障害者を解雇することはできるのか?判断基準と条件について解説

障害者を解雇することはできるのか?判断基準と条件について解説

2024年08月16日 | 障害者雇用に関する法律・制度

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従業員の解雇は、企業にとっても労働者にとっても大きなものです。解雇は労働者の生活やキャリアに大きな影響を与えるだけでなく、企業側にも法的責任やリスクを伴います。特に障害者の解雇に関しては、一般的な解雇と比べてさらに厳格な法的基準や特別な配慮が求められます。

今回は、障害者の解雇がどのような基準や条件のもとで行われるべきか、また企業が解雇を検討する際に留意すべき点について解説します。

解雇とは?

「解雇」は、企業が従業員との間に結んだ雇用契約を、従業員の同意なく一方的に終了させることを指します。解雇は、企業にとって人員整理や経営のために必要な手段である一方で、従業員にとっては生活やキャリアに大きな影響を与える重大な決定です。そのため、解雇には法律上の厳しい制約があります。

例えば、労働契約法第16条では、解雇が正当であるかどうかを判断するための重要な基準を提供しています。具体的には、「客観的に合理的な理由」があるか、また「社会通念上相当である」かなどの点に基づいて解雇の正当性が判断されます。

・客観的に合理的な理由
企業が労働者を解雇するには、その解雇に客観的に合理的な理由があることが求められます。例えば、労働者の著しい勤務態度の不良、業務遂行能力の欠如、または重大な就業規則違反などがこれに該当します。

「客観的に合理的」とは、解雇の理由が第三者から見ても理解できるものであり、単に企業側の主観的な判断に基づいたものでないことを意味します。

・社会通念上相当であること
解雇が社会一般の常識や通念に照らして妥当であるかどうかも判断基準となります。これは、解雇が企業の利益を保護するために必要かつ適切な手段であるか、他に代替策がないかなどを考慮するものです。

例えば、労働者が軽微な違反をしただけで即時解雇される場合、それが社会通念上相当とされるかどうかが問題となります。一般的には、軽微な違反で即時解雇は妥当とは認められません。

解雇には3つの種類「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」があります。

普通解雇は従業員の能力不足や勤務態度の不良などが理由で行われる解雇です。普通解雇を行うには、客観的に見て合理的な理由があり、かつ解雇が社会通念上相当であることが必要です。

懲戒解雇は就業規則に違反する重大な行為、例えば不正行為や犯罪行為を行った場合に、懲戒処分の一環として行われる解雇です。懲戒解雇を行うには、就業規則に基づいた明確な規定があり、その内容が従業員に周知されていることが必要です。

整理解雇は、企業の経営悪化などにより、人員削減が必要とされる場合に行われる解雇です。整理解雇には、経営悪化の証拠、人員削減の必要性、解雇回避のための努力、解雇される従業員の選定基準が合理的であること、解雇手続きが適切に行われることが求められます。

いずれの解雇の場合も、企業が自由に解雇を行えるわけではなく、労働基準法や判例などにより厳しい条件が課されています。不当な解雇は法律違反とされ、企業は解雇された従業員に対して法的責任を負うことがあります。

障害者雇用における解雇について

障害者を解雇するときには、一般的な解雇に加えて特別な制限が設けられています。障害者雇用促進法では「障害があること」を理由に労働者を差別的に扱うことを禁止しています。

次のようなことは、差別にあたるとみなされます。
・障害者であることを理由として、障害者を解雇の対象とすること
・解雇の対象となる基準について、障害がある者とない者とで分け、障害者に対してのみ不利な条件を設定すること
・障害者であるということだけを理由に、解雇基準を満たす労働者の中から障害者を優先して解雇の対象とすること

また、企業には、障害のある従業員に対して、合理的な配慮を行い、適切な支援を提供する義務を負っています。合理的配慮とは、障害のある従業員が職場で働く際に、障害を理由に不利益を被らないようにするための適切な措置を指します。

例えば、障害に応じた設備の整備や、必要な休暇の付与、勤務時間の調整などが挙げられます。このような配慮が十分に行われていない場合、障害者の解雇は違法とされる可能性があります。

障害者の解雇を検討する時に確認すべきポイント

障害者の解雇については、障害者雇用促進法第81条で「解雇するべき旨を速やかにハローワークに届け出る」ことが定められています。これは、一般的に障害者の再就職は困難な場合が多いためです。

「事業主は、障害者である労働者を解雇する場合(労働者の責めに帰すべき理由により解雇する場合その他厚生労働省令で定める場合を除く。)には、厚生労働省令で定めるところにより、その旨を公共職業安定所長に届け出なければならない。」(障害者雇用促進法第81条)

そのため障害者の解雇を考える時には、次の点を確認しておくべきです。

合理的配慮の提供

企業は、障害のある従業員に対して「合理的な配慮」を提供する義務があります。合理的配慮とは、障害者が職場で働く際に、障害によって不利な状況に置かれないようにするための適切な措置を指します。

