知的障害者への仕事の教え方|伝わる指示と職場の工夫

知的障害のある社員への仕事の教え方|伝わる指示と職場の工夫

2016年01月11日 | 支援と関わりの工夫

担当者が頑張るほど、 組織が止まる

 

障害者雇用を組織の力に変える5日間

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「障害者雇用は、配慮の話ではなく、設計の話だ。」

2026年8月23日更新
「何度説明しても、同じところで間違えてしまう」
「担当者が変わると、仕事のやり方が分からなくなる」
「一人で任せると、途中で仕事が止まってしまう」
「イレギュラーが起きるたびに、上司へ確認が必要になる」

知的障害のある社員へ仕事を教える中で、このような悩みが出ることがあります。

こうした状態が続くと、「本人にはこの仕事は難しいのではないか」「もっと繰り返し教える必要があるのではないか」と考えがちです。

しかし、その前に確認しておきたいことがあります。

仕事内容そのものが分かりやすく整理されているか。どこまでできれば完成なのかが決まっているか。教える人によって説明が変わっていないか。迷ったときに誰へ確認するのかが明確になっているか。

知的障害のある社員への仕事の教え方では、本人に分かりやすく伝える工夫と同時に、会社側で仕事を分かりやすい形に整えることが重要です。

この記事でわかること
  • 知的障害のある社員への指示が伝わりにくくなる理由
  • 仕事を教える前に会社側で決めておきたいこと
  • 具体的・一貫した教え方が必要な理由
  • 「分かった」と「一人でできる」の違い
  • イレギュラー時にも仕事が止まりにくい仕組みの考え方

知的障害のある社員への指導は、なぜうまくいかなくなるのか

知的障害のある社員に仕事を教えるとき、「できるだけ丁寧に説明しよう」と考える企業は多いです。

もちろん丁寧に教えることは大切です。しかし、説明する回数を増やせば必ず仕事ができるようになるとは限りません。

本人が理解しにくい伝え方になっていたり、教える人によって説明が違っていたり、そもそも会社側でも「正しいやり方」が決まっていなかったりする場合があるからです。

抽象的な言葉では、行動に変換しにくいことがある

職場では、「適度にやってください」「少し休んでから始めてください」「きれいに並べてください」「状況を見て対応してください」といった表現がよく使われます。

しかし、「少し」「適度に」「きれい」「状況を見て」といった言葉は、具体的にどのような行動を求めているのかが分かりにくい場合があります。

例えば、「5~10分くらい休憩してください」よりも、「5分休憩して、10時30分から作業を再開してください」と伝えた方が、何をすればよいのかが明確になります。

重要なのは、「知的障害だから簡単な言葉を使う」ということではありません。本人が、次に何をすればよいのかを行動として理解できる伝え方になっているかを確認することです。

教える人によって説明が違うと、仕事が定着しにくくなる

Aさんは「最初にこの作業をしてください」と教え、Bさんは「こちらから先にやってください」と教える。

同じ仕事なのに、人によって手順や呼び方が違うと、本人は何を基準にすればよいのか分からなくなることがあります。

周囲から見ると、「前に教えたのにできない」「覚えていない」ように見えるかもしれません。しかし実際には、会社側で教え方が統一されていないことが原因になっている場合もあります。

本人への配慮だけでなく、同じ仕事を、同じ基準で教えられる状態をつくることも重要です。

仕事を教える前に「完成基準」を決める

仕事を正確に教えるためには、その前に会社側が「何をもって完成とするのか」を決めておく必要があります。

例えば、「机をきれいにしてください」と伝えたとします。しかし、「きれい」の基準が人によって違えば、本人はどこまでやれば仕事が終わるのか分かりません。

書類はどこへ置くのか。机の上には何を残してよいのか。どの状態になれば作業終了なのか。こうした基準が明確になっていれば、本人にも具体的に伝えることができます。

反対に、会社側でも完成基準が決まっていなければ、本人に「もっと丁寧に」「もう少しきれいに」と伝え続けることになります。

知的障害のある社員への指導では、本人へ正確に教える前に、会社自身が仕事の「正解」を説明できる状態になっているかを確認することが大切です。

仕事の教え方は「具体的・一貫・確認できる形」にする

知的障害のある社員へ仕事を教えるときには、いくつか意識したい基本があります。

ただし、これらは「知的障害のある人には必ずこの方法を使う」という意味ではありません。本人がどのような方法なら理解しやすいのかを見ながら調整します。

具体的に伝える

「あれを取ってください」ではなく、「青い箱を一つ持ってきてください」。

「終わったら片づけてください」ではなく、「作業が終わったら、この道具を右側の棚へ戻してください」。

このように、求める行動が分かる言葉で伝えます。一度に多くの指示を出すより、一つずつ順番を示した方が理解しやすい場合もあります。

同じ仕事は、同じ方法で教える

仕事を教える人が複数いる場合には、基本となる手順を揃えておくことが重要です。

もちろん、本人の理解度に合わせて説明を補足することはあります。しかし、人によって仕事の手順そのものが変わってしまえば、本人は何を覚えればよいのか分からなくなります。

