発達障害には誤って診断されるケースが多い精神疾患がいくつかあります。どのような病気と混同されやすいのか見ておきましょう。また、医療機関にかかり発達障害と診断されたあとにどのような受け入れていくか、対処できるのかについても説明しています。
他の精神疾患に誤診されることがある
精神医学界では、30年くらい前まで、大人に発達障害があるという認識がありませんでした。しかし、その後研究が進み、最近では発達障害が小児特有の精神疾患ではなく、成人でも見られることが知られるようになっています。
しかし、このような経緯もあり、発達障害に詳しい医師がまだ少ないため、本当は発達障害であるにもかかわらず、他の精神疾患と混同されることがあります。また、発達障害と似たような症状が現れる精神疾患もあるため、一部の症状を診ただけでは正しく見分けることが実際に難しいこともあります。
例えば、統合失調症と誤診された人が、何ヶ月も薬物療法を続け、治療の効果が現れないことから、発達障害の専門医を紹介され、ようやく症状が改善したという例があります。さらに発達障害の人は、対人関係や生活上の問題からストレスを抱えがちです。そうしたストレスから二次障害としてうつ状態や解離性障害などを併発していることが多くあります。
このような場合、二次障害の症状が前面に出ているために、発達障害が見逃されていることがあります。発達障害で誤診されやすい精神疾患にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
発達障害が誤診されやすい精神疾患
発達障害に誤診されやすい精神疾患には、次のようなものがあります。
統合失調症
統合失調症は、脳内の神経伝達物質の過剰な分泌が原因で起こると考えられている精神疾患です。主な症状には、幻聴や幻視などの幻覚、自分の行動が他人によって操られていると感じるなどの自我意識の障害、被害妄想をはじめとする妄想などがあります。
このような症状は、統合失調症の急性期の陽性症状と呼ばれ、慢性期になると意欲の低下やうつ状態などの陰性症状が現れます。
また、自閉スペクトラム症(ASD)の人がうつ状態になっていると、意欲が低下し、感情の起伏に乏しいといった状態を示すことがあります。このような状態が、外見上統合失調症の陰性症状によく似ていることから、誤診を招く原因となることがあるのです。
このほかにも誤診を招きやすい理由して、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDの人は、人からの指摘を自分への攻撃だと解釈していることが多く、被害者意識を持っていることが少なくありません。自分を被害者だと決めつけるような発言が、統合失調症の被害妄想と混同されることがあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の人に生じやすいフラッシュバックも誤診の原因となることがあります。自閉スペクトラム症(ASD)の人は、「死ね」という言葉がフラッシュバックによって突然思い起こされ、「死ね」という言葉が聞こえるなどと、医師に訴えることがあります。そのような誰かの声が聞こえるという訴えが、幻聴と混同されてしまうのです。
実際に誤診された例では、非常に知的レベルの高い自閉スペクトラム症(ASD)の人が、医師のまったく知らない専門的な話題を一方的話したところ、妄想と勘違いされたというケースもあります。
双極性障害
双極性障害は一般的に躁うつ病として知られている精神疾患です。気分の異様な高揚状態が続く躁状態と、抑うつ気分や不安感が強くなる状態が交互に、または混合して現れます。
このような双極性障害に見られる気分の波は、ADHDにはありませんが、症状だけ捉えると双極性障害の躁状態に現れる衝動性や多動性、またうつ状態のときに頻出する不注意がADHDに似ていることから、誤診されることもあります。ちなみに双極性障害では、躁状態とうつ状態の両方が静まっている場合、ADHDに似た症状はまったく現れません。
強迫症
強迫症は不安から、そうしないではいられないという脅迫行為を繰り返す精神疾患です。発達障害の常同性による行動の繰り返しが似ていることから誤診されることがあります。
社会不安症
社交場面での悪い評価や、注目を浴びる行為を恐れる不安や緊張感から、動悸や腹痛、息苦しさを覚える精神疾患です。発達障害の人には相手を怒らせるなど、過去の対人関係での失敗から、対人恐怖のある人が多く、人前では不安感や緊張感が強くなります。この状態が社交不安症と類似しているため、混同されることがあります。
また、逆に社交不安症で対人恐怖があるだけで、間違って自閉スペクトラム症(ASD)と診断されている人も見られます。
心身症(身体化障害)
ストレスなど精神的な原因(心因)で頭痛や腹痛、胃潰瘍など(身体化)が起こる疾患の総称です。発達障害の人が過剰適応などでストレスが加わると、通常は精神的な症状が出ますが、腹痛など身体に異常が現れることもあります。このような症状から、心身症と混同されることがあります。また、知覚過敏も心因が原因と勘違いされることで、誤診を受けることがあります。
