障害者雇用をスムーズに進めるためには、採用後のトラブルを未然に防ぐ必要があります。障害者採用では、採用に必要なことがあります。これらの準備や理解が不足していると、採用後に様々なトラブルが発生します。
トラブルを未然に防ぎ、安定的な障害者雇用を進めるためのポイントについて、これまで200社以上の企業を見てきた経験から、障害者採用を成功させるためのポイントについて解説していきます。
障害者採用の前に行うべきこと
障害者雇用を成功させるためには、採用前の準備がとても重要です。障害者雇用では、法定雇用率があるために「障害者雇入れ計画書」の提出が求められたり、厚生労働省からの呼び出し、企業名公表などの期限が迫ると、「とりあえず雇用しよう」となりがちですが、準備しないで雇用すると失敗します。採用前には、以下のポイントを押さえることが必要です。
職務内容の明確化
各職種における障害者の役割と適性の確認
採用前に、各職種において障害者が果たすべき役割と適性を明確にすることが必要です。これにより、障害者がその強みを活かして働けるポジションを見つけることができます。具体的には、各職務の内容や必要なスキルを詳細にリストアップし、その職務に適した障害者の特性や能力を確認します。
適切な業務分担とアシスト方法の検討
障害者が最大限に能力を発揮できるように、適切な業務分担とアシスト方法を検討します。例えば、障害の特性に応じて業務を調整し、必要なサポートを提供することで、効率的に業務を遂行できる環境を整えます。これには、適切なツールやテクノロジーの導入、職場内でのアシスタントの配置などが含まれます。
採用プロセスの見直し
公平な選考基準と面接方法の設定
障害者を採用する際には、公平な選考基準と面接方法を設定することが重要です。選考基準は、職務に必要なスキルや能力を基にし、障害に関わらず平等に評価されるようにします。面接方法についても、障害に配慮した形式や時間配分を考慮し、公正な評価が行えるように工夫します。
採用前のインターンシップ
採用前のインターンシップは、障害者にとって職場環境や業務内容を実際に体験する貴重な機会であり、企業側にとっても適性や能力を見極めるための有効な手段です。インターンシップを行うと、実際に雇用後のイメージができるので、採用後のミスマッチを防ぐことができます。
インターンシップは「採用」を前提とした内容で行うと効果的です。実際にその実務ができるスキルや体力があるのかを把握できるからです。書類や面接では当然ですが、よい点を中心にアピールされていますが、インターンシップで実務を行うことで、その速さや正確性、業務として受け入れられるレベルなのかがわかります。インターンシップ中や終了時に、障害者の適性や業務遂行能力を評価します。
障害に配慮した選考の実施
選考過程においては、障害者の特性やニーズに配慮した対応が求められます。例えば、聴覚障害者には筆談や手話通訳を提供し、視覚障害者には適切な情報提供方法を検討します。また、精神障害者に対しては、リラックスした環境や充分な休憩時間を設けるなど、面接時のストレスを軽減するための工夫が必要です。
これらの採用前の準備を徹底することで、障害者が自分の能力を発揮できる職場を作り出し、採用後のトラブルを防ぐことができます。企業は障害者の雇用を通じて、多様な人材が共に働くインクルーシブな職場環境を実現し、組織全体の成長と発展を促進することができるのです。
障害者採用後に行うべきこと
オリエンテーションの実施
採用後すぐに、障害者向けのオリエンテーションを実施し、職場のルールや業務内容、利用可能な支援サービスについて説明してください。これにより、障害者がスムーズに職場に適応しやすくなります。
担当者の配置とトレーニング
また、障害者雇用では業務をする中で指示や質問できる担当者を置くことが一般的です。直属の上司でもいいですが、席を外すことが多いような立場の人であれば、サブでもう一人の担当者を設けておくといいでしょう。
特定の業務に対する必要なスキルが足りないようであれば、習得するためのトレーニングプログラム等を提供し、業務ができるようにサポートします。
定期的な面談とフィードバック
障害者と定期的に面談を行い、業務の進捗や職場環境に関するフィードバックを提供します。これにより、問題が発生した場合に早期に対処できるだけでなく、障害者の業務遂行能力や職場適応度を継続的に向上させることができます。
面談では、業務のフィードバックをしてください。障害当事者の認識と企業側の認識が異なることがよく見られます。企業の担当者は「業務に時間がかかりすぎる。」「業務クオリティに達していない」と感じているのに、当事者は「自分は頑張っている。よくできている。」と評価していたりすることがあります。双方の認識が一致していないと、トラブルの原因になりかねません。
また、障害特性によっては、ふわっとした言い方や曖昧な表現だと伝わらないことが多いので、「10段階の◯段階です。」のように数字などで示すと、伝わりやすくなります。業務のフィードバックに加えて、職場環境や仕事のやり方などについては、障害者自身の意見やニーズをヒアリングし、柔軟に対応する姿勢が重要です。
相談窓口とサポート体制の整備
