精神障害者の雇用が広がるなかで、「精神障害者保健福祉手帳の2級」と聞くと、「重い障害なのではないか」「働くのは難しいのでは」と、不安に感じる企業担当者は少なくありません。
特に、これまで身体障害や精神障害者3級の雇用には取り組んできた企業でも、「2級」と聞くと一段階ハードルが上がったように感じられることがあります。「職場に支障が出るのでは」「対応が難しいのでは」という声が現場から上がることもあります。
しかし実際には、2級だからといって必ずしも就労が困難であるとは限りません。症状が安定し、職場との相性が良ければ、2級の方でも安定的に働き続けているケースは多くあります。
今回は、精神障害者保健福祉手帳の等級の違いや、2級・3級の違いをわかりやすく解説していきます。
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精神障害者保健福祉手帳とは?
まず、精神障害者保健福祉手帳の制度の背景と意味について確認していきます。
精神障害者保健福祉手帳は、うつ病、統合失調症、双極性障害、てんかんなどの精神疾患により、日常生活や社会生活に一定の困難があると診断された人に対して交付される、公的な認定手帳です。
この制度の目的は、「精神に障害のある方が安心して暮らし、社会の一員として自立できるように支援すること」。手帳を持つことで、生活に関するさまざまな支援を受けることができます。たとえば以下のような支援があります。
・所得税や住民税などの税制優遇
・公共交通機関の割引
・NHK受信料の免除や軽減
・医療費助成制度
・就労支援サービス(就労移行支援・定着支援など)
・市営住宅の優先入居、携帯電話料金の割引 など
また、手帳を持っていることで、職場などの社会生活の中で「合理的配慮」を求めやすくなるというメリットもあります。
精神障害者保健福祉手帳の取得条件は?
手帳の申請には、精神科の専門医による診断書や意見書が必要です。また、初めて精神疾患と診断されてから6か月以上が経過していることが条件とされています。つまり、「一時的な不調」ではなく、ある程度継続した支援の必要性があると判断された方が対象となります。
精神障害者保健福祉手帳の等級の仕組みと意味
精神障害者保健福祉手帳の等級は1級〜3級に分かれており、それぞれ「生活や社会生活における困難の程度」によって区分されます。
1級:日常生活を一人で送るのが極めて困難な状態
2級:日常生活に著しい制限があり、支援を必要とする状態
3級:生活に一定の困難があるが、ある程度の自立が可能な状態
ここで重要なのは、「等級=能力の序列」ではないということです。あくまで支援の目安であり、等級が上だからといって働けないというわけではありません。たとえば、2級の方でも、症状が安定していればフルタイムで勤務している例もあります。
つまり、「等級」は“働けるかどうか”の絶対的な基準ではなく、“どのような支援が必要か”を考えるための一つの目安として捉えることが大切です。
等級の仕組みと2級・3級の違い
精神障害者保健福祉手帳における等級は、1級・2級・3級の3段階に分かれており、「どれだけ日常生活に支援が必要か」という観点から決められます。ここで誤解されがちなのが、「等級が低いほど働ける、高いほど働けない」といったイメージです。
ですが、実際の雇用現場では、そのような単純な線引きは当てはまりません。大切なのは、「症状が現在どの程度安定しているか」「どんな配慮があれば力を発揮できるか」といった、その人の“今の状態”です。
では、2級と3級には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
3級:支援があれば自立的な生活が可能な段階
3級は、日常生活にある程度の支援が必要な状態とされます。たとえば、食事や服薬、金銭管理などは基本的に自分でできるけれど、時にはサポートが必要になる場面がある―このようなイメージです。
具体的には、以下のような状態が含まれます。
・通院や服薬をある程度自己管理できる
・基本的な家事や身だしなみは自分でできる
