アスペルガーは自閉症スペクトラム障害(ASD)の一部として分類され、知的能力には問題がないものの、主に社会的なコミュニケーションや対人関係において困難を抱える発達障害です。
特定の興味や活動に強い関心を持ち、詳細にわたる情報処理が得意である一方、他者の感情や意図を読み取るのが難しく、社会的な場面での柔軟性に欠けることがあります。そのため職場でのコミュニケーションや業務の進め方において、誤解やトラブルが生じやすくなります。
今回はアスペルガーの特性とそれによる職場での影響、そして具体的な課題とその対策について解説していきます。
アスペルガー症候群(ASD)とは
アスペルガー症候群は自閉症スペクトラム障害、ASD の一部として分類されています。知的能力には問題がないものの、主に社会的なコミュニケーションや対人関係において困難を抱える発達障害の一つです。アスペルガー症候群の人は、特定の興味や活動に強い関心を持ち、詳細にわたる情報処理が得意であることが多い反面、他者の感情や意図を読み取るのが難しく、社会的な場面での柔軟性に欠けることがあります。
ASDの特性は個々人で異なり、その影響も様々です。しかし、共通する課題として、直接的なコミュニケーションや微妙な社会的な合図(例えば、皮肉や非言語的なサイン)を理解することの難しさがあります。これにより、誤解や摩擦が生じやすくなり、特に職場のような社会的な交流が頻繁に求められる環境では、これが顕著に現れることがあります。
なぜ、職場でアスペルガーを理解することが重要なのか?
アスペルガー特性のある人は、丁寧に仕事を行う一方、期待するスピードで業務をこなすことができていないことがあります。その理由として考えられるのは、業務の進め方へのこだわりが強く、自分が納得した進め方でないと業務ができなかったり、情報処理能力の低さから頻繁に注意が周囲に散ってしまうことで、目の前の仕事に集中できないこと等が考えられます。
このような状況があると、同じ職場のメンバーの負担が増えたり、不満の声があがってきます。一方で、本人は自分が一生懸命仕事をしていることで満足していたり、他のメンバーや職場内での雰囲気を読み取ることが難しく、自分の行動やその影響をわかっていない場合も少なくありません。また、他の社員に対してするように注意したりしても、その状況が全く伝わっていなかったり、どのように改善したらよいのかがわかっていないケースもあります。
そのため、マネジメントに当たる人は、アスペルガーの特性や困難さを理解する必要があります。また、一緒に働く他の社員にとっての影響を考えていくことが大切です。それらを踏まえた上で適切なサポートを提供することで、職場全体の環境が改善され、他の社員にとっても、アスペルガーの社員にとっても働きやすくなります。
アスペルガーの特性と職場での影響
職場でアスペルガーのある人がいると、どのようなことが生じやすいのか見ていきます。
コミュニケーションの課題
アスペルガー症候群の人は、対人コミュニケーションにおいて特有の課題を抱えています。しばしば言葉の裏にある意味や感情を読み取るのが難しいために、相手の意図を正確に理解できないことがあります。また、直感的に社交的な状況に対応するのが難しく、会話の流れをつかむのに苦労することがあります。そのため、同僚との間で誤解が生じやすくなります。
職場では、これらのコミュニケーションの課題が原因で、指示の理解やチームワークに問題が発生することがあります。例えば、上司の曖昧な指示を正しく解釈できず、期待された結果を出せないことがあります。また、同僚との雑談や非公式なコミュニケーションの場でうまく対応できず、孤立してしまうこともあります。
感覚過敏
アスペルガー症候群の人は、感覚過敏を抱えていることが多くあります。これは、音、光、匂いなどの感覚刺激に対して過剰に反応する状態です。職場環境では、これが大きなストレス要因となることがあります。
例えば、オフィス内の雑音や蛍光灯の明るさ、人の出入りによる動きが気になって集中できないことがあります。また、特定の香水や食べ物の匂いが強いと、不快感やパニックを引き起こすことがあります。このような環境要因が原因で、彼らの作業効率が低下し、精神的な負担が増大することがあります。
マナーや表情の問題
アスペルガーの人は、社会的な礼儀作法や適切な表情を作ることが難しいことがあります。例えば、挨拶やお礼のタイミングがうまくとれなかったり、会話中に適切な表情を作れず、無表情に見られてしまうことがあります。
職場では、これが誤解を招くことがあります。例えば、上司が何かを渡しても無言で受け取るだけで礼を言わないことがあると「失礼な人」と見なされることがあります。また、会議中に無表情でいると「興味がない」または「不機嫌だ」と誤解されることがあります。これにより、人間関係がぎくしゃくし、職場での居心地が悪くなることがあります。
職場ではどのように対応すればよい?
