障害者雇用率とは、企業が全従業員のうちどれだけの割合で障害者を雇用しているかを示す指標です。この指標は、企業が障害者の雇用をどの程度進めているかを客観的に評価するための重要なデータとなります。
今回は、企業で算出する障害者雇用率やその根拠となる「障害者法定雇用率」について解説していきます。
障害者法定雇用率とは?
障害者雇用では、障害者雇用促進法の中で、事業主が常用雇用している労働者のうち一定割合の障害者雇用をすることの基準となる「障害者法定雇用率」を設定しています。障害者雇用率は企業の社会的責任と法的義務に関連しており、障害者の雇用促進を目的としています。現在の障害者雇用率は2.5%となっており、令和8年度からは2.7%に引き上げられることが決まっています。
障害者雇用率は、次の計算式によって算出されます。
なお、障害者法定雇用率は労働状況やその割合の推移を検討しながら、5年毎にその割合の推移を勘案して設定されています。令和5年度の障害者雇用状況を見ると、雇用障害者数は64万2,178.0人、対前年4.6%で、2万8,220.0人増加しており、20年連続で雇用者数は過去最高となっており、障害者雇用の状況は、雇用障害者数、実雇用率ともに毎年更新しています。
障害者の常用労働者数が年々増加していることから、今後も障害者雇用率が上がっていくことが予想され、今回の障害者雇用率の引き上げをクリアできればよいわけではなく、継続的に考えていく必要があると言えます。
障害者雇用率とは?
障害者雇用率とは、企業が全従業員のうちどれだけの割合で障害者を雇用しているかを示す指標です。この指標は、企業が障害者の雇用をどの程度進めているかを客観的に評価するための重要なデータとなります。
障害者雇用率としてカウントするには、在籍している障害者の人数ではなく、障害者の勤務時間と障害程度によってカウントが決まっています。基本は、週所定労働時間が30時間以上の場合には、障害者1人につき1カウント、重度の場合には2カウント、週所定労働時間が20時間以上の場合には、障害者1人につき0.5カウント、重度の場合には1カウントとなっています。
これまでは障害者を雇用していても、週所定労働時間が20時間以上でないと障害者雇用率としてカウントすることができませんでした。しかし、令和6年4月からは、障害特性により長時間の勤務が困難な障害者の雇用機会を拡大するために、特に短い時間(週所定労働時間が10時間以上20時間未満)で働く重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者の方の雇用は、1人の雇用につき0.5人と算定できるようになりました。
障害者としてカウントするには、障害者手帳を持っていることが必要です。メンタル面で不調で休職するなどしているだけでは、カウントの対象になりません。また、身体障害や知的障害の障害者手帳は基本的に更新はありませんが、精神障害者手帳は2年毎の更新があります。更新がされていないと障害者を雇用しているとカウントできませんので、注意が必要です。
障害者雇用率の計算方法
自社の障害者雇用率は、常用労働者数、短時間労働者数の総数に雇用率をかけて算出します。ここで出てきた数字が、雇用しなければならない障害者の人数となります。
(常用労働者数 + 短時間労働者数×0.5)× 2.5%
労働者数には、常用労働者と呼ばれる従業員がすべて含まれ、雇用の形態に関係なく、パートやアルバイトなども含まれます。
なお、障害者雇用では業種によっては障害者雇用が難しいこともあり、除外率制度が設けられています。障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種である、例えば道路旅客運送業、小学校、幼稚園、船舶運航等の事業等については、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度(障害者の雇用義務を軽減)を設けています。
しかし、この除外率制度はノーマライゼーションの観点から、平成14年に法改正が行われ、平成16年4月に廃止されています。しかし、経過措置として、当分の間、除外率設定業種ごとに除外率を設定するとともに、廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ、縮小することとされてきました。また、令和7年度には、除外率が一律に10%引き下がることが決まっています。
出典:最近の障害者雇用対策について(厚生労働省)
特例子会社制度の活用
企業では障害者雇用率を達成することが求められていますが、障害者雇用がなかなか進まないという場合も少なくありません。そんなときに障害者雇用を進めるための制度として活用されることが多いのが、特例子会社です。