・社会的な交流(職場での会話や対人関係)はできるが、ストレスが強いと不安定になる
・仕事においては、環境に配慮すれば継続就労が可能なことが多い
うつ病の軽度〜中等度、不安障害、軽度の統合失調症などの方が該当するケースがよく見られます。
2級:日常生活にやや大きな支援が必要な段階
2級は、3級よりも支援の頻度や範囲が広くなる状態です。ただし、「常に誰かのサポートが必要」というわけではありません。
たとえば、
・家事や通院管理などに継続的な支援が必要
・体調の波が大きく、仕事や社会生活への影響が出やすい
・職場でのストレスが強いと、症状が再燃しやすい
・周囲の理解や配慮があることで安定した就労が可能
このような方が多く、実際には“支援の仕方”や“働き方の設計”次第で職場に定着できるケースもあります。たとえば、統合失調症の症状が安定していたり、双極性障害で服薬管理がしっかりできている場合などは、2級で就労できているケースもあります。
つまり等級は「状態の目安」、働けるかどうかは「環境のマッチング」が大きく影響しているということです。そのため等級はあくまでも「生活支援の目安」であって、仕事の適性や能力そのものを表すものではありません。
同じ障害の2級のケースでも、短時間なら安定して働ける人もいれば、日によって休みが必要な人もいます。逆に、3級のケースでも、環境にストレスが多いと不調が出る場合もあります。
障害等級で「一律に線引き」するのではなく、個々の特性・強み・支援のあり方を丁寧に確認することが、採用・定着への影響が大きいと言えます。
雇用現場で見る2級と3級の“働き方の違い”
精神障害者の雇用を検討する際、「等級によってできる仕事の範囲が決まっているのでは?」と考えてしまいがちですが、実際の現場では、その人の状態や特性、職場の受け入れ体制によって“働き方”は大きく変わります。
ここでは、2級・3級の方がどのように働いているのか、どのような工夫で安定就労につながっているのかを具体的にご紹介します。
3級の方の働き方:自立を基本に、時にサポート
3級の方は、比較的安定した状態で働いているケースが多く見られます。業務に対して自発的に取り組める一方で、緊張が強くなる場面や、体調の波がある時にはサポートが必要になることもあります。
具体的な職務例
・データ入力や文書整理など、集中して取り組める個別作業
・簡単な接客・案内業務(負担の少ない時間帯や環境を選ぶ)
・軽作業(検品、梱包、清掃など)
よくある配慮
・休憩時間の確保と自由なタイミングでの離席可
・業務の手順書やToDoリストの明確化
・職場内の相談窓口(メンタルケア担当など)の設置
2級の方の働き方:体調の波に配慮し、安定を支える工夫がポイント
2級の方は、就労を継続するうえで“安定した環境”と“定期的なサポート”がより重要になります。ですが、一定の条件が整えば、継続的に仕事に取り組める方も多数います。
具体的な職務例
・製品の仕分けや軽作業(静かな環境・作業の見通しがあるもの)
・オフィス内でのルーチンワーク(郵便仕分け、資料の準備など)
・社内メールやデータチェックといった裏方業務
よくある配慮
・勤務時間や業務量の調整(短時間勤務・曜日限定など)
・毎朝の体調確認と気軽に相談できる体制
・ストレス源になりやすい人間関係の調整や距離感の配慮
・外部支援機関(就労移行支援、ジョブコーチ等)との連携
雇用現場の共通ポイント
2級・3級に共通して見られるのは、「できないこと」ではなく「できること」に目を向けている企業ほど、安定した雇用につながっているという点です。
一人ひとりの得意・不得意を丁寧に把握し、それに合わせた仕事の割り振りや関わり方を実践することで、結果的に職場全体の雰囲気がよくなったという例も少なくありません。
同じ2級、同じ3級であったとしても、必要な配慮は個別によって異なります。
たとえば
・声かけの頻度を嫌がる人もいれば、安心する人もいる
・集団作業が好きな人もいれば、個別作業のほうが落ち着く人もいる
・朝が苦手で午後からの勤務が安定する人もいれば、午前のほうが調子がいい人もいる
