障害者雇用は、企業が行うべき義務なのか?大企業が雇用すべき?

障害者雇用は、企業が行うべき義務なのか?大企業が雇用すべき?

2024年10月30日 | 障害者雇用に関する法律・制度

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「障害者雇用は義務ですか?」と聞かれたとき、あなたはどのように答えますか。この問いは、多くの企業にとって重要なテーマであり、時には課題として認識されることがあります。

日本には「障害者雇用促進法」という法律があり、一定規模以上の企業には障害者を雇用する義務が課せられています。この義務は単なる「法律遵守」に留まらず、企業や社会全体に大きな意味をもたらすものとなっています。

今回は、企業にとって障害者雇用が義務とされるようになった理由や背景について解説していきます。

障害者雇用は企業の義務

障害者雇用が企業にとって「義務」とされている背景には、法律による明確な根拠が存在します。日本では、1976年に「身体障害者雇用促進法」が施行されました。この法律が制定された背景には、戦争から帰ってきた傷痍軍人が自立した生活を営み、社会の一員として活躍できるよう、企業が一定の役割を果たすことが求められたからです。

この法律が作られた当初は身体障害が対象となっていましたが、その後、知的障害や精神障害も含まれるようになり、法律名も「障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)」に変わりました。また、社会情勢の変化や障害者の雇用機会拡大を目指して法改正が行われ、現行法ではより包括的な支援体制が整備されています。

障害者雇用促進法は、障害者の職業的な自立支援と社会参加を目的にしており、企業に一定数の障害者を雇用する義務を課す法律となっています。雇用率制度により、企業は従業員数に応じた障害者の雇用が義務付けられています。

現在では、法定雇用率が2.5%となっており、従業員40人以上の企業に対して法定雇用率が設定され、この割合を満たす形で障害者を雇用する必要があります。そのため大企業だけではなく、中小企業でも障害者雇用を進めていく必要があります。

また、障害者雇用促進法の改正は度々行われていますが、対象となる障害者の範囲拡大や合理的配慮の提供義務の導入など、障害者が働きやすい環境の整備を進める内容が含まれており、企業の取り組みが一層求められるようになっています。

雇用率制度のしくみと義務の対象範囲

障害者雇用促進法の中核には、「法定雇用率」という考え方があります。これは、従業員規模に応じて一定割合の障害者を雇用する義務を企業に課す制度です。現在の法定雇用率は民間企業は2.5%となっており、企業はこの割合に基づいて必要な人数の障害者を雇用する義務があります。また、行政機関や地方自治体においても法定雇用率が設定され、公共の場での障害者雇用の推進も図られています。

企業の具体的な義務とペナルティ

障害者雇用促進法では、法定雇用率を達成できない企業にはペナルティが科されます。具体的には、障害者法定雇用率が未達成の企業は納付金を支払う義務が生じ、この納付金は障害者雇用の推進を目的に活用されています。

これは、障害者雇用納付金と呼ばれ、法定雇用率に達しない障害者1人に対して月5万円を支払うものとなっています。なお、雇用納付金を支払っても、障害者雇用の義務がなくなるわけではなく、引き続き雇用率に達することができるように努力することが求められます。

また、逆に法定雇用率を上回る企業には、報奨金等が支給され、積極的な障害者雇用が促進されています。これにより、企業は単に義務を果たすだけでなく、積極的に障害者雇用に取り組むインセンティブが提供されています。

なぜ、障害者雇用を企業がしなければならないのか

障害者雇用は法律で義務として捉えられているものの、障害者雇用をどのように捉えて、取り組むのかによって、組織文化や人材活用の点で大きな違いがあります。例えば、障害者が職場に加わることで、組織全体の多様性が向上し、新たな視点が加わることでイノベーションが促進されている組織もあります。

障害者雇用をポジティブ的に考えてみることで、今いる社員が今よりもより活躍できる体制づくりをする、社員のマネジメント能力を高める、社員一人ひとりが自分の役割を認識する
、会社の活性化、組織風土の変革などを体感することができます。

実際に障害者雇用に取り組んだ企業では、次のような変化を感じています。
・障害者が一生懸命仕事に取り組んでいる様子を目にすることで、社内の働くことの意識が変化した。
・業務の見直し、社員のキャリアアップ、レベルアップのきっかけづくりにつながった。
・誰にでもわかりやすい業務設計、マニュアル作りをするようになり、業務整備が行えた。
・障害者雇用を担当する社員が成長した。
・社内のコミュニケーションの活性化に役立った

障害者雇用は、「障害者を雇用すること」と捉えがちですが、それだけでなく組織やそこで働く他の社員にも大きな影響を及ぼすことがあります。

どのように障害者雇用に取り組むとよいのか?

