日本の障害者雇用は、障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)によって進められてきました。
また、近年は、障害者雇用が進んできているのにともない、改正が度々行われています。そのため障害者雇用を進めていくには、障害者雇用促進法を知ることが大切です。
ここでは、障害者雇用促進法とはどのような法律なのか、その目的と概要について、また、2020年から改正される内容についてわかりやすく説明していきます。
障害者雇用促進法の目的
障害者雇用促進法は、障害者の職業の安定を図ることを目的としている法律で、障害の有無にかかわらずそれぞれの希望や能力に応じて、各地域で自立した生活を送ることができる「共生社会の実現」を目指しています。
これを実現するために、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障害者の職業の安定を図ることなどに関する障害者の雇用を進めるための具体的な方策が定められています。
障害者雇用促進法の概要
雇用義務制度
事業主は、雇用している従業員の一定割合以上の障害者を雇用する必要があります。この一定割合は、障害者法定雇用率とよばれており、現在の法定雇用率は以下のようになっています。
2018年4月~ | 2021年4月より前(時期は未定) | |
民間企業 | 2.2% | 2.3% |
国・地方公共団体 | 2.5% | 2.6% |
教育委員会 | 2.4% | 2.5% |
この法定雇用率は、現状では上記でお伝えしたとおりですが、基本は5年ごとに見直されることになっています。法定雇用率は、下記の法定雇用率の算定式によってだされています。
2018年4月からは、算定式に精神障害者が加わりました。また、最近特に、精神障害者の雇用が増加していることからも、今後も障害者雇用率が上がっていくことが想定されます。
出典:障害者雇用ドットコム作成
障害者雇用納付金制度
障害者雇用は、事業主が相互に果たしていく社会連帯責任の理念に立ち、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図っています。そのため、障害者雇用率に達していない分を、障害者雇用納付金として納めることになっています。
雇用率未達成の企業は、障害者の不足1人につき、月額5万円が徴収されます。適用対象は、常用労働者100人超の企業です。
集められた納付金は、企業が身体障害者、知的障害者又は精神障害者を雇用する場合の作業設備や職場環境を改善するための助成金や、特別の雇用管理や能力開発等を行うなどの経済的な負担を補填するため、雇用を多くしている企業への調整金などに活用されています。
障害者雇用調整金は、雇用率達成した事業主を対象に、1人につき月額2万7千円が支給されます。調整金の適用対象は常用労働者が100人超の企業となっており、100人以下の事業主については報奨金制度があります。
障害者雇用納付金制度の詳細については、参考をご覧ください。
職業リハビリテーションの実施
障害者が自立して職業生活を送ることができるように、地域の就労支援関係機関と連携しながら、職業指導、職業訓練、職業紹介などを行なって、職業リハビリテーションを実施することが定められています。
障害者雇用促進法では、職業リハビリテーションを実施する機関として、以下の3つを定めています。
ハローワーク(全国544か所)
障害者にあわせて職業紹介、職業指導、求人開拓等をおこなう。
地域障害者職業センター(全国52か所)
専門的な職業リハビリテーションサービスとして、職業評価、準備訓練、ジョブコーチ等の支援を実施する。
障害者就業・生活支援センター(全国334か所)
就業・生活両面にわたる相談や支援をおこなう。
差別の禁止
障害者であることを理由として、そのほかの人と不当な差別的取扱いをすることが禁止されています。 例えば、募集・採用や賃金、配置や昇進、教育訓練など雇用に関するあらゆる局面で、障害者であることを理由に排除することや不利な条件を設けること、反対に障害のない人を優先することなどは、障害者であることを理由とする差別に該当します。
合理的配慮の提供
「合理的配慮」とは、障害がある人とない人の就労機会や待遇を平等に確保し、障害者が能力を発揮するために支障となっている状況を改善したり、調整したりすることです。
障害の種類によっては、就業にどのような支障があり、どのような配慮が必要なのかが、見た目だけではわからない場合があります。また、障害の種類や障害者手帳の等級が同じ場合であっても、一人ひとりの状態や考え方は違うものですし、職場環境などによって求められる配慮も異なります。そのため、取るべき対応は個別性が高いものとなっています。具体的にどのような措置をとるかについては、障害者と事業主とでよく話しあった上で決めることが求められます。
なお、合理的配慮は「過重な負担」にならない範囲で事業主が行うものとされています。
苦情処理・紛争解決援助
事業主は、障害者に対する差別や合理的配慮の提供に関することで、苦情の申出を受けたときは、自主的な解決を図るよう努める必要があります。解決できない場合には、個別労働紛争解決促進法の特例を設け、都道府県労働局長からの助言、指導又は勧告を受けることになります。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要(厚生労働省)
障害者からの苦情処理などについては、企業内での態勢を整備することが必要です。例えば、相談態勢を構築することや、決まった相談窓口について労働者に周知すること、相談者のプライバシーを保護するために必要な対応をとること、相談内容を理由として不利益な取扱いを禁止することと、労働者にそれを周知・啓発すること(就業規則、社内報、パンフレット、社内ホームページなど)が含まれます。
※企業の合理的配慮については、HRプロのコラム「企業が知っておくべき障がい者雇用の合理的配慮とは」で説明していますので、こちらを参考にしてください。
2020年障害者雇用促進法改正のポイント
障害者雇用に関する優良な中小事業主認定制度の創設
中小企業の障害者雇用はなかなか進んでおらず、障害者が0人と全く雇用していない企業も多く、障害者雇用が停滞している状況が見られます。このような現状を打破しようと、2020年4月施行の障害者雇用促進法改正の内容には、障害者雇用に関する優良な中小事業主認定制度の創設が盛り込まれました。
中小企業の障害者雇用の進展に対する社会的な関心を喚起し、障害者雇用に対する経営者の理解を促進するとともに、先進的な取組を進めている事業主が社会的なメリットを受けることができることを目的としています。
障害者雇用の優良中小企業認定制度についての詳細については、参考をご覧ください。
短時間労働者の特例給付金制度
障害者雇用のカウントに関しては、今まで週20時間以上でなければ、障害者の雇用をしているとカウントができず、助成金を受けることができませんでした。しかし、近年、精神障害者の雇用が増えており、20時間未満の超短時間労働で働く人も増えています。
このような状況を踏まえ、短時間であれば就労可能な障害者等の雇用機会を確保するため、週20時間未満の雇用障害者数に応じて、納付金を財源とした特例給付金を支給することになりました。(カウントについては、従来どおり週20時間以上の労働がないとカウントできません。)
支給額の金額については、調整金・報奨金の単価、週20時間~30時間の短時間労働者の雇用率カウント(0.5)との兼ね合いから、調整金・報奨金の単価の4分の1程度となっています。支給対象となる障害者は、障害者手帳等を保持し、1年を超えて雇用されること(見込みを含む)、また週の所定労働時間が10時間以上20時間未満となっています。
短時間労働の特例給付金制度についての詳細は、参考をご覧ください。
動画で解説
まとめ
障害者雇用促進法の概要についてお伝えしてきました。障害者雇用促進法は、企業が障害者雇用を進めていく上で基本的な法律ですし、近年、障害者雇用の増加に伴い、改正も多くなっています。
最新の情報を収集しながら、企業の障害者雇用を進めてください。
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