発達障害の大学生は「売り手市場」でも面接でつまずくことが多い

大学生の就職活動は、売り手市場と言われています。「売り手」というと、どんな学生も希望のところに内定が決まりそうですが、安心して活動が遅れたり、何とかなるだろうという学生はなかなか就職が決まりません。

特に発達障害のある学生は就職が難しいケースが多く見られます。学生優位の「売り手市場」でも、就職につまずくケースが目立つからです。最近では、就職活動に臨む発達障害のある大学生を支援するために、大学がプログラムを準備したりするケースも増えてきました。

発達障害のある大学生の就労状況や大学における発達障害者の就労支援について見ていきたいと思います。

発達障害の大学生の就労状況

発達障害を抱える学生は、この5年で約3倍になり、発達障害のある学生の修学支援を大学は進めています。このようなサポートが整いはじめているため、大学生活はうまく乗り越えられる学生も増えてきました。それでも就活・就職後につまずくケースは依然として多くあります。そのため社会に出る前に発達障害の特性を受容し、対処法を身につけるという、きめ細かな就活支援が、大学の中で広がりつつあります。

発達障害を抱える学生は近年、大幅に増えています。日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、2011年時点で大学や短大、高等専門学校に在籍する発達障害の学生は1453人で、全学生の0.04%でした。しかし、2016年には4150人と0.13%にまで増えています。これは、5年で約3倍になっています。

この背景に、2005年に施行された発達障害者支援法があります。発達障害は、このときに脳機能の障害として定義づけられ、乳幼児期からの早期発見や医療・福祉・教育面での支援体制が段階的に整えられてきました。その結果、公立小中学校で通級指導を受ける発達障害の児童生徒数は2006年度に6900人ほどだったのが、10年後の2016年度には6.9倍の4万7千人超に増えています。

2012年の調査では公立小中学校児童の6.5%に発達障害の可能性があるとの結果がでており、10年に1回実施されていますが、前回よりも発達障害の割合は増加しています。そのため今後も学生に占める割合は増えると思われます。この調査は担任等を対象に、発達障害があると思われる児童生徒の数をカウントしているため、教員の発達障害に対する知識等や主観が関係しています。

この調査の結果の詳細はこちらから
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通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果

就職は大きな課題

発達障害がありながら進学してきた学生たちにとって、大きな課題となっているのが就職です。日本学生支援機構(JASSO)の調査では、2015年度卒業の全学生の就職率は74.8%でしたが、発達障害の学生は35.9%と半分くらいの割合となっています。

出所:AERAdot.

一見すると、発達障害の大学生の就職はとても厳しいように見えますが、これでも年々、就職率は上昇しています。背景にあるのは、学内外で障害に合わせた就活・就労支援を受けている学生が増加していることにあります。

大学内や就労移行支援機関、障害者雇用支援を行っている企業などでもサポートが増えています。発達障害のある人の中には「コミュニケーションが苦手だ」と感じていることが多く、コミュニケーションをサポートするプログラムや自己理解を深めながら、就職するための「障害者枠と一般枠の違い」を法律や人事制度から見たり、求人票や履歴書の書き方などを学ぶこともできます。

就労移行支援機関の詳細はこちらから
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障害者採用に活用できる就労移行支援事業所とは?

難関大学(院)に合格しても困難さを感じる場面がある

発達障害の学生の中には、難関大学(院)に所属する学生も少なくありません。ある男子大学院生は、小学のときにアスペルガー症候群の診断を受けましたが、学校生活に支障はありませんでした

しかし、困難さを感じ始めたのは難関国立大学に入学し大学院に進んでからです。研究室でプロジェクトを進めていく中で、周りのペースについていけず、やるべきことを進められない状況が見られました。

周囲の学生たちと話すことが怖くなってしまい、研究室にいられなくなったそうです。学内の相談室に行き、そのときに初めて「発達障害のためにつまずいている」と自覚しました。大学から支援機関があることを紹介され、プログラムを受講し、自己管理の工夫を実践しています。

この学生は、就職に関して、障害者手帳は持っているが、就活は障害を開示しない「クローズ」で臨むつもりでいます。プログラムを受講して、自分の特性をよく知るようになって、障害による不安よりも、これまで頑張ってきた自分の能力を重視したいと思うようになったからだといいます。

障害者雇用の「オープン」「クローズ」については、下記の記事を参考にしてください
↓  ↓  ↓
精神障害をオープンにして働くことのメリット・デメリットとは?

 

最近では、発達障害の就職の場も増えてきつつあります。発達障害は、個人の特性や濃淡が幅広くなっていますが、期待される能力とのバランスによって、職種を広げてくれる企業もありますので、「オープン」「クローズ」のメリット、デメリットも合わせて考えるとよいでしょう。

大学における発達障害支援

関西学院大

関西学院大学では、障がいのある学生が他の学生と同じようにキャンパスで学ぶことができるよう授業の情報保障(パソコンテイク/ノートテイク)や点訳などの修学支援を行っています。これらの支援は、多くの学生の活動によって支えられています。

出所:関西学院大学 総合支援センター キャンパス自立支援室

発達障害の学生に対しては、修学相談・スケジュール管理・履修相談・授業中に生じた問題への対応・進路相談等、障がいの状況や困り具合に応じて個別に対応しています。

例えば、2年生以上が対象の「プレキャリア教育支援プログラム」があります。これは、3年生から本格化する就職活動に備え、自分を客観的に把握し、どんな仕事が向いているかを考えることを目的にしています。発達障害のある学生3人が、自分の性格や行動をシートに書き込み、カウンセラーとともに分析したりします。