障害者雇用促進法改正(2016年)から障害者への合理的配慮の一環として、「相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助」が求められています。
相談体制の整備や、その他の雇用管理上必要な措置としては、相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知することや、相談者のプライバシーを保護するために必要な対応をとること、相談内容を理由として不利益な取扱いを禁止することと、労働者にそれを周知・啓発すること(就業規則、社内報、パンフレット、社内ホームページなど)が含まれます。
企業によって対応は異なりますが、従業員数の少ない企業では、パワハラなどの労働に関する職場の課題を相談できる窓口に、障害に関するものを付加したり、社員専用のイントラネットを活用して体制を整えたりしているところがあります。また、従業員数が多い企業では、メンタルヘルスなどの外部の専門家や支援機関と連携していることもあります。
企業の合理的配慮についての詳細は、HRプロのコラム「企業が知っておくべき障がい者雇用の合理的配慮とは」で解説していますので、参考にしてください。(文末の参考に掲載)
外部支援機関や専門家との連携
障害者雇用では、外部支援機関や専門家がいますので、連携等をはかることは有効的な方法です。障害当事者のことについては、就労を支援した機関や学校があれば、そのスタッフや進路担当の先生に連絡してみてください。また、労働問題等に関しては、社会保険労務士等に相談することをおすすめします。
ノウハウを持つ専門家との連携を図ります。例えば、障害者支援団体やリハビリテーション専門家、労働衛生コンサルタントなどと協力し、障害者のニーズに対応した支援策を講じます。専門家の助言やサポートを受けることで、より効果的な障害者雇用の実現が可能となります。
採用で失敗しない企業が行っている5つのこと
障害者雇用の採用で失敗しない企業が特に力をいれて行っている5つのポイントは、次のことです。
1.職種における障害者の役割と適性の確認
成功する企業は、採用前に各職種における障害者の役割と適性を詳細に確認しています。これは、障害者が自身のスキルや特性に合った職務に従事できるようにするためです。
2.採用プロセスの適正化
採用プロセスの適正化は、公平な選考を実現し、適切な人材を確保するための重要なステップとなります。成功する企業は、選考基準や面接方法を見直し、障害者に対して公平な評価が行われるようにしています。具体的には、障害に応じた面接形式の導入や、必要に応じた合理的配慮を行うことで、障害者が自身の能力を正確にアピールできるようにしています。また、求める人材が採用できていないのであれば、採用プロセス自体の見直しが必要となります。
3.採用前のインターンシップ
採用前のインターンシップは、企業と障害者の双方にとって非常に有益です。成功する企業は、インターンシップを通じて障害者が実際の業務環境を体験できる機会を提供しています。これにより、企業側は障害者の適性や業務遂行能力を評価し、適切な配属を検討することができます。また、障害者にとっても自分に合った職場かどうかを見極める貴重な機会となります。
4.オリエンテーションとトレーニングプログラムの実施
採用後のはじめの段階で、オリエンテーションを実施してください。職場のルールや業務内容の説明を行うことで、職場に順応しやすくなります。もし、必要なスキルが足りていないようであれば、補足するトレーニングを行い、障害者が自信を持って業務に取り組めるようにサポートします。
5.定期的な面談とフィードバック
定期的な面談とフィードバックは、障害者が職場で直面する課題を早期に発見し、適切に対処するための重要な手段です。職場定着している企業では、定期的な面談を実施し、業務の進捗や職場環境に関するフィードバックを提供しています。これにより、障害者の働きやすさを向上させ、長期的な雇用関係を築くことができます。また、フィードバックを基に業務の改善点やサポートの必要性を適宜見直してください。
動画で解説
まとめ
障害者雇用をスムーズに進め、採用後のトラブルを未然に防ぐためには、採用前の準備と採用後のフォローがとても重要です。ここまで紹介してきたポイントを押さえることで、企業は障害者が安心して働ける環境を提供し、彼らの能力を最大限に引き出すことができます。
採用前の準備としては、職務内容の明確化、採用プロセスの見直し、採用前のインターンシップを行ってください。特にインターンシップは、障害者が実際の業務環境を体験し、適性や業務遂行能力を評価することで、採用後のミスマッチを防ぐのに効果的です。
採用後には、入社直後にオリエンテーションや定期的な面談とフィードバックを実施してください。職場のルールや業務内容、利用可能な支援サービスについて説明することで、スムーズな適応を支援します。また、必要に応じて外部支援機関や専門家と連携するとよいでしょう。
参考
労働問題に関する相談は、労働の専門家である社会保険労務士(社労士)へ相談するとよい
企業が知っておくべき障がい者雇用の合理的配慮とは(HRプロ)
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