最近は障害者求人をかけると、精神障害の方の応募が目立ちます。一方で、精神障害者は職場定着が難しく、退職が多いと言われています。本当に職場定着は難しいのでしょうか。
ここでは、精神障害者の退職状況と、離職を防ぐためにできることについて考えていきます。
精神障害者の退職状況
「平成25年度障害者雇用実態調査結果」(厚生労働省)によると、障害者の平均勤続年数は、身体障害者が10年、知的障害者7年9ヶ月に対して、精神障害者は4年3ヶ月となっています。
精神障害者の離職の理由は、個人的理由が56.5%と最も多く、主な理由は「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金、労働条件に不満」、「疲れやすく体力、意欲が続かなかった」、「仕事内容が合わない(自分に向かない)」が多くなっています。
また、「精神障がい者の離職率に関する研究 -最近 10 年間の分析-」によると、1年間で44%の精神障害者が離職しており、この数字は2年半で働いている全ての精神障害者が入れ替わる数値となっています。こちらの離職理由は、仕事への適応力、精神症状の程度、仕事に対する満足度など離職理由は多岐にわたっていることが報告されています。
出所:「精神障がい者の離職率に関する研究 -最近 10 年間の分析-」
とはいえ、精神障害者の雇用が障害者雇用としてカウントされるようになったのは、平成18年からです。企業にとっては、他の障害種別と比べると、精神障害者雇用に取り組み始めてからそれほど期間が経過していないので、一概に他の障害種別と単純に比較できるものではないと考えることもできるでしょう。
しかし、せっかく雇用したのに、何らかの理由で働き続けられなくなり、早期退職になってしまうのは残念なことです。退職理由は、雇用された障害者自身に課題や問題がある場合もあるかもしれませんが、人間関係や仕事への適応という面では、もしかしたら環境面のサポートができるかもしれません。
WHO(2001年5月)では、ICF(国際生活機能分類)を制定し、新しい障害の捉え方として、本人の障害だけに原因があるとはせず、本人を取り囲む人的・物的環境や本人の主体性・主観性等を多面的・総合的に理解するという観点からの支援の在り方を考えていくことを推奨しています。
一般的には障害はマイナスイメージで捉えられることが多いですが、ICF では生活機能と捉えられ、障害は環境との相互作用により軽減できるという考え方をします。もし退職理由が人間関係や作業効率面で適応できないという点であるならば、環境整備によって改善できる点もあるかもしれません。
どのように職場の環境整備を行なっていくことができるのかを見ていきたいと思います。
精神障害者の離職を防ぐためにできること
キーパーソンを決めておく
キーパーソンは、職場で本人を支えたり、仕事で困った時に相談にのる役割を担っています。このキーパーソンは、必ずしも人事担当者や管理者である必要はありません。できれば一緒に働く身近にいる人がよいでしょう。
形式的なものではなく、実質的なキーパーソンとなることがポイントです。日常的に声をかけることはもちろんですが、朝礼や面談、業務日誌などを活用しながら、日々の状態や体調を確認します。また、精神障害についての基礎的情報を学んだり、知ることによって、精神障害や精神障害者当事者をより深く理解することができるでしょう。
精神障害者は対人関係において自信を失っている人も多いので、キーパーソンはまず彼らの特性を認めることが大切です。信頼関係を築くことで自信が回復させ、仕事のモチベーションにつなげていくことができます。
精神障害や発達障害は目に見えにくい障害なので、現場で一緒に働く人が本人の状態や特徴についてなんとなく感じていても、明確なサインを汲み取れていなかったり、面談をおこなっても十分に活用できないことがあります。
このような状況を避けるために、キーパーソンも本人も情報を共有するために、業務日誌や振り返りシートを活用することができます。業務日誌等を記入してもらうことで、毎日の服薬状況や体調作業状況などを本人がチェックできますし、それをもとに面談をスムーズに行うことができたり、キーパーソンが本人の状態を正しく把握することにも役立ちます。
障害者が複数人いる場合や、時間的な制約があって、管理するのが難しい場合には、SPIS(エスピス)というソフトを活用することもできます。
【就労定着支援システム SPISとは】
SPISは、精神障害などでメンタルケアが必要な方向けの就労定着支援システムで、個人の特性に合わせて評価項目を設定できる日報システムです。 企業で働く当事者それぞれの特性に合わせた項目の日報をつけて、毎日の状態を記録します。
相談する時間、休憩時間をあらかじめ決めておく