関西学院大では、発達障害の診断を受け、大学側に支援を求める学生41人と、3年前の1.5倍に増えました。柔軟な判断が苦手な傾向があり、就活の面接で想定外の質問をされて一言も答えられないという事例や、就活での失敗を機に、大学に来れなくなる学生もいました。

このため障害者の就労を支援する社会福祉法人と協力し、3年生以上を対象にしたキャリア教育支援プログラムを2015年度に導入して、2016年度には2年生以上向けのプログラムが始まりました。今年度からは、支援する社会福祉法人の専門職員が週3日、学内で学生の相談できる体制も整えました。今春卒業した5人のうち4人が就職でき、今年も6人が就活しています。

大阪大学

就職活動以前に大学生活でつまずく学生も少なくないため、早めに支援を始めたのが大阪大学です。

大学へ進学予定の発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)のある学生を対象に、大学生活を模擬体験できる「ASD新入生 大学生活準備プログラム」を今年の3月に実施し、大阪大を含む7大学の入学予定者計10人が、グループ討議の模擬授業を受けました。

参加した男子学生は大学に入学後、複雑な履修登録に戸惑いました。しかし、プログラムを受講して学んだことを実践して、大学に相談することにより、所属学部の担当教員に指導してもらうことができました。人間関係を築くことが苦手ですが、事前にプログラムで体験したおかげで、グループワークにもついていけているようです。

早稲田大学

早稲田大学では、2014年に「発達障がい学生支援部門」を立ち上げ、2017年度は98人の学生を支援しています。学内には、学生生活全般について同センターの学生相談室があるほか、修学支援の窓口として障がい学生支援室があります。定期的に面談を行いながら配慮部分を調整したり、学生自身による対処法も一緒に検討しています。

就活支援はこうした活動とともに行われており、数年前からは、学生の特性が分かっている学生相談室・支援室とキャリアセンターが連携し、学生と企業の間に入って直接マッチングするという新たな取り組みも始めています。具体的な仕事内容と学生の希望・個性をみて個別に紹介し、双方が前向きなら職員・学生・企業が一緒に面談します。担当職員は、企業側が特性を理解してくれているか、合理的配慮を含めた受け入れ環境が整っているかを確認します。実績はまだ数人程度のようですが、今後も積極的に進めていくようです。

また、障がい学生のためのキャリアセミナーも実施しており、身体障がいや発達障がいのある卒業生が講師となっています。内容は、仕事選びや働き方、コミュニケーションの取り方など、参考になるアドバイスがありました。その様子は、下記のページから見ることができます。

障がい学生のためのキャリアセミナー 先輩に聞く就職活動と仕事の現場

障がい学生のためのキャリアセミナー 先輩に聞く就職活動と仕事の現場

富山大学

2007年に支援室を立ち上げた富山大学では、入学直後からの支援体制を重視しています。そのため、今春の発達障害学生の46%が一般枠で就職、21%が大学院進学を決めました。

富山大学では学生の事務窓口や保健管理センター、教職員と情報共有し、発達障害の可能性のある学生がいたら支援相談室を紹介し、週1回のペースで面談しながら修学上の問題の解決方法を一緒に考え、配慮点などを教職員に伝えていく体制を作っています。また、本人にはレポート課題などの優先順位のつけ方や先生とのやりとり方法を、ほぼマンツーマンで指導しています。

高校側から支援の引き継ぎを受けていた男子学生は、はじめ渋々面談に訪れたそうです。しかし、来ているうちに自分の受けていた授業が登録科目でないことが分かったり、カフェでパソコンに夢中になっているうちに授業に行きそびれたりといった問題が次々に生じ、自ら支援室に通うようになり、相談員とともに一つずつ対処法を身につけていきました。そして最終的に、一般枠で就職できたそうです。ちなみに就職後のフォローも原則3年、最大5年まで行っているそうです。

また、大阪大学と同じように発達障害の生徒の大学体験プログラムとして、「チャレンジカレッジ Challenge College ~発達障害のある生徒の大学体験プログラム~」を開催しています。

プログラム内容は、大学について、キャンパスライフ、大学生活のヒント、施設の利用体験(生協食堂、図書館 等)、発達障害のある先輩の体験談が聞けるものとなっています。

参考資料
5年で3倍…増える発達障害学生 就活で直面する厳しい現実(AERAdot.)

発達障害の大学生、「売り手市場」でも面接つまずき…大学が就活支援(yomidr)

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まとめ

大学生の就職活動は、売り手市場と言われていますが、発達障害のある学生は就職が難しいケースが多く見られます。ここでは、発達障害のある大学生の就労状況や大学における発達障害者の就労支援について見てきました。

現状としては、発達障害のある大学生の就職率は、一般の学生の半分程度ですが、大学における支援が整いつつあり、就職率はさらにあがっていくものと思われます。発達障害があり、所属する大学に支援室等があるのであれば、早めに相談やサポートを受けるとよいでしょう。

特に大切なのは、学校生活の中で困っていることを自覚して、自分のせいではなく特性のためだと理解することです。そして、その困っていることにどのように対処するのかを自分で判断する練習を行ないます。これを繰り返すことによって、自分で判断することに自信を持つことができます。自信がでて、自分がわかり、特性との向き合い方が分かってくると、社会に出てからの対処法もスムーズにできるようになります。

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