認知症は、一般的には高齢者に多くみられますが、65歳未満で発症した場合、「若年性認知症」とされます。若年性と高齢者での認知症の病理的な違いはありません。
若年性認知症の推定発症年齢の平均は51歳程度と若く、本人や家族、就労などの社会的な問題が発生しやすくなります。また、若年性認知症の症状には、直前のことを忘れてしまう記憶障害や抑うつなどがあるため、発症後の早い段階で適切な支援につなげることが重要となっています。
ここでは、若年性認知症についてや雇用事例、どのような支援機関が活用できるのかについて説明していきます。
若年性認知症とは
認知症は高齢者だけが患うものではなく、若い世代でも発症することがあります。65歳未満の人が発症する認知症を総じて「若年性認知症」と言います。
物忘れが出たり、仕事や生活に支障をきたすようになっても、年齢の若さから認知症を疑わなかったり、病院で診察を受けても、うつ病や更年期障害などと間違われることもあり、診断までに時間がかかってしまうケースが多く見られます。
厚生労働省が2009年に発表した若年性認知症の調査によると、推定発症年齢の平均は約51歳でした。若年性認知症は、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の2つが多く、6割を占めます。脳血管性認知症の割合が多いことは、若年性認知症の特徴といえるでしょう。
主な症状としては、記憶障害や見当識障害、理解力・判断力の低下などが見られます。具体的にどのような症状があるのか見ていきます。
記憶障害や見当識障害
物忘れが見られ、数日前の出来事が思い出せない場合や、大事な予定や約束を忘れてしまうことがあります。忘れた事を指摘されても、予定を組んだ事自体を忘れてしまうため、「忘れていた」ことを思い出すことができません。
また、今日の日付や、自分がいる場所がわからなくなる「見当識障害」が起こります。そのため、書類などに日付を書こうとしても書けない、よく出かける場所で迷子になるといったことが度重なり、おかしいと気付くことになります。
理解力・判断力の低下
何か得意だったり、上手だったのに、手順がわからず出来なくなったり、物をどこに片付けたらよいかわからなくなり、部屋が散らかってしまう場合もあります。計算が出来なくなり、買い物をしても小銭を考えて出せなくなる場合もあります。運転時には車線をはみ出したり、ブレーキが遅くなるなど危険運転になる事が多くなります。
また、特にアルツハイマー型などでは、ドアなどが見えているのに、部屋から出られないとグルグル部屋を回ってしまったり、目の前にある物を取ってと言っても、言われたものと目の前にある物が結びつかず、取れなくなるといった症状が出ます。
実行機能障害
同じ物を買ってくる、毎日同じ料理を作るといったように計画性がなくなります。また、電化製品や器具などの使い方が分からなくなります。
働き続けられるのか
若年性認知症といっても、人によってその症状、進行はさまざまです。 若年性認知症の発症と同時に就労が困難になるわけではないので、支援機関や支援制度 を活用したり、症状に応じた職務内容の変更や配置転換を行うなどの取組により、若年性 認知症の方の雇用継続の可能性は広がります。
雇用事例をいくつか見ていきます。
配置転換により雇用継続された例
【40歳、男性 アルツハイマー型認知症】
高校卒業後、長年自動車販売会社営業職として勤務してきた男性。40歳になった頃より、「顧客の顔が覚えられない」「道に迷う」等が見られるようになり、精神科を受診するが改善が見られず。その後、意識障害が生じたことから総合病院を受診したところ、若年性アルツハイマー型認知症の疑いとの診断を受ける。
診断を受けたことで繋がりを持った若年性認知症家族会からの勧めもあり、高次脳機能障害支援拠点病院及び地域障害者職業センターの支援により、記憶障害の補完方法を習得するとともに職場にも症状を踏まえた職業生活の見直しを相談し、洗車業務担当へ配置転換がなされ雇用継続に至った。
就労支援機関と相談、ジョブコーチ支援を利用し再就職した例
【61歳、女性 アルツハイマー型認知症】
長年、介護職やケアマネージャーとして働いてきた61歳、女性。「何度も同じことを言う」「同じ書類を作る」等の行動が見られ、本人も物忘れを自覚したことから認知症専門クリニックを受診し診断を受ける。治療を受けながら雇用継続について職場と相談するが不調。
退職後、ハローワーク、地域障害者職業センターと相談し、「仕事内容を絞り込み、手順の確認をきちんと行えば、できる仕事はある」と自信を得て再就職活動を進め、障害を開示の上、ジョブコーチ支援事業を活用し、清掃・シーツ交換等の介護補助作業での再就職に至った。
