中小企業の障害者雇用を進めるために創設された障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度である【もにす認定制度】。その背景には、法定雇用率の未達成企業、及び障害者の雇用数が0人である企業を従業員の規模で見ると、従業員が300人未満の企業が大半を占めていることが関係しています。
このような現状を打破して、中小企業の障害者雇用の促進をはかるため、個々の中小事業の障害者雇用の進展に対する社会的な関心を呼び起こしたり、障害者雇用に対する経営者の理解を促進や、先進的な取組を進めている企業が社会的なメリットを受けることができるようにつくられているのがもにす認定制度です。
ここでは、中小企業の障害者雇用の状況や、もにす制度の認定基準、また、本当に中小企業のための制度となっているのかについて、考えてみたいと思います。
中小企業の障害者雇用
障害者雇用は、全体として実雇用率は順調に伸びていますが、中小企業の取組は遅れていると言われています。それは、企業規模別実雇用率や、企業規模別達成企業割合を見てもわかります。
法定雇用率の未達成企業、及び障害者の雇用数が0人である企業を従業員の規模で見ると、従業員が300人未満の企業が大半を占めることがわかります。また、未達成企業に占めるゼロ企業の割合をみると、45.5人以上100人未満の未達成企業の9割がゼロ企業となっています。
企業規模別実雇用率と企業規模別達成企業割合
出典:障害者の雇用の状況(厚生労働省)
中小企業における障害者雇用の課題
中小企業が障害者雇用を行う上で課題となっている点は、どのようなことでしょうか。今まで障害者を雇用できなかった企業へのアンケートでは、障害者雇用をしなかった理由として、次の点が挙げられています。
・職務の設定や作業内容、作業手順の 改善が困難だった
・採用・選考に関するノウハウが乏しかった
・支援者・指導者の配置等、人的支援体制の 整備が困難だった
・労働条件の設定が困難だった
・障害種類や障害の配慮の必要点等をよく知らなかった
・施設・設備等、障害者受入れの ハード面の整備が困難だった
このような現状もあり、中小企業の障害者雇用の促進をはかるため、個々の中小事業の障害者雇用の進展に対する社会的な関心を呼び起こしたり、経営者の障害者雇用に対する理解促進や、先進的な取組を進めている企業が社会的なメリットを受けることができるように、障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度である【もにす認定制度】が、創設されました。
障害者雇用に関する優良な中小事業主の認定制度(もにす認定制度)について
もにす認定制度のメリット、認定基準について、見ていきます。
もにす認定のメリット
・自社の商品、広告等への認定マークの使用
・求人票へのマークの表示
・認定マークの使用によるダイバーシティ・働き方改革等の広報効果
・障害のない者も含む採用・人材確保の円滑化
・好事例の相互参照・横展開
・地方公共団体の公共調達等における加点の促進 等
もにす認定基準の項目
障害者の雇用不足数が0であり、障害者を1人以上雇用し、障害者雇用促進法及び同法に基づく命令その他関係法令に違反する重大な事実がない事業主のうち、以下の評価項目ごとに加点方式で採点し、一定以上の得点のある事業主が認定されます。
取組(アウトプット)
・体制づくり ①組織面、②人材面
・仕事づくり ③事業創出、④職務選定・創出、⑤障害者就労施設等への発注 (障害特性に配慮した)
・環境づくり ⑥職務環境、⑦募集・採用、⑧働き方、⑨キャリア形成、⑩その他の雇用管理
成果 (アウトカム)
・数的側面 ⑪雇用状況、⑫定着状況
・質的側面 ⑬満足度、ワーク・エンゲージメント、⑭キャリア形成
情報開示 (ディスクロージャー)
・取組(アウトプット) ⑮体制・仕事・環境づくり
・成果(アウトカム) ⑯数的側面、⑰質的側面
もにす認定の状況について(令和2年12月)
出典:障害者の雇用の状況(厚生労働省)
もにす認定制度取得企業の特徴
もにす認定制度を取得している企業の特徴を見ると、以下の項目等で得点している企業が多くみられます。
・Ⅰ取組(アウトプット)のうち①組織面、③事業創出、⑥職務環境、⑦募集・採用
・Ⅱ成果(アウトカム)のうち⑪雇用状況、⑫定着状況
具体的には、どのような取り組みがされているのかについて、見ていきます。