例えば、障害に応じた設備の整備や、業務時間の調整、特別な休暇の提供などが含まれます。企業がこの配慮を怠った場合、その解雇は違法とされる可能性があります。企業が合理的な配慮を十分に行っていなかった場合、その解雇は無効とされる可能性が高くなります。

適切な指導と注意

障害者の能力不足や勤務態度を理由に解雇を検討する場合、企業はその従業員に対して適切な指導や注意を行っていたかが問われます。企業は、障害者に対して適切な指導を提供し、その結果として業務の改善が見られなかった場合に限り、解雇の正当性を主張することができます。

この指導や注意が不十分であった場合、その解雇は不当とされる可能性があり、法的な責任を負うことになります。企業は、従業員が適切に業務を遂行できるように支援し、それでもなお問題が解決しない場合に初めて解雇を検討すべきです。

配置転換の検討

障害者が現在の業務を遂行することが難しい場合、企業はその従業員を他の業務に配置転換できるかどうかを十分に検討したかが問われます。障害者雇用では、障害により可能な業務が限られることや作業に時間がかかることは採用するときから分かっていると見なされるからです。

例えば、身体的な障害が原因で現場での業務が難しくなった場合、デスクワークなどの他の業務が可能かどうかを検討することが求められます。企業が配置転換の努力を十分に行わなかった場合、その解雇は無効とされる可能性があります。

障害者の解雇で考えられる企業側のリスク

不適切な解雇が行われた場合、企業にはさまざまなリスクが伴う可能性があります。

訴訟や労働審判のリスク

障害者を解雇した際、その解雇が不当とされる場合、企業は法的な責任を問われる可能性があります。解雇が不当と判断されると、労働者は訴訟や労働審判を通じて、企業に対して復職や給与の支払いを求めることができます。

このような事態が発生すると、企業は金銭的な損失だけでなく、時間や労力の面でも大きな負担を強いられることになります。また、裁判や労働審判において解雇が無効とされると、企業の評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。

労働基準監督署からの指導や勧告

解雇された労働者が不当解雇されたと考えて労働基準監督署に相談すると、労働基準監督署は企業に対して指導や勧告を行うことがあります。これには、解雇の撤回や是正措置の指示が含まれることもあります。

労働基準監督署からの指導や勧告を受けることは、企業にとって大きな負担となり、法令順守の観点からも重大な問題となります。さらに、指導や勧告に従わない場合、企業はより厳しい法的措置を受ける可能性があります。

助成金の影響

企業が受け取っていた障害者雇用に関する助成金が停止されるリスクがあります。また、障害者を解雇することにより、企業の障害者雇用率が法定基準を下回る場合、障害者雇用納付金を納める必要が生じます。

障害者を解雇する際には、企業側に多くのリスクが伴うことがあります。これらのリスクを避けるためにも、企業は解雇を検討する前に法的要件を十分に確認し、慎重な対応を行うことが大切です。

雇用や労働問題に関する専門家は社会保険労務士です。社内での対応が難しい場合には、相談するとよいでしょう。

障害者解雇の手続き

障害者を解雇する際には、法的に適正な手続きを踏むことが不可欠です。これにより、企業は解雇に関するトラブルを未然に防ぐことができます。

1. 解雇理由の整理
まず、解雇の正当性を確認するために、解雇理由を整理することが重要です。合理的配慮の提供、配置転換の検討などの点を確認します。

合理的配慮: 障害者に対して必要な配慮が適切に行われたかどうかを確認します。例えば、業務遂行が困難な場合に、必要な設備の提供や勤務時間の調整などが行われたかどうかです。

配置転換の検討: 障害者が現在の業務を遂行できない場合、他の業務に配置転換できる可能性を十分に検討したかを確認します。この努力が不十分な場合、解雇の正当性が疑われる可能性があります。

2. 解雇通知書の作成
次に、解雇の理由を明示した解雇通知書を作成します。通知書には、解雇の理由、解雇の効果発生日:、解雇手当の支払いについて記載します。従業員に対して適切な手段で解雇通知書を通知することにより、後のトラブルを避けることができます。

3. 解雇予告と解雇手当の支払い
労働基準法に基づき、企業は解雇予定日の少なくとも30日前に解雇予告を行う義務があります。もし30日以内に解雇を行う場合には、その分の解雇予告手当を支払わなければなりません。

4. ハローワークへの届け出
障害者を解雇した場合、企業は速やかにその事実をハローワークに報告する義務があります。前述したように、これは障害者雇用促進法第81条で「解雇するべき旨を速やかにハローワークに届け出る」ことが定められています。

これは、解雇された障害者が再就職支援を受けられるようにするための手続きです。ハローワークは、解雇された障害者に対して早期の求人情報提供や職業指導を行うため、企業が迅速に報告を行うことが求められています。