うつ病
うつ病は、意欲や興味、精神活動の低下、抑うつ気分、不眠などを特徴とする精神疾患です。発達障害の人は、不眠や意欲の低下といったうつ状態になることが多く、このような状態が前面に出ている場合、うつ病と誤診されることがあります。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
死の危険が伴うような体験が心的外傷(トラウマ)となり、不安や不眠、1ヵ月以上続くフラッシュバックなどの症状が現れる精神疾患です。自閉スペクトラム症(ASD)の人に起こるフラッシュバックが混同され、誤診されることがあります。
発達障害と診断されたら
発達障害と診断されると、診断名とそこから生じている特性について医師から説明があります。その説明から自分の特性についてよく理解することが大切になります。
診断後の気持ちの整理
発達障害と診断された人の中には、自分の苦手さや困難さの原因がわかってホッとしたという人が一定数います。「なぜ、他の人のようにうまくいかないのか」「何をやってもダメなのか」という自分の状態がわからない不安や恐怖の原因がわかって、これまで抱えていた混乱が整理されるからです。診断によって、生きづらさの問題が自分の意欲や努力不足によるものではないと知ることは、大きな影響があります。
もちろん、一方で、診断結果に動揺する人もいます。それでも診断をスタートすることにより、医師との面談を通して苦手さや困難さをカバーする対処法があることがわかり、段々と診断を受け入れることができるようになる人も多くいます。
診断名より自分の特性を知ることが大切
発達障害と診断されたときには、そのあとに続く治療やサポートのために大切なポイントがあります。それは、自分の生きづらさの原因となっている特性をよく理解することです。
特性とは自分の得意・不得意や短所・長所を知ることから始まります。どうしても生活上の問題を引き起こすことから短所に目が行きがちですが、短所をカバーすることで長所が発揮できることもあります。そのために、短所への具体的な対処法を工夫して、生活改善を図ることによって発達障害の治療へつなげることになります。
多くの人が取る一般的な行動や考えを知る
また、多くの人が取る一般的な行動や考えを知ることも大切です。自閉的な特性のある人の中には、社会への関心が薄いことから、多くの人が一般的に取る行動や考えにあまり関心がありません。しかし、社会では多くの人がとる一般的なことが中心となって構成されています。
社会の中で生きていくときには、多くの人が一般的と考える、いわゆる普通という概念の中に入っていくことが求められます。そのためには、多くの人の言動や、一般的とはどのようなものかを知り、情報をできるだけ集めることが必要です。
とはいっても、これらのことはすぐに身につくものではありません。経験が必要になってきます。何回もチャレンジして失敗しながら、試行錯誤を繰り返し、経験を積んでいくことになります。時間がかかって、遠回りのように感じるかもしれませんが、一般的に社会にでたり、新しい分野にチャレンジするときには、誰でも同じように経験を積みながら、社会的なルールや一般常識と呼ばれるものを身につけているものです。少しずつ自分の範囲を広げてみましょう。
発達障害の診断から治療としてのスタートにつながる
発達障害と診断された後は、診断名にとらわれるのではなく、医師のアセスメントから自分の特性を理解することが大切です。もし、診断結果が納得できないときは、再度医師に説明を求めることもできますし、納得できないならセカンドピニオンを受けつけている他の専門医を受診することもできます。セカンドオピニオンには、主治医の紹介状(診療情報提供書)や検査所見等が必要になります。
発達障害による特性を前向きにとらえて、医師の診断を受けましょう。診断後に気持ちの整理をすることも大切です。そして、必要な治療と支援を受けて、問題点への具体的な対処に取り組みましょう。医師と相談し、必要に応じて精神障害者保健福祉手帳の取得や障害者支援法のサービスなど公的支援の手続きをすることもできます。
まとめ
発達障害の中で誤診されやすい他の精神疾患について、また発達障害と診断されたときの対応について見てきました。
発達障害には誤って診断されるケースが多い精神疾患がいくつかあります。医師が発達障害の症状と、よく似た症状を示す他の精神疾患を誤診することもありますので、どのような病気と混同されやすいのかを確認しておくことは大切です。
また、医療機関にかかり発達障害と診断されたあとには、気持ちの整理をするとともに自分の特性を知り、理解することも必要です。必要に応じて公的な支援やサービスを受けることもできます。
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