障害者雇用は、企業が果たすべき重要な社会的責任であり、障害者雇用促進法により法定雇用率の達成が義務付けられています。この制度は、障害のある人々が平等な雇用機会を得て、自立した生活を送るための重要な仕組みとなっています。
障害者雇用を進めるうえで、障害者手帳は欠かせない存在です。企業にとって障害者手帳は、法定雇用率を確認するための重要な指標となります。また、当事者にとって障害者手帳は、適切な福祉サービスを受けるための証明となっています。
今回は、障害者手帳に関する基本的な知識とともに、障害者雇用のカウント方法について解説していきます。
障害者雇用促進法と法定雇用率
障害者雇用促進法は、障害者が職業を通じて社会に参加し、自立した生活を送ることを目的とした法律です。この法律は、障害者に適切な雇用機会を提供するため、企業に対して次の義務を課しています。
法定雇用率の遵守:一定規模以上の企業に対し、全従業員のうち一定割合以上の障害者を雇用することを義務付けている。
合理的配慮の提供: 障害者が職場で能力を発揮できるよう、環境整備や業務調整を行う責任がある。
法定雇用率は、障害者が働く機会を確保するために設けられた基準で、企業の従業員数に応じて障害者の雇用人数が求められています。2024年4月現在、企業に求められる法定雇用率は2.5%と従業員40人に対して1人の雇用が必要ですが、2026年7月には2.7%に引き上げられるため従業員37.5人に対して1人の雇用が必要となります。これにより、企業はさらに多くの障害者雇用を進めることが求められることになります。
障害者のカウント
障害者雇用のカウント方法は、30時間以上の労働者1人に対して1カウントとなりますが、重度身体障害者、重度知的障害者の場合は、1人を2人としてカウントします。また、短時間労働の20時間以上30時間未満の場合には、労働者1人に対して0.5カウントとなります(精神障害者の算定特例が延長され、当分の間、雇入れからの期間等に関係なく、精神障害は1カウントできます)。短時間重度身体障害者、短時間重度知的障害者は1人としてカウントします。
法定雇用率を達成できなかった場合には、企業は障害者雇用納付金を支払う義務があります。この障害者雇用納付金制度は、障害者雇用は企業が共同して果たしていくべき社会連帯責任の理念に基づき、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るためのものです。この徴収された納付金は、障害者雇用に伴う助成金や調整金の原資として使用されます。
また、雇用義務がある企業は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告する義務があります。障害者雇用率未達成の事業主で一定の基準を下回る企業には「障害者の雇入れに関する計画書」の作成命令や、行政の指導にもかかわらず適正に取り組んでいないと判断される場合には企業名が公表されることがあります。障害者雇用促進法は、企業に法的責任を課すだけでなく、社会全体で障害者を支える仕組みを構築する役割を果たしています。
障害者手帳の種類と対象者
障害者手帳は、障害のある人々が必要な支援を受けられるように設けられた制度で、身体障害者手帳、療育手帳(知的障害者)、精神障害者保健福祉手帳(発達障害含む)の3種類に分類されます。それぞれに特徴や対象者、取得手続きが異なり、正しく理解することで雇用や支援に役立てることができます。
身体障害者手帳
対象となる障害の種類と等級の基準について見ていきます。身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づき、次のような身体的な障害がある人に交付されます。
・視覚障害: 視力や視野の著しい低下。
・聴覚・平衡機能障害: 難聴や平衡感覚に関する障害。
・音声・言語・咀嚼機能障害: 発声や咀嚼に困難がある状態。
・肢体不自由: 手足の欠損や機能の低下。
・内臓機能障害: 心臓や腎臓、呼吸器などの機能障害。
障害の程度は1級から7級に分類され、1級が最も重い障害とされます。ただし、7級の単独障害は手帳の交付対象外ですが、複数の7級障害がある場合や、6級以上の障害と併存する場合は対象となります。
療育手帳(知的障害者用)
療育手帳は知的障害がある人を対象とした手帳です。全国統一の法律に基づく制度ではなく、各自治体が独自に運用しているため、名称や等級の基準、支援内容が地域によって異なる点が特徴です。例えば、東京都では知的障害者の障害者手帳を「愛の手帳」と読んでいます。ほとんどの場合、等級は3~4つの区分に分けられます。
等級の基準例(東京都の場合)
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、精神保健福祉法に基づき、次のような精神疾患が対象となります。
・統合失調症
・うつ病や双極性障害
・てんかん
・発達障害(自閉症スペクトラム、ADHDなど)
等級は次の3段階に分かれます。
精神障害者手帳には2年の有効期限が設定されており、更新手続きを行わないと障害者雇用としてカウントできません。障害者手帳は、障害当事者にとっては福祉サービスや雇用支援を受けるための重要なツールとなっています。また、企業にとっては障害者雇用のカウントとして、コンプライアンスや法令遵守に大きく関わるものです。企業が手帳の種類や対象者を正しく理解することで、適切な雇用計画を立てることができます。
合理的配慮と障害者手帳
合理的配慮とは、障害者が他の従業員と平等に働くために、企業が講じる調整措置のことです。合理的配慮については、障害者手帳の有無は問われませんが、手帳があると配慮を伝えやすく、職場にも理解してもらいやすくなります。
また、障害者手帳には障害についての記載がありますが、個々の障害者のニーズや働きやすい環境は一人ひとり異なります。そのため手帳の情報だけで判断するのではなく、障害者本人とのコミュニケーションをとり、どのような合理的配慮を求めているのかを確認することが重要です。
そのためにできることを考えてみましょう。
・情報のすり合わせ
