精神障害や発達障害などは外見からは判断しづらいことが特徴で、「見えにくい障害」と言われます。そのため、職場では当事者が抱える困難や不調に気づかれにくいことがあります。
本人が無理をして働き続けてしまうことがあり、その結果、業務の進行が遅れる、体調が悪化するなど、当事者自身だけでなく職場全体にも影響が及ぶ場合があります。見えにくい障害を抱える人の中には、「周囲に迷惑をかけたくない」「特別扱いされたくない」という思い
今回は、見えにくい障害のある人の不調のサインや、その不調のサインを見逃さないためのポイントや具体的な対応策について考えていきます。
見えにくい障害の不調のサインとは?
見えにくい障害の不調は、外見では分かりづらい形で現れることが多く、周囲が気づかないまま本人が無理を続けてしまうケースがあります。次のような不調のサインがあります。
精神障害の不調サイン
精神障害(うつ病、双極性障害など)は、心の状態が業務や対人関係に影響を与えることがあります。うつ状態のサインとしては、次のようなものがあります。
うつ状態のサイン
・集中力が続かない
一つの作業に集中し続けることが難しく、作業効率が低下する。
・作業に時間がかかる
以前はスムーズにできていた業務が進まず、遅れが目立つようになる。
・表情が暗くなる
会話が減り、活気が感じられなくなることが多い。
躁状態のサイン
・言動が多くなる
業務中に話が止まらなくなったり、関連性の薄い内容を話すことが増える。
・無理をしてしまう
エネルギーが過剰になり、疲労を感じずに働き続ける。
・不適切な発言が増える
社内外での発言や行動が、場の状況やルールにそぐわないものになる。
発達障害の不調サイン
発達障害(ASD、ADHD)は、特性が対人関係や業務遂行に影響を与えることがあります。次のようなサインがあります。
ASD(自閉スペクトラム症)のサイン
・コミュニケーションの齟齬や誤解が増える
冗談を真に受ける、場の空気を読まずに発言してしまうなどの齟齬が目立つ。
・チーム内で孤立しやすい
暗黙のルールや非言語的なやり取りが理解しづらく、周囲との関係がぎくしゃくする。
ADHD(注意欠如・多動症)のサイン
・ミスやタスクの遅れが増える
重要なタスクを忘れてしまう、期限を守れないなど、業務の進行に支障が出る。
・注意が散漫になる
作業中に集中力が続かず、複数のことを同時に進めようとして失敗することが増える。
これらの不調サインは、当事者自身が自覚していない場合や、周囲が「単なるミスや努力不足」と誤解している場合も少なくありません。不調を見逃さないためには、業務の進め方や日常の行動に小さな変化がないか注視することが重要です。また、早期に気づいて適切に対応することで、当事者が安心して働ける環境をつくることができます。
職場での具体的な対応のポイント
見えにくい障害を抱える当事者が働きやすい環境をつくるためには、職場全体での適切な対応が重要です。以下のポイントを意識し、無理をさせない工夫や周囲の理解の促進を進めていくことが求められます。
働きやすい環境づくり
見えにくい障害は、体調の波や特性により、業務に対するパフォーマンスが一定しないことがあります。そのため、当事者が無理をせず、安心して働ける環境を整えることが重要です。
・柔軟な勤務時間やリモートワークの導入
時差出勤や短時間勤務を導入し、体調が良い時間帯に働けるように調整したり、状況に応じてリモートワークを活用し、自宅からでも働ける選択肢を提供する。
・体調不良時に相談しやすい仕組みの整備
定期的な面談や体調管理ができているかを確認し、無理をしないことを本人にも周囲にも伝えておいたり、困ったときにすぐ相談できる窓口や担当者を明確にし、相談しやすい環境を整える。
タスク管理やコミュニケーション方法の工夫
障害特性に合わせたタスク管理やコミュニケーション方法を工夫することで、当事者の業務遂行をサポートできます。
発達障害(ASD、ADHD)の場合、指示が曖昧だと理解しづらいことや、タスク管理が難しいことがあります。
そのため指示は明確かつ具体的に伝えます。「なるべく早く」「適当に」などの曖昧な表現を避け、具体的な期限や優先順位を示します。例えば、「〇〇のA部分を15時までに終わらせ、B部分は明日午前中までに確認」などの具体的なものにします。
また、視覚的なリストやマニュアルを活用します。業務内容をToDoリストやフローチャートとして書き出し、視覚的に理解しやすい形で提供します。タスク管理ツールやリマインダーを活用し、進捗確認をサポートすることもできます。
精神障害(うつ病、双極性障害など)の場合は、体調に合わせた柔軟な対応が必要です。無理をさせないようにし、体調に合わせた業務量を調整します。特に働き始めや何かの変化があるときには、勤務時間や業務量を調整して負担を軽減することができます。定期的に面談などを通して状況を確認しておくとよいでしょう。
周囲の理解と支え合う職場文化
見えにくい障害への理解が不足していると、誤解や偏見が生じ、当事者が孤立してしまうことがあります。周囲の理解を深め、支え合う文化を育てることが大切です。
ただし、周囲の人も知らなければ配慮を示しにくいことがあります。当事者に対する誤解や偏見を減らすために必要な情報を共有することは必要です。研修や勉強会を通じて、障害の特性や「見えにくい障害」の理解を促進することや、当事者の同意を得た上で、適切な範囲で困りごとや必要な配慮をチームに共有することが役立ちます。
また、「お互い様」の意識を育て、チームで支え合う職場文化を作ることも大切です。障害者だけでなく、職場にはいろいろな環境のある社員やメンバーがいます。子育てや介護などで通常の勤務形態で働くことが難しい人がいるかもしれません。「困っているときはお互いにサポートする」「誰にでも波がある」という意識を職場全体に浸透させておくことを意識しておくことも必要です。
まとめ
障害には、周囲の人にわかりやすい障害とわかりにくい障害があります。精神障害や発達障害、内部障害の特性により、不調のサインは外見には現れにくいですが、日常的なコミュニケーションを通じてサインに気づき、適切な支援を行うことで、安定した雇用を進めることができます。
例えば、柔軟な勤務体制の導入や明確なタスク管理、視覚的に分かりやすい指示の工夫など、具体的な対応策を講じることで、当事者の困難を軽減することができます。また、職場全体で障害についての理解を深め、支え合う文化を醸成することは、誰もが働きやすい職場づくりの基盤となります。
「見えにくい障害」を抱える当事者が安心して働ける環境を整えることは、当事者自身の健康や働きやすさを守るだけでなく、他の社員にとっても安心して働ける職場につながり、職場全体の生産性や信頼関係の向上にも影響します。
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