統合失調症について、どのようなイメージを持っていますか。普段接することのあまりない多くの方たちは、漠然と「自分たちとは違う、普通ではない人たち」といった印象を抱くことがあるようです。それは、統合失調症は、かつて精神分裂病と呼ばれていたこともあり、「なんとなく危ない病気」という間違った認識が広がってしまったことが背景にあります。
しかし、実際に統合失調症の人に会い、話してみると、そうした先入観とはまったく違っていた、自分たちと同じ普通の人だったと驚く方がほとんどです。実際に、統合失調症でも働いている人たちも多くいます。
ここでは、統合失調症の症状、発症の時期や状況、発症から回復までの時期、なぜ働くことが大切なのかについて説明していきたいと思います。
統合失調症とは、どのような障害?
統合失調症は、ごく簡単にいえば、思考・感情・行動をある目的に沿ってまとめていく能力が低下する機能障害の1つです。罹患率は、国や性別を問わず0.7%~1%と、約100人に1人に発症する病気で、決して珍しいものではありません。
投薬やリハビリテーションなどの治療も進歩し、多くの人がこれまでのように働きたいと希望しています。働くことは、統合失調症の人であっても私たちと同様、「当たり前」のことだからです。実際に仕事を得て、能力を発揮し、職場で働いている人もたくさんいます。
もちろん、決して「軽い病気」というわけではありません。働く側にも雇用する側にも、正しい知識と情報に基づいたサポートは必要です。では、どのような理解とサポートが必要なのか。これからお話していきたいと思います。
統合失調症の発症の時期や状況
統合失調症の人の多くは、10代から20代に発症します。それは「ある日突然」といった形ではなく、2年ぐらい前から、本人や周囲が「何かがおかしい」と気づくようなことから始まることが多いようです。
例えば、「明るい人だったのに、最近暗いね」「ずっと元気がないようだけど、どうしちゃったんだろう」などまわりが気づくような雰囲気、また「だるくて、何もしたくない」「朝起きられず、人と付き合うのがしんどい」などの生活パターンの変化なども見られます。
このような状況があると「うつ病なのかも」などと悩んで病院に行く方もいますが、大半の人は一時的な落ち込みかもしれないと考え、そのままにしてしまい、病状を進行させてしまいます。そして、「言っていることが前と比べて違ってきた」「みんなと付き合わなくなった」などの行動があらわれ、周囲の人に促されたりするなどして「もしかしたら」と病院を訪れるケースも多いようです。
家族や周囲の人から促されてというケースもありますが、「本人の意志」で来院することもあります。「何か苦しい」「今の自分は、前の自分とは違ってしまった」「自分が変わってしまった」と感じ、そんな状況をもっとも苦しんでいるのは、本人です。
病院で、「統合失調症」と診断されることで、わけがわからなかった状態が「治療可能な病気」だとはっきりし、安心するという一面もあるようですが、そう簡単に受け入れられることではありません。「統合失調症」と知り、受け入れることは、とても重い経験になります。また、家族や周囲にとっても同様です。事実を受け入れたり、障害と上手に付き合うことができるまでには、それなりの時間が必要になります。
統合失調症の症状とは
では、統合失調症には、どのような症状があるのでしょうか。
統合失調症は、幻聴・幻覚など激しい症状のある急性期、意欲が減退し、何もやる気がおきなくなる消耗期を経て、回復に向かっていきます。統合失調症の症状として一般的によく紹介されるのは、幻聴や妄想です。「自分の悪口をいう声が聞こえる」「私しか知らない秘密をみんなが知っている」などの症状です。
しかし、こうした「陽性症状」と呼ばれる症状については、いまでは投薬でかなり改善できるようになっています。このような陽性症状が落ち着くと、その後、意欲が減退し対人関係が難しく、引きこもりがちになります。この時期を「長いトンネルのよう」と表現する人もいますが、本人にとっても家族や周囲の人にとっても、大変でつらい時期になることが多いようです。
表情が乏しくなり、周囲の人には本人が何を考えているのかわかりにくくなっていますが、本人は実は非常にまわりのことを気にしていて、被害妄想的になっています。何気ない一言でもとても傷ついてしまうことがあるので注意する必要があります。また、対人関係の苦手さがはっきりあらわれたり、うまく集中できないなど、仕事を実行する力の低下も見えてきます。このような時期には、リハビリテーションによる治療が効果的になります。
統合失調症の発症から回復までの時期
