障害者雇用で困っている企業の中には、専門的な知識がある求職者であれば、採用を前向きに考えたいという人事担当者の人にお会いすることがあります。ハローワークの合同面接会に行ったり、支援機関を訪問しているものの、なかなか希望する人材に出会えないようです。
そんなときには、国立職業リハビリテーションセンター(国リハ)の訓練を受けた障害者の採用を検討することができるかもしれません。ここでは、国リハが行っている事業や障害者支援として行っているコース内容などについて説明していきます。
国立職業リハビリテーションセンターとは
国立職業リハビリテーションセンターは、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく「中央広域障害者職業センター」と職業能力開発促進法に基づく「中央障害者職業能力開発校」の2つの側面をもっています。厚生労働省により昭和54年に設置され、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営しています。
このような国立職業リハビリテーションセンターは全国で2ヶ所あり、東日本は所沢、西日本は吉備にあります。宿舎もあり、職業訓練とともに生活支援もしており、修了後は独立した生活ができるような訓練も行っています。
国立職業リハビリテーションセンター
〒359-0042 埼玉県所沢市並木4-2
国立吉備高原職業リハビリテーションセンター
〒716-1241岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520
国立職業リハビリテーションセンターの特長
障害者支援
障害状況等に応じた職業訓練・職業指導の実施をしています。2ヶ所の職業リハビリテーションセンターがありますが、ここでは所沢にある国リハを中心に説明していきます。
入所の機会は、年間合計十数回あります。障害特性等を把握したコース別になっており、障害の特性に応じた補完方法の提案などを行っています。また、中途障害の方もいるので、個別の訓練カリキュラムを作成し、個々の状況に合わせた訓練を行った実務能力を身につけられるようなシステムになっています。
就職が内定した場合、実際に担当する職務や環境に合わせた訓練を行います。訓練の中では.職業人として求められるビジネスマナーについて、実践的に習得します。技能訓練と並行して、訓練生が職業人として自立し、定着を図るための指導・助言を行っています。
訓練の中では、具体的な就労イメージを持つための体験的職場実習と就労活動の一環としての職場実習を行います。就職や社会人として生活するのに必要な事柄に関しては、専任の看護師から健康相談・指導、病院受診に関する相談・指導が行われています。
事業主支援
障害者本人だけでなく、障害者を雇用する事業主支援も国リハでは行っています。
具体的には、企業の障害者採用計画及び雇用管理等について、アドバイスを行います。その中には、就職する前に職場実習を行うことがあります。その職場実習で、実際に訓練生の状況をみておこなうので、状況に合わせたアドバイスをすることができます。
職場実習の中には、特注型の訓練メニューによるセンター内での訓練と実際の企業現場での訓練(企業内訓練)を組み合わせた「企業連携職業訓練」を、採用・職場定着のための支援として実施しています。関心があれば、問合せてみるとよいでしょう。
採用に関しては、センター内で訓練生対象の会社説明会を行うことができます。企業に関心のある訓練生にアプローチをかけることができるので、時間なども効率的ですし、なによりも企業の魅力を直接伝えることができるとともに、訓練生の反応をみることもできます。
採用に関しては、企業が採用したい日に合わせて訓練の修了日を早めることもできるので、ぜひ相談してみてください。また、センターが遠方にあるので、就職した後のフォロー体制が気になるかもしれません。その場合には、採用後は企業の近くにある地域障害者職業センター等と連携してフォローアップを行なうこともできますので、フォローを希望される場合には、そのことも伝えておくことができるでしょう。
障害者の職業訓練内容
国立リハビリテーションセンターは、もともと身体障害を中心に職業訓練を行っていましたが、知的障害や精神障害の雇用も増えてきたため、今では様々な障害にあわせた職業訓練を行っています。
メカトロ系 機械製図科 機械CADコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
機械加工における基礎的な知識・技能を習得した上で、機械の部品図・組立図の2次元CADによる設計・製図、3次元CADによるモデリング等に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:機械CAD、機械設計、設計補助作業、機械組立
