統合失調症は、以前は精神分裂病と呼ばれていた病気です。そのため病名から、精神が分裂していて何をするか分からない怖い病気といった間違った印象与え、病名そのものが差別や偏見を助長する原因となっていました。そのため2002年から統合失調症という病名に変更されています。
ここでは、統合失調症とはどのような病気なのか、雇用するときに求められる配慮について見ていきます。
統合失調症とは
統合失調症は、精神科入院患者の6割、通院患者の4分の1を占めており、精神科医療の主要な対象疾患となっています。また、日常生活や職業生活に支障きたす人も多いため、福祉や就労支援の対象になることが多い疾患としても知られています。
統合失調症は、若い年代で発病することが多い疾患です。大多数の人が15歳から35歳前後で発症します。その中でも10代後半から20代前半に発症のピークがあります。ちょうど高校生、大学生、就職して間もない時期に当たります。
一生のうちに統合失調症にかかる確率は1%弱とされており、約100人に1人がかかる比較的よくある病気であるといえます。性別によるかかりやすさの違いはほとんどありません。
はっきりした原因は不明ですが、脳に機能障害が生じており、端的にいえば思考・感情・行動をある目的にそってまとめていく能力が低下します。脳の神経細胞間の情報伝達役である「神経伝達物質」の伝達が過剰であったり、低下したりすることで、様々な症状を引き起こすことが明らかになりつつあります。そのため、機能異常を調整する作用をもつ抗精神薬という薬物を用いた治療を必要とします。
統合失調症の症状
症状には、「陽性症状」と「陰性症状」があります。
「陽性症状」の主な症状として、実在しない人の声が聞こえる幻聴や、実際にはありえないことを信じ込む妄想があります。幻聴の内容は、自分の悪口やうわさ話、命令などが多く、妄想では他の人から危害を加えられるなどの被害妄想や、自分が偉大な人物と思い込む誇大妄想が見られます。
それ以外にも、自分が他者に操られていると感じる、話にまとまりがなく何を言おうとしたいのかが理解できないなどの症状が現れることがあります。陽性症状が激しく出ている場合には、入院するケースも多く見られます。
「陰性症状」には、喜怒哀楽などの感情表現が乏しくなる、意欲や気力が低下する、会話が少なくなる、他者との関わりを避けて引きこもるなどがあります。一般的に就労するときには、「陰性症状」になっていることが多いですが、引き続き服薬はしていることが多いでしょう。
日常生活や職業生活において、複数のことを同時にこなすことや、臨機応変に融通をきかせて応対する、新しい状況に今までの経験を応用するなどの器用さが難しくなります。また、対人関係においても、相手の気持ちや考えを察することや、気配りなどの場面にふさわしい行動をとるなど、気をきかせて行動することが苦手です。
認知機能は、記憶力や注意・集中力、物事を計画する能力、問題を解決する能力、抽象的な概念を作り上げる能力などが含まれます。統合失調症では、このような認知機能が脳の障害により機能できなくなります。経過は人により様々ですので、一概に言えませんが、多くの場合、症状が消失した後や安定した後も、ある程度残る傾向にあります。
統合失調症の雇用
投薬により症状が安定していたとしても、本当に働くことができるのか・・・と心配に思われるかもしれません。
安定して働くためには、仕事内容を検討することが大切です。一般的なポイントは、以下の点があります。
- 手順が決まっている。
- マイペースでできる。
- 接客がない、または決まった手順で接客ができる(臨機応変さはなく、ある程度想定したことで対応できる)。
- フルタイムではなく短時間の仕事にできる
統合失調症の人は、「とっさの対応」や「変化」に弱いという特性がありますので、場に応じた臨機応変が求められると難しいことが多くあります。一方で、あらかじめ手順が決まった仕事や、スケジュールがある程度わかっていて、自分のペースで仕事が行えるようであれば、落ち着いて仕事に取り組みやすくなるでしょう。
仕事の内容にもよりますが、一般的に接客が多くなると、その場に応じた対応や、とっさの判断をしなければならない場面が生じるでしょう。「接客があるからできない」ということではありませんが、実際に対応が難しいということが予想されます。
もちろん中には、接客が好きな人もいて、活躍している人もいます。それで、顧客対応があるとすれば、特にはじめのうちは、丁寧に説明したり、いくつかのパターンを想定して練習することを行なうとよいかもしれません。その場合にはわかりやすい接客の手順やマニュアルがあると働きやすくなります。
また、統合失調症の人は疲れやすく、そして疲れても周囲にそれをうまく伝えることが苦手です。周囲が疲れていないか聞くと、「大丈夫です」と答える割合がとても高く、自分から疲れていても、それを伝えることはハードルが高いようです。
どれ位の時間、仕事ができるのかを事前にヒアリングして、時間を調整しておくとよいでしょう。また、休憩時間は、本人の好きな時間にとらせるよりも、時間を決めておいたほうが、休憩しやすいこともあります。本人の希望を聞きつつ、調整してみてください。
現在は、精神障害者ステップアップ雇用などもあり、短時間から徐々に労働時間を増やしていく働き方を支援する制度がありますので、このような制度を活用し「1日何時間なら集中できる」など、働く側・雇用する側でよく話し合って調整をすることができます。
職場における配慮
はじめて職場に精神障害のある人を受け入れるときには、いろいろと配慮をしなければ・・・と感じるかもしれません。しかし、職場で「仕事」をするために雇用するのですから、基本的なスタンスは、障害の有無に関わらず同じです。
