2026年7月23日更新
障害者雇用を進めるとき、多くの企業が最初に考えるのが、「障害者には、どのような仕事が向いているのか」「障害者に適した業務を用意しなければならない」ということです。
無理なく働ける仕事を用意し、長く働いてもらいたいと考えること自体は、間違いではありません。しかし、「障害者に適した業務」という一般的な答えを探し始めると、かえって任せる仕事の範囲を狭め、採用や配置が進まなくなることがあります。
結論から言えば、問題は適性を考えることではありません。問題なのは、「障害者」という大きな括りに適した仕事を探そうとすることです。
必要なのは、組織に必要な仕事と役割を明らかにしたうえで、その役割と、応募者本人の経験、能力、希望、働き方、必要な配慮を具体的にすり合わせることです。
- 「障害者に適した業務」という考え方の問題点
- 障害名から仕事を決めると選択肢が狭くなる理由
- 組織に必要な役割と人材をすり合わせる方法
- 他社事例や障害特性の情報を活用するときの注意点
- 採用後に業務を見直し、広げていく考え方
「適した業務」を考えること自体が間違いなのではない
仕事と人材の適性を確認することは必要です。どの仕事にも、必要な知識、経験、正確さ、判断、コミュニケーション、勤務条件があります。そして、本人にも、得意なこと、苦手になりやすい条件、経験してきた仕事、希望する働き方があります。
よくある失敗例は、「精神障害のある人に向いている仕事」「発達障害のある人が得意な仕事」「知的障害のある人に任せやすい仕事」というように、障害名や障害種別を主語にして仕事を決めることです。
同じ障害名であっても、これまでの経験、身につけている能力、仕事の進め方、必要な配慮は異なります。したがって、本当に確認すべきなのは、障害者に適した仕事ではなく、組織に必要な役割と、その人との適合です。
「障害者に適した業務」から考えるとうまくいかない3つの理由
理由1:仕事の選択肢が限られてしまう
「障害者に適した業務」と聞いたとき、多くの企業が思い浮かべるのは、
- データ入力
- 書類整理
- 郵便物の仕分け
- 清掃
- 備品補充
- 簡単な軽作業
などです。
これらの仕事が悪いわけではありません。組織に必要で、本人の役割として成立しているのであれば、大切な仕事です。
しかし、他社で多く行われている業務を「障害者に適した仕事」として捉えると、その範囲の中だけで仕事を探すことになります。
その結果、
- 自社に必要な別の業務が候補に入らない
- 専門知識や職歴のある人材を想定できない
- 組織の変化や技術の進歩が反映されない
- 採用する人材像が限定される
ということが起こります。
他社の業務例は、考え方の参考にはなります。しかし、自社で採用すべき業務の答えではありません。
理由2:障害へのイメージが、人材要件より先に入る
具体的な応募者がいない段階で、「この障害には何ができるか」を考えると、担当者が過去に接した人や、メディアで見たイメージが判断に入りやすくなります。
例えば、
- この障害では専門的な仕事は難しいだろう
- コミュニケーションを伴う仕事は任せられないだろう
- 決まった作業しかできないだろう
- 常に細かな支援が必要だろう
と、本人を確認する前に仕事の範囲を決めてしまうことがあります。
障害特性についての一般的な知識は、配慮や働き方を検討するうえで役立ちます。ただし、それは個人の能力や適性を判断するための答えではありません。
仕事を決めるときは、障害名より先に、
- この役割で求める成果は何か
- どのような知識や経験が必要か
- どこまで本人が判断するのか
- どのような方法なら仕事を進められるか
を明確にする必要があります。
理由3:最初から完全な組み合わせを探そうとする
「適した業務」を探す背景には、採用後に問題が起きない仕事を、事前に見つけたいという気持ちがあります。しかし、採用前にすべての状況を予測し、完全に合う仕事を決めることは困難です。
同じ仕事でも、
- 指示を出す人
- 作業環境
- 業務量
- 期限や優先順位
- 相談方法
- 周囲との役割分担
によって、働きやすさは変わります。
必要なのは、問題が一切起きない仕事を探し続けることではありません。基本となる仕事と役割を整理し、採用前に本人とすり合わせたうえで、実際の働き方を確認しながら改善することです。
組織に必要な成果、本人の能力や経験、仕事の進め方、合理的配慮を確認し、採用後も見直しながらつくっていくものです。
仕事を考える出発点を変える
「障害者に適した業務」を探す考え方では、次のような流れになりがちです。
↓
簡単な作業を集める
↓
その仕事を担当できそうな人を探す
一方、業務設計では、仕事を考える出発点が異なります。
↓
成果につながる仕事と役割を設計する
↓
必要な経験・能力・勤務条件を明確にする
↓
役割と本人の経験・能力・希望をすり合わせる
↓
仕事の進め方や合理的配慮を調整する
重要なのは、「障害者にできそうな仕事」を起点にするのではなく、組織に必要な成果と役割を起点にし、そこへ本人の経験・能力・希望・必要な配慮をすり合わせることです。
この考え方に変えることで、障害者のために用意した限定的な仕事ではなく、組織に必要な役割として仕事を設計しやすくなります。
業務設計の詳しい手順については、次の記事で解説しています。
障害者雇用の業務切り出しとは?組織に必要な仕事から業務を設計する方法
組織に必要な役割と本人をすり合わせる
組織に必要な役割を決めた後は、応募者本人とのすり合わせを行います。
確認する内容は、大きく4つあります。
役割で求める成果
何を担当するかだけでなく、どのような状態になれば仕事ができたと評価するのかを明らかにします。
例えば、「データを入力する」ではなく、
- 必要な情報が期限までに登録されている