①組織面
・障害者と共に働くことに対する社長の考えや心構えを記した携帯用カードを作成し全社員に配布している。
・精神保健福祉士等に相談できる窓口を設置し、会社生活を送るにあたり、抱える不安や悩みをいつでも気軽に相談できる体制を整備している。
・障害当事者である部長・課長が担当部署をマネジメントし、職位別の経営会議、情報連絡会に参加して当事者目線で課題を解決する。
③事業創出
・設立当初の障害者の業務はオフィスサポート業務のみであったが、健常者や委託業者が担っていた売店、メール業務を新たに任せることにした。
・新規の事業として、研修運営・清掃・リネンサプライ・障害者雇用農園(アグリ事業部)を立ち上げた等、障害者の新たな職域を開発した。
⑪雇用状況、⑫定着状況
・ 多品種少量生産方式を導入し、多様な業務を創出することができ、個々の障害特性に応じた業務の割り当てが可能となり、高い雇用率を維持している
・振り返り面談の際に保護者に同席してもらう、定期的な相談を行う際に手話通訳者を手配するなど、手厚いサポート体制を確立したことにより、過去3年 間に採用した障害者の就職1年後の定着率が100%となっている。
⑥職務環境
・多岐にわたる全ての業務をマニュアル化し、誰でも均一な成果が出せるよう工夫した。それにより、ミスがメンタル低下につながりやすい精神障害者の安定的な業務遂行を実現することができた。
・障害特性や障害の進行状態に基づく本人の希望を丁寧に把握し、通勤時間や勤務か日数の柔軟化、短時間勤務、在宅勤務を導入している。
・PC貸与や、オンライン環境を整備しテレワークを実施いている。
⑦募集・採用
・適切な担当業務のマッチングを実現するため、支援機関から障害者各人の能力や適性に係る情報を具体的に聞き、把握している。
・地域の特例子会社の見学や特別支援学校から職場実習受入れにより、採用にあたり留意する事項を具体化している。
もにす認定制度は中小企業の障害者雇用に役立つのか
もにす認定制度ができたのが、改正障害者雇用促進法(2020年4月)、そして、「もにす認定制度」で初の認定事業主が誕生したのは2020年10月と、運用から数年経過しています。
各地でもにす認定制度を受けた企業は増えているものの、特例子会社の割合が多く、また、それ以外の企業では、障害者雇用に関するサービスや関わる事業を行っていたり、障害者雇用に既に取り組み、表彰を受けたりしていたり、そういう情報が仕事の中で入手できる企業のエントリーが多いように感じます。
ちなみに障害者雇用にしっかり取り組んでいる(雇用率を達成している)ある中小企業の人事の方にお聞きしたところ、もにす認定制度については知りませんでした。概要を説明すると、官公庁がらみの入札の仕事を受けることも多いので、入札にメリットがあるのであれば取りたいが、この手の認定申請には書類の提出も煩雑で大変とのご意見でした。
中小企業の人事を担当されている方は、人事だけでなく、総務や、時には経理も兼任されていることが多く、何かの認証を受けるときの認定書類の煩雑さや手間を考えると、しっかりしたメリットがないと、なかなか難しいようにも感じます。障害者雇用があまりうまくいっていない企業にとって、本当に障害者雇用をサポートするための施策であるとすれば、もう少し違う方法がよいのではないか・・・とも感じてしまいます。
動画の解説はこちらから
まとめ
中小企業の障害者雇用を進めるために創設された障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度である【もにす認定制度】について見てきました。
もにす認定制度は、中小企業の障害者雇用の促進をはかるため、個々の中小事業の障害者雇用の進展に対する社会的な関心を呼び起こしたり、障害者雇用に対する経営者の理解を促進や、先進的な取組を進めている企業が社会的なメリットを受けることができるようにつくられています。
しかし、本来の対象となる中小企業に、どれくらい活用されているのか、役にたつのかという点については、まだ情報や、具体的なメリットが見えにくく、それに見合う申請の手間のほうが大きいようにも感じます。とはいえ、入札なのでの加点もありますので(地域によって異なります)、業種として入札を活用する場合には、一度調べてみるとよいでしょう。
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