「障害者雇用促進法」では雇用義務制度があり、企業は障害者法定雇用率2.2%を達成することが求められています。これに基づいて、企業の障害者雇用は進められてきました。しかし、業種や企業の規模、その他の状況により、障害者雇用を進めるのが難しいケースも少なくありません。そのようなときに「特例子会社」を検討することが多くあります。
特例子会社は、雇用にあたって雇用率のカウントで特例が認められるため、障害者の雇用促進を図る目的で設立されます。しかし、特例子会社は障害者雇用に関するさまざまな配慮が行ないやすくなるというメリットがある一方で、一企業として継続的に運営することも求められます。
ここでは、特例子会社制度のしくみや、設立を考えたときに検討しておくべきこと、メリット・デメリットについて説明していきます。
※ 令和3年3月より企業の障害者法定雇用率は2.3%になっています。
特例子会社制度のしくみ
日本の障害者雇用は、「障害者雇用促進法」に基づいて行われています。この法律の中では、障害者法定雇用率が定められており、事業主には身体的・知的・精神的に障害をもっている方の雇用が義務づけられています。
現在の障害者雇用率は2.2%、つまり従業員45.5人に対して1人の障害者を雇用することが定められています。しかし、業種や規模などさまざまな理由から、障害者雇用の促進が難しい状況にある企業もあります。そのような場合に、「特例子会社」を設立することがあります。(※ 令和3年3月より企業の障害者法定雇用率は2.3%になっています。)
特例子会社制度は、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件を満たすことによって、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率を算定することができる制度です。
つまり、特例子会社で雇用している障害者の雇用率を、親会社(関係会社)の雇用率とみなすことができるのです。また、特例子会社を設立しなくても、一定の基準を満たすことによって、実雇用率を算定できる方法として、「企業グループ算定特例」と「事業協同組合等算定特例」もあります。
特例子会社制度
特例子会社での障害者雇用率を「親会社に雇用した」とみなして算定するケースです。また、特例子会社を有する親会社は、一定の要件を満たす場合に、関係する他の子会社(関係会社)についても、この特例子会社と同様の実雇用率の算定が可能となっています。
企業グループ算定特例
2009年4月から、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定を受けたものについては、特例子会社がない場合であっても企業グループ全体で実雇用率を通算できる、という制度です。
事業協同組合等算定特例
中小企業が事業協同組合等を活用して協同事業を行い、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の認定を受けたものについては、事業協同組合(特定組合)等とその組合員である中小企業(特定事業主)で実雇用率を通算できる制度です。
出典:『平成30年度版 障害者雇用促進ハンドブック』(東京都産業労働局)
特例子会社を設立することのメリット・デメリット
メリットとしてあげられる点は、次のような点です。
・業務やコストなどを集中化させることにより効率化を図れる。
・障害に配慮した柔軟な雇用体制や人事制度を整えることができる。
・職場定着率の向上に役立つ。
・障害者雇用のノウハウが蓄積できる。
・シニア層の活躍の場をつくれる。
(特例子会社のスタッフの中には本社や関係会社からの出向や転籍する社員も多くいます。)
・企業イメージ向上に貢献する。
デメリットととしては、次のようなものがあります。
・障害者雇用は特例子会社が担うものとして認識され、親会社(関係会社)の障害者雇用の意識が薄れてしまう。
・特例子会社自体の業務のバリエーションが少ないため、障害者のキャリア形成が難しい。
・特例子会社で雇用することは、障害者を特別扱いする雇用であるとの批判を受けることがある。
特例子会社の設立を考えたときに検討しておくべきこと
特例子会社を設立することで、たしかに障害者雇用を促進することはできます。また、一時的に社名公表を免れることもできるでしょう。しかし、気をつけなければならないのは、特例子会社を設立すれば、障害者雇用の問題がすべて解決するわけではないということです。
特例子会社は障害者雇用促進法において「特例」とされているものであり、一般の企業と会社運営については変わるところはありません。特例子会社をつくることは簡単ですが、継続的な経営・運営をしていくことは、それほど簡単なことではありません。
特例子会社を設立するときには、設立することのメリットとともに、継続的な経営・運営をするための方法について、しっかり検討していくことが大切です。
動画での解説はこちらから
まとめ
特例子会社とはどのような制度なのか、特例子会社雇用率算定できるしくみなどについて見てきました。
特例子会社は、時として、障害者を隔離している制度ではないか、障害者を特別視しているのではないかという意見をいただくことも少なからずあります。一つの考え方としてはそういう意見もあると思います。
もちろん特例子会社でなく一般の会社の中でナチュラルサポートを受けながら仕事ができる環境がつくれるのであれば、それに越したことはないでしょう。しかし、重度身体障害や知的障害、精神障害の方など、今まで一般企業での雇用が難しかった人の雇用を特例子会社が推進していることも事実です。
一方で、特例子会社を設立することは、一時的なものでなく、継続的に運営していくことが必要になります。設立時には、継続的な経営・運営をしていくことについて検討することが必要です。
特例子会社の設立を検討されている場合には、次の記事も参考にしてください。
「特例子会社の設立を考えたら必ず読む本」
特例子会社とはどのようなものなのか、設立するまでにどのような手続きが必要なのか、設立することのメリットやデメリット、特例子会社の抱える課題、実際に運営されている特例子会社の事例、これからの特例子会社に求められることについてお伝えしています。
特例子会社をつくることは、会社として独立した組織運営をしていくことが必要となってきます。特例子会社を立ち上げること自体は手続きを踏めば難しいことではありませんが、組織として運営し続けること、会社としてプロフィットをどのようにあげていくのかを考え実行すること、安定的に経営していくことが求められ、これらは付け焼刃的な対応ではうまくいきません。
また、「特例子会社」と一言でいっても、障害者雇用を促進するという目的は共通するものの、さまざまな特例子会社があります。親会社の考え方やその他の環境や状況によって大きく異なることを知っていただくとともに、特例子会社を設立する際には長期的な視点をもち、特例子会社を設立することが適しているのかどうかを慎重に検討する必要があるということをお伝えしています。
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