最低賃金が上がる理由とその影響~障害者雇用の現場で求められる変化~

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2024年09月6日 | 障害関連の情報

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近年、日本全国で最低賃金の引き上げが進んでいます。この動きは、経済成長や労働者の生活向上を目指すための重要な施策として位置づけられていますが、その一方で、企業経営や労働市場、障害者雇用にも影響があります。

障害者雇用として取り組まれている業種や仕事内容によっては、最低賃金を基準として給与を設定している場合が多く、賃金引き上げがもたらすコスト増加の影響を受けやすい状況にあります。このような企業にとって、最低賃金の引き上げは、障害者の雇用維持や新規採用において大きな課題となることが少なくありません。

今回は最低賃金が上がる背景やそこから受ける影響について見ていきます。

なぜ、定期的に最低賃金が上がるのか?

最低賃金とは、国が決める賃金の下限になります。日本では最低賃金法があり、使用者はその水準以上の賃金を労働者に支払う必要があり、従わないと罰則が設けられています。この最低賃金は、物価や経済情勢に応じて毎年見直されています。

労働者の生活水準を保障するため、日本以外の多くの国で導入されており、近年は労働者の格差是正の観点から米国や英国、フランスなどで引き上げが積極的に議論されています。また、政府としても「2030年代半ばまでに全国加重平均が1500円となることをめざす」ことが示されています。
最低賃金の引き上げが進められる背景には、経済的、社会的、そして政治的な理由が存在します。これらの要素は相互に関連し合いながら、労働者の生活向上や社会全体の安定を目指して最低賃金の見直しを促進しています。

経済的理由

最低賃金の引き上げは、主に労働者の生活を保障するために求められています。物価の上昇や生活費の増加により、現行の最低賃金では生活が困難な状況が多くの労働者に生じており、そのため賃金の底上げが必要とされています。最低賃金を引き上げることで、労働者の購買力が向上し、経済の活性化につながるとされています。消費の増加は経済成長を促進し、結果として企業の利益にも貢献する可能性があります。
また、最低賃金の引き上げは、物価上昇に伴う実質的な賃金の目減りを防ぐ役割も果たしています。インフレーションが進む中で、最低賃金を引き上げることは、特に低賃金の労働者が生活を維持するために必要な措置と考えられています。

社会的理由

最低賃金の引き上げは、賃金格差の是正や貧困対策としての役割も果たしています。低賃金層の労働者の生活の質を向上させることで、社会全体の経済的安定を図ることが期待されています。賃金格差の拡大は、社会の分断を生み出し、経済的な不安定を引き起こす要因となることがあります。最低賃金を引き上げることで、低所得者層の収入を底上げし、経済的不平等を緩和することが狙いです。
さらに、最低賃金の引き上げは、貧困削減の一環としても重要な役割を担っています。低賃金の労働者が生活費をまかなうことができるようになることで、福祉への依存度を減少させ、政府の支出を削減する効果も期待されています。これにより、社会的なコストが軽減され、より持続可能な経済が実現されると考えられています。

政治的背景

最低賃金の引き上げは、政府や地方自治体の政策の一環として進められています。これは、労働者の権利向上を目指した政策の一環として位置づけられており、労働者の生活保障を強化することで、社会の安定と経済の成長を図る狙いがあります。特に、労働組合や労働者の権利擁護団体からの圧力も、最低賃金の引き上げに影響を与える要因となっています。
また、政府は選挙時に公約として最低賃金の引き上げを掲げることが多く、これが実際の政策として反映されることもあります。最低賃金の引き上げは、労働者に対する支持を得るための重要な施策として政治的な意義を持っています。政府や地方自治体は、最低賃金の引き上げを通じて社会的な公平性を確保し、経済的な安定を目指すとともに、政治的な支持を集めようとしているのです。
これらの経済的、社会的、そして政治的な理由が重なり合うことで、最低賃金の引き上げが全国的に進められているのです。続いて、これらの背景が障害者雇用の現場にどのような影響を与えるのかについて考察します。

令和6年度の最低賃金は?

