障害者手帳をもつ人の中には、てんかんをもつ人がいます。てんかんがあっても、適切な治療を続けることで発作を抑え、安定して働き続けることが可能です。
しかし、全く知識がないと、症状がでたときに、どのように対応したらよいのかと不安になってしまいます。また、職務上のリスク管理として、発作が起こったときの対応方法や、よく起こる症状などを確認し、周囲の社員が対応などに関して知っておくと安心です。
今回は、てんかんとはどのような症状なのか、もし、てんかんの症状が起こったときにどのような対応をすべきなのか、また、事前に確認しておくとよいことなどについて、説明していきます。
てんかんとは?
てんかんは脳の病気で、てんかん発作は、脳の神経が一時的に激しく活動することにより起こるものです。てんかんは10歳くらいまでの小児期と、高齢者に見られる病気で、20代から60代までの人も一定の割合で発病します。
てんかんの発作は、過剰な活動の始まり方から大きく2つに分類されます。1つは過剰な活動が、脳の一部から始まるタイプで部分発作と言い、もう1つは、発作の始まりから脳全体が過剰な活動に巻き込まれるタイプで全般発作といいます。
一般的にてんかん発作は、全身けいれんを起こして倒れると考えられていますが、てんかん発作にはいろいろな症状があり、全身けいれんはそのうちのほんの一部分でしかありません。
てんかんの症状
具体的にてんかんの症状を見ていきましょう。
部分発作
大脳は、見る、聞く、話す、手足を動かす、感じる、覚えるなど、働く内容が場所により機能が異なりこれを機能局在といいます。部分発作のときには、大脳の一部が過剰に働き、その症状は過剰な活動が起こった脳の場所が本来もっている機能に関連して現れます。例えば、視覚中枢に発作が始まると、星のようにピカピカ光るものが見えたり、反対に突然見えなくなるなど、視覚に関連した症状が起こります。
- 単純部分発作:過剰な活動が大脳の一部にとどまっている状態の発作で、意識が保たれており、発作が起こった部位の機能に関連した症状が現れます。これを単純部分発作前兆といいます。
- 複雑部分発作:その後、過剰な活動が脳内を広げ色は曇り始め、完全に意識を失うこともあります。これを複雑部分発作といい、単純部分発作で始まり複雑部分発作に進展するものと、最初から意識のくもりから始まるものがあります。
自動症:複雑部分発作の最中に、無意識のうちに様々な動作や仕草が現れることがあり、これを自動症といい、発作の最中に口をモグモグする、手にしたものや周りのものをいじる、歩く、声を出すなどがあります。 - 二次的に全般化:軽く声を出すなどが過剰な放電が脳全体に広がると、全身のけいれんに進展します。部分発作が日的に脳全体に広がったもので、全般発作と区別するため二次性全般化といいます。
全般発作
全般発作は次のような種類に分けられます。
- 欠伸発作:突然意識を消失し、数秒から数十秒後に突然回復し、何事もなかったようにすぐにもとの活動に戻ります。かつて小発作と呼ばれていました。
- 非定型欠伸発作:意識消失の始まりと回復が欠伸発作ほどはっきりせずダラダラしており、持続も数十秒と長引きます。
- ミオクロニー発作:主に体の一部が、ときに全身が一瞬ピクンと動きます。
- 強直発作:全身が硬直するのが基本ですが、寝息が乱れるだけ、目を見開き方がすくむ、大きな声とともに全身が固くなり断っていると倒れるなど程度はさまざまです。
- 間代発作:ガクンガクンと全身に規則的に力が入ったり抜けたりします。
- 強直間代発作:強直に間代が続く発作で、かつて大発作と呼ばれていました。前ぶれもなく突然起こることがあります。全身が硬くなり、細かなけいれんが左右対称に10~20秒くらい続きます(強直期)。手と足は強く突っ張り、身体はのけぞり気味になります。その後、細かなけいれんから次第にリズミカルな動きになり、30~60秒くらい続きます(間代期)。
- 脱力発作:突然全身の力が抜けるため、激しくバタンと倒れる危険な発作です。
てんかんの診断・治療
てんかんの診断に最も重要な発作症状です。しかし、医師は直接発作を診る機会がほとんどありませんので、発作を見ていた人の情報が診断上重要になります。発作に出会ったら、慌てずに冷静に観察することが必要です。
診断の検査は、脳の機能を調べる脳波検査や、脳内の原因、構造の異常を探るための検査としてMRIがあります。
てんかんの治療の基本は、抗てんかん薬による薬物療法です。薬は発作型によって選ばれ、最初の薬が効かない場合には2番目の薬を選択します。3番目までの薬で、70~80%の人の発作が止まると言われています。それでも止まらない場合は、外科的治療の可能性がないか検査することが推奨されています。