統合失調症の発症から回復まで、数年程度かかることがあります。例えば、高校生や大学生で発症して、そのあと数年入院や通院、リハビリ期間や就労の準備期間などを経て、30代前後で就職する人がいます。
中には、数週間で経過して、その後、少数ではありますが一生再発しない人もいます。また、2~3年入院をする人もいますし、再発を繰り返してしまう人も少なくありません。発症からの状況は、かなり個別差があることを知っておくとよいでしょう。
激しい症状が起きる急性期については、投薬による治療により、かなり効果が上がるようになりました。しかし、その後、再発を防ぎ、安定した回復を維持できるようになるまでの準備期間は、社会への再参加を目指す周囲の理解と協力が必要となってきます。
働くことの大切さ
統合失調症の人が投薬により症状がかなり安定したり、回復してきたとしても、本当に「働く」ことができるのかと心配になるかもしれません。特に、はじめて精神障害の人を雇用する企業や担当者は心配だと思います。しかし、実はそれ以上に心配しているのは本人や家族ということもあります。
「発症する前の自分と同じようにがんばりたい」「自分は前と同じだと信じたい」こう思ってがんばりすぎて、再発をしてしまい、「もう無理はしないで」と家族に望まれ、そのまま家で暮らしている人もたくさんいます。そんな経験があったり、話を聞いたりすると、思わず雇用することに躊躇してしまいそうになります。
しかし、それでも「働く」ことが、なぜ統合失調症の人にとって大切なのでしょうか。
それは働くことは、誰にとっても「生きがい」だったり「他の人に必要とされていることを実感できる」からです。病気になったからといって、社会生活をあきらめるのは辛いことです。仮に、福祉や家族のサポートだけで生活していけるとしても、そこに人生の目標を見出すのはなかなか難しいことです。また、職場で適切な配慮をすることによって、十分働ける人も少なくありません。
自分の役割があることは生きがいにつながる
大学在学中に発症したAさんは、治療後も5年間ほど自宅での引きこもり生活を送りました。リハビリでの訓練の後、やっと就職した会社では、あまり障害に対する理解がなく、基本的なビジネスマナーができていないと解雇されてしまいました。
そんな中、再び就労支援機関で訓練をしていたとき、Aさんの興味をもつ分野の企業での募集があり、就職が決まりました。はじめは短時間勤務からのスタートだったものの、現在は、週5日働いています。Aさんは、一緒に働く上司や同僚から仕事に対して評価されたことが大きかったそうです。そして、自分の力を信じてくれる会社のために働き続けたい、もっとできることを増やしたいと考えています。
統合失調症の人は、「ずっと働きたかった」と思っている方がたくさんいます。大変な時期を乗り越えてきたことを間近で見ている家族からは、「無理をしないでもいい」と言われることがあっても、自分が必要とされる場があることが生きがいにつながることもあるのです。
家で長年暮らしていた統合失調症の人が、親が年を取って介護を受けるようになったら、病院への付き添いから家事など、本人もびっくりするほど役割を果たせるようになる例も少なくありません。支援機関などでの訓練だけでなく、自分が生活する「現場」での社会参加、そして自分の力で役割を果たしていける喜びや生きがいが大きな力となることは、ぜひ知っておいていただきたい点です。
もちろん、そうはいっても健常者と同じように何でも任せれば良いというわけではありません。統合失調症の人にとって、どんな職種・働き方が適切なのか。また、雇用する側にはどんな注意が必要なのかについては、他の記事で紹介していますので、参考のところをご覧ください。
動画の解説はこちらから
まとめ
統合失調症は、かつて精神分裂病と呼ばれていたこともあり、「なんとなく危ない病気」という間違った認識が広がってしまったこともあり、「自分たちとは違う、普通ではない人たち」といった印象を抱かれることが多くあります。しかし、実際に統合失調症の人に会い、話してみると、自分たちと同じ普通の人だったと驚く方がほとんどです。また、統合失調症でも働いている人たちも多くいます。
ここでは、統合失調症の症状、発症の時期や状況、発症から回復までの時期、なぜ働くのかについて説明してきました。統合失調症は、幻聴・幻覚など激しい症状のある急性期、意欲が減退し、何もやる気がおきなくなる消耗期を経て、回復に向かっていきます。
どのような病歴があるのかは個人差がありますが、働くことや誰かに必要とされることが、誰にとっても大きな生きがいにつながることは理解していただけたと思います。
参考
統合失調症の障害者と一緒に働くときに知っておきたいポイントとは?
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