注意欠陥・多動性(ADHD)は、その症状から学齢期の子どもをイメージしがちですが、大人の発達障害でもこの偏りを示す人は多く見られます。この偏りの原因は、脳内の情報伝達物質の不足と考えられています。
ここでは、注意欠陥・多動性(ADHD)の特徴や特性が見られる例、困難さの感じ方についてみていきます。
3つの特性に注目して診断される
注意欠陥・多動性(ADHD)は、ケアレスミスや忘れ物、なくし物を頻発する「不注意」と、思ったことをすぐに行動に移す「衝動性」、落ち着いていることができない「多動性」といった3つの発達特性があります。
注意欠陥・多動性(ADHD)に関する研究では、この3つの特性は、成長する過程で多動性が弱くなり、次に衝動性を抑えることができるようになり、不注意は最後まで残ると考えられています。また、ADHDの人の約60%の人は大人になっても症状が残ると言われています。
幼児期に現れる注意欠陥・多動性(ADHD)の特徴的な症状
注意欠陥・多動性(ADHD)は、自閉スペクトラム症(ASD)と同じように、幼児期から症状が現れます。12歳までに特性による特有の症状が現れ、6ヶ月以上持続すると注意欠陥・多動性(ADHD)と診断されます。
典型的な行動の特徴としては、次のようなものがあります。
・注意を持続することができない
・直接話しかけられても聞いていない
・指示に従えない
・気が散って集中できない
・日々の活動を怠けたり、親のいいつけなどを先延ばしにしたりする
・座っていても、そわそわしたり、もじもじしている
・精神的努力の持続を要することを避けたがる
・座っているべき場面でうろうろする
・静かにしていられない
・しゃべりすぎる
・順番を待てない
・他人の邪魔をする
・大声で叫ぶように返事をする
・無茶をして事故を起こしやすい
注意欠陥・多動性(ADHD)の原因
注意欠陥・多動性(ADHD)が起こる詳しい原因は、まだわかっていません。脳の前頭葉の遂行機能や実行機能の障害など、いくつかの仮説が立てられていますが、ドーパミンなどの脳内の神経伝達物質の働きに障害があるという説が有力視されています。また、不注意が起こる原因として、情報を一時的に記憶するワーキングメモリーが関わっているという説もあります。
ワーキングメモリーの容量が小さいと、ある目的のために行動しているうちに、他の新たな情報が入ってくると、先に取り組んでいた目的を忘れて新しい情報に注意が向いてしまい、結局先の目的が達成できなくなってしまいます。
注意欠陥・多動性(ADHD)の人が日常生活で感じるさまざまなトラブル
注意欠陥・多動性(ADHD)の人は、不注意、衝動性、多動性の3つの発達特性によってよるトラブルから生きづらさを感じます。ミスを繰り返したり、人に怒られたり、がっかりされたりすることで自信を失いがちです。日常生活で起こる様々なトラブルの例を見ていきましょう。
不注意の特性が現れる主な例
・約束の時間を守れない
・長時間、人の話を聞けない
・授業や仕事などに集中できない
・忘れ物や物をなくすことが多い
・ケアレスミスが多い
・片付けができない
衝動性の特性が現れる主な例
・思ったことをすぐに言ってしまう
・人の話に割り込んでしゃべる
・結果を考えずに、すぐ行動する
・衝動買いが止められない
・気が散りやすい
・我慢して待つことが困難でイライラすることが多い
・ささいなことでも腹をたてる
多動性の特性が現れる主な例
・授業中や仕事中でも、そわそわして落ち着きがない
・貧乏ゆすりがやめられない
・話し出すととまらない
・いろんな考えが浮かんで、考えがまとまらない
・仕事や用件を後回しにする
このような特性の現れ方は、状況や時期によって変動があります。どの特性が特に目立つのかにより、不注意優勢状態、多動性衝動性優勢状態、混合状態の3つに分類されます。
小さなミスが自信喪失につながる
注意欠陥・多動性(ADHD)の人は、幼い頃から不注意などの発達障害特性によって、作業のミスや人づき合いで失敗することが多く、「自分は何をやってもダメだ」というあきらめから、自尊感情が低下していることが多く見られます。
中には成功体験が乏しいことから、成功することに違和感を持っている人もいます。そのため他人から褒められると自己評価を高めるのではなく、何か裏があるのではないかと自分を褒めてくれた相手に不信感やケースもあります。
また、自尊感情の低下から、自分の力を誇示するために暴力や非行など間違った方向に走り、反社会的な行動を繰り返す素業症や反社会性パーソナリティ障害などを起こすこともあります。さらに何をするにも常に不安感や緊張感がつきまとい、心理的なストレスが蓄積することで、うつ状態に陥ることもあります。
自信を失っていく悪循環
「失敗をする」→「注意や叱責を受ける」→「自信を失う(自尊感情が低下する)」→「どうせダメだとあきらめながら行動する」→「失敗する」・・・という悪循環を繰り返しやすくなってしまいます。
