2026年8月30日更新
ADHDのある社員について、「何度伝えても締切を忘れてしまう」「確認漏れやケアレスミスが繰り返される」「複数の仕事を頼むと、どれかが止まってしまう」といった相談を管理職から受けることがあります。
本人も努力しているのに改善せず、「どこまで配慮し、どこから本人に改善を求めればよいのか」と迷うケースもあります。
同じミスが続くと、管理職は説明や注意を繰り返します。しかし、「次から気をつけてください」「もっと確認してください」と伝えても、再び同じ問題が起きることがあります。
このようなときには、本人の注意力や意欲だけでなく、仕事の渡し方にも目を向ける必要があります。優先順位、期限、完成状態、途中確認、報告のタイミングなど、本人が仕事を進めるために必要な情報が、判断できる形で共有されていない可能性があるからです。
ADHDのある社員にミスや締切遅れが見られるとき、本人の注意力だけを改善しようとしても解決しないことがあります。本人が次に何をすればよいか判断できるよう、仕事の進め方そのものを見直すことが重要です。
この記事では、ADHDのある社員との間で起きやすい仕事上のズレと、管理職・人事が確認したい業務設計の考え方を整理します。
- ADHDのある社員のミスを、不注意だけで考えない方がよい理由
- 優先順位・期限・中断・報告で起きやすい4つのズレ
- 注意を繰り返す前に見直したい仕事の渡し方
- 配慮と、本人に仕事として求めることの考え方
- 管理職だけで対応を抱えないための視点
ADHDのある社員のミスを、本人の不注意だけで考えない
ADHDには、不注意、多動性、衝動性などの特徴が見られることがあります。ただし、同じ診断名でも、その表れ方や仕事への影響は異なります。すべてのADHDのある社員に、同じミスや働きにくさが見られるわけではありません。
また、仕事上の問題は、本人の特性だけで起きるものでもありません。
例えば、複数の仕事が同時に依頼される、依頼が口頭だけで記録に残らない、「早めに」「時間があるときに」と期限が曖昧になっている、途中で新しい仕事が入るたびに優先順位が変わる、といった職場では、本人が次に何をすればよいか判断しにくくなります。
電話や声かけによる中断が多かったり、仕事の完成状態や確認するポイントが共有されていなかったりする場合もあります。
このような状態でミスが起きたとき、本人に「注意してください」と伝えるだけでは、何を変えればよいのかが分かりません。
本人の特性だけを見るのではなく、その特性と現在の仕事の進め方がどこでぶつかっているのかを見ることが、対応の出発点になります。
ADHDのある社員との間で起きやすい4つのズレ
ADHDのある社員への職場対応を考えるときには、ミスの回数だけを見るのではなく、本人と管理職の間で何がずれているのかを確認します。
特に、優先順位、期限と完了基準、複数業務と中断、報告・確認のタイミングでは、管理職が「伝えているつもり」でも、本人が判断に必要な情報を受け取れていないことがあります。
1.優先順位のズレ
管理職は「当然、この仕事を先にするだろう」と考えていても、本人は別の順番で仕事を進めていることがあります。
例えば、複数の仕事を渡したとき、本人は依頼された順番に進めている一方で、管理職は締切が近い仕事から対応することを期待している場合があります。
また、新しい依頼を受けたときに、本人が「今の仕事を止めて、新しく頼まれた仕事を先にする必要がある」と受け取ることもあります。
このような場合には、「これを優先してください」と伝えるだけでなく、現在抱えている仕事の中で何を先にするのか、新しい依頼が入ったときは誰に確認するのか、本人が自分で順番を変更してよい範囲はどこまでなのかを共有すると判断しやすくなります。
優先順位は、本人の能力だけに任せるのではなく、仕事上の判断基準として伝えることが必要です。
2.期限と完了基準のズレ
「早めにお願いします」「できたところまで見せてください」といった表現は、管理職にとっては日常的でも、本人には判断しにくいことがあります。
「早め」とは今日中なのか今週中なのか。「できたところまで」とは、資料を集めた状態なのか、下書きまで作った状態なのか。本人と管理職が違う完成状態を想定していれば、締切遅れややり直しが起きます。
仕事を依頼するときには、提出する日時や形式、必要な内容、どの状態になれば完了なのかを具体的にします。長い仕事であれば、最終期限だけでなく、途中で一度確認するタイミングを設ける方法もあります。
例えば、「なるべく早く資料をまとめてください」ではなく、「木曜日の15時までに、指定した3項目をExcelへ入力し、メールで送ってください」と伝えれば、本人は次に取る行動を判断しやすくなります。
これはADHDのある社員だけの特別な対応ではありません。期限や完成基準が曖昧な仕事では、他の社員でも認識のズレが起きます。
3.複数業務と中断のズレ
仕事を進めている途中で、別の依頼や質問が入ることは珍しくありません。しかし、作業が中断されると、どこまで進めたのか、次に何をする予定だったのかが分からなくなることがあります。
その結果、新しい仕事には対応したものの元の仕事へ戻れず、締切直前になって未完了であることに気づく場合があります。
