働き方改革がすすめられてきて、「テレワーク」という制度が従業員の働き方だけでなく、企業の在り方を変革する取り組みとして注目されてきています。
ここでの「企業の在り方」とは、業務上のコスト削減、生産性向上、危機管理などの経営上の課題だけでなく、自社の優秀な社員がその能力を十分に発揮し、長期間働き続けられるような「働き方改革」を実現する取り組みです。
一般の社員はもちろんですが、障害者雇用の中でもこのテレワークを活用した在宅就業の事例が増えてきています。障害者のテレワーク、在宅就業について見ていきます。
テレワークとは
「テレワーク」とは、情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを意味します。IT技術の飛躍的発達と高速通信網の整備により、職場環境や業務形態にも大きな変化をもたらしました。その結果会社だけでなく、自宅やその他の場所でも業務を行うことができるようになっています。
テレワークの「テレ(Tele)」は英語で「離れた」の意、「ワーク(Work)」は「仕事」のことであり、「離れた場所で行う仕事」という意味の造語になります。パソコンやスマホなどのITツールを活用しながら、1週間のうち8時間以上離れた場所で仕事をしていれば、テレワークをしている状態であるとされています。
テレワークは、政府が積極的に実現するべき国の目標としても位置づけられています。雇用形態の多様化とワーク・ライフ・バランス(「仕事と生活の調和」)の実現に向けて、2013年6月に閣議決定され、2014年に改訂された『世界最先端IT国家創造宣言』では、「雇用形態の多様化とワーク・ライフ・バランス(「仕事と生活の調和」)の実現」という項目において次のような目標が定められました。
若者や女性、高齢者、介護者、障がい者を始めとする個々人の事情や仕事の内容に応じて、クラウドなどのITサービスを活用し、外出先や自宅、さらには山間地域等を含む遠隔地など、場所にとらわれない就業を可能とし、多様で柔軟な働き方が選択できる社会を実現するとともに、テレワークを社会全体へと波及される取組を進め、労働者のワーク・ライフ・バランスを実現する。
障害者のテレワーク、在宅就業
働き方改革やテレワークの影響を受けて、障害者雇用の中でもこのテレワークや在宅就業が取り組まれつつあります。自宅やその他の場所でも業務を行うことができるようになり、通勤困難な障害者の方にも在宅での就業を行っている企業もあります。
障害者雇用における在宅雇用の定義
在宅勤務とは、「労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ自己の住所又は居所において勤務すること」をいいます。具体的には事業所における通常の勤務日数が1週間当たり1日未満であり、かつ1週間当たりの事業所への出勤回数が2回未満である者が在宅勤務者となります。
しかし、以下の条件に該当する身体障害者については、その通勤の困難性を考慮して事業所への出勤回数が1回未満とされています。
・一級又は二級の視覚障害者
・一級又は二級の上肢障害者
・一級から三級までの下肢障害者
・一級から三級までの体幹障害者
・一級又は二級の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による上肢機能障害者
・一級から三級までの乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害者
・一級から三級までの内部障害者
障害者在宅勤務者の要件
在宅勤務者については、事業所勤務労働者との同一性(所属事務所において勤務する他の労働者と同一の就業規則等の諸規定が適用されること)が確認できれば原則として雇用保険の被保険者となります。
なお、この事業所勤務労働者との同一性を判断するにあたっては、次の点に留意した上で統合的に判断することとされています。
1.事業主の指揮監督系統が明確であること―在宅勤務者の所属事業所及び管理監督者が指定されていること。
2.拘束時間等が明確に把握されていること―所定労働日及び休日、始業及び終業時間等が就業規則等に明示してあること。
3.勤務実績が事業主に明確に把握されていること―各日の始業、終業時刻等―。
4.報酬(月給・日給・時給等)が勤務した期間又は時間を基に算定されていること。
5.請負・委任的なものでないこと―機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷、通信費光熱費等が事業主により負担されることが雇用契約書、就業規則等に明示されていること。また、他の事業主の業務に従事することが禁止されていることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること。
雇用保険の被保険者資格取得届