「誰が教えても、大きく違わない」という状態をつくることは、本人のためだけではなく、職場全体の業務標準化にもつながります。

見せる、やってもらう、確認する

仕事を説明した後、「分かりましたか」と聞くだけでは、どこまで理解できているか分からないことがあります。

本人が「分かりました」と答えていても、実際に一人で作業すると途中で止まることもあります。

そのため、実際にやって見せる。本人にやってもらう。どこまでできているか確認する。という方法が有効な場合があります。

「説明を理解したこと」と、「仕事を一人で再現できること」は同じではありません。実際の仕事を通して確認することで、どこでつまずいているのかも見えやすくなります。

繰り返しても難しいときは、本人だけを見ない

仕事によっては、繰り返すことで手順が定着することがあります。

しかし、何度繰り返しても同じところで止まるのであれば、「もっと練習してください」だけで解決しようとしないことも大切です。

手順が複雑すぎないか。説明方法が本人に合っているか。一度に求めていることが多すぎないか。本人に必要以上の判断を求めていないか。

本人の学習だけでなく、仕事の作り方も確認します。

「できない」を、そのまま本人の能力不足と判断しない

仕事の中には、本来の目的とは別の能力を求めているものがあります。

例えば、一定数の商品を箱へ入れる仕事があるとします。この仕事の目的が「決められた数の商品を正確に準備すること」だとします。

本人が頭の中で数を数えることが難しい場合、「正確に数えられるようになるまで練習する」という方法も考えられます。

しかし、一定数だけ入るトレーを使えば、数える能力に頼らず、同じ結果を出せるかもしれません。

時間を把握することが難しい場合にはタイマーを使う。
目盛りを読み取ることが難しい場合には必要な位置に印をつける。
文字だけでは理解しにくい場合には写真や図を使う。

こうした工夫が有効な場合があります。

ここで考えたいのは、本人ができないことを、どうすればできるようになるかだけではありません。

その能力は、本当に仕事の成果を出すために必要なのか。ということです。

本人を仕事に合わせるだけでなく、仕事の工程を見直すことで、成果を出しやすくなることがあります。

担当者を決めるだけでは、支援が属人化することがある

知的障害のある社員を受け入れるとき、仕事を教える担当者や相談を受けるキーパーソンを決めることがあります。

特に入社直後や新しい仕事を覚える時期には、教える人をある程度決めておくことが有効な場合があります。

本人にとっても、「仕事のことで分からなければ、この人に聞けばよい」と分かるためです。

ただし、一人の担当者にすべてを任せると、別の問題が生じます。

その人しか仕事の教え方を知らない。その人しか本人のことを理解していない。その人が休むと誰も判断できない。この状態では、支援が担当者へ属人化しています。

必要なのは、担当者を決めること。教え方を揃えること。必要な情報を共有すること。仕事の手順や判断基準を組織に残すこと。です。

「担当者がいるから大丈夫」ではなく、担当者がいなくても仕事が大きく止まらない状態をつくることが重要です。

イレギュラー対応は「本人が全部判断できること」をゴールにしない

知的障害のある社員について、「決められた仕事はできるけれど、臨機応変な対応が難しい」「イレギュラーがあると仕事が止まってしまう」という声を聞くことがあります。

ここで、「もっと自分で判断できるようになってもらわなければ」と考える場合があります。しかし、仕事で起きるすべての例外を、本人が一人で判断する必要があるのでしょうか。

例えば、通常のケースは、本人が決められた手順で進める。決められた条件から外れたら、担当者へ確認する。担当者でも判断できない場合は、管理職へ渡す。という仕組みにすることもできます。

大切なのは、どこまで本人が判断し、どこから先は周囲へ判断を渡すのかを決めておくことです。

「何でも一人でできること」を仕事のゴールにしなくても、役割分担によって仕事を成立させることはできます。

「支援すること」と「判断を代わること」は同じではない

本人が迷うたびに、「次はこれをしてください」「今回はこっちです」「これは私が決めます」と上司や担当者が答えているとします。

一つひとつ丁寧に支援しているように見えます。しかし、すべての判断を周囲がその都度行っていると、担当者がいなければ仕事が進まなくなります。

支援することと、本人の代わりにすべてを判断することは同じではありません。

例えば、通常の作業は本人が進める。一定の条件になったら確認する。確認先は誰かを決めておく。というように、判断の境界を整理することができます。

本人にすべての判断を求める必要はありません。一方で、周囲がすべての判断を代わる必要もありません。本人が担うところと、判断を周囲へ渡すところを仕事として設計することが重要です。