このようなときには、現在抱えている仕事を見える形にし、中断したときに再開する場所を残す、別の依頼が入ったときには優先順位を確認する、といった方法が考えられます。
また、集中が必要な仕事を行う時間帯を決めたり、同時に抱えている仕事の数そのものを整理したりすることが有効な場合もあります。
ただし、すべての仕事を一つずつ渡せばよいということではありません。
本人が自分で管理できる範囲と、管理職側で整理する必要がある範囲を見ながら、少しずつ仕事の持ち方を調整します。
4.報告・確認のタイミングのズレ
管理職が「困ったら相談してください」と伝えていても、本人には、どの状態になれば「困っている」と判断すればよいのか分からない場合があります。
本人なりに解決しようとして時間がかかり、締切直前になって初めて問題が分かることもあります。
このような場合には、報告や相談を本人の感覚だけに任せず、必要に応じて確認するタイミングを具体的にします。
例えば、作業を始める前に進め方を確認する、一定の工程まで進んだところで報告する、予定していた時間を超えても進まない場合は相談する、といった目安です。
「分からなかったら聞いてください」よりも、「30分考えても進め方が決まらなければ相談してください」とした方が、本人は相談するタイミングを判断しやすくなります。
注意を繰り返す前に、仕事の進め方を見直す
同じミスが続くと、管理職は「前にも説明した」「本人が確認していない」と感じます。
もちろん、本人が決められた確認を行い、約束した方法で仕事を進めることは必要です。しかし、注意を繰り返しても同じ問題が起きるのであれば、本人が実行できる形で仕事が設計されているかも確認する必要があります。
タスクと優先順位を、後から確認できる形にする
口頭で複数の仕事を伝えるだけでなく、本人が後から確認できる形を作る方法があります。タスク管理システム、メール、チャット、共有表など、方法そのものは職場に合わせて選べます。
重要なのは、ツールを導入することではありません。
誰が仕事を登録するのか、優先順位が変わったときに誰が変更するのか、完了した仕事をどう残すのか、管理職はいつ確認するのかまで決まっていなければ、ツールが増えただけで終わることがあります。
「何を使うか」より、「その仕組みを仕事の中でどう使うか」まで決めることが必要です。
大きな仕事は、必要に応じて途中で確認できる形にする
完了までに時間がかかる仕事では、最終期限だけを伝えても、途中の進め方がずれていることに気づきにくい場合があります。
例えば資料作成なら、資料を集める、構成を作る、データを入力する、途中段階で方向性を確認する、修正して完成させるというように、必要に応じて工程の途中に確認点を置けます。
仕事を分ける目的は、本人を細かく監視することではありません。
早い段階で認識のズレを確認し、大きなやり直しを減らしながら仕事を進められる状態をつくるためです。
チェックリストは、仕事の流れの中に組み込む
チェックリストは確認漏れを減らすために役立つ場合があります。しかし、チェックリストを渡しただけでは、使われなくなることもあります。
どの仕事で使うのか、いつ確認するのか、完了後に誰が見るのかが曖昧だったり、項目が多すぎたりすれば、チェックすること自体が新たな負担になります。
そのため、「チェックリストを使ってください」と本人に任せるのではなく、どの場面で何を確認するためのものなのかを仕事の流れとセットで考えます。
ミスが起きたときは、本人の行動と仕事の仕組みを分けて振り返る
ミスが起きた場合には、「注意力が足りない」「また忘れた」と本人の性格や特性だけで捉えるのではなく、職場で確認できる事実を見ます。
依頼内容が記録されていなかったのか、優先順位を確認せずに進めたのか、途中で別の仕事が入って元の仕事へ戻れなかったのか、確認項目が多すぎたのか、困っていたものの報告のタイミングが分からなかったのか。それによって、次に変えるべきことは違います。
そのうえで、本人が次回行う行動と、管理職側が変更する仕事の渡し方を分けて考えます。
配慮することと、本人に仕事として求めることを分けて考える
ADHDのある社員への対応では、仕事の進め方を調整することと、本人に仕事上の責任を求めないことが混同される場合があります。
例えば会社側では、優先順位を明確にする、依頼内容を文字でも確認できるようにする、途中確認のタイミングを決める、集中しやすい環境を検討するなどの調整が考えられます。
一方、本人にも、決めた方法でタスクを確認する、優先順位が分からなければ相談する、約束したタイミングで進捗を報告するなど、仕事上必要な行動を求めることができます。
合理的配慮は、本人に仕事を求めないことではありません。本人が役割を果たしやすい条件を整えたうえで、会社が調整することと、本人に求めることを明確にすることが重要です。
この区別が曖昧になると、管理職は「配慮だから注意してはいけない」と感じたり、反対に「仕事なのだから本人が全部対応すべきだ」と考えたりしやすくなります。
どちらかに寄せるのではなく、仕事を成立させるために双方が何を担うのかを見る必要があります。
ADHDのある社員に向く仕事を、職種名だけで決めない