事業主が重度障害者を雇用し、在宅勤務者として障害者雇用率に算入する場合には、在宅勤務者に対して雇用保険の被保険者資格取得をする必要があります。この取得手続には雇用保険の「在宅勤務者実態証明書」を作成して、事業所を管轄する公共職業安定所に提出する必要があります。
提出に際しては、実態証明書の記載内容を証明する証拠書類の提出を必ず求められますので、事前に準備しておきましょう。また、記載欄の就業規則の適用状況、労働条件等については、事業所の管轄労働基準監督署に届け出た就業規則及び諸規定等(在宅勤務者に対する特別の就業規則等が適用される場合を含む)の内容を記入します。
在宅就業によって障害者雇用をしている企業の事例
実際に在宅就業で障害者雇用を行っている企業の事例を見ると、業務別には、次のような業務を担っているようです。
・Webサイト関連業務
・システム・プログラム開発業務
・CAD・作図業務
・DTP・イラスト作成業務
・原稿作成・データ入力業務
・翻訳業務
・事務・その他の業務
株式会社リクルートオフィスサポートの在宅勤務者の雇用
氏名、年齢
①I.H.さん/46歳 ②M.T.さん/51歳
在住地
①旭川市 ②富良野市
障害状況(等級)
①精神疾患(精神保健福祉手帳3級) ②左上下肢機能障害(身体障害者手帳2級)
業務内容
・WEB上に掲載される情報のチェック・審査
①SUUMO:新築一戸建て物件概要の「建築確認番号」のチェック、賃貸物件概要動画の内容のチェック等
②TOWN WORK:審査基準に従った求人原稿のチェック等
勤務日数・時間
・勤務日:週5日(月~金)
・勤務時間:9:30~16:30 (休憩時間:12:00~13:00)原則残業なし
業務管理
・Skype for Businessによる朝会・夕会及び日報の提出
コミュニケーション・社内情報の提供
・朝会・夕会及び個別面談:Skype for Business
・日常的な業務上の会話:Chat Work
・個人への通達や他部署からの連絡:Outlook メール
・その他:日報の外、業務上使用するデータ、ツールはbox(クラウドストレージ)にアップロードすることにより管理
出所:障害者の在宅就業支援ホームページ チャレンジホームオフィス 在宅雇用企業事例
障害者の在宅就業に関わる助成金
次に障害者の在宅就業に関わる助成金についてみていきます。在宅就業には、在宅就業をしている障害者を雇用している企業向けのものと、仕事を発注する企業向けのものがあります。
障害者を雇用している側に対する助成金
在宅勤務者であっても次の助成金については、助成対象障害者とすることができる場合があります。
・障害者作業施設設置等助成金
・障害者福祉施設設置等助成金
・障害者介助等助成金(職場介助者の配置または委嘱助成金)
助成対象となる場合には種々条件があります。詳しくは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京支部、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)に問い合わせください。
在宅就業障害者(自宅等において就業する障害者)に仕事を発注する企業に対する助成金
「在宅就業障害者支援制度」とは、自宅もしくは福祉施設などで働く障害者に仕事を発注する企業に対して、障害者雇用納付金制度から在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金として、助成金を支給する制度です。
障害者の就業機会拡大を図る障害者雇用促進法に定められ、2006年に導入されました。この制度では、自宅などで就業する障害者と仕事を発注したい企業を仲介する「在宅就業支援団体」(在宅就業障害者への支援を行う団体として厚生労働大臣に申請し、登録を受けた法人)の登録を行っており、企業が同団体を通じて障害者に仕事を発注する場合も、特例調整金・報奨金が支給されます。
なお、この助成金は障害者雇用納付金制度の申請書の対象となっています。申請の期限が決まっていますので、期限内に申請することが必要です。
まとめ
障害者雇用の中でもテレワークを活用した在宅就業の事例が増えてきており、障害者のテレワーク、在宅就業について見てきました。
障害者雇用における在宅雇用の定義や要件とともに、雇用保険在宅就業によって障害者雇用をしている企業の事例を紹介してきました。また、障害者の在宅就業に関わる助成金についても紹介しています。
在宅就業には、在宅就業をしている障害者を雇用している企業向けのものと、仕事を発注する企業向けのものがあります。仕事を発注する企業向けの在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金については、申請期限が決まっています。該当される企業は、早めに準備をしましょう。
参考
【GBOの雇用後編】精神・発達社員が活躍するテレワーク3つのポイント
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