精神障害者の中には、忙しそうな人に声をかけるのをためらってしまう人や、声をかけるタイミングを自分から見つけることが苦手な人がいます。このように感じている人に、「いつでも声をかけてね」と伝えることは、声をかけるタイミングを自分で考えることになり、大きな負担やストレスを感じさせることも少なくありません。
仕事や職場の雰囲気に慣れるまでは、相談や休憩する時間はあらかじめ決めておいたほうが、精神障害者にとっては安心できることが多いようです。個人差もありますが、本人と相談しつつ、ある程度の目安を決めておくとよいでしょう。
社内の理解を高める
精神障害者が働きやすい職場環境は、キーパーソンだけが頑張っていたのでは実現することは難しいものです。障害者を受け入れる現場や部署はもちろんですが、会社全体で精神障害者について理解を深め、相談しやすい雰囲気を作ることが大切です。
精神障害者であることを職場でオープンにするかどうかは、当事者である本人の意思を尊重しつつ決めましょう。その際、職場でオープンにすることのメリットとして、情報共有する場合には、通院、服薬、業務上のフォロー、体調管理等において、周囲の理解が得られやすくなることを伝えるとよいかもしれません。
情報共有する場合には、事前にどのように社内に伝えるのかを本人の了承を得てから行なうことも伝えると、本人も安心できるでしょう。
支援機関と連携をとる
精神障害者を雇用する企業と支援機関と連携を取ることは、職場定着に役立つことが多くありますし、企業にとっても何かあったときに連絡や相談ができるので心強いことでしょう。
支援機関には、障害者の身近な地域で就業面や生活面での相談支援や定着を支援を行っている障害者就業・生活支援センターや、ジョブコーチの派遣や雇用管理、訓練を行っている職業センターなどがあります。
障害者就業・生活支援センター
障害者の身近な地域において、ハローワークや就労支援機関、福祉事務所、保健所、医療機関等と連携しながら、就業面と生活面の一体的な相談支援を行なう機関です。
企業は、家庭や生活面で課題があった場合、なかなか介入することが難しいですが、障害者就業・生活支援センターでは、就業面だけでなく、生活面の支援も行なってくれます。
【サポート内容】
- 職場実習の紹介
- 就労に関わる生活面の相談・支援
- 職場定着支援
- 事業所への雇用管理アドバイスなど
障害者職業センター
障害者雇用の相談や情報提供を行なうほか、雇用管理上の課題を解決するための相談を通じて、事業者向けの支援計画を作成し、雇用管理に関する専門的な助言・援助を行います。ジョブコーチを事業所に派遣し、障害特性をふまえた専門的・直接的な支援を行なっています。
【サポート内容】
- 障害者雇用の具体亭な進め方の相談
- 障害者の雇用管理についての相談
- ジョブコーチ支援
- 職場復帰支援(リワーク)など
ハローワーク
就職を希望する障害者に職業相談や職業紹介などの支援を行なうとともに、事業主に対する障害者雇用の指導・支援を行なっています。
【サポート内容】
- 求人申し込み
- 人材の紹介
- 雇用管理のアドバイス
- 助成金の案内
- トライアル雇用制度の案内など
支援機関と連携をとるタイミング
下記の状況が見られたら早めに相談し、連携をとるとよいでしょう。
- 遅刻が増える
- 仕事のミスが続く
- 体調が悪そうに見える
- 休憩やトイレの回数が増える
- 無断欠勤する
- 指導や指示が伝わらなくなる
- 今までできていたことができなくなる
- 常に眠そうな状態である
- 社員や外部とトラブルが起こしやすい
- 周囲の負担が増えていると感じる
- 身だしなみが乱れる
支援機関の助けが必要なのかを見極め、状況に応じて支援機関に相談しましょう。社内で解決できることであっても、支援機関に情報共有しておくと、何か別の情報を入手できたり、気にかけてもらうことができますので、上手に連携をとることが大切です。
動画の解説はこちらから
まとめ
精神障害者の職場定着について見てきました。現状で出ている数字からは、定着が難しい傾向はある程度見られます。しかし、精神障害者の雇用が障害者雇用としてカウントされるようになったのは、平成18年と比較的最近ですから、一概に他の障害種別と単純に比較することもできないかもしれません。
精神障害者の退職理由を見ると、人間関係や作業効率面で適応できないという点があげられています。そのため職場の環境整備を行なっていくことによって、定着できる可能性も高いと感じます。精神障害者の離職を防ぐためにできることをいくつかご紹介しましたので、参考にしてみてください。
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