障害者グループホーム「恵」の不正問題が発覚し、社会に大きな衝撃を与えました。この問題は、障害者福祉サービスを提供する事業所が、利用者の食材費を不正に水増し請求したり、福祉サービスの報酬を不正に請求したりしたことに端を発しています。このため、愛知県と名古屋市は「恵」が運営する5か所の施設の指定取り消しを発表し、岐阜市でも同様の措置が取られました。今回の不正問題の経緯や内容を解説していきます。
障害者グループホーム「恵」へ連座制が適用
障害者グループホーム「恵」では、多岐にわたる不正行為が明らかになっています。愛知県と名古屋市は県内5カ所のホームの指定取り消し処分を出しました。これらの問題を受けて、厚生労働省は「恵」のグループホームが組織的に不正に関与したとして、障害者総合支援法に基づき、運営のホーム99カ所に事業者指定の更新を認めない「連座制」を適用し、同社や関係自治体に通知することを発表しました。
指定取り消しには連座制の規定があり、12都県にあるグループホームでは、6年ごとの指定更新や新規指定を5年間受けられなくなり、期限を迎えた施設から運営できなくなります。また、今回の愛知県と名古屋市で指定取り消し処分を受けたホームでは、8月31日~12月1日で取り消し処分の効力発生日となり、運営ができなくなります。
利用者は取り消し対象の5カ所だけで約200人とみられ、全国12都県で約100か所のグループホームを運営していることから、知的障害者や精神障害者の約2000人の入居者に影響が出ることになります。
障害者グループホーム「恵」の不正問題の内容
食材の過大徴収
「恵」は利用者から過大に食材費を徴収していました。次のような状況があったようです。
愛知県内で運営する複数の施設で食材費の不当な徴収が疑われる事例が判明。厚労省はグループホームに対し、調理にかかった食材費の実費を徴収するよう基準で定めているが、同社は実際の材料費を上回る額を利用者に請求していた。実費の倍以上の金額を徴収していた施設もあった。
ホームページなどによると、同社は全国で約120のグループホームを運営。うち、名古屋市内のある施設では1日800円の食材費を徴収している。
恵の各事業所では、入居する利用者の家族から、「食事の量が少ない」とか、「子どもがいつもお腹を空かせている」などの声があがっていたほか、事業所で働く職員からも、「本部から少ない食材費しか来ないので満足に食材が買えない」などの声があがっていました。
出典:障害者向けグループホーム展開「恵」に「連座制」適用を通知(NHK)
おととしの4月。岡崎市が定期的に行う立ち入り検査で、実費で徴収するよう定められた利用者の食材費を水増し請求していたことが発覚。「経済的虐待」と認定されています。
出典:障害者グループホーム「恵」 愛知の5か所で最も重い行政処分「指定取り消し」(中京TV)
「恵」 元職員(去年9月取材):「意思疎通が取れない利用者がとても多かったので、この人たちにこういうご飯を与えても分からないだろうと。それをいいふうに本部とか、上の人間はやっていた。(管理者から)朝ご飯は100円、夜ご飯は300円におさめろという感じで。栄養バランスのないような、ほとんど揚げ物ばかりで安く済ませて」
出典:障害者グループホーム「恵」 愛知の5か所で最も重い行政処分「指定取り消し」 (中京TV)
「体重が入所したときは70kgちょっと。今は63~64kgくらい。7~8kgは痩せてしまった」(息子が「恵」の施設に入所する60代の父親)
「本人はずっと『食事が少ない』と言っていました。だけど不満を言ってしまうと、行き場がなくなると思って『我慢しなさい』と…」(息子が「恵」の施設に入所する50代の母親)
出典:知的障害のある息子を預ける両親の「不信感」 グループホーム運営「恵」の不正問題はなぜ起きたのか?メ~テレニュース)
虐待行為
さらに、利用者に対する身体的虐待も確認されています。
処分理由では、職員を適切に配置しなかったり、利用者が外泊で不在だった際にも偽って報酬を請求したりしていたとされる。また、施設では利用者に対して食材費約140万円を過大徴収していたほか、身体的虐待3件も認定した。
出典:「恵」グループホーム 一宮市内の施設を新規受け入れ停止処分、不正請求や虐待で(中日新聞)
愛知県豊橋市が2カ所のホームでそれぞれ身体的、心理的な虐待を認定していたことが分かった。自治体による身体的、心理的な虐待の認定が明らかになるのは初めて。同県内の別のホームでは、職員による暴言や暴力行為の疑いが音声データで判明した。
重度の知的障害で意思疎通が難しい利用者に対し、職員1人が顔をけったり、頭を押さえつけて湯船に短時間沈めたりした。情報提供を受けた豊橋市は20年、障害者虐待防止法に基づき調査し、身体的虐待と判断。恵に業務改善計画などを提出させた。
出典:身体的虐待を認定、食材費過大徴収の福祉会社グループホーム 別施設では暴言の音声判明(中日新聞)
不正請求
「恵」は、実際には存在しない職員を配置したように見せかけ、自治体に対して不正に報酬を請求していました。障害福祉サービスの報酬を不正に請求する行為も組織ぐるみで行われていたことが判明しています。
実際にはいない職員を配置したように装うなど自治体に不正に報酬を請求していて、その金額は、県内で約4億5000万円に上ることが分かりました。
出典:障害者グループホーム「恵」 愛知の5か所で最も重い行政処分「指定取り消し」(中京TV)