誤解やトラブルが起こりやすい状況を把握し、その原因と対策を講じることができます。
誤解されやすい行動や言動について適切な態度を教える
アスペルガーの人は、その特性から誤解を招きやすい行動や言動をとることがあります。例えば、挨拶や礼儀のタイミングを見計らうのが難しいことがあります。そのため「失礼な人」と見なされることがあります。このような時には、「◯◯の場面では、△△と挨拶します。」など、具体的に一つ一つ教えていきます。
表情や言動が不自然に見える場合であっても、それが特性であることを理解し、個人的に責めることは避けます。しかし、より適切な対応を教えること、それによって周囲の人がどのように受け止めるのかを説明するのは効果的です。本人がわかるように説明し、納得すると、望ましい行動を取りやすくなります。
場の雰囲気や相手の感情を考慮せず、率直に物事を言う傾向があります。これが、「無神経」や「攻撃的」と受け取られることがあります。また、目を見て話さない、表情が乏しいなどの行動は、「興味がない」または「不機嫌だ」と誤解されることがあります。このような時には、他の人はどのように感じることがあるのかを伝え、適切な態度や対応を教えていきます。
「周囲の人を見て学ぶべきだ」「社会人なんだから、これくらいのことは当たり前」と思わずに、一つ一つ適切な対応を教えるようにしてください。同じような場面が繰り返すのであれば、前回と似たような場面のことを振り返り、その時の適切な行動について復習することもできます。
明確で具体的な指示を出す
曖昧な指示を正しく理解できず、期待された結果を出せないことがあります。例えば、「時間があったらやっておいて」という指示をそのまま受け取り、時間がなかった場合は全く手を付けないことがあります。
このような時には曖昧な表現を避け、具体的な行動を指示するよう心がけます。例えば、「この書類を明日の午後5時までに提出してください」というように、期限や具体的な行動を明示します。
コミュニケーションを工夫する
定期的なフィードバックを行い、指示が正しく理解されているか確認するようにします。非言語的なサインを読み取るのが難しいため、口頭だけでなくメールや文書での指示も活用すると効果的です。重要なポイントは繰り返し確認し、必要ならば図解やリストを使って説明するようにします。
法的支援と障害者雇用制度の活用
日本では、障害者の雇用促進と職場定着を支援するために、障害者雇用に関わるさまざまな法律や制度が整備されています。代表的なものには「障害者雇用促進法」があります。この法律は、障害者が能力を発揮し、社会で自立できるようにすることを目的としています。
アスペルガー症候群などの発達障害の人も、精神障害者保健福祉手帳を取得することができます。障害者手帳があると、企業では障害者雇用率としてカウントすることができます。また、障害者雇用促進法に基づく助成金等を活用することで、障害者の雇用環境の整備に活用することができます。
現在の障害者雇用率は2.5%です。アスペルガーは精神障害者保健福祉手帳に含まれ、週20時間以上の雇用であれば1カウント、10時間以上20時間未満の雇用であれば0.5カウントとして障害者雇用率にカウントすることができます。
本人がアスペルガーの自覚がないときは、どうしたらよいか
アスペルガー症候群の自覚がない場合、本人にとっても周囲にとっても、適切なサポートや対応をとることが難しくなります。このような状況の場合、障害者の合理的配慮というよりも「マネジメント」の一環として対応することになります。本人が自分の特性について気づいていないのであれば、仕事に対するフィードバックを丁寧に行い、本人が自分に当てはまる部分を自己評価できるようにしてください。
アスペルガー傾向のある人は、職場でコミュニケーションの誤解によるトラブルがよくあります。例えば、次のような状況があるかもしれません。
会議中に上司が「このプロジェクトに関する資料を早めにまとめておいてくれる?」と頼んだとします。アスペルガーのある人は「早めに」という指示を具体的に理解できず、自分のペースで作業を進めてしまうことがあります。その結果、上司の期待するタイミングに資料が完成しておらず、上司が「指示を無視された」と感じてしまうことがあります。
このような場面が度々ある場合には、同僚や上司は、本人の行動やコミュニケーションのパターンを注意深く観察し、気になる点を記録しておくようにします。この記録は、具体的な事例やパターンを理解するために役立ち、後のステップでの説明や相談に活用することができます。
本人が自覚を持つためには、信頼関係が非常に重要です。上司や同僚は、日常のコミュニケーションを通じて、本人との信頼関係を築くよう努めるようにします。これにより、本人が助言やフィードバックを受け入れやすくなります。
本人に自覚を促す際には、直接的な指摘ではなく、穏やかで配慮のあるアプローチが重要です。例えば、「最近、少し困っていることがあると感じているのですが、一緒に解決方法を考えませんか?」といった提案をします。上司としてマネジメントしているのであれば、1on1のときに伝えるようにするのもいいでしょう。
問題や課題に対しては、具体的にそれをどのように改善するのかを明確にします。なぜ、それが問題や課題になっているのかがわからない時には、何のためにおこなうのか、周囲の人の影響などについても説明するとよいでしょう。
改善することについては、具体的に決めます。例えば、締切などの期限に関することであれば目安となる日時を設定したり、スピードやクオリティに関することであれば、現状がどれくらいで、目標としてはどれくらいを目指してほしいのかを数字などで明確に示します。また、一度で伝わらないことも多いので、その後に本人が適切に業務を進められているかを定期的に確認していくことも重要です。
本人が自己理解を深めるためには、専門家の助言が有効的です。本人が自分の特性に気づき、悩んでいるようであれば、職場のカウンセラーや産業医、外部の専門家に相談し、アスペルガー症候群に関する評価やアドバイスを受けることを提案することもできるでしょう。本人にとって負担が少なく、自然な流れで専門家にアクセスできるように配慮します。
まとめ
アスペルガーやアスペルガー傾向のある人が職場にいる時には、アスペルガーの思考回路の特性や違いについて理解することが大切です。一般的に常識だと考えられているビジネスマナーや対応が、アスペルガーの人にとっては当たり前でないことがあります。そのために問題とされる状況が起こります。
職場でアスペルガーや一緒に働く社員も含めて働きやすい環境を作るためには、彼らの特性を理解するとともに、それから生じるコミュニケーションの課題や感覚過敏、礼儀作法や表情の問題に対して、明確で具体的な指示や柔軟な対応、そして継続的なサポートをすることが必要です。障害者手帳を持っているのであれば、障害者雇用制度を活用するとよいでしょう。
本人がアスペルガーの自覚がない場合には、信頼関係を築きながら、丁寧にフィードバックを行い、自覚を促すための配慮や適切な1on1が必要です。場合によっては、専門家の助言を取り入れ、本人が自己理解を深めるサポートを提供することにより職場で能力を発揮しやすくなります。
0コメント