メンタルヘルスの不調とは、どのような状態をさすのでしょうか。以前は、心や精神的なものは、心臓に関係すると考えられていたこともありましたが、最近では、心が脳の活動のことであると考えられるようになってきました。
ここでは、メンタルヘルスの基礎知識や現状を知るとともに、不調の起こる理由について見ていきたいと思います。
メンタルヘルスの基礎知識
脳の活動は、自分の体からも影響を受けることがあるため、心は脳と身体の相互作用でうみだされるものと考える人もいます。心と脳の関係は、以前に比べると、脳科学の進歩によって相当な部分が解明されてきました。それでも、まだよくわかっていないことも多い状況です。
心が病気になる、メンタルヘルスが不調になるとは、心の働きが故障することです。心の働きには、感覚と知覚、経験や思考、会話、記憶、意識、感情、行動、人格、知能などのいろいろなものがあります。心が病気になる、メンタルヘルスが不調になることは、このような機能や働きがうまくいかないことを意味します。
最近のメンタルヘルスの現状
近年、メンタルヘルスの不調を感じる人が増えてきていると言われていますが、どれくらいメンタルヘルスに不調を感じる人がいるのでしょうか。日本で調査されたデータによると、一生の間に何らかの精神障害にかかる危険は、24%ほどと推計されています。
この人数は、4人に1人が何らかの精神障害にかかり得ることを示す数字になっています。近年、増加が指摘されているうつ病では、過去12ヶ月にうつ病にかかっていた人が2.1%、調査時点までにうつ病にかかったことがある人は6.2%でした。
過去12ヶ月間に、約50人に1人がうつ病にかかっていて、16人に1人は一生のうちに一度はうつ病にかかることを意味しています。メンタルヘルスの不調は、誰でもかかりうる病気になっていることが、この数字からもわかります。
メンタルヘルスの不調はどのように起こるのか
メンタルヘルスには脳という器官の活動が大きく関わっており、メンタルヘルスが不調になることは、脳の機能が故障することを意味します。脳科学の進歩により、近年、脳の機能の故障がどのようになっているのかについて、ある程度解明されてきつつあります。
例えば、うつ病では脳の側頭葉というところにある扁桃体の活動が激しくなる一方で、海馬や前頭連合野が萎縮し、容積が少なくなっているという報告があります。
扁桃体は、様々な過去の感情の記憶をもとに、生活のあらゆる場面で瞬時に影響を及ぼす脳の働きで、トラウマがどれだけの時間が経過しても消え去ることがないのは、扁桃体の機能のためです。
また、海馬はストレスの影響を強く受ける部分であり、24時間の体内時計(概日リズム=生物体に本来そなわっている、おおむね1日を単位とする生命現象のリズム。睡眠と覚醒など。)を作り出している細胞があり、これは、どの時間に何をするのが最も適当かを決めるという、脳機能の中でも特に重要な働きをしている部分になります。
前頭連合野、理性にしたがって、五感から集まってきた情報を整理・統合し、理解して、それに基づいて様々な価値判断や意志決定をし、指令を出す司令塔です。
うつ病になると、生活したり、仕事をするときに必要な判断や意思決定が鈍る上に、トラウマなどの過去の感情の働きは強くなるので、不安障害などの発祥や悪化につながることになってしまうのです。ですから、脳の働きが故障したことによって、心が病気になるのであって、わがままや怠けていたりするわけではないことを理解しておく必要があります。
脳は身体からも、身体の外部の環境や社会や文化などからも、様々な影響を受けます。そのためメンタルヘルスの不調を感じるときには、様々な原因が複雑に絡まりあって発症すると考えられています。
世界的に共有されているメンタルヘルスの発生メカニズムのモデルが、脆弱性-ストレス-保護因子モデルです。このモデルは、個人の持つ脆弱性に、外的な環境ストレスが加わると、精神障害の経過が重くなり、長期的な結果が悪くなる方向に作用すると仮定しています。
ストレス要因に対する脳の脆弱性は、遺伝や神経の発達過程に由来すると考えられています。誰でもそれぞれにストレスを抱えながら生活しています。そこに、職場における仕事の負担(量や質)、対人関係の悪化、長時間労働、努力の報われない仕事やハラスメントなどと日常のいざこざなどが重なったり、蓄積されることにより、脳に強い悪影響を与えます。
弱いストレスでも脆弱性が強ければ、それだけ脳に強い悪影響与えますし、脆弱性が弱くても高いストレスであれば、脳に強い悪影響を与えることになります。このような脆弱性とストレスが組み合わさった有害な影響から精神障害の発症や再発から守ってくれるのが、保護因子です。
保護因子には、上司や同僚からのサポートや家族、友人からのサポート、仕事や生活の満足感などがあります。脆弱性とストレスの組み合わさった有害な影響の大きさよりも、保護因子の有益な影響の方が勝っているなら、精神障害が発症したり再発したりはしません。
メンタルヘルス不全の発生を、特に労働ストレスを中心としてモデル化したのがNIOSH(労働災害の予防を目的とした研究・勧告を行う米国の研究機関)の職業性ストレスモデルです。
図:NIOSH職業性ストレスモデル
仕事のストレスが原因となってストレスを感じたとします。上司や同僚、家族からのサポートがあって、ストレスがうまく処理されていれば問題はないのですが、これらのサポートがなく、ストレスがうまく処理されないと、急性のストレス反応がおき、疾病につながってしまう、つまりメンタルヘルスの不全に陥ってしまいやすくなります。
ストレスを弱めたり、食い止めたりする要因としては、個人要因、仕事以外の要因、上司及び家族からの社会的支援などがあるのですが、これらが働かないとメンタルヘルス不全になりやすい状況をつくってしまうことになります。
仕事のストレス要因としては、物理的化学的要因、役割葛藤、対人葛藤、仕事のコントロールといった例が示されています。近年、注目されている仕事のストレス要因の1つがハラスメントで、心理的暴力、職場におけるいじめや嫌がらせのことです。このようなことが見られる職場では、ストレスを感じやすくメンタルヘルス不全になる割合が、とても高くなります。
うつ病にかかった人のデータをみると、一度だけのハラスメントでも2.27倍、長期的なハラスメント受けると4.81倍もうつ病にかかりやすくなるという報告がでています。メンタル不全の人が職場で出てきたときには、個人の能力やスキル、環境とともに、職場の環境もチェックすることが大切になってきます。
動画の解説はこちらから
まとめ
メンタルヘルスの不調はどのようにして起こるのかについて見てきました。メンタルヘルスには脳という器官の活動が大きく関わっており、メンタルヘルスが不調になることは、脳の機能が故障することを意味します。
そして、脳の機能が故障する原因としては、職場における仕事の負担(量や質)、対人関係の悪化、長時間労働、努力の報われない仕事やハラスメントなどが重なったり、蓄積されるとともに、上司や同僚、家族からのサポートがなく、ストレスがうまく処理されないと、メンタルヘルスの不全に陥ってしまいやすくなります。
参考
双極性障害の人との接し方「言ってほしいこと」「して欲しいこと」とは
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