職員がA4サイズの用紙に利用者の生活記録を記入している。起床・睡眠時間や食事量、薬の服用状況などに加え、「スタッフ」と書かれた欄に、その日働いた職員が署名か押印する。だが、一部のGHでは別の記入用紙を新たに作成し、スタッフ欄に実際は働いていない職員の印鑑を押して職員配置数を偽装していた疑いがある。
出典:「恵」グループホームで何が 元職員が明かしたずさんな運営実態(毎日新聞)
利用者からの食材費の過大徴収に加え、自治体への福祉サービス報酬の過大請求や勤務記録などのずさんな管理の実態が明らかになった。勤務記録については、複数の施設の元職員が改ざんが常態化していたと本紙の取材に語った。
出典:勤務記録の改ざん常態化か 障害者施設過徴収、元職員が語る「二重帳簿」の実態(中日新聞)
職員は中部地方のホームに勤務。入社数カ月後に勤務表の改ざんに気付いた。自治体職員が調査のためにホームを訪れた直後、机の上の勤務表を見ると、一度も夜勤をしたことがないのに月に数回入ったことになっていた。職員ではない人の名前も書かれていた。
出典:「障害者が行き場を失うかもしれず告発できなかった」 福祉会社「恵」の不正、職員怒りの証言(中日新聞)
なお、今回の経緯については、中日新聞で時系列を追って、詳細が示されています。
恵の食材費過大徴収問題、これまでの経緯 暴かれた福祉ビジネス…行政処分へ(中日新聞)
障害者のグループホームとは?
障害者グループホームは、障害のある方が必要な支援やサポートを受けながら共同生活を営む住居です。これらのホームは、障害者総合支援法によって定められた福祉サービスの一環として提供されます。
支援内容としては、食事の準備や掃除、入浴などの日常生活に必要なサポート、コミュニケーションや社会活動の機会を提供し、利用者が社会的なつながりを持てるようにすることが含まれます。施設の種類としては、アパートタイプや一軒家タイプなど、施設の形態は様々なものがあります。それぞれの施設が提供するサポートの範囲や生活環境が異なります。
障害者グループホームの運営では、障害者総合支援法により、障害者が地域で自立した生活を送るための支援を提供することを目的としており、適切な支援とサービスの提供が求められています。また、介護保険法により高齢者や障害者に対する介護サービスの提供に関する規定があり、不正請求や不適切なサービス提供は法的に禁止されています。地方自治体のガイドラインでは、各自治体によって障害者施設の運営に関するガイドラインを定めており、適正な運営と報告が義務付けられています。
今回の「恵」の不正行為は、これらの規制やガイドラインに明確に違反しています。
過大徴収: 利用者の食材費を過大に徴収する行為は、利用者への適切なサービス提供を求める地方自治体のガイドラインに反しています。
架空職員の配置: 実際に存在しない職員を配置しているように装い、報酬を不正に請求したことは、介護保険法や障害者総合支援法に違反します。
身体的虐待: 利用者に対する身体的虐待は、障害者総合支援法が求める安全で尊厳を保つケアの提供に完全に反しています。
障害者グループホーム「恵」の与える社会的影響
障害者グループホーム「恵」の不正問題の影響について考えていきたいと思います。
障害者とその家族への影響
不正問題が明るみに出たことで、施設に対する信頼が大きく損なわれることになりました。多くの利用者とその家族は、施設が適切なケアを提供しているかどうかに対して深い不信感を抱くようになりました。特に、食材費の過大徴収や身体的虐待といった具体的な被害が報告されているため、利用者の安全や健康に注意が向けられています。
他の障害者施設や福祉サービスへの信頼低下
「恵」の問題が報道されることで、他の障害者施設や福祉サービスへの信頼も低下しています。多くの人々は、このような不正行為が他の施設でも行われているのではないかという懸念を抱き、福祉サービス全体に対する疑念が広がっています。
社会全体の障害者福祉に対する懸念
「恵」の不正問題は障害者個人やその家族だけでなく、社会全体に対する障害者福祉の在り方に対する懸念を引き起こしました。また福祉サービス全体の信頼性に対する大きな打撃となり、社会全体の福祉に対する関心と懸念を高める結果となりました。福祉サービスの質の低下を示すものとなっており、今後、福祉サービスの運営における透明性と信頼性が求められることとなるでしょう。
厚生労働省の対応
厚生労働省では、これらのことを受けて連座制の適用と改善命令を出しました。利用者のサービス確保に向けた対応 としては、株式会社恵に対する行政指導として、次のことが示されています。
・ 利用者や家族等に対する現状の丁寧な説明の実施
・ 同社の運営する各障害福祉サービス事業所において、指定更新の期日が到来す るまでの間、確実なサービスの提供
・ 事業所の利用者に対する継続的なサービスの確保
・ 過大徴収した食材料費に係る返済の確実な履行
・ 国及び都道府県等に対する定期的な進捗状況等の報告
また、関係自治体との連携としては、次の点が示されました。
・ サービスの確実な提供に関する指導の実施
・ 株式会社恵の事業所の利用者に対する継続的なサービスの確保に関する指導の実施
・ 相談窓口設置等による利用者やその家族等への必要な情報提供
出典:株式会社恵の不正行為等への対応について(厚生労働省)
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