てんかん発作の対応
基本的には、発作が起きたときの対応は以下のようにします。
②周囲の危険なものを取り除く。
③衣服の襟元やベルトを緩め、メガネを取る。
④気道を確保するため、下あごに手をあてて上方にしっかり押し上げる。
⑤発作が終わった後は顔を横に向けて、呼吸が戻るのを待ち、意識が回復するまでそのまま静かに寝かせる。
⑥意識が回復した後もしばらく経過観察を行い、表情や発語などにより意識が明瞭であるかを確認する。
※ 発作が5 分以上続いたり、発作を繰り返す場合はかかりつけの病院へ連絡して指示を仰ぐか、救急車を要請する。
しかし、てんかんの発作は種類ごとに異なりますので、状況を把握したり、可能であるならば、あらかじめ主治医から介助方法について指示を得ておくと良いでしょう。
- 意識があり、行為も保たれている発作
- 意識の有無を問わず、行為が途絶えるが、倒れない発作
- 意識の障害の有無を問わず、転倒する発作
- 意識障害があり、その場にそぐわない行動(自動症)をとる発作
- 全身のけいれん発作
- 発作が終わったら
様子を見るだけで、大丈夫です。
基本は様子を見ることですが、周りに危険なものがある場合には遠ざけます。
基本は様子を見ることですが、周りに危険なものがある場合には遠ざけます。また、1人での作業を避け、座ってできる仕事で、肘掛けいすを使うなどの作業環境を工夫します。
基本は自動症を制するのではなく、静かに見守りながら、危険物を溶かすなどします。どかすことが困難な場合には、静かに危険物から遠ざけます。外力が不意で、大きいと抵抗を誘発し、かえって危険をもたらすことがあります。静かで優しい介入を心がけます。
発作の最中に舌を噛んだとしても窒息の危険はありません。発作中に口を無理にこじ開けて、指や箸などを挿入するのは不必要なだけでなく、危険ですから行ってはいけません。
頭の下に上着などのクッションになるものをいれたりして、けがをしないように配慮します。発作の最中でも、メガネ、ヘアピンなどのけがをする可能性があるものは外します。発作の後は、嘔吐して肺に吐物が入るのを予防するために、体を横に向けて、意識が回復するまで静かに寝かせておきます。体を横に向けるには、ひざを曲げて肩をおこすと横に向けやすいです。
発作後、もうろうとしていたり、寝てしまう場合には、完全に元の状態に戻るまで休ませ、普段と同じ状態に戻ったら、いつもの業務にも戻っても構いません。頭を打った場合、直後に問題はなくても最低1時間は、意識の状態や麻痺の有無など様子を慎重に観察します。
職務上のリスク管理
てんかん発作の特徴と業務内容をマッチングさせることが重要です。
てんかん発作の特徴
【起こりやすい状況があるかどうか】
- 睡眠不足
- アルコール摂取
- 夕方と疲労がたまった頃
- 光過敏など
【発作症状】
- 前兆(単純部分発作)
- 意識
- 転倒
- 自動症
- 全身けいれんの有無など
【発作頻度】
- 止まっている
- 年数回
- 月数回
【業務内容・作業環境】
- 火など高温のもの扱う、先端や縁の尖ったものやむき出しの機械、産業用自動車などの操作を伴うか
- 高所での作業、流れ作業などを行なうか
てんかん発作の誘因となるもの
てんかん発作の誘因としては、以下の点があります。
1.睡眠不足、覚醒・睡眠リズムの乱れ
2.体温上昇(高熱とは限らない)
3.精神生活上の問題:ストレスや過度の緊張、あるいは緊張感の欠如
4.身体的な問題:疲労、不得意な運動、急激な運動
5.抗てんかん薬の急激な変更や中断
職場でも、規則正しい生活を送れているか、体調などについての把握ができていると、対応がしやすくなります。
動画の解説はこちらから
まとめ
てんかんがあっても、適切な治療を続けることで発作を抑え、安定して仕事を続けることができます。とはいっても、突然、発作が起こったりすると、周囲の社員も驚きますし、どのように対応してよいのかわからないこともあります。
どのような症状があるのか、また、対応方法を知っておくことは、職務上のリスク管理としても大切なことです。てんかんのある社員からは、事前に起こりやすい状況、発作症状、発作頻度などを聞いておくと、管理体制が取りやすくなるでしょう。
また、てんかん患者の約2割の人が、気分障害や不安障害、神経症などの精神症状を合併すると言われています。記憶障害、注意障害、遂行機能障害などの高次脳機能障害を合併することも少なくありません。これらの症状を合併している際には、てんかんの知識とともに知っておくと役立ちます。
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