障害者雇用をうまく進めていくためには、どのような取り組み方をするとよいのか見ていきます。

障害者雇用を行うことをポジティブな面から見る

障害者雇用をどのように捉えて、社内に発信しているのかは、とても大切です。組織や社内が障害者雇用を進めることに協力的でないと感じているのであれば、次のような発信をしていないかを振り返ってみるとよいでしょう。

・法律で障害者雇用が定められているから・・・
・行政から指導を受けたくないから・・・
・CSRを遵守している会社との評価を社会から受けたいから・・・
・障害者雇用納付金を払いたくないから・・・
・他社もとりくんでいるから・・・・

これらの答えは、解答としては間違っていません。しかし、直接障害者雇用に関わらない、目の前の仕事でいっぱいいっぱいになっている社員に「◯◯しなければならない」という言葉は響かないことがほとんどです。どんな形であれば、障害者雇用に関心を持つのか、協力したいと思うのかを考えてみるとよいでしょう。

そして、そのための第一歩としては、社内に障害者雇用を進めていく立場の人が、障害者雇用をボジティブに捉えていることが必要です。

障害者の業務をどのように位置づけるか

障害者雇用を行う必要がでてくると、障害者のおこなう業務を「障害者ができる仕事は何か」という点から考える企業がほとんどです。しかし、このような視点からは新たな業務を創出することはできません。

「業務を検討はしているが、障害者に適した業務が見つからない」
「うちは専門会社だから、障害者が行える業務はない」
という声をよく聞きますが、障害者と言われる人たちの中には、多様な層がいます。

最近では、統計を見てもわかるように10年前と比べると、精神・発達の方の新規採用がかなり増えています。数字だけで見るとわかりにくいですが、この背景には2018年に精神障害者の雇用が義務化されたことが大きく関係していると思われます。

企業で精神障害者手帳を持っている人への雇用が増えているのを見て、これまでクローズと言われる手帳を持っていることを明らかにしないで就職していた人たちも、もう少し理解のある環境で働きたいと、障害者枠で働くことを選んでいる人が増えつつあります。

また、大学でも障害者差別解消法ができ、障害のある学生の受け入れが広がってきています。障害学生支援室等を大学で設置しており、配慮は必要であるものの組織で働く能力や適性のある学生が増えています。

組織に活躍してほしいと考えているのであれば、これまでのいわゆる障害者雇用の枠の業務として多かった業務で採用しようとしたり、これらの業務を無理やり工面したとしてもうまくいくことはありません。来てほしいと思う人たちに応募してもらえるような業務や役割を提示することが大切です。

障害者雇用率のために採用されていると感じさせるのではなく、組織に必要な人材と感じてもらえるような業務設計や組織の考え方を創っていく必要があります。そのためには、業務をどのように位置づけるのかが重要です。

業務内容を考えるときには、次のような視点を持つことが大切です。
・社員がより活躍できる体制作りができないか
・社員の福利厚生につながるものはないか
・社員が、就業時間以外でおこなっている雑務はないか
・人手が欲しい業務はないか(定期でなくスポットでも可)
・外注している業務や派遣社員を使っている業務はないか
・社内で残業の多い部署や部門の業務を手伝えないか
・やらなければならないけれど手がつけられていない業務はないか
・今できていない業務でも本当は取り組んだほうがよいものはないか

これから障害者雇用を進めていくために必要な視点とは?

障害者雇用は確かに義務ではあるものの、障害者雇用だけを見ていてもうまくいきません。組織全体を見ていくことや中長期的な計画から見ていくことが大切です。次のような視点で障害者雇用に取り組んでいる企業があります。

組織多様性の向上とイノベーションの促進

障害者雇用によって組織の多様性を考えることにより、さまざまな視点や価値観が職場に入るため、問題解決や業務改善に対する新しいアプローチが生まれやすくなります。例えば、製品やサービスのアクセシビリティ向上に貢献し、障害を持つ顧客層への理解が深まることで、より包括的な製品開発やマーケットへのアプローチが可能になることがあります。

また、異なるバックグラウンドや経験を持つ従業員が加わることで、組織全体におけるクリエイティブな発想が生まれやすくなり、イノベーションを促進する土壌が形成されることがあります。

誰にとっても働きやすい場をつくることができる

はじめは障害者雇用のために・・・と取り組みはじめたことが、結果的に他の社員にとっても働きやすい職場になることがあります。例えば、障害者のための職種開発が、結果として健康上の問題が生じた既存社員の雇用の受け皿につながることがあります。

また、働きやすい制度を整えた結果、介護や子育て中の社員にとっても勤務時間の調整やリモートワークに取り組みやすくなったりすることもあります。このような制度を整えたことで、離職者が減り社員が定着するようになったという組織も少なくありません。

組織風土や従業員の意識変革

障害者雇用を通じて、組織内に共生や協働の文化が根付きやすくなったり、他の部門とのコミュニケーションを取る機会が増えて、職場の風土がポジティブに変化することがあります。障害者と共に働くことで、他の従業員は多様性や包摂の価値を感じ取ったり、職場の一体感や協力意識が強まることもあります。

まとめ

障害者雇用は、日本の「障害者雇用促進法」に基づき、一定規模以上の企業に課せられる義務ですが、障害者雇用を進めていくには、この義務だけを考えていくとうまくいきません。

障害者雇用を通じて組織の多様性が向上し、従業員の意識変革や新たな視点が生まれることで、職場全体のイノベーションが促進される可能性があることを意識することが大切です。また、障害者に適した職務設計や配慮は、他の従業員の働きやすさにもつながり、離職率の低減や社員の定着にも効果があります。

障害者雇用は確かに法律で定められた義務ですが、どのように取り組むのかによって、組織に及ぼす影響は大きく異なってきます。企業がポジティブに障害者雇用を捉えることで、共生社会の実現に貢献しながら、自社の発展にもつながる好循環を生み出すことができます。

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