精神障害を抱える人が増え、職場でも精神障害の方と接する機会が増えています。ストレス社会と呼ばれる現代では、本人だけでなく家族や職場の同僚も含め、「精神障害を正しく理解し、ともに働きやすい環境をつくる」ことが求められています。
今回は精神障害について特性など知っておきたい基本的なことや、職場で起こりやすい問題やその対応策について解説していきます。
理解しておきたい精神障害の基礎
主な精神障害とその特徴について見ていきます。
統合失調症
統合失調症の特徴的な症状には、現実には存在しない声や物を感じる「幻覚」、確証がないにもかかわらず強く信じてしまう「妄想」、また自分の考えがまとまりにくくなる「思考障害」などが挙げられます。これらの症状は、当事者にとっては「当たり前に起きていること」として受け止められている場合があります。
周囲から見ると、「そんなことはありえない」と思う内容であっても、本人には非常にリアルに感じられます。単純に「それは間違っている」「そんなことあるわけない」と否定してしまうと、不信感を抱かせてしまうことになります。状況を否定せず、本人の感じ方を受け止めながら、安心できる対応をすることが大切です。
うつ病
うつ病は、気分の落ち込みや喜びを感じにくい状態が続き、意欲がわかない、何をするにも億劫に感じるなどの症状が現れます。さらに、思考力や集中力の低下から仕事の効率が悪くなり、ミスや遅延が増えることも少なくありません。
うつ病になると、日常的に強い疲労感や体の重さを感じやすく、休息が必要になります。しかし、外見からは分かりにくいために「怠けているのではないか」「気持ちの問題ではないか」と誤解されることがよくあります。周囲の人は、本人が自責の念を抱きやすいことを理解し、必要に応じた休養やタスク調整に協力する姿勢が求められます。
双極性障害
双極性障害は、「気分が非常に高揚した状態(躁状態)」と「意欲や活力が低下した状態(抑うつ状態)」が交互に現れる病気です。躁状態のときは活動的でエネルギッシュな一方、抑うつ状態では極端に落ち込むため、職場では周囲が混乱することもあります。
双極性障害は、うつ状態だけが目立ち「うつ病」と誤解される場合もあります。気分の波を周囲が正しく把握しづらいため、本人が自分の状態を適切に伝えたり、医師の診断や治療プランを職場と共有することが必要です。職場としても、定期的な面談や柔軟な勤務形態の導入など、サポート体制を整えることが望まれます。
精神障害にはさまざまな病名があり、その特徴も多岐にわたります。しかし、実際の職場対応で大切なのは病名そのものではなく、「どのような状態のときに、どんなサポートが必要か」「どんな支援があれば安心して働けるのか」を具体的に考える視点です。
例えば、集中力が低下しているのであれば、タスクを段階的に分けて進められるようにする、コミュニケーションが取りにくいならメールやチャットなど得意な方法を選べるようにする、など小さな配慮を積み重ねることは、大きなサポートになります。
何よりも「相手が必要としていることは何か?」を理解しようとする姿勢は、精神障害者を安心させます。
職場で起こりうる具体的な課題
精神障害の人が仕事をしているときに、どのような問題や課題を感じることがあるのでしょうか。具体的に見ていきます。
集中力低下
・仕事の優先順位付けやタスク管理が難しくなる
うつ病や双極性障害などでは、思考力・集中力の低下が生じやすく、業務を整理するのが困難になることがあります。これにより、重要なタスクを後回しにしてしまったり、作業手順をうまく組み立てられないケースが増えることがあります。
・ミスが増えて作業効率が下がる
集中が続かないことで、ケアレスミスが増えたり、通常より時間がかかったりするため、チーム内でのフォローや配慮が必要になる場合があります。状況に応じてタスクを細分化し、進捗をこまめに確認するなどの対策をすることができます。
コミュニケーションの困難
・意思疎通がうまくいかず、指示や情報伝達にズレが生じやすい
精神障害によっては、対人関係のストレスや緊張が強くなることがあり、言葉のやり取りに時間がかかったり、表情や声のトーンを読み取りにくくなることがあります。
・周囲との人間関係にストレスを感じやすい
些細なすれ違いでも大きな負担になり、対人不安や誤解が積み重なってしまう可能性があります。周囲が適切なコミュニケーション方法や配慮(メール・チャットでのやり取りを増やすなど)を共有し、本人に合った対応を検討することが望まれます。
通院配慮の必要性
・定期的な通院やカウンセリングが必要な場合、業務スケジュールや休暇取得などの調整が必要
精神障害の治療は継続的な通院やカウンセリング、服薬などが欠かせません。これらに対応するために、定期的に休暇や遅刻・早退の調整が必要になる場合があります。
・本人が安心して治療を継続できるサポート体制の重要性
通院やカウンセリングをしやすい雰囲気や制度を整えておくことで、職場での負担を減らし、長期的なパフォーマンス向上につなげることが期待できます。
精神障害にともなう困難は、当事者だけで解決できるものではありません。職場内で適切な理解とサポートを得られないと、本人の負担が増すだけでなく、チーム全体の生産性や人間関係にも影響を及ぼしてしまうことになります。そのため企業や組織として、環境面の配慮や柔軟な制度づくり、職場のメンバーへの啓発を進めることが不可欠です。