関連資格:CAD利用技術者試験
メカトロ系 電子機器科 電子技術・CADコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
電気・電子機器の取扱いにおける基礎的な知識・技能を習得した上で、CADを利用した回路パターン設計、電子回路の組立・検査、電子制御のプログラム開発等に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:電気・電子機器関連の設計技術者・組立・製造・検査・修理
関連資格:ディジタル技術検定
メカトロ系 テクニカルオペレーション科 FAシステムコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
機械加工や電気制御・設備に関する基礎的な知識・技能を習得した上で、ものづくりを通して制御や設備に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:機械・電気・精密機器製造業等の製造・組立ライン
関連資格:ディジタル技術検定
メカトロ系 テクニカルオペレーション科 組立・検査・物品管理コース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
製造業における一連の作業工程に関する基礎的な知識・技能を習得した上で、機械加工、電気・電子機器組立・配線・検査、物品管理に関する専門的な知識・技能を習得します。
目標とする仕事:機械・電気機器製造業等の組立、検査、物品管理業務
関連資格:ディジタル技術検定
建築系 建築設計科 建築CADコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
建築設計及び福祉住環境に関する基礎的な知識を習得した上で、建築設計やリフォームに関して、平面(2次元)及び立体(3次元)図面のCADの操作による作成、あるいはプレゼンテーションに関する総合的な知識・技能を習得します。
目標とする仕事:CADによる建築図面(意匠図、構造図、設備図)の作成、リフォーム営業補助
関連資格:福祉住環境コーディネーター2級
ビジネス情報系 DTP・Web技術科 DTPコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
印刷・製版に関する基礎知識を基に、DTPシステムを活用して、チラシ、ポスター等の商業印刷物を制作するための知識・技能及びパソコンを利用した事務処理ができる知識・技能を習得します。
目標とする仕事:印刷、出版、DTP関連業務
関連資格:色彩検定、DTP検定
ビジネス情報系 DTP・Web技術科 Webコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
コンピュータとインターネットに関する基礎知識を基に、誰にでも使いやすく、集客力のあるWebサイトを構築するための知識・技能を習得します。
目標とする仕事:Web関連業務
関連資格:色彩検定、Webデザイナー検定
ビジネス情報系 OAシステム科 ソフトウェア開発コース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
情報処理システムの運用におけるオペレーション、情報セキュリティ、ネットワーク等の基礎的な知識・技能を習得した上で、各種のプログラミング言語(Java、C言語等)を使用した、情報システム開発におけるプログラムの設計と開発に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:システム開発
関連資格:ITパスポート試験、基本情報処理技術者試験、日商PC検定
ビジネス情報系 OAシステム科 システム活用コース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
情報処理システムの運用におけるオペレーション、情報セキュリティ、ネットワーク等の基礎的な知識・技能を習得した上で、自らの業務の効率化を目的としたプログラミング、データベースをはじめとするアプリケーションソフトの利用と活用、また、情報処理システムの運用と管理やWebページに関する実務的な知識・技能を習得します。
目標とする仕事:システム管理、ネットワーク構築
関連資格:ITパスポート試験、基本情報処理技術者試験、日商PC検定
ビジネス情報系 OAシステム科 視覚障害者情報アクセスコース
訓練対象者:視覚
視覚障害者用アクセス機器(拡大読書器・点字ディスプレイ)及びアクセスソフト(音声化ソフト・画面拡大ソフト等)を活用し、一般的な事務及びOA機器の操作における基礎的な知識・技能を習得した上で、パソコンによるビジネスソフトの利用を中心とした事務処理に必要な知識・技能を習得します。