- 入力内容に誤りがない
- 不明な項目が決められた方法で確認されている
という状態を示します。
仕事の工程と判断範囲
- 手順に沿って進める部分
- 本人が判断する部分
- 上司へ確認する部分
- 他者との調整が必要な部分
を分けます。
「仕事ができるか」だけでなく、どこまでを担当する役割なのかを具体的にします。
本人の経験・能力・希望
障害名だけでなく、
- これまで経験した仕事
- 身につけている知識やスキル
- 得意な仕事の進め方
- 希望する役割やキャリア
- 苦手になりやすい状況
を確認します。
必要な配慮と仕事の進め方
仕事の成果を達成するために、
- 指示を文書でも示す
- 優先順位を明確にする
- 質問や相談の方法を決める
- 作業環境を調整する
- 勤務時間や休憩方法を調整する
など、どのような方法が有効かを検討します。
仕事の目的や成果と、仕事を進める方法を分けて考えることが重要です。
採用時の仕事を、その人の上限にしない
採用時には、新しい職場や業務に慣れるため、担当範囲を限定して始めることがあります。ただし、最初に設定した仕事を、その人が担当できる上限として固定しないことが重要です。
働き始めた後も、
- 安定してできるようになった業務
- 新しく身についた能力
- 本人が希望する仕事
- 次に任せられる判断や工程
- 組織で新しく必要になった役割
を確認します。
業務を増やすだけでなく、担当工程を広げる、品質確認を任せる、改善提案に参加するなど、役割を広げる方法もあります。
「この障害にはこの仕事」と固定するのではなく、本人の成長と組織の変化に合わせて見直します。
他社事例は、仕事の答えではなく考え方のヒント
障害者雇用の事例を見ることは、自社の取り組みを考えるうえで役立ちます。
ただし、「この企業では清掃を任せているから、自社でも清掃」「この障害にはデータ入力がよいらしい」と、仕事内容だけを取り入れても、同じ結果になるとは限りません。
事例を見るときは、
- その企業は、どのような組織課題から仕事を考えたのか
- その仕事は、どのような成果につながっているのか
- 誰が指示・相談・評価を担っているのか
- 採用後にどのように業務を見直したのか
を見ることが大切です。
参考にすべきなのは仕事の名称ではなく、仕事をつくった考え方と運用の仕組みです。
「適した業務」が見つからないときに確認したいこと
「障害者に適した業務が見つからない」と感じたときは、次の点を確認してください。
- 障害者という括りで仕事を考えていないか
- 他社で多い業務だけを候補にしていないか
- 組織に必要な成果から考えているか
- 仕事の工程と判断を分けているか
- 必要な人材要件を明確にしているか
- 本人の経験や希望を確認できる設計になっているか
- 採用後に見直す仕組みがあるか
業務が見つからない原因については、次の記事でも詳しく解説しています。
よくある質問
Q:障害特性に向いている仕事を考えてはいけませんか
障害特性について知ることは、働き方や配慮を検討するうえで役立ちます。
ただし、一般的な障害特性だけで、本人の能力や適性を決めることはできません。役割に必要な条件と、本人の経験・能力・希望を具体的に確認してください。
Q:採用する人を決めてから、仕事を考えてもよいですか
本人の強みを活かして仕事を調整することは必要です。しかし、組織に必要な基本の役割、業務量、成果、指示・評価の体制がないまま採用すると、本人や現場に負担が集中します。
採用前に役割の基本条件を整理し、選考で本人とすり合わせることが重要です。
Q:組織に必要な仕事を優先すると、本人への配慮が弱くなりませんか
組織に必要な成果から考えることと、本人への配慮は対立するものではありません。
仕事の目的や成果を明らかにしたうえで、指示方法、作業環境、勤務条件、相談方法などを調整します。
Q:本人に合っているか、採用前に判断できない場合はどうしますか
面接だけで判断しにくい場合は、職場見学、業務説明、実習などを活用し、実際の仕事との適合を確認する方法があります。
採用後も、業務量や担当範囲、指示方法を定期的に見直します。
まとめ
障害者雇用で問題になるのは、本人に合う仕事を考えることではありません。
「障害者」という大きな括りに適した業務を探し、障害名や他社事例だけで仕事を決めてしまうことです。
必要なのは、
- 組織に必要な成果を確認する
- 成果につながる仕事と役割を設計する
- 必要な能力・経験・勤務条件を明確にする
- 役割に合う人材を採用する
- 本人の経験、能力、希望、必要な配慮とすり合わせる
- 採用後も仕事と役割を見直す
ことです。
「障害者に適した業務」を探すのではなく、組織に必要な役割と、その人との適合を考える。この考え方は、仕事の可能性を狭めず、採用、定着、評価、キャリア形成につなげる障害者雇用を進めやすくなります。
記事では、「障害者に適した業務」から考える問題点と、仕事と人材をすり合わせる視点を示しました。
実際の企業では、
- どの業務を候補として残すか
- どこまでを一つの役割にするか
- どの能力や経験を採用条件にするか
- どの部分を配慮や業務調整で変更できるか
- 誰が指示・判断・評価を担うか
を、自社の業務内容と組織体制に合わせて決める必要があります。
障害者雇用コンサルティングでは、実際の仕事を確認しながら、組織に必要な役割、人材要件、採用後の運用方法を具体化します。
参考資料・関連記事
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- 障害者職業総合センター「障害者の職務設定、職務創出・再設計のためのデータブック」
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