仕事がうまくいかないときは「本人・教え方・仕事」の3つを見る

知的障害のある社員の仕事が定着しないとき、本人への指導方法だけを見直しても解決しないことがあります。

そこで、3つの視点から確認します。

本人を見る

どこまで理解できているのか。
どの方法なら理解しやすいのか。
何が得意で、どこでつまずいているのか。

本人の状態を見ることは必要です。

教え方を見る

指示は具体的になっているか。
教える人によって内容が変わっていないか。
実際に仕事をしてもらい、理解を確認しているか。

周囲の教え方に改善できるところがないかを見ます。

仕事を見る

工程が複雑すぎないか。
完成基準が曖昧ではないか。
本人が判断する必要のないことまで任せていないか。
道具や手順を変えることで、仕事を進めやすくできないか。

本人、教え方、仕事。

この3つを合わせて見ることで、「本人ができない」という見方だけでは見えなかった改善点が見つかることがあります。

自社ではどうでしょうか
  • 任せる仕事の完成基準を、会社側で説明できますか
  • 教える人によって、手順や使う言葉が変わっていませんか
  • 「分かりました」という返事だけで理解確認を終えていませんか
  • イレギュラーが起きたときの確認先が決まっていますか
  • 仕事ができないとき、本人の能力だけでなく仕事の作り方も見ていますか
いくつか迷う項目があれば、本人への教え方だけではなく、仕事の手順・完成基準・判断の渡し方まで見直してみるとよいでしょう。
現場によって教え方や対応が変わっていると感じたら
知的障害のある社員への支援では、担当者一人が「分かりやすく教える方法」を身につけるだけでは、安定した運用にならないことがあります。
仕事の任せ方、伝え方、完成基準、判断の渡し方を、管理職や現場メンバーが共通して理解しておくことが重要です。
企業向け研修では、障害特性の理解だけでなく、現場で起きやすいケースをもとに、仕事の教え方や役割分担、判断の考え方を整理します。

よくある質問

Q:知的障害のある社員には、マニュアルを作った方がよいですか

マニュアルが有効な場合はありますが、作れば必ず仕事ができるようになるわけではありません。重要なのは、本人がそのマニュアルを使って仕事を進められるかどうかです。

文章だけより写真や図が理解しやすい人もいれば、実際に作業を見せてもらう方が理解しやすい人もいます。本人の理解の仕方と、仕事内容に合わせて考えます。

Q:写真やイラストを使えば、分かりやすくなりますか

写真やイラストが有効な場合はあります。ただし、「知的障害だから視覚化すればよい」と一律に考えるのではなく、本人にとって何が理解しやすいかを確認することが必要です。

また、写真やイラストを使っていても、仕事の手順や完成基準そのものが曖昧であれば、仕事は進めにくくなります。

Q:何度教えても仕事を覚えられない場合はどうすればよいですか

繰り返し練習することが有効な場合もありますが、それだけで解決しない場合には、仕事そのものも確認します。

手順が複雑すぎないか。
一度に求めていることが多くないか。
完成基準が分かりにくくないか。
本人に必要以上の判断を求めていないか。

「本人が覚えられない」という一面だけで判断しないことが重要です。

Q:仕事を教える担当者は、一人に固定した方がよいですか

仕事を覚える初期段階では、教える人をある程度固定することが有効な場合があります。一方で、その担当者しか仕事の教え方を知らない状態にすると、支援が属人化します。

基本となる手順や教え方、判断基準を共有し、他の社員でも一定の対応ができる状態をつくることが必要です。

Q:臨機応変な対応が苦手な場合はどうすればよいですか

すべてのイレギュラーを本人が一人で判断できるようにする必要はありません。

通常のケースは本人が手順どおり進め、一定の条件から外れたら担当者へ確認するという役割分担でも仕事は成立します。

重要なのは、「何が起きたら誰へ確認するのか」が本人にも周囲にも分かっていることです。

まとめ|「分かるように教える」だけでなく「仕事を分かる形にする」

知的障害のある社員への仕事の教え方では、具体的に伝えること、一貫した方法で教えること、繰り返し確認することが大切です。

しかし、仕事がうまくいかないたびに、「もっと分かりやすく説明しよう」「もっと繰り返し練習してもらおう」と担当者だけが頑張ると、支援がその人へ集中します。

本人に教える前に、会社側でも確認したいことがあります。

何をする仕事なのか。
どこまでできれば完成なのか。
どの手順で進めるのか。
本人がどこまで判断するのか。
いつ、誰へ判断を渡すのか。

本人に分かるように教えることと、仕事そのものを分かる形にすること。

この両方を行うことで、本人が仕事を再現しやすくなり、担当者だけに頼らず仕事を続けられる状態をつくりやすくなります。

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2 コメント

  1. 裏辻道子

    大変、参考になりました。私は現在、知的障がい者の方を二人雇用しております。
     

    返信する
    • 松井 優子

      コメントいただきありがとうございます。

      仕事を覚えるまでは長い時間がかかることが多いですが、
      安定的に働いてくれる方が多いと感じています。

      ぜひ、職場で工夫されていることなどあれば、教えていただければうれしいです。

      返信する

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