障害者雇用は、現在の日本社会として取り組むべき重要なテーマとなっており、企業にとっても影響のある課題です。障害者が職場で活躍するための環境整備や支援は、働く意欲を引き出すだけでなく、企業全体の多様性を高め、新たな価値を生み出す可能性があると言われています。
今回は障害者雇用の報告義務の背景やその根拠について解説し、実際の報告の具体的な手続きについてみていきます。
障害者雇用状況報告の義務の根拠とは?
障害者雇用促進法は、障害者がその能力に応じた職業に就き、社会に参加できるよう支援するために定められた法律です。この法律に基づき、企業は障害者の雇用促進に取り組む義務を負い、その一環として毎年の雇用状況を報告することが求められています。報告義務の内容は、企業が障害者雇用率を達成し、継続的に維持するための透明性と適正性を確保するための重要な手段です。
障害者雇用状況報告の義務は、障害者雇用促進法43条第7項に記されており、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります。現在の障害者法定雇用率は2.5%なので、従業員40人以上の事業主が対象となっています。毎年報告時期になると、従業員40人以上規模の事業所に報告用紙が送付され、必要事項を記載して報告することになっています。
報告の内容には、次のことが含まれます。
・雇用している障害者の人数:身体、知的、精神の各障害区分ごとの人数を記載。
・雇用率の達成状況:企業が障害者雇用率をどの程度達成しているかを算定し、報告。
・雇用の形態:正規雇用・非正規雇用の区分や、継続的な雇用の見込みがあるかどうか。
対象企業は、従業員数の総数に応じた基準に基づき、法律で定められた障害者雇用率を達成することが義務付けられています。現行では、民間企業の法定雇用率は2.5%となっているため、従業員40人以上の企業に対しては、少なくとも1人の障害者を雇用することが求められます。
提出方法は、6月1日現在の状況を障害者雇用状況報告として、企業の本社、支社や支店などの分も取りまとめて、本社の所在地を管轄するHWに電子申請、郵送、持参によって提出することになっています。
提出された報告は障害者の雇用状況及び雇用率の達成状況を把握し、今後の施策の検討に使われるほか、必要に応じて、各企業に対しハローワークからの助言、指導、調査等を行うための基本情報として用いられます。
また企業では、障害者雇用率が達成できていないと、障害者雇用納付金を収めなければなりません。この納付金は、障害者雇用に伴う経済的負担の調整や、その雇用の促進及び継続を図るためのもので、関係業務は、独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が行っています。
なお、報告義務を怠る、あるいは虚偽の報告を行った場合、障害者雇用促進法第86条第1合の規定により、30万円以下の罰金の対象となります。障害者雇用促進法に基づく報告義務は、法令順守の観点だけでなく、企業の社会的責任としても重要な意味を持っています。企業がこの義務を誠実に履行することは、障害者の雇用機会を守り、職場の多様性を促進する上で不可欠な役割を果たしています。
障害者雇用の算定方法
障害者雇用率は、企業全体の従業員数に対する障害者雇用者数の割合で算定されます。具体的には、1人の障害者がフルタイムで雇用されている場合は1人分として計算されます。また、重度の場合には、1人の障害者がフルタイムで雇用されている場合には2人分として計算されます。
短時間勤務の週所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合には、1人の障害者の雇用に対して0.5人分として計算され、重度の場合には、1人として計算されます。なお精神障害の場合には、令和5年からの精神障害者の算定特例の延長に伴い、当分の間、雇入れからの期間に関係なく1人として計算されます。
また、10時間以上20時間未満の障害者の雇用のカウントが令和6年からできるようになり、身体・知的の重度障害と精神障害が0.5人として計算されるようになりました。
どのような場合に、重度の障害者となるのでしょうか。身体障害の場合には、原則として身体障害者手帳の等級が1級または2級、重度知的障害の場合には、児童相談所、障害者職業センター等で重度と判定される場合となります。
報告義務の内容と具体的な手続き
企業が報告すべき内容とは?