等級はあくまでも“支援の参考値”であり、「本人の特性」や「職場との相性」に注目することが、職場定着の第一歩となります。
“等級”ではなく“実習”で確認する
とは言え、精神障害者の雇用を検討する際、「この人は本当に職場で働けるのか」「2級ということは配慮がかなり必要なのでは」と、どうしても不安を抱えてしまうことは自然なことです。
書類や面接だけでは見えない部分が多いため、採用の判断に迷うこともあるでしょう。そんなときに有効なのが、「職場実習(トライアル雇用や体験実習、インターンシップ)」という方法です。
職場実習とは、障害のある方が実際の勤務先で一定期間業務を体験する取り組みで、採用の前段階として活用されるケースが増えています。期間は数日〜数週間で、内容や日数は企業の状況に応じて調整可能です。
実習(インターンシップ)することのメリットは、企業側、実習生側の双方に次のような点があります。
企業側の実習のメリット
・「働きぶり」を実際に見ることができる
→ 面接ではわからない、業務の理解度、報連相の仕方、体調の安定感などを確認できます。
・「どのような配慮が必要か」が具体的に見えてくる
→ 想像ではなく、「こうすれば働ける」という配慮の設計ができるようになります。
・実際に他の社員と関わってみることで“社風との相性”がわかる
→ 人間関係のなじみやすさや職場内コミュニケーションの様子を体験的に評価できます。
実習生側の実習のメリット
・「この職場なら続けられそう」という安心感が得られる
・自分の適性や得意・不得意が客観的に把握できる
・働く前に不安を軽減できる(職場の雰囲気、業務内容など)
企業実習(インターンシップ)は、雇う側・働く側、双方にとって「事前に相性を確認できる」という意味で、実習は非常に有効な手段です。相性を確認し、お互いの安心材料を増やすためのプロセスでもあり、特に精神障害の方を雇用する場合、実際の現場を見ることで、配慮の設計や業務の割り振りを考えることができたり、雇用後のミスマッチを防ぐことができます。
2級だから不安、3級だから安心―そのような等級だけでの判断ではなく、「実際に働いてみてどうだったか」というリアルな情報が、安定雇用のカギになります。「本当に自社に合っているのか」を判断するためには、実際に一緒に過ごしてみることでわかってきます。
等級よりも働きを見ることが安定雇用の鍵
精神障害者保健福祉手帳の「2級」と聞くと、つい「重い障害なのでは」「職場での対応が大変なのでは」と不安に感じてしまうのは、自然なことです。しかし実際には、等級だけではその人の働く力や可能性を判断することはできません。
手帳が2級でも、症状が安定し、配慮が適切であれば長く安定して働いている方はたくさんいます。一方で、3級の手帳でも環境とのミスマッチによって職場で苦労することもあります。
つまり大切なのは、「等級」ではなく「今、その人がどんな状態にあり、どのような配慮があれば力を発揮できるのか」に目を向けることです。そのためにも、職場実習などを通じて「できること」「必要な支援」「相性」を丁寧に確認するプロセスが、安心できる雇用への第一歩になります。
それを確認するうえで役立つのが「実習」(インターンシップ)です。実習してみて、もし、難しいと感じたり、受け入れるイメージができないのであれば、無理に頑張って雇用しないことを決断することも大切です。雇用は「支える」ことではなく、「共に働く関係」を築いていくことだからです。
精神障害のある方の雇用に不安や戸惑いがあるならば、精神障害に対する理解や、職場での実践的な関わり方を学べる【障害者雇用オンライン講座】 を受講してください。
「どんな配慮が必要なのか分からない…」
「現場でどう接すればいいのか不安…」
そんな声にお応えし、初めて精神障害のある方と関わる方でも安心して学べる内容になっています。制度の基本、現場のリアル、対応の工夫をやさしく解説し、“採用する準備”ができる実践の知恵を教えます。
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