ある程度の配慮や準備はしておいたほうがよいと思いますが、あまりにも過剰な特別扱いは必要ありませんし、心配や気遣いのし過ぎは、統合失調症の本人にとっても周囲の社員にとっても逆効果になってしまうことがあります。
では、どのような準備をすればよいのかをいいのかを見ていきましょう。
担当者を決める
精神障害者が働きやすくするためには、職場環境を整えるとよいでしょう。基本的には1名担当者を決めればよいのですが、担当者がマネジメントを担っていて会議や席を空けることが多ければ、サブの担当者がいるとよいかもしれません。
担当者の主な役割は、同じ職場にいて、精神障害者員の障害をよく理解し、仕事の指導や相談などを担うことです。誰でも新しい職場に行ったときは不安だと思いますが、統合失調症の人の場合、その不安は大変強いものがあります。いつでも気軽に安心して質問したり、相談できる人の存在は大きな支えとなります。
企業の中には、専任担当者としてカウンセラーや経験者をあてるところもありますが、専門知識や経験の有無は必ずしも必要ではありません。担当者の役割は、あくまでも業務をスムーズに行なうことであり、プラスして職場の環境を整えることです。ある程度の障害についての知識を得て、就労支援機関などと連携してサポートができれば、十分対応できます。
仕事内容、職場環境については企業が、病気については医師や精神保健福祉士などの専門職や医療機関、生活全般については生活支援センターの担当者や役所の福祉課など、本人の周囲には多くの支援者がいます。企業で全てを抱え込むのではなく、役割を分担し、情報を共有しながら、精神障害のある社員をサポートしていく連携体制をつくっていくとよいでしょう。
人間関係の築き方
職場の問題として多いのが、職場の人間関係です。対人関係については、大きく2つのタイプにわけられます。1つ目のタイプは、周囲と関わらず孤立するタイプ、もう1つのタイプは、周囲と交流するものの、被害的になりやすく、関係性が不安定なタイプです。
前者のタイプは、職場の仲間が感情的な交流を持とうとすると、それが善意から来るものであっても、負担に感じる場合があります。昼食や雑談のときなど「一人ぼっちでかわいそうだな」と思っても、強く誘ったり、仲間入りを強要すると、負担に感じてしまうかもしれません。休憩時は、一人でゆっくり過ごしたいと思っているかもしれないのです。
後者のタイプも、周囲と交流はするものの、同じような人づき合いを要求されることは苦手です。また、その場にいない人の悪口やうわさ話がでたりすると、「自分も同じように悪口をいわれているのではないか」などと想像してしまうことがあるので、注意が必要です。
動画の解説はこちらから
まとめ
統合失調症の人と一緒に働くときに、知っておきたいことについてみてきました。
まず、統合失調症の症状は、「陽性症状」と「陰性症状」があります。一般的に就職するときには、「陰性症状」のことが多いと思いますが、引き続き服薬しているケースは多いでしょう。
働きやすい環境としては、仕事上の役割が与えられつつ、キーマンとなる担当者から適切な指示を受けたり、何かあれば相談できる体制がつくられていると、本人は安心できるでしょう。また、ストレスになりやすい人間関係については、人づき合いは「ほどほど」に、そして、ギスギスした人間関係がない職場が、安心できる環境ということになります。
質問です。
統合失調症の20代後半の男性と一緒に事務仕事をしています。
女性3人、彼と4人で働いています。
体臭がキツくて、吐き気がでるほどの時と、全く臭わない時があります。
もう何年も我慢してますが、もう限界です。
以前彼が通っていた障害者施設のスタッフにも相談しました。
が、彼に直接臭いことを言わない方がいいと言われました。スタッフから遠回しにお風呂入った方がいい、汗かいたら着替えるように言いましたが、効果はありません。
芳香剤を置いたり、扇風機を回したり、冬はマスクをしたり自己防衛は散々やってきました。
昼ご飯も一緒に食べます。ご飯不味くなります。
汗臭かったり、雑巾臭かったり、アンモニア臭かったり…。
直接ガツンと言っても良いのでしょうか?
ちなみに頭は良く、プライドは高いようです。コミュニケーションが苦手です。
働くのはここが初めてです。(5年目に入ります)
ご質問いただきありがとうございます。
なかなか難しい問題ですよね・・・。
私が関わった社員でも同じようなケースがありましたが、
そのときには就労支援センターのスタッフの方(同性)から
注意してもらうとともに、職場でも毎日入浴するように指導しました。
また、身だしなみのチェックを表などを使って、
その社員だけでなく、社員全員で取り組むようにしました。
入社されて5年くらいですと、なかなか就労支援のサポートを受けづらいかもしれませんね。
直接ガツンと言ってよいかは、ご本人の性格や特性がわからないので、
なんとも回答できなくて申し訳ないのですが、
本人は意外とそのこと(ニオイや周りの方の迷惑になっていること)に気づいていないことがあります。
ですから、ガツンとかはともかくとして、
本人にわかるように伝えることは大切だと思われます。
もし、業績評価や個人面談などをされる機会があれば、
業務の評価とともに社会人として身だしなみについても
大切であることを伝えてみてはいかがでしょうか。
本人は気付いていると思います。統合失調症の症状に、自臭妄想というのがありますが、実際、気にして毎日風呂に入っていても体臭のキツイ人は、健常者、障害者に関係なく存在します。