えます。本人にとって使いやすい方法と、会社として仕事上必要な役割や成果を分けて整理することも重要です。
また、本人への調整を検討する中で、情報が分かりにくい、転記が多い、仕事の方法そのものが複雑になっているなど、会社側の業務設計に改善できるところが見つかることもあります。
学習障害への職場対応を、本人の苦手さを補うだけのものにせず、本人が持っている力を仕事で発揮できる方法を考えることが、継続して働ける職場づくりにつながります。
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参考資料・一次情報
発達障害者支援施策(厚生労働省)
コミック版5 障害者雇用マニュアル 発達障害者と働く(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
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