特例子会社は、障害者雇用を進めるための制度で、特別の配慮をした子会社を設立して要件を満たすことにより、特例子会社に雇用されている障害者が親会社や関係会社に雇用されているものと見なされて、障害者の雇用率として含めることができます。
障害者雇用がなかなか進まない、本体や子会社と同じ人事制度で雇用することが難しいなどの理由がある場合に設立されることが多く、特例子会社を作ることによって、障害者雇用の促進や効率的に設備投資できるなどのメリットがあります。一方で、雇用してから数年経つと支給される助成金なども減少していき、本体からも事業として独り立ちすることが求められる場合も少なくありません。
特例子会社を設立することの主な特徴は、次のような点があります。
・特例子会社で雇用している障害者を親会社や関係会社の雇用としてカウントできる
特例子会社で雇用された障害者は、親会社およびそのグループ企業全体の障害者雇用率に算入することができます。このため、親会社、関係会社は法定雇用率を効率的に達成しやすくなります。
・雇用管理や専門的な支援体制が組みやすい
特例子会社では、障害者の特性に応じた専門的な支援や環境整備をすることが多いため、障害者がより適した業務に従事しやすくなります。職場環境などを整えることにより、障害者の職場定着率が向上し、長期的な雇用が実現しやすくなることもあります。
・障害者雇用をしていることが認知されやすい
親会社が直接障害者を雇用する場合に比べ、特例子会社の採用は、障害当事者の方に認知されやすくなります。そのため採用や企業実習の機会を作りやすく、より多くの障害者に就労機会を提供しやすくなります。
その他にも、次のようなメリットやデメリットがあります。
特例子会社設立のメリット
・法定雇用率の達成
特例子会社で雇用した障害者をグループ全体の障害者雇用率に含めることができるため、法定雇用率を効率的に達成できる。
・専門的な支援体制
障害者に特化した支援体制や環境整備を整えやすく、障害者が働きやすい環境を提供できる。
・企業イメージの向上
障害者雇用を積極的に行うことで、社会的責任を果たす企業として評価され、企業イメージの向上に寄与する。
特例子会社設立のデメリット
・設立、運営コストの増加
特例子会社の設立や運営には、初期投資や継続的なコストがかかる。
・運営の負担
特例子会社の運営には、特別な管理体制や人材が必要となり、運営の負担が増加する。
・業務の分離
親会社と特例子会社の業務が分離されることにより、連携やコミュニケーションが難しくなる場合がある。特例子会社に適した業務を見つけ、障害者に合った業務を提供することやキャリアアップ制度をつくることが難しい場合がある。
特例子会社の設立は、障害者雇用の促進や企業イメージの向上といったメリットがありますが、一方で、特例を設立後に業務内容の充実やスキルアップをしていかないと運営していくことが厳しくなります。特例子会社を設立することのメリットもありますが、継続的に運営していくための中長期的な事業計画を作ることや体制づくり、親会社やグループ会社との関係性を築いていくことがとても重要です。
まとめ
障害者雇用率の算出方法や法定雇用率について解説してきました。障害者雇用率は、企業が障害者をどれだけ積極的に雇用しているかを示す重要な指標です。法定雇用率の引き上げや、短時間労働者のカウント方法の変更などの制度は変化していますので、障害者雇用の情報はアップデートしていくことが大切です。
障害者雇用を促進するためには、障害者に適した業務を提供し、働きやすい環境を整えることが不可欠です。場合によっては特例子会社制度を活用することで、効率的に障害者雇用率を達成しつつ、障害者がより適した業務に従事できる体制を整えることができます。しかし、特例子会社は設立するだけでなく、持続可能な運営と長期的な事業計画の構築が絶対に必要です。
企業が障害者雇用を進めることは、法的義務を果たすことや、社会的責任を果たすことにも貢献しますが、それ以外にも経営や組織にとってメリットになることがあります。障害者が活躍できる職場環境を整えることで、企業全体のイメージ向上や、労働力の多様性を高めることにもつなげている企業もあります。それらの企業の事例を参考にしてみるとよいでしょう。
動画で解説
参考
【オムロンさん】
専門性の高い業務で異能人財を活躍する機会を創出するオムロンの障害者雇用の取り組み
【デジタルハーツプラスさん(デジタルハーツの特例子会社)】
異能の人材を発掘、キャリアアップする特例子会社デジタルハーツプラス
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