2021年5月、障害者差別解消法の一部が改正・可決されました。これにより、民間事業者による合理的配慮の提供が努力義務だったものが、法的義務になります。
しかし、すでに企業では、障害者雇用促進法の改正で合理的配慮が義務付けられています。どのような違いがあるのか、企業での対応として求められることについて考えてみたいと思います。
障害者差別解消法の合理的配慮
合理的配慮の提供を民間事業主に義務付ける改正障害者差別解消法が2021年5月に可決、成立しました。今までは、合理的配慮の義務は国や自治体のみで、企業は努力義務でしたが、今後は、合理的配慮を義務として提供することが求められます。
障害者差別解消法は、2016年から施行されています。この中では、障害のあるなしに拘らず、基本的人権を守ることが定められています。これが国や自治体と同じように、企業やお店などで提供されるサービスを受ける障害者に対しても、配慮義務が求められるということになります。
障害者は、社内の中にある障壁(バリア)によって、生活しづらいことがあります。そのような社会の中にある障壁を取り除くために、何らかの希望や要望などの意思が表示された時に、過度の負担にならない範囲で対応することが求められます。
障害者差別解消法の中では、不当な差別的取扱いが禁止されています。不当な差別的取り扱いの中には、障害のある人に対して、正当な理由なしに、障害を理由としてサービスの提供を拒否することや、提供に当たり場所や時間を制限すること、障害のある人だけに条件をつけることなどが含まれます。
つまり、障害を理由にして店舗への入店や受付を拒否する、本人を無視して周囲の支援者や介助者のみに話しかける、保護者や介助者が一緒にいないとサービスを提供しないことなどは、差別にあたることになります。
もし、正当な理由があると判断したときや、過度な負担になる場合があれば、その理由を説明し、理解を得るよう努めることが求められます。
なお、対象になる障害者は、障害者手帳をもっている人だけではなく、障害や社会にあるバリアによって日常生活や社会生活に制限を受けている人すべてが含まれることになります。
雇用に関しては、障害者雇用促進法が優先される
すでに障害者雇用をしている企業では、障害者への合理的な配慮については「障害者雇用促進法」で合理的配慮を示すことが義務付けられています。
障害者雇用促進法では、次のように合理的配慮について示しています。
(事業主による措置に関する特例)
第十三条 行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)の定めるところによる。出典:障害者雇用促進法
障害者雇用促進法の合理的配慮については、厚生労働省から「合理的配慮指針事例集」や「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関する Q&A」が出されていますので、こちらを参考にするとよいでしょう。
障害者差別解消法と障害者雇用促進法の合理的配慮に関しては、配慮に関する大きな違いがありませんが、障害者差別解消法については、内閣府から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」が出されていますので、こちらを参考にするとよいでしょう。
障害者雇用に関しては雇用促進法が優先適用、対外的なサービス等の対応については差別解消法という考え方になります。
障害者差別解消法でどのような配慮ができるのか
具体的にどのような場で、配慮が求められるのでしょうか。
これまで国や自治体では、段差がある店舗にスロープを設置する、セミナーや説明会で手話通訳や筆談、音声ガイドを準備して理解しやすくする、コミュニケーションツールを活用してわかりやすく説明するなどの配慮をおこなってきました。
例えば、行政窓口などでは、障害者が自分で記入するのが難しいため、代筆を依頼される場合には、本人の意思を確認しながら代筆することのサポートをすることや、聞き取ることが難しい場合には、意思を伝えるための絵や写真を用いたり、筆談などを活用してきたりしています。
このような合理的配慮をサービス提供する企業や店舗でも求められることになります。
なお、これらの合理的配慮については、過度な負担にならないことでが重すぎない範囲で対応することが求められます。仮に、合理的配慮の過重な負担がある時には、障害者にその理由を説明し、別の方法を提案するなどして、話し合い、理解を得るように努めることが大切です。
例えば、従業員が少なく、混雑しているような時間帯に店内を案内してほしい、詳しく説明して欲しいなどの要望には、応えることが難しいかもしれません。そのような場合には、負担が重すぎない範囲で、別の方法を提示することができるかもしれません。
ただし、その内容は、それぞれの状況や場面、障害者の特性などにもよりますので、一概にこうだと決められるものではありません。よくコミュニケーションを図って行なうことが大切です。
また、障害の程度も人によって異なります。(同じ障害手帳や障害名、等級が同じでも、必要としたり、求める配慮は異なることは珍しくありません。)どのような配慮が必要なのかについては、個別に異なることを認識した上で対応するとよいでしょう。
なお、企業で想定される合理的配慮については、業種、業態によって異なると思いますので、事前に社内で検討しておき、基本的な対応を示しておくと、社員にとっても対応しやすくなるでしょう。
動画での解説はこちらから
まとめ
障害者差別解消法が改正され、企業の合理的配慮にどのような影響があるのかについて見てきました。障害者雇用における障害者への合理的な配慮についてはすでに「障害者雇用促進法」で義務付けられており、こちらに大きな変更はありません。
ただし、今回の障害者差別解消法の改正により、サービス業や店舗などで、商品やサービス提供するような場合には、努力義務から義務になりますので、その対応が求められます。
ビジネスガイド2021年10月号には、障害者差別解消法の対応について、弁護士の関哉先生がとってもわかりやすく解説されているので、関係する業種の方にはオススメです。
参考
【障害者】現場で難しい「合理的配慮」の判断基準と対応策とは?
合理的配慮指針事例集【第三版】(厚生労働省)
0コメント