社会で発達障害に対する認識が広がってきました。一般的に発達障害は子どものころに発見されることが多いですが、最近では、大人になってから発達障害だと認識する人も増えています。

なぜ、大人になってから発達障害に気づくのでしょうか。その背景や理由について解説します。

なぜ？大人になってから発達障害に気づく背景

発達障害とは、生まれつきの脳の機能の違いによって、主にコミュニケーションや社会的な適応、日常生活において困難を抱える状態を指します。発達障害には、自閉スペクトラム症（ASD）、注意欠如・多動症（ADHD）、学習障害（LD）などが含まれ、個々の特性に応じてその症状や影響の現れ方は異なります。

これまで、発達障害は子どものうちに発見されることが多いとされてきましたが、近年では大人になってから発達障害に気づくケースが増加しています。子ども時代は、家庭や学校環境の中で個人の特性が「性格の一部」や「個性」として見過ごされることが多く、また、学力面で勉強ができてしまっていると、診断がされないまま大学進学や就職するケースも少なくありません。

一方で、大人になると、職場や社会生活においてより複雑な要求に直面することが増え、自身の特性を障害として認識するケースが出てきます。また、近年の発達障害に対する認識の変化も、成人期に発達障害が発見される要因の一つです。

以前はあまり理解されていなかった発達障害ですが、メディアでも頻繁に取り上げられるようになり、発達障害への認知が進み、その症状や支援の重要性が広く知られるようになりました。こうした結果、社会全体で発達障害に対する理解が進み、大人になってから自ら診断を受ける人や、周囲のサポートを通じて特性に気づく人が増えています。

成人期に発達障害が見つかることは、遅れた診断ではありますが、適切なサポートや環境調整を受けることで、生活の質や社会での役割を改善できる可能性を広げています。

発達障害が大人になってから気づかれる理由

それでは、発達障害を大人になってから気づく理由には、どのようなことがあるのでしょうか。

子ども時代との違い

発達障害を抱える多くの人は、子ども時代にその特性が目立たないことがあります。子どもは比較的自由な環境で過ごすことが多く、社会的な期待やルールが緩やかであるため、発達障害の特性が環境によっては「個性」や「性格の一部」として見過ごされることがあります。

また、発達障害が社会的に認知される以前は、親や教員も、その子どもの特性を障害とは認識せず、「内向的」「落ち着きがない」「忘れ物が多い」といった一面を個性として捉えることが一般的でした。このように、発達障害が表面に現れても、それがすぐに診断に繋がらず、性格や特性として捉えていたために成人してから初めて自覚するケースが増えています。

社会的要求の増加

大人になるにつれ、社会的に求められる要求は高まります。特に職場や人間関係においては、コミュニケーション能力や自己管理、時間の管理などが重要視されるようになります。

例えば、社会人になり会社に勤めると、会議での発言や、複数の業務を同時進行するスキルが求められる職場環境で、他の人との違いが際立ち、自分の特性に気づくことがあります。

また、家庭では社会的な責任が増えるにつれて、困難さがわかることもあります。結婚してパートナーとの関係をうまく築けないことや育児での苦労、仕事と家庭の両立などの状況下で、自分が周囲と異なる特性を持っていることに気づく人もいます。

自己認識の深まり

大人になると、自己分析や振り返りを行う機会が増えます。例えば、キャリアの節目や人生の重要な選択の際に、自分の過去の行動や思考パターンに対して客観的に向き合うことがあり、その結果として発達障害の可能性に気づくことがあります。

また、他の人々との比較を通じて、自分のコミュニケーションの仕方や問題解決能力が異なることに気づくこともあります。こうした自己認識が深まるプロセスを通して、自分の特性を理解し、発達障害の診断に繋がることがあります。

社会の変化と認識の向上

近年、発達障害に対する社会の理解が急速に広がり、これに伴って大人になってから発達障害に気づくケースが増えています。特に、メディアやインターネットを通じて発達障害に関する情報が手に入りやすくなり、症状や特性について自己診断のヒントを得る機会が多くなりました。

また、職場や教育現場でも、発達障害の特性に対応するための制度や支援が整備されつつあり、大人でも診断を受けやすい環境が整ってきています。このような社会的な変化が、より多くの人が自分の発達障害に気づくきっかけとなることがあります。

大人の発達障害に気がつくきっかけ

大人の発達障害に気づく具体的なきっかけについて見ていきます。

職場での困難

多くの大人が発達障害に気づく最初のきっかけは、職場でのコミュニケーションや仕事の進め方における困難さです。例えば、会議中の発言がうまくできなかったり、複数のタスクを同時に処理することが苦手であったりする場合、周囲との違いが顕著に現れます。

また、時間管理や優先順位のつけかたで苦労し、業務を円滑に進められないこともあります。こうした問題を繰り返すことで、自分が周囲の人々と異なる特性を持っているのではないかと考えるきっかけとなり、結果的に発達障害の診断に至ることがあります。

人間関係の課題

友人やパートナーとの関係において発生する摩擦も、大人が発達障害に気づく契機となることがあります。例えば、相手の感情を読み取ることが苦手で、意図せずにコミュニケーションが一方的になったり、トラブルが繰り返されたりすることがあります。