その他の事例については、こちらを参考にしてください。
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若年性認知症を発症した人の就労継続のために
就労継続するために必要なこと
職務遂行能力の低下をフォローする
記憶力、判断力、計算能力などの知的能力の低下により、職務遂行上の問題が生じやすくなります。そのため仕事内容のフォロー、ミスのチェック等の配慮により、「能力低下」を補うことが必要となります。
社会的認知能力の低下を周囲が認識する
仕事に行き詰まり、職場での支援が得られにくくなるのは、「周囲の人とうまくやっていく能力」にも問題が生じるためです。若年性認知症の人は、人間関係を上手にこなして行く能力(社会的認知能力)が低下してしまい、周りの人とうまくやっていけなくなります。そのため周囲の理解が欠かせません。
ストレス耐性が低下していることを理解する
仕事の中には、ストレスが大きな仕事もあります。認知機能検査ではそれほど低下のない軽度認知障害レベルでも、過大なストレスに耐えることが難しいことがあります。変化の少ない定型的仕事であればストレスも少なく、対応はできる場合が多くあります。
若年性認知症の就労をサポートする機関
ハローワークなど全国の支援機関では、若年性認知症の就労をサポートする助成金の支給や相談窓口の設置など、各種支援サービスを準備しています。社内での若年性認知症に関する理解を深めるとともに、支援機関と連携して、雇用継続や就労支援サービスを活用することができます。
公共職業安定所(ハローワーク)
障害者を対象とした求人の申込みを受け付けています。専門の職員・相談員(精神 障害者雇用トータルサポーター)が就職を希望する障害者にきめ細かな職業相談を行い、就職後には業務に適応できるよう職場定着指導も行っています。
また、障害者を雇用する事業主等に、雇用管理上の配慮などについての助言や、地域障害者職業センターなどの専門機関の紹介や福祉・教育等関係機関と連携した「チーム支援」による就職の準備段階から職場定着までの一環した支援を実施しています。障害者の雇い入れや障害者が働き続けられるよう支援する助成金の案内も行っています。
域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、障害者の新規雇い入れ、在職者の職場適応やキャリアアップ、休職者の職場復帰等、障害者雇用に係る様々な支援を実施しています。
また、障害者雇用の相談や情報提供のほか、障害者雇用に関する事業主のニーズや雇用管理上の課題を分析し、必要に応じ「事業主支援計画」を作成して、専門的な支援を体系的に行います。ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援も行います。
ジョブコーチ支援
職場にジョブコーチ(JC)が出向いて、きめ細かな人的支援を行います。対象者に対して、作業遂行力の向上に向けた支援などを行うとともに、職場に対して、対象者との関わり方や作業方法の指導の仕方について専門的な助言を行います。
また障害の理解についての社内啓発を行います。これらにより職場内の支援体制の整備を促進し、当事者の職場定着を図ります。支援期間は、標準的には2~4ヶ月となります。
出所:障害者職業センター
障害者就業・生活支援センター
障害者の身近な地域において、雇用、保健福祉、教育等の関係機関の連携拠点として就業面及び生活面における一体的な相談支援を実施します。就業面から職場定着に向けた支援、障害特性を踏まえた雇用管理についての事業所に対する助言を行います。また、生活面での支援~健康管理、金銭管理等日常生活の自己管理に関する助言、住居、年金、余暇活動など地域生活、生活設計に関する助言などを行います。
まとめ
若年性認知症は、65歳未満で発症する認知症です。症状として、直前のことを忘れてしまう記憶障害や抑うつなどがあるため、発症後の早い段階で適切な支援につなげることが重要となっています。
ここでは、若年性認知症の症状や雇用事例、どのような支援機関が活用できるのかについて説明してきました。若年性認知症については、まだ社会的認知度は低く、正しく理解されているとはいえません。またその支援や援助を望んでいる本人やその家族も、情報が少ないため戸惑うことが多いと言われています。
また、困難さはあるものの就労継続できた事例もあります。ここにあげた支援機関を活用しながら、若年性認知症を発症した方の就労継続の可能性を広げてほしいと考えています。
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