障害者雇用納付金制度は、従業員が100人以上で法定雇用率が達成できていない場合、法定雇用障害者数に不足する人数に応じて納付金を納めることになっています。
そして、収められたこの障害者雇用納付金を財源に、法定雇用率を上回る雇用主に、障害者雇用調整金・報奨金・助成金等を支給しています。
では、障害者雇用納付金を払っていれば、障害者を雇用しなくてもいいのでしょうか。障害者雇用納付金の考え方について、解説しています。
障害者雇用納付金を払えば、障害者雇用は免除される?
障害者雇用納付金は、法定雇用率に達していない障害者の人数分を支払うものです。現時点では、従業員が100人以上の企業が対象となっています。実際には雇用していない障害者の人数の納付金を払うことで、とりあえずの義務を果たしたと思っている企業も少なくありません。
しかし、障害者雇用納付金は罰金ではありません。障害者雇用納付金とは、障害者雇用の義務を果たしている企業と果たしていない企業の経済的な負担を調整するために支払うものであり、法定雇用率を達成できなかったペナルティというものではないので、納付金を支払っているから大丈夫というものではありません。納付金を支払っても雇用義務を免れるものではなく、引き続き障害者雇用をする努力が求められています。
そもそも障害者雇用について規定している障害者雇用促進法は、障害者の職業の安定を図ることを目的としている法律で、障害の有無にかかわらずそれぞれの希望や能力に応じて、各地域で自立した生活を送ることができる「共生社会の実現」を目指しています。
それに基づき法定雇用率が定められていますが、企業や状況によっては、障害者雇用が進まないことがあります。そのため、事業主が相互に果たしていく社会連帯責任の理念に立ち、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るため、障害者雇用率に達していない分を、障害者雇用納付金として納めることになっています。
また、大幅に雇用率が未達成であれば、ハローワークなどから障害者雇用率達成指導が入り、雇入れ計画作成命令が出され、雇用計画書を作成し、2年間で達成することが求められます。それでも達成できないときは、社名公表の恐れもあります。
障害者雇用納付金に関して、企業の担当者の方から、よくいただく質問について考えてみたいと思います。
障害者雇用しても、すぐに退職した場合はどうなる?
Q:障害者雇用は一度雇えば、すぐ退職してしまったとしても納付金の支払いは免れられますか?
A:雇用納付金の計算方法は、月毎の計算になります。12か月分を合計して過不足を計算するので、1ヶ月雇用しているとその月は、納付金は必要ありませんが、残りの11ヶ月は不足となり納付金が必要となります。
採用活動をしており努力はしているが、人材が見つからない。
Q:障害者を雇用するため、採用条件等も改め求人募集を行っていますが、適当な人材がみつかりません。それなのに障害者雇用納付金を納めなくてはいけないというのは納得できないのですが・・・。
A:障害者雇用納付金制度は、企業が障害者を雇用する場合、作業設備や職場環境を改善したり、特別の教育訓練を行うなど経済的な負担がかかることを考慮し、法定障害者雇用率に達していない企業から障害者雇用納付金を徴収し、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業等に障害者雇用調整金等を支給するものです。
これにより、障害者の雇用に伴う経済的負担の調整をしつつ、全体として障害者雇用の水準を高めていこうとしています。「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、障害者雇用促進法)では、障害者の雇用は事業主が共同して果たしていくべき責任があるという社会連帯責任の理念に基づいて運営されています。このような制度の趣旨、内容から、障害者の雇用に積極的に取り組むとともに、法定障害者雇用率を下回っている場合は障害者雇用納付金を納めることになっています。
危険な職場環境や専門的な知識が必要な職場で働くことが難しい
Q:危険をともなう職場環境(または専門的な知識が必要な職場)のため障害者を雇いたくても、働く仕事や、職種がないのが実態です。除外率の適用が受けられないでしょうか。今後の除外率の適用の見通しはどのようになっていますか。
A:障害者雇用においては、一律の障害者雇用率を適用するのが原則ですが、一律の障害者雇用率を適用することになじまない性質の職務があると考えられていたことから、除外率制度が設けられていました。
しかし、除外率については、ノーマライゼーションの理念や、技術革新等による職場環境の整備等が進む中で、障害者が就業できる職域は広がっていること等を踏まえ、平成14年の障害者雇用促進法の改正により廃止されています。
経過措置として、当時除外率が設定されていた業種(除外率設定業種)については、除外率が残されていますが、段階的に縮小して、廃止されていく予定です。
ノーマライゼーションの理念に立って障害者の職業的自立を図っていくため、すべての企業において、社会連帯の理念に基づき、障害者の職業的自立に協力する責務を有し、障害者の雇用の安定に努めることが求められています。
障害者雇用納付金申告書を提出しない場合はどうなる?
Q:障害者雇用納付金申告書を提出しない場合は、どのような措置がとられるのでしょうか。
A:障害者雇用納付金の申告は、対象となる全ての事業主が行う義務があります。このため申告書を提出しない事業主に対しては、障害者雇用促進法第56条第4項に基づき、障害者雇用納付金の額を決定し納入の告知を行うこととなります。なお、この場合、納付金のほか、納付金の額の10%の追徴金が課せられることになっています。
納付期限を過ぎても障害者雇用納付金を完納されない場合は、障害者雇用促進法の規定により、順次手続きがとられることになります。具体的には、督促状を発出し、その指定の期限までに完納されないときは、厚生労働大臣の認可を受けて、国税滞納処分の例により滞納処分を行うことになります。
動画の解説はこちらから
まとめ
障害者雇用納付金制度についてみてきました。
障害者雇用納付金を払えば、障害者雇用はしなくてもよいと考える企業の方が少なからずいます。障害者雇用納付金は、実際には雇用していない障害者の人数に月数をかけた納付金を払うことで、とりあえずの義務を果たしたと考える人もいるようです。
しかし、障害者雇用納付金は罰金ではありません。障害者雇用納付金とは、障害者雇用の義務を果たしている企業と果たしていない企業の経済的な負担を調整するために支払うものであり、法定雇用率を達成できなかったペナルティというものではないので、納付金を支払っているから大丈夫というものではありません。納付金を支払っても雇用義務を免れるものではなく、引き続き障害者雇用をする努力が求められています。
また、大幅に雇用率が未達成であれば、ハローワークなどから障害者雇用率達成指導が入ったり、達成できないときは、社名公表の恐れもあります。企業名が公表されることは、社内外にも影響を及ぼすことになります。社外への影響としては、企業の悪印象になる情報がWEB上に残ることによって、企業の評判や信用、企業間取引、人材採用などに長期的な影響が及ぶ可能性があります。社内の影響としては、従業員の帰属意識を低下させてしまうこともあります。納付金を支払っていればよいではなく、障害者雇用をどのようにしたら企業で進められるのかを考えていくことが大切です。
0コメント