※「労働者の責めに帰すべき理由による解雇」や「天災事変その他やむを得ない理由のために事業の継続が不可能となったことによる解雇」を除き、障害者を1人でも解雇する場合、解雇届の提出が必要となっています。

出典:障害者を雇用する上で必要な3つの手続きをご存知ですか?(厚生労働省)

届出様式は厚生労働省ホームページでダウンロードできるほか、電子申請も可能となっています。

5. 社会保険や税の手続き
最後に、解雇に伴う社会保険の喪失手続きや住民税の変更手続きを行います。

適切な手続きを踏むことで、企業は不要なトラブルを未然に防ぎ、労働者との健全な雇用関係を維持することができます。

解雇を回避するために事前にできること

解雇は企業と労働者の双方にとって望ましくない結果です。特に障害者雇用ではその影響が大きいため、解雇を未然に防ぐために有効な3つの方法を紹介します。

企業実習(インターンシップ)を行う

障害者雇用では、採用前に企業実習(インターンシップ)を行うことが多くあります。これは、企業と当事者の間でお互いの適性や業務遂行能力を確認するための有効な方法となります。

面接などの場では、緊張したり、コミュニケーションが苦手な人もいて、実力を発揮することができない場合があります。一方、実習やインターンシップでは、実務を行うことにより、業務を遂行する上での能力やスキル、適性があるのか、職場の環境に適応できるかなどを確認することができます。

また、障害特性やサポートが必要なポイントを把握できるため、実際の雇用後に生じる可能性のある問題を事前に発見し、対応策を講じることができます。

実習は、企業だけでなく当事者にとっても役に立ちます。実際の職務を経験することで、職場で求められる業務やスキルを確認し、一緒に働く職場の人や雰囲気を知ることができます。

なお、採用が不安な場合には、障害者トライアル雇用を活用することができます。「障害者トライアル雇用」は、障害者を原則3か月間(精神障害者は最大12か月)試行雇用することで、適性や能力を見極め、継続雇用を目的とした制度となっています。労働者の適性を確認した上で継続雇用へ移行することができ、障害者雇用への不安を解消することができます。


出典:「障害者トライアル雇用」のご案内(厚生労働省)

合理的配慮について確認する

合理的配慮の提供は、企業に求められる義務であり、障害者が職場で能力を発揮できるようにするために不可欠な要素となっています。事前に当事者がどのような合理的配慮を求めているのかを確認し、その対応についての必要な措置を講じることで、解雇のリスクを減らすことができます。

また、企業に合理的配慮が求められているといえ、それは「過重な負担」にならない範囲で行うものとされています。

「過重な負担」とされるものは、次のような点があります。
・事業活動への影響の程度
・実現困難度
・費用負担の程度
・企業の規模
・企業の財務状況
・公的支援の有無

企業が提供できる合理的配慮と当事者が求める配慮についての見解や現実的に実施できるのかなどの可能性について、よくコミュニケーションを図っておくことが大切です。

コミュニケーションを図る

労働問題に発生する場合のほとんどが、企業側が思っていることと、当事者が思っていたことの食い違いが見られます。それを減らすには、コミュニケーションが重要です。

採用前に会社の方針を明確に伝えておきましょう。具体的な業務内容や期待しているレベル、責任を明確に伝えます。また、会社の目指す方向性やその中で担当する業務がどのような位置づけになるのかも伝えるとよいでしょう。

採用してからは、定期的な1on1や個別面談を通じてフィードバックを行います。業務や職場環境で困っていることがないかなどを聞いたり、業務内容についてのフィードバックをすることで、お互いの認識の差を埋めていきます。

まとめ

障害者を解雇する際には、企業は法律に基づいた基準を満たす必要があります。合理的配慮の提供、適切な指導、配置転換の検討など、解雇を回避するためにできる限りの努力が求められます。これらの努力が十分に行われていない場合、解雇は違法とされる可能性が高く、企業にとって法的リスクや社会的な信用を失うリスクが伴います。

また、もし解雇する場合には、速やかにハローワークに届け出を行い、再就職支援を促進するようにしてください。適切な手続きを踏むことで、企業は法的トラブルを回避するとともに、労働者の権利を守ることができます。

解雇を避けるための事前対策として、企業実習や合理的配慮の確認、コミュニケーションの強化などの取り組みを行うことができます。これらの取り組みを行うことで、企業と当事者との間で同じ認識や理解が形成され、解雇のリスクを減らすことができます。

動画で解説

参考

障害者採用で失敗しない方法、円滑にする企業実習の効果とメリット

障害者雇用で成功している企業がしていること5選

障がい者雇用における「合理的配慮」が企業のリスク回避に必要な理由(HRプロ)

企業が知っておくべき障がい者雇用の合理的配慮とは(HRプロ)

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