障害者雇用促進法に基づき、企業は毎年、障害者の雇用に関する情報を所管の機関に報告する義務があります。この報告には、障害者雇用の進捗状況や企業の法定雇用率の達成状況を把握する目的があり、具体的には以下の内容と手続きが求められています。
企業が報告する主な内容には、次のような点が含まれます。
・障害者の雇用人数:身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用人数を、それぞれ区分ごとに記載します。また、短時間雇用者なども含めて正確に把握することが求められます。
・障害者雇用率の達成状況:企業の総従業員数に対して、雇用している障害者の割合を示す雇用率を算出し、報告します。法定雇用率である2.5%を満たしているかどうかが、評価の重要な基準となります。
・雇用形態と継続性:正規雇用と非正規雇用の割合や、雇用契約の期間など、障害者の雇用形態や継続性についても報告する必要があります。特に、長期的に雇用が見込まれるかどうかが重視されます。
常用雇用労働者とは、雇用契約の形式を問わず1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者であり、1年を超えて雇用される労働者を含みます。なお、1週間の所定労働時間が20時間未満の場合については、障害者雇用率制度の常用雇用労働者には含まれません 。
次の人は常用雇用労働者に含まれます。
・ 雇用期間の定めのない労働者
・ 1年を超える雇用期間を定めて雇用されている労働者
・ 一定期間(1ヶ月、6ヶ月など)を定めて雇用されるものであり、過去1年を超える期間の間、引き続き雇用されている、または雇入れの時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれるめられる労働者( 1年以下の期間を定めて雇用される場合でも、更新の可能性があれば該当する)
・ 日々雇用されたり、雇用契約が日々更新されており、過去1年を超える期間において引き続き雇用されている、または雇い入れの時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる労働者
外国人労働者(技能実習、特定技能を含む)も常用労働者に含まれることになります。
報告手続きはどのように行う?
報告手続きは、企業所在地を管轄するハローワークに届け出る事になっています。最近では、報告を効率的に行えるように電子申請もできるようになりました。また、ハローワークに直接提出することや郵送での提出ができます。
報告は毎年6月1日現在の状況を基準に行い、期限が決められているものです。報告の準備は余裕を持って進めることが推奨されています。報告に際しては、次の点を留意すべきです。
・書類の正確性
報告書に記載する内容は、障害者の雇用人数や雇用形態など、正確に記録することが求められます。記載ミスや計算間違いがあると報告が無効となる可能性があり、再提出を求められることもあるため、注意深く確認しましょう。
・障害者手帳の確認
雇用する障害者が適切な手帳や証明書を持っているかどうかも確認し、報告書の基準に準じて記録します。精神障害者の場合には、精神障害保健福祉手帳の期限が2年間のため、更新されているかをチェックしておきましょう。
・提出タイムラインの遵守
報告の提出期限に間に合うようにスケジュールを立てます。特に電子申請やハローワークに直接提出する場合は、混雑が予想されるため、早めに準備を進めるとスムーズです。
まとめ
障害者雇用の報告義務を果たすことは、企業にとって単なる法的な義務の履行とともに、企業が社会的責任を果たす手段でもあります。報告内容の正確性と、報告手続きの円滑な進行は、企業の信頼性と社会的評価を維持する上で重要なポイントとなるため、細心の注意を払って対応することが求められています。
また、障害者雇用を促進することは、企業のイメージ向上や、より多様で豊かな組織づくりの一環となり、結果的に企業の成長にもつながります。報告義務の履行を積極的に進めることで、企業は外部からの信頼を得るだけでなく、社内においても障害者を含むすべての従業員が働きやすい環境づくりが促進されます。
企業が持続可能な成長を遂げるためには、障害者雇用を推進し、報告義務を誠実に果たすことが求められます。法令順守に加え、社会的な役割を意識しながら障害者雇用を続けることは、企業の社会的責任を果たす上での重要な実践であり、未来に向けた持続可能な社会の構築に貢献することとなっています。
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