ADHDのある人には、この仕事が向いている、この仕事は向いていないと紹介されることがあります。しかし、診断名だけで適職を決めることはできません。
同じ職種でも、業務の変化が多いのか、複数の仕事を同時に管理する必要があるのか、中断が多いのか、期限や完了基準が明確なのかによって、仕事の進めやすさは変わります。
また、本人の経験や得意なこと、これまで身につけてきた方法によっても異なります。
例えば「事務職」という同じ名称でも、一つの定型業務を集中して行う仕事と、複数部署から依頼を受けて優先順位を調整する仕事では、求められる判断は大きく違います。
仕事の名称ではなく、その仕事を構成している条件と、本人の能力・経験・得意不得意との接点を見ることが重要です。
対応が続くときは、管理職だけで抱えない
日常的な仕事の指示や優先順位の整理は、管理職が中心となって行います。
一方で、対応が長期化している、仕事内容を大きく変える必要がある、評価や配置にも影響する、といった状況では、管理職だけで判断しないことが重要です。
人事や障害者雇用担当者と、実際にどのようなミスや遅れが起きているのか、現在どのような仕事の渡し方をしているのか、本人とは何を確認したのか、どの調整が機能し、どこが改善していないのかを共有します。
管理職によって指示方法や求める基準が大きく違えば、本人も何を基準に仕事を進めればよいのか判断しにくくなります。
どこまでは現場で調整し、どの段階から人事と考えるのかを決めておくことも、ADHDのある社員への職場対応の一部です。
- 優先順位が、本人に判断できる形で示されていますか
- 期限と完了基準を具体的に共有していますか
- 中断や予定変更があったときの確認方法が決まっていますか
- 会社が調整することと、本人に求める行動を分けて説明できますか
- 問題が続いたとき、管理職だけで対応を抱えていませんか
ADHDのある社員への職場対応でよくある質問
Q:ADHDのある社員には、一つずつ仕事を渡した方がよいですか
すべての仕事を一つずつ渡す必要はありません。
本人が複数の仕事をどの程度管理できるのかを確認し、必要に応じて優先順位や期限を見える形にします。重要なのは仕事の数を一律に制限することではなく、本人が次に何を行うか判断できる状態をつくることです。
Q:ADHDのある社員が集中できないときは、静かな席へ移せばよいですか
静かな席が有効な場合もありますが、作業環境だけで解決するとは限りません。
音や人の動きだけでなく、頻繁な声かけ、複数業務の同時進行、途中で変わる優先順位、仕事の区切りが分かりにくいことなどが影響している場合もあります。
まず、どの仕事で、どのようなときに作業が止まりやすいのかを確認し、そのうえで環境や仕事の進め方を検討します。
Q:同じミスを繰り返す場合、注意や指導をしてもよいですか
仕事上必要なフィードバックや指導は行えます。
ただし、「何度言えば分かるのか」「注意力が足りない」と人格や特性を責めるのではなく、何が起きたのか、その結果仕事にどのような影響があったのかを具体的に伝えます。
そのうえで、本人に次回求める行動と、管理職側で見直す仕事の渡し方を分けて考えます。
Q:ADHDのある社員に向いている仕事はありますか
診断名だけで、向いている仕事を決めることはできません。
本人の経験や得意不得意に加えて、その仕事にどの程度の同時進行や優先順位判断が必要なのか、中断が多いのか、期限や完成基準が明確なのかなどを確認します。
職種名ではなく、実際の業務を構成する条件との相性を見ることが重要です。
Q:ミスが続く場合、合理的配慮として業務を減らした方がよいですか
すぐに業務を減らす必要があるとは限りません。
まず、優先順位、期限、完了基準、途中確認などを整理し、仕事の進め方を調整できないか確認します。
業務量を調整する必要がある場合も、何をどの程度変更するのか、その調整によって何を改善したいのか、いつ見直すのかを考えます。長期的な業務変更や配置に関わる場合には、管理職だけで決めず、人事と検討することが必要です。
まとめ|ADHDのある社員のミスは、本人と仕事の接点から見る
ADHDのある社員にミスや締切遅れが見られるとき、本人の注意力や意欲だけに原因を求めても、同じ問題が繰り返されることがあります。
優先順位が分かるか、期限や完了基準が明確か、途中で仕事が中断されたときに戻れるか、どのタイミングで相談すればよいか。本人が仕事を進めるために必要な情報が、判断できる形になっているかを見ることが重要です。
一方で、仕事の進め方を調整することは、本人に仕事上の責任を求めないという意味ではありません。
会社が仕事を進めやすい条件を整え、本人にも必要な確認や報告を求める。その双方を明確にすることが、配慮と仕事を両立させるポイントです。
また、対応を一人の管理職の経験だけに任せると、担当者が変わるたびに指示や判断も変わります。
同じミスへの注意を繰り返す前に、本人が役割を果たしやすい仕事になっているか、どこまでを現場で調整し、どこから組織として判断するのかを見直すことが必要です。
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