では、令和6年度の最低賃金はいくらになるのでしょうか。令和6年7月25日に開催された「第69回 中央最低賃金審議会」で、令和6年度の地域別最低賃金額改定の目安について、答申の取りまとめが行われました。

この中では、都道府県の経済実態に応じ、全都道府県をA~Ⅽの3ランクに分けて、引上げ額の目安が提示されています。現在、Aランクは東京都などの6都府県、Bランクは茨城県などの28道府県、Cランクは沖縄県などの13県となっています。

地域別最低賃金額の各都道府県の引上げ額の目安については、Aランク50円、Bランク50円、Cランク50円です。

出典:令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について(厚生労働省)

全国加重平均の上昇額は50円となりますが、これは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額となります。ちなみに昨年度は43円でした。これを引上げ率に換算すると5.0%(昨年度は4.5%)となります。

目安どおりに改定されると、令和6年度の地域別最低賃金額は、全国加重平均額で1,054円となります(現在は1,004円)。新しい最低賃金は、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定後、10月1日~11月1日に発効されます。最も高い東京都では現行の時間額1,113円を50円引き上げて1,163円となります。

最低賃金引き上げの影響は?

最低賃金の引き上げは、企業や労働市場にさまざまな経済的影響を及ぼします。特に、中小企業や障害者雇用を行う企業にとって、最低賃金の引き上げは大きな負担となる可能性があります。また、労働市場全体においても、賃金の上昇が雇用の流動性や競争に影響を与えることが考えられます。

最低賃金引き上げに対する企業の反応

東京商工リサーチが2024年8月1日~13日にインターネットによるアンケート調査を実施して、有効回答5,506社を集計分析した調査結果によると、「引き上げ後の最低賃金額より低い時給での雇用はなく、給与は変更しない」と回答した企業が最も多く、59.6%で過半数を占めました。

出典:2024年「最低賃金引き上げに関するアンケート」調査(東京商工リサーチ)

なお、資本金1億円未満(個人企業等を含む)の中小企業で見ると、回答企業の58.77%は「引き上げ後の最低賃金額より低い時給での雇用はなく、給与は変更しない」との回答でした。

一方で、「引き上げ後の最低賃金より低い時給での雇用はないが、給与を引き上げる」は21.57%、「現在の時給は引き上げ後の最低賃金額を下回っており、最低賃金額と同額まで給与を引き上げる」が12.02%、「現在の時給は引き上げ後の最低賃金を下回っており、最低賃金額を超える水準まで給与を引き上げる」が7.65%となっており、中小企業の約4割の企業は最低賃金の引き上げに伴い、何らかの形で給与を引き上げると回答しています。


出典:2024年「最低賃金引き上げに関するアンケート」調査(東京商工リサーチ)

また、最低賃金の上昇への対策について3,779社に聞いたところ、最も高かった回答は「商品やサービスの価格に転嫁する」(48.5%)で、続いて「設備投資を実施して生産性を向上させる」(26.7%)、「雇用人数を抑制する」(16.7%)となっています。「できる対策はない」と回答した企業も18.3%ありました。

出典:2024年「最低賃金引き上げに関するアンケート」調査(東京商工リサーチ)

企業が受ける影響

最低賃金の引き上げは、企業にとって賃金コストの増加を意味します。これは特に中小企業や障害者雇用を積極的に行っている企業にとって大きな経済的負担となります。最低賃金が引き上げられることで、これらの企業は従業員に支払う賃金が増加し、結果としてコストが増大します。特に、利益率の低い企業や労働集約型の企業にとっては、この賃金コストの増加が財務状況に直接的な悪影響を及ぼす可能性があります。