重度視覚障害(1・2級)のある方は、通常の訓練に入る前に3ヵ月間の導入訓練を実施しています。このため総訓練期間は1年3ヵ月となります。
目標とする仕事:一般事務、OA事務
関連資格:ITパスポート試験、基本情報処理技術者試験、日商PC検定
ビジネス情報系 経理事務科 会計ビジネスコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
一般的な事務及びOA機器の操作における基礎的な知識・技能を習得した上で、簿記、税務、財務、販売管理、給与計算等の知識を習得するとともに、ワープロ・表計算等のアプリケーションソフト及び財務会計、販売管理等のビジネスソフトを利用した関連資料の作成等に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:経理事務、総務事務、営業事務
関連資格:日商PC検定、日商簿記検定、日商電子会計実務検定
ビジネス情報系 OA事務科 OAビジネスコース
訓練対象者:身体・難病・高次脳・発達・精神
一般的な事務及びOA機器の操作における基礎的な知識・技能を習得した上で、ワープロ・表計算等のアプリケーションソフトを利用した各種資料の作成や簿記、給与計算等に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:一般事務、総務事務、営業事務
関連資格:日商PC検定、日商簿記検定、日商電子会計実務検定
職域開発系 職域開発科 物流・組立ワークコース
訓練対象者:高次脳・発達・精神
運輸業で行われる商品のピッキングや運搬、伝票処理等の物流作業、製造業で行われる什器や電子機器等様々な製品の組立・分解作業に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:物流作業、製造組立作業、製造組立補助
関連資格:日商PC検定
職域開発系 職域開発科 オフィスワークコース
訓練対象者:高次脳・発達・精神
OA機器の基本操作方法を習得した上で、データ入力、各種帳票の作成、文書やデータ整理、郵便物の仕分けや発送準備等の事務作業に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:データ入力、一般事務、事務補助
関連資格:日商PC検定、日商簿記検定
職域開発系 職業実務科 販売・物流ワークコース
訓練対象者:知的
小売店での商品のパックや袋詰め、陳列、接客等、物流センターでのピッキングや検品、運搬等に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:物流センター等の出荷作業、スーパーマーケット等での商品販売・バックヤード作業
職域開発系 職業実務科 オフィスワークコース
訓練対象者:知的
OA機器の基本操作方法を習得した上で、各種事務所でのデータ入力、伝票整理、郵便物の仕分けや発送準備等に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:データ入力、一般事務、事務補助
関連資格:日商PC検定
職域開発系 職業実務科 ホテル・アメニティワークコース
訓練対象者:知的
ホテルでの客室整備や清掃等、飲食店における接客サービスや調理補助、食器・調理器具の洗浄等に関する知識・技能を習得します。
目標とする仕事:ホテル等の清掃・整備作業、飲食施設・医療・介護施設等の厨房内作業
職域開発系は障害に合わせた業務の進め方支援を実施
職域開発系は障害に合わせた業務の進め方に関する知識・技能の習得、及び適応支援を行っています。例えば、障害特性に応じた支援としては、次のようなものがあります。
高次脳機能障害:注意、記憶、遂行能力の向上と補完方法の習得に関する支援
発達障害:対人スキル、生活管理能力、社会適応力の習得に関する支援
精神障害:生活リズム、自己対処能力、社会生活技能の習得に関する支援
知的障害:基本的労働習慣、日常生活に必要な生活技能の習得に関する支援
動画の解説はこちらから
まとめ
専門的な知識がある障害者の採用を検討したいと考える人事担当者の人におすすめできる国立職業リハビリテーションセンター(国リハ)について紹介してきました。
国立職業リハビリテーションセンターは全国で2ヶ所、東日本は所沢、西日本は吉備にあり、職業訓練とともに生活支援をしているセンターです。障害者の訓練として様々なコースを準備しています。コースの内容とともに、目標とする仕事、関連資格なども取得します。
また、同時に事業者向けの支援も行っています。なかなかハローワークや合同面接会での採用で手応えを感じられない場合には、採用の方法や場所などを再度検討することができるでしょう。
参考
【まとめ】障害者雇用の支援機関、どのように企業の採用に活用できるか
なぜ、身体障害者の採用は難しくなっているのか~障害者雇用の実態~
0コメント