国では、障害者が能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるような社会の実現を目指すことを目指しており、それを実現するために障害者雇用義務制度を設けています。
この障害者雇用義務では、障害者雇用率が定められており、一定規模以上の企業に、法定雇用率以上の障害者雇用を義務づけています。
ここでは、障害者雇用義務制度や、法定雇用率が達成できない企業に課せられる障害者雇用納付金制度、障害者雇用を行なう企業に求められることについて、解説していきます。
障害者雇用義務制度とは
社員数が一定数以上の規模の企業では、社員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。これは、障害者雇用促進法によって定められています。
現在の民間企業の法定雇用率は2.2%、つまり社員を45.5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用する必要があります。
なぜ、障害者を雇用する必要があるのでしょうか。障害者の雇用・就業は、障害者の自立・社会参加のための重要な柱となっています。社会で働く、給料をもらう、誰かに必要とされる仕事をするということは、障害の有無に関わらず、誰にとっても必要なことなのです。そのためにも、障害者が能力を発揮して、適性に応じて働くことができるように、さまざまな制度や体制が、社会制度として整えられています。
一方、雇用義務が達成できない企業に対しては、ハローワークから行政指導がおこなわれます。行政指導の流れは、次のようになります。
出典:障害者雇用率達成指導の流れ(厚生労働省)
詳細については、本記事の文末に示した【障害者雇用義務が果たせないとき、罰則はあるのか】を参考にしてください。
なお、企業が障害者の雇用の促進及び安定を図りやすくするために、特例子会社という制度があります。この特例子会社制度は、企業が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できるものとなっています。
単に1つの企業の特例子会社だけでなく、グループ算定特例や、事業協同組合等算定特例といった制度もあります。
詳細については、本記事の文末に示した【障害者雇用納付金制度の概要をわかりやすく解説特例子会社とはどんな会社?概要をわかりやすく解説】を参考にしてください。
障害者の除外率制度とは
企業には、障害者雇用率が定められていることは、今までお伝えしてきたとおりですが、このほか、一律の雇用率を適用することになじまない業種や職種もあることから、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種について、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度があります。
(この除外率制度は、ノーマライゼーションの観点から、平成14年法改正により、平成16年4月に廃止しています。しかし、経過措置として、当分の間、除外率設定業種ごとに除外率を設定するとともに、廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ、縮小することとなっています。)
現在の障害者除外率は、次のとおりです。
【障害者の除外率設定業種及び除外率】
出典:除外率設定業種及び除外率(厚生労働省)
法定雇用率が達成できない企業に課せられる障害者雇用納付金制度とは
障害者を雇用するためには、作業施設や作業設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理等、費用がかかることがあります。健常者の雇用に比べて一定の経済的負担を伴うということことから、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めることを目的とした「障害者雇用納付金制度」が設けられています。
障害者雇用納付金制度では、法定雇用率を未達成の企業のうち、常用労働者100人超の企業から、障害者雇用納付金が徴収されます。そして、この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対して、調整金、報奨金を支給されることになります。
詳細については、本記事の文末に示した【障害者雇用納付金制度の概要をわかりやすく解説】を参考にしてください。
障害者雇用を行なう企業に求められること
障害者の差別禁止及び合理的配慮の提供義務
障害者に対する差別の禁止
事業主は、募集・採用において、障害者に対して障害者でない者と均等な機会を与えル必要があります。また、賃金・教育訓練・福利厚生その他の待遇について、障害者であることを理由に不当な差別的取扱いをすることが禁止されています。
障害者に対する合理的配慮
事業主は、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、障害者からの申出により障害の特性に配慮した必要な措置を講じることが求められます。
また、障害者である労働者と障害者でない労働者との均等待遇の確保や、障害者である労働者の能力発揮の支障となっている事情を改善するため、障害の特性に配慮した、施設整備、援助者の配置などの必要な措置を行なう必要があります。しかし、事業主に「過重な負担」を及ぼす場合には、該当しません。
詳細については、本記事の文末に示した【企業における障害者差別の禁止と合理的配慮の対応方法】を参考にしてください。
障害者の能力や適性が発揮でき、生きがいを持って働けるような職場作り
障害者の能力や適性が発揮できる職場づくりのために、障害者雇用対策基本方針では、次のような対応をとることが、望まれています。
・障害者の種類や程度に応じた職域の開発。採用試験を行う場合には、応募者の希望を踏まえた点字や拡大文字の活用、手話通訳者等の派遣、試験時間の延長や休憩の付与等、応募者の能力を適切に評価できるような配慮。障害者の適性と能力に考慮した配置
・十分な教育訓練期間を設けることや雇用継続が可能となるよう能力向上のための教育訓練の実施
・障害者の適性や希望等も勘案した上で、その能力に応じ、キャリア形成にも配慮した適正な処遇
・障害の種類や程度に応じた安全管理や健康管理の実施、安全確保のための施設等の整備、職場環境の改善
・障害特性を踏まえた相談、指導及び援助(作業工程の見直し、勤務時間・休憩時間への配慮、援助者の配置等)
・職場内の意識啓発を通じた、職場全体の障害及び障害者についての理解や認識を深めること
引用:事業主の方へ(厚生労働省)
まとめ
企業に求められている障害者雇用義務の基本方針として、障害者雇用義務制度や、法定雇用率が達成できない企業に課せられる障害者雇用納付金制度、障害者雇用を行なう企業に求められることについて、解説してきました。
障害者雇用は、コロナ禍の中でも令和3年3月に0.1%引き上げられることが予定されており、今後も引き続き上がっていくことが予想されます。もし、障害者雇用率が達成できていないのであれば、待っていても障害者雇用率が引き下がることはないでしょうし、採用が激化することが考えられます。早めに対応することが大切と言えるでしょう。
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