障害者手帳に記載されていない詳細なニーズや配慮が必要な場合があります。本人と面談を行い、状況を確認することが大切です。例えば、障害者手帳には視覚障害と記載されているが、色覚にも配慮が必要であるなどの細かな情報を共有します。
・配慮の検討プロセスへの参加
合理的配慮内容は、障害種別や等級などで一方的に決定するのではなく、障害者本人の意見を聞くことが必要です。そのために、話す場を作ることが重要です。そして、「どのような方法で業務を進めるのが働きやすいか」を本人と相談して決定するようにします。
・周囲との連携
合理的配慮の内容は本人の考えを尊重しつつ、上司や同僚と共有し、障害者が職場で孤立しないようにする工夫が求められます。当然ですが、周囲の人が必要な配慮を知らなければ、配慮を示すことはできません。合理的配慮を示すためには、障害特性に関する研修を実施することや、チーム全体で支援体制を整えることができます。
ただし、障害者が求める合理的配慮の中には、企業にとって対応が難しいこともあります。このような場合には、企業の「過重な負担」にならない範囲でおこないます。過重な負担に該当するものとしては、次の点があります。
・事業活動への影響の程度
・実現困難度
・費用負担の程度
・企業の規模
・企業の財務状況
・公的支援の有無
中途障害者の雇用と手帳の役割
中途障害者とは、事故や病気、加齢などによって、社会人としてのキャリアを積んだ後に障害を負った人々を指します。中途障害者は、既に職務経験を持っている場合が多い一方で、以下のような課題に直面することがあります。
・障害発生前の業務とのギャップ
障害を負う前に行っていた業務が、障害によって遂行困難となる場合があります。新しい職務内容への適応が求められるほか、心理的な負担や喪失感を抱えることも少なくありません。
・復職や再就職の困難さ
復職時には、環境や業務内容の調整が必要です。企業側が十分な配慮を行わない場合、再就職が困難となることもあります。また、社内外の支援体制が不十分だと、職場定着が難しくなる可能性があります。
中途障害者が安心して働ける環境を作るには、障害発生前の業務内容とのギャップを適切に埋める取り組みが必要です。
・業務内容の再設計
障害特性に応じて業務を見直し、本人が負担なく遂行できる範囲に調整します。例えば、身体障害の場合、物理的な作業からデスクワークへの移行。精神障害の場合、負担の少ない業務への配属変更することがあります。
・ステップを踏んだ職場復帰
「リワークプログラム」を活用し、徐々に業務量を増やしたり、段階的に職場復帰を支援していきます。例えば、短時間勤務からフルタイム勤務への移行を計画的に実施することができるかもしれません。
・心理的サポート
障害による心理的喪失感を軽減するため、上司や同僚の理解を深め、相談しやすい環境を整備します。
中途障害者の復職にあたっては、外部支援機関との連携をすることができます。以下のような機関を活用することができるかもしれません。
‐地域障害者職業センター
リワークプログラムやジョブコーチの派遣、職場適応に関するアドバイスを提供。
‐発達障害者支援センター
発達障害の特性に応じた業務設計や環境調整の助言。
‐医療機関やリハビリ施設
職場復帰に向けたリハビリプログラムや、障害者本人の健康管理支援。
中途障害者の雇用は、企業にとって新たな挑戦となりますが、適切な支援と連携によって職場適応を成功させることができます。障害者手帳を活用し、外部支援機関の力を借りながら、誰もが安心して働ける環境を構築することが求められます。
企業が注意しておくべき障害者手帳のポイント
企業が障害者手帳の取得を支援する際や、雇用計画を策定する際には、精神障害者保健福祉手帳の有効期限と更新手続きに注意しておくことが必要です。精神障害者保健福祉手帳には有効期限(2年間)が設定されています。更新手続きを忘れると手帳の効力が切れ、法定雇用率のカウントが無効になる可能性があります。
企業は、該当者に対して更新時期をリマインドし、必要書類の準備をサポートする仕組みを整えることが重要です。カウントが無効になるリスクの防止策としては、従業員名簿やシステムを活用するなどして、定期的な手帳の有効期限の確認をしたり、当事者に手帳更新の必要性についての周知をしておく必要があります。
また、障害者手帳はある程度の障害の把握をするのには役立ちますが、障害の程度は個人によってかなり異なることがあります。障害の種類によっては、就業にどのような支障があり、どのような配慮が必要なのかが、見た目だけではわからない場合も少なくありません。障害の種類や障害者手帳の等級が同じであったとしても、一人ひとりの状態や考え方や職場環境などによって求める配慮が異なることを認識して、合理的配慮については、障害者と事業主とでよく話しあった上で決めるようにしてください。
まとめ
障害者雇用の推進は、企業が果たすべき重要な社会的責任であり、障害者雇用促進法を遵守し、適切な雇用環境を整えることが求められます。障害者手帳は、障害者雇用を計画・管理するうえで、雇用主と障害者の双方にとって重要な役割を果たしています。今回は、法定雇用率の概要、障害者雇用のカウント方法、障害者手帳の種類や特徴について解説しました。
障害者手帳には、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害含む)の3種類があり、それぞれの手帳によって等級が定められています。注意しておきたい点は、精神障害者保健福祉手帳には有効期限(2年間)が設定されていることです。更新手続きを忘れると手帳の効力が切れ、法定雇用率のカウントが無効になります。
一方で、合理的配慮については、手帳の種類、等級だけによらず、個々の障害者のニーズや働きやすいと感じる環境は一人ひとり異なります。そのため手帳の情報だけで判断するのではなく、障害者本人とのコミュニケーションをとり、どのような合理的配慮を求めているのかを確認することが重要です。障害者手帳制度の理解を深めることは、障害者の適切な雇用やコンプライアンス遵守にもつながります。
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