このような取り組みができると、結果的に、誰もが働きやすい風通しの良い職場が生まれ、組織全体のパフォーマンスアップにつながっていきます。
職場で求められるサポート
続いて、企業や組織としてどのようなサポートができるのか見ていきます。
業務調整と柔軟な働き方の検討
・タスクの分割や業務量の調整
精神障害の人にとって、まとまった大きな仕事を一度にこなすことは負担が大きいことがあります。業務内容を細分化し、段階的に進められるようにすることで、集中力が途切れにくくなり、作業効率も高まります。必要に応じて、1日のタスク進捗をこまめに確認しながら、業務量を調整することが大切です。
・在宅勤務やフレックス制度などの柔軟な働き方の導入
通院や体調不良などで一定の時間帯に働くことが難しい場合があります。フレックス制度やテレワークの導入によって、本人のペースに合わせて仕事ができれば、働きやすさが大きく向上し、結果として生産性の向上にもつながります。
コミュニケーションサポート
・上司や担当者との定期的な面談で、仕事内容や体調を確認
精神的な不調やストレスは、本人から話しづらい場合があります。定期的に面談の機会を設けて、業務上の困りごとや体調面について尋ねることで、早期に課題を共有しやすくなります。上司や同僚が「話を聞く姿勢」を示すことで、本人は安心しやすくなります。
・チャットツールやメールでのやりとりを増やすなど、本人が話しやすい手段を確保
口頭での説明や雑談に苦手意識がある場合、文章でのやり取りの方がスムーズにコミュニケーションを図れることがあります。チャットやメールといったツールを活用し、複数のコミュニケーション手段を用意することで、本人に合ったやり取りがしやすくなります。
通院・休養への理解と制度設計
・有給休暇の取りやすい風土づくり
精神障害の治療には、定期的な通院や時には長めの休養が必要になります。有給休暇を取得しやすい職場環境や社内のルールを整備することで、休暇申請をしやすくし、本人が通院や休息に専念できるよう配慮します。
・通院スケジュールに合わせた業務調整
週や月単位で決まった通院日がある場合、それに合わせて業務を調整する必要があります。チーム内でカバーし合える体制を整えることで、当事者が治療と仕事を両立できるだけでなく、周りのメンバーも業務をスムーズに進められます。
精神障害の不調のサインに気づくためには?
精神障害者の雇用継続には、不調のサインを見逃さず、早めに対処することが必要です。本人の体調管理も必要ですが、周囲も気づくことがあれば、声をかけ、必要な休養や専門家のサポートをスムーズに提供できるかどうかが大切です。
体調不調のサインとしては、次のようなことが挙げられます。
・遅刻・欠勤が増える、休み時間に疲れ切っている
体力や意欲の低下により、出社が難しくなったり、職場に来ても休憩中に人目をはばからず横になるなどの行動が見られる場合は、精神的な負担の増大が疑われます。
・急激なパフォーマンス低下(ミスの増加、期限に遅れる)
これまでできていた業務がこなせなくなり、些細なミスが連発する、納期を守れないといった状況が続くときは、心身の不調のサインである可能性が高いです。
・感情の起伏が激しくなる
普段は気にしないような出来事でも大きくショックを受けたり、ちょっとした出来事でも大きく落ち込む、些細なことで涙が出てしまうなどの様子が見られることがあります。不調に気づいたのであれば、気づいた時点で、まずは声かけを行いましょう。「大丈夫?」という問いかけだけでは、相手が具体的に何に困っているかはわかりません。「何かサポートが必要なことはある?」と、具体的な悩みや要望を話しやすい声のかけ方を意識するとよいでしょう。
また、休息を十分に取らないまま仕事を続けると、症状がさらに悪化しやすくなります。短期的には生産性が下がるように見えても、早い段階で休養や治療を促すことで、長期的には早期回復と安定した就労につながる可能性が高まります。必要があれば休養を促し、無理に通常業務を続けさせないことも必要です。
社内に産業医や健康管理の部署がある場合は相談し、必要に応じて専門医や外部支援サービス(EAPなど)との連携も検討しましょう。上司や担当者が一人で抱え込むのではなく、組織全体で協力し合う体制を整えることが重要です。産業医や人事、専門機関と連携し、適切な対応をしてください。
まとめ
精神障害の代表的な症状や特性、職場で起こりうる具体的な課題、それに対する支援策について解説しました。一見理解しづらい症状であっても、頭ごなしに否定せずに受け止める姿勢や、パニックを防ぐ落ち着ける環境づくりが重要です。また、不調のサインを見逃さずに早期に声をかけたり、必要に応じて休息を促したりすることが、長期的な継続雇用のポイントになります。
精神障害への正しい理解と必要なサポートが適切に行われれば、本人はもちろん、周囲のメンバーにとっても働きやすい環境が生まれ、チーム全体のパフォーマンス向上や組織の活性化につながります。業務の調整や柔軟な勤務形態の導入、メンタルヘルス相談窓口や専門家との連携など、できる取り組みから始めることが大切です。
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