普通の人が普通にできることができないことを思い詰めてしまい、多大なストレスを抱えることでうつ状態や、常に不安に取りつかれる不安障害などを併発することもあります。また劣等感から、暴力で人の上に立とうとしたり、自分の力を示すために非行を繰り返したりすることもあります。ときには行動がエスカレートして、犯罪に走るケースもあります。
2つの発達障害を併せ持つ人も多い
注意欠陥・多動性(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)は別のものですが、1人の人が両方の特性を併せもっていることも少なくありません。
注意欠陥・多動性(ADHD)の主な特性は、不注意、衝動性、多動性、自閉スペクトラム症(ASD)は、社会性の障害、コミニケーションの障害、想像力の障害(限定的で反復的な関心と行動)と、それぞれ異なった診断基準によって診断される全く別の発達障害です。しかし、大人になってから発達障害を受診する人のなかには、複数の発達障害を併せ持っている人が多くいます。
これまで注意欠陥・多動性(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)は併存しないと考えられていたため、国際診断基準であるDSM-Ⅳでは、両方の診断基準を満たしている場合、自閉スペクトラム症(ASD)の診断を優先的につけることになっていました。しかし、DSM-5への改訂でこのような制約がなくなり、両方の診断名を併記するように変更が加えられました。
このようなケースでは、不注意や多動性が顕著でも自閉的特性を伴うなど、両方の発達特性によって生じる生活上の困難が増えます。そのためいっそう生きづらさを感じることになります。
このようにある障害や疾患を発症している人が、もともと別の障害や疾患を併せ持っていることがあります。これを併存症といいます。注意欠陥・多動性(ADHD)の人のなかには、幼少期から併存症のあるケースもあり、一般的に認められている併存性としては次のようなものがあります。
うつ状態
意欲の低下、睡眠障害などが長期にわたって現れる状態を指します。うつ病と診断されることも多いですが、発達障害の専門医の観点から見ると、うつ病ではなくうつ状態であることが多いそうです。
不安症
不安の原因が特定されない状態のまま、心配や不安を感じている状態が長く続きます。
学習症(LD)
知的発達に遅れはないものの、読む、書く、計算などの能力の習得に著しい困難を示します。
非行や犯罪につながる併存性もある
発達障害の併存症には、非行や犯罪などの反社会的な行動をとることもあります。犯人が発達障害の傾向があったりすると、ニュースなどで大きく取り上げられることもありますが、発達障害の中でもこのような特性を持つ人はごく一部です。
反抗挑発症(反抗挑戦性障害)
就学前から小児期に発症が見られます。就学前の子どもでは、長期間にわたり毎日のように感情をむき出しにしたり、意地悪や執念深くわざと他人をいらだたせるような言動や挑発的な態度をとる、大人に従うことに積極的に反抗するなどの態度が見られます。
素行症
小児期から青年期に発症します。反抗挑発性よりも素行の程度が激しく、人や動物に対する攻撃性があったり、頻繁にいじめる、暴力を振ったりする、ときにはナイフなどの凶器を使用して危害を加えることもあります。
また、放火や窃盗などの犯罪につながることもあります。男性では、けんかや窃盗が多く、女性では嘘をつく(虚言)、家出、売春などが多くなる傾向が見られます。
反社会性パーソナリティ障害
DSM-5の診断基準では、診断の対象は18歳以上の青年とされ、15歳以前に素行症の症状が現れていることが診断の条件となります。
自分の利益や快楽のために、人を欺いたり、暴力を振ったりしますが、自責の念を感じることはないようです。また、自分の安全に関しても無視するような無謀な行動をとることが多く、スピード違反や飲酒運転などを起こすことがあります。法を犯すことに抵抗がなく、犯罪を繰り返すケースもあります。
動画の解説はこちらから
まとめ
注意欠陥・多動性(ADHD)の特徴や特性が見られる例、困難さの感じ方についてみてきました。
注意欠陥・多動性(ADHD)の症状から、学齢期の子どもをイメージしがちですが、大人の発達障害でもこの偏りを示す人は多く見られます。この偏りの原因は、脳内の情報伝達物質の不足と考えられています。
また、注意欠陥・多動性(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)は別のものですが、1人の人が両方の特性を併せもっていることも少なくありません。自信を失っていく悪循環を繰り返さないようにすることが大切です。
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