障害者雇用を進める中で、企業や人事担当者が「この社員は障害があるのでは?」と疑問を持つことがあるかもしれません。しかし、その際に障害者手帳の確認を求めることが適切かどうか、法的にも倫理的にも難しい問題となります。
また、障害者手帳の有無について確認することは、個人的なプライバシーに関することで慎重に扱うべき内容となります。
今回は、障害者かもしれないと思われる社員がいる場合、障害者手帳の確認をどのようにおこなうとよいのかについて解説します。
障害者手帳の役割とは?
障害者手帳は、身体障害、知的障害、精神障害のある人が利用できる公的な制度で、障害の等級を証明するための公式な書類となります。この手帳を持つことにより、障害者はさまざまな就労支援や社会福祉サービスを受ける権利が認められます。
具体的には、障害者手帳を提示することで、税制の優遇措置や医療費の軽減、交通機関の割引など、日常生活の中での支援が受けやすくなります。また、障害者雇用においては、企業が必要な合理的配慮を提供するための一つの指標ともなります。
一方で、障害者手帳は個人の障害に関する詳細な情報が含まれており、非常にプライベートなものでもあります。そのため、企業側が手帳の提示を求める際には慎重さが求められます。手帳の確認を強制することは、プライバシー侵害のリスクがあり、本人の同意を得ずに手帳の提示を求めることは法的・倫理的に問題視される恐れがあります。
障害者手帳の確認に関する考え方
障害者手帳の確認に関する法的な取り扱いは慎重に行う必要があります。障害者手帳に関しては、障害者雇用促進法や個人情報保護法などに基づく障害者に対する適切な配慮や個人情報の保護に従いながら対応していくことになります。
障害者雇用促進法では、企業は障害者に対する合理的配慮を提供する義務がありますが、そのために必ずしも障害者手帳を確認する必要はないとされています。合理的配慮の提供は、社員が必要な支援や調整を求めた場合に基づき、その要請に応じて適切な対応を取ることが求められています。
また、個人情報保護法の観点からは、障害者手帳は個人情報の一部であり、特にセンシティブな情報に分類されます。企業が手帳の提示を一方的に求めることは、本人の同意を得ずに行うと違法行為となる恐れがあります。本人の意思に反した手帳の提出を強制したと感じさせないように、事前に本人の同意を得る必要があります。
つまり障害者手帳の確認は、法的には慎重に行うべきであり、企業が一方的に要求することは避けるべきです。障害者手帳の提示は、あくまで本人の自主的な意思によるものであるべきであり、企業側は手帳の確認に依存するのではなく、個別のニーズに応じた支援や配慮を行う姿勢が求められます。
手帳を確認したい場合のアプローチ方法
職場における障害者であることの把握・確認については、厚生労働省から「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」が策定されています。障害者本人の意に反した雇用率制度の適用などが行われないようにするため、採用後に障害の有無の把握・確認を行う場合には、雇用する労働者全員に対して、画一的な手段で申告を呼びかけることが原則とされています。
職場における障害者であることの把握・確認として、ガイドラインで推奨されている確認の方法は、次のものがあります。
・労働者全員が社内LANを使用できる環境を整備し、社内LANの掲示板に記載する、または労働者全員に対し一斉にメールを配信する。
・労働者全員に対して、文書、社内報などを配布する。
・労働者全員に対する回覧板に記載する。
特定の人に向けた形の呼びかけ、例えば、労働者全員が社内LANを使用できる環境にない場合において、社内LAN使用者のみに対してメールを配信することや、障害者と思われる労働者がいる部署に対してのみ文書を配布することは不適切な方法と考えられています。
つまり、一般的には労働者全員に対して、画一的な手段で申告を呼びかけることが原則となっており、特定の人に呼びかけることは適切ではありません。また、申告を呼びかける際には、「障害者雇用状況等の報告などのために用いるという利用目的」を伝えることが大切です。
ただし、個人を特定して障害者手帳などの所持を照会することができるケースもあります。それは、障害のある社員が、職場において障害者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、企業に対し自発的に情報を提供した場合です。このような時には、個人を特定して障害者手帳などの所持を照会することができます。
例えば、障害者に係る公的な支援制度を利用したい旨の申出があったときや、障害者に係る企業が行う支援制度を利用したい旨の申出があったときは、個別に照会することができます。
個人を特定して照会することがふさわしくないのは、次のようなケースがあります。
・健康などについて、部下が上司に対して個人的に相談した内容を根拠とする場合
・上司や職場の同僚の受けた印象や職場における風評を根拠とする場合
・企業内診療所における診療の結果を根拠とする場合
・健康診断の結果を根拠とする場合
・健康保険組合のレセプトを根拠とする場合
ここまで、手帳を確認したい場合のアプローチ方法について見てきましたが、障害者であることの把握・確認を行うポイントは次の点です。
・個人情報の取り扱いに注意します。
・利用目的を明示します(障害者雇用状況報告のため、障害者雇用納付金申請のためなど)。
・本人の同意を得た上で把握・確認します。
・採用後に把握・確認を行う時は、個人を特定せず、雇用している全労働者に対して、メール、社内報などを利用して呼びかけます。
・把握・確認された情報は個人情報となり、適切な保管・管理が必要となります。
・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の申請は、本人の意思に基づき行われるべきであり、第三者が強要しないように気をつけます。
いつ確認するとよいのか?
障害者枠での採用は、採用段階から本人が自ら障害者であることを明らかにしているので、入社時に障害者手帳も一緒に提出してもらうことができます。一方、採用後に障害者を把握・確認する場合としては、いつ確認するとよいのか、そのタイミングが難しいかもしれません。個別での問い合わせがある場合は別として、いつ周知するとよいのでしょうか。
多くの企業では、年末調整の扶養控除申告書で、障害者手帳の有無を確認しています。年末調整では、控除される項目を自分で申請しますが、障害者手帳を持っている場合、障害者控除があるので、自然な流れで案内しやすくなります。
その他の機会としては、企業が障害者雇用を進めるときに全社的に案内を出す場合や、障害者雇用の研修などをするときにも、周知をはかることができるかもしれません。
人事担当者が、社員の障害者手帳所持に関して把握できる場面としては、住民税の通知からわかるケースもあります。ただ、住民税の通知で確認できたとしても、本人が扶養控除移動申告書に記載してこなかったり、手帳の写しを添付しない場合には、自分の意思で会社に申し出ていないことを尊重し、毎月の給与や年末調整での所得税控除には反映させないと判断していることが多いようです。
新たに障害者として雇用する場合には、ご本人がオープンにしていることから把握できますが、すでに働いている社員の場合には、プライバシーにかかわる点を考慮しながら進めることが大切です。
まとめ
障害者手帳は障害者に対する重要な支援の手段となる一方で、プライバシーに深く関わる個人情報です。企業が社員の障害の有無を確認することは、法的・倫理的に慎重に扱う必要があります。
手帳の提示を求める際には、厚生労働省が出している「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」を参考にして、本人の同意を得て行うことが大切です。企業が一方的に手帳を確認しないように気をつけましょう。
また、企業に求められている合理的配慮の提供は、障害者手帳の有無にかかわらず、個別のニーズに応じた柔軟な対応が必要です。社員が必要な支援や調整を求めた場合に基づき、その要請に応じて適切な対応を取りますが、このときに社員との対話が欠かせません。社員との信頼関係を築きながら、障害者雇用を適切に進めていくことが大切です。
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