中小企業は、大企業に比べて資金力が限られているため、賃金引き上げの影響を受けやすい傾向があります。例えば、最低賃金の上昇に伴い、パートタイム労働者やアルバイトの賃金を引き上げることにより、人員削減を行わざるを得なくなる場合があります。また、賃金コストの増加により、商品の価格を引き上げざるを得ず、これにより市場での競争力を低下させるリスクがあるかもしれません。

労働市場への影響

パート・アルバイトの人の時給があがると、今まで社会保険料を支払わなくてもよかった人でも年収の壁(106万円、130万円)を超えることにより、社会保険料の支払いが生じてくるケースがあります。また社会保険に加入することは、会社と従業員それぞれが負担することになるため、従業員の中には逆に手取りが減ったり、税金がかかってくる場合もあるでしょう。そのため休みを増やして、働く時間を減らそうとするかもしれません。

企業では人手不足で働き手が欲しいのに、従業員に働いてもらえない状況が発生したり、社会保険料や税金を支払わなければならない年収になると、もっと働いてもっと稼ぎたいという考え方になるかもしれません。

これは、賃金が上がることで、労働者にとってはより高い収入が期待できる企業を選ぶ動機が強まるため、労働市場での競争が激化する可能性があります。具体的には、高い賃金を提供できる企業に優秀な人材が集まりやすくなり、これがさらなる企業間の格差を生む要因となり得ます。

最低賃金の引き上げは、企業や労働市場にも大きな影響を与える可能性があります。

障害者雇用の現場での変化

最低賃金の引き上げは、障害者雇用にも大きな影響を与えます。特に、給与設定の見直し、雇用の維持における課題、そして雇用の質の向上といった側面から、企業は新たな対応を迫られることが考えられます。

給与設定の見直し

最低賃金の引き上げに伴い、障害者雇用を行う企業は給与設定の見直しが必要となるところがあります。業務内容にもよりますが、最低賃金に基づいて給与を設定している企業が多く、最低賃金の引き上げが決定されると、これに準じて障害者労働者の給与も再評価する必要があります。

雇用維持の課題

最低賃金の引き上げは、障害者の雇用を維持することに対する新たな課題を感じさせるかもしれません。特に、障害者労働者が多数を占める企業や、特別な支援や設備を必要とする障害者を雇用している企業にとっては、賃金の上昇が経済的な負担となる可能性があります。コストの増加に伴い、企業は新規採用を控えたり、既存の雇用者に対する支援体制を縮小することも検討せざるを得ないかもしれません。

特に、労働集約型の業種や、労働者一人あたりの生産性が低い業種においては、この影響が顕著に現れる可能性があります。したがって、障害者雇用を継続するためには、企業は賃金の引き上げに対応するために労働者のスキル向上を図るための研修を実施することや、業務の効率化を図ることで、生産性を高めるといった取り組みが求められるかもしれません。業務内容や雇用の質を向上させることが大切です。

まとめ

最低賃金の引き上げは、労働者の生活向上や経済の活性化を目指す一方で、企業経営に多大な影響を及ぼします。特に中小企業や障害者雇用を行う企業にとっては、賃金コストの増加が経営の大きな負担となります。

また、最低賃金の上昇は、障害者雇用の現場でもさまざまな課題をもたらします。給与設定の見直しや雇用維持の難しさが顕在化する中で、企業は新たな対応を迫られることになります。生産性の向上や効率化を図るための施策が求められ、労働者のスキル向上も必要となるでしょう。

最低賃金の引き上げによる影響を最小限に抑え、障害者の雇用を維持・拡大するためには、企業が収益体制を確保できるビジネスモデルをもつこと、そしてそれに携わる人材を育成していくことが求められます。今までは障害者が携わっていなかった業務でも、業務の組み換えや柔軟な対応策を講じることで担当できるようにするなど、持続可能な雇用環境の構築を考えていくことが大切です。

動画で解説

参考

障害者雇用の給与等の雇用条件をどのように決めたらよいか

障害者の給与でよく聞く最低賃金とは?法律、減額特例許可制度を解説

障害者雇用の給与は、なぜ安い?~特例子会社のストから考える~

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