また、社会的な状況で適切な言動が取れないことが原因で人間関係に緊張が生じることもあります。こうした人間関係の問題に直面する中で、自分の特性に気づくケースもあります。

精神的な不調

発達障害を抱えている人は、しばしばうつ病や不安障害といった二次障害を引き起こすことがあります。職場や家庭での失敗やストレスが積み重なり、精神的に不安定になることが増えます。その結果、医療機関を訪れた際に、うつ病や不安障害の原因を探る過程で発達障害が発覚することがあります。

特に、発達障害の診断を受けずに大人になった場合、これらの精神的な不調が表面化することで、はじめてその根本的な原因が明らかになることが多いです。精神的な課題の原因が、発達障害に起因するものの場合、それに対する対応方法を考えていかないと、根本的な解決に繋がりません。

子どもの診断を通じて親が気づく

子どもが発達障害と診断される際、親が同様の特性を持っていることに気づくケースもあります。親が自分の子どもの発達障害について学び、特性や行動パターンを理解する中で、「自分にも似たような特性があるのではないか」と感じることがよくあるようです。

これにより、自分自身が発達障害であることに気づくことがあり、診断に至る場合も少なくありません。子どもの診断が、親自身の自己認識のきっかけにつながることがあります。

大人の発達障害の診断と対処方法

大人になってから発達障害に気づいた場合、専門の医療機関で診断を受けることが重要です。診断は主に精神科や神経内科で行われ、まずは問診を通じて、現在抱えている困難や、幼少期からの行動パターン、社会生活での問題などが詳細に確認されます。

次に、発達障害の診断基準であるDSM-5（精神疾患の診断・統計マニュアル）などに基づいて評価が行われ、必要に応じて知能検査や心理テストが実施されます。診断の過程では、発達障害特有の症状や特性が見られるかどうかが確認されるだけでなく、他の精神的な問題（例：うつ病や不安障害）が併発していないかもチェックされます。

特に大人の場合、二次障害として他の疾患が現れることが多いため、正確な診断には時間を要することがあります。診断の結果、発達障害と認定されると、医師や専門スタッフと今後の対処法や支援策を話し合うとよいでしょう。

大人の発達障害に対するサポートは、診断後に得られる様々な支援制度を利用することで、社会生活や職場での適応を助けることができます。具体的には、障害者手帳の取得、就労支援、カウンセリングなどがあります。

障害者手帳の取得: 発達障害でも、特定の条件を満たす場合、障害者手帳を取得することができ、各種支援や補助が受けられるようになります。これには、税制優遇や福祉サービスの利用、通勤や日常生活における負担の軽減などが含まれます。

就労支援: 発達障害を持つ人が自分に合った職場環境で働けるよう、特定の機関や団体が就労支援を行っています。職場での配慮や業務調整の相談、働きやすい環境づくりをサポートするプログラムが提供されます。

カウンセリング: 発達障害に伴う日常生活でのストレスや対人関係の問題を解決するために、専門のカウンセラーと定期的に面談を行い、自己理解を深め、問題解決のための方法を学びます。

発達障害と診断された後は、自分の特性を正しく理解し、それに合わせたライフスタイルや仕事の環境を調整するとよいでしょう。例えば、集中力が続かない場合には、短時間で区切って作業を行う方法や、静かな環境を整える工夫が有効的です。

また、職場や家庭で自分の特性を共有し、周囲の理解を得ることも重要です。苦手なことを頑張るよりも、適性のあることに集中したほうが、生産性や仕事へ貢献できます。適切なフィードバックや配慮を受けることで、ストレスを軽減し、自分に合ったペースの生活が可能となります。

自己理解を深めるために、定期的な自己評価やカウンセリングを続けることも、発達障害との向き合い方として有効的な方法です。

まとめ

大人になってから自身が発達障害であることに気づく人が増えています。発達障害とは、脳の機能に由来する特性で、コミュニケーションや社会生活において困難を感じることがあります。

子ども時代にはその特性が「個性」や「性格」として見逃されることが多く、学校や家庭でのサポートが限られている中、診断に至らないまま成長するケースが少なくありません。しかし、大人になり職場や社会生活においてより複雑な要求が生じると、これまでの適応が難しくなり、自身の特性を「障害」として認識する場面が増えてきます。

さらに、近年の発達障害に対する認識の向上も、成人期に発達障害に気づく一因です。メディアやインターネットを通じて発達障害に関する情報が広がり、社会全体でその特性や支援の重要性が理解されるようになりました。これにより、診断を受ける大人が増加し、適切なサポートや環境調整が重要視されています。

大人になって発達障害に気づくことは、自己理解と自己成長の重要なステップとなります。発達障害と診断されることで、これまで抱えていた困難の原因を明確にし、適切な対策やサポートを受けることができます。また、必要に応じて、障害者手帳の取得、就労支援、カウンセリングなど、利用できる支援があります。自分に合ったライフスタイルや職場環境を整えるために活用することができます。