近年、大人になってから発達障害と診断される人々が増えています。これには様々な要因が絡んでいますが、主な理由としては社会全体の認識の変化や診断技術の進歩、個々人の自己理解の深化などが背景にあると考えられます。そのため大人になってから子どもの頃には気づかれなかった症状や特性が、社会に出てから明らかになるケースが増えています。
今回は、大人になってから発達障害と診断されることが増えている現状やその背景について解説し、発達障害に対する理解を深め、適切な支援や対策について考えていきます。
発達障害とは?
発達障害とは、脳の機能の一部に偏りがあり、特定の発達段階において顕著な困難を示す状態を指します。これにはいくつかの種類があり、それぞれに特徴的な症状や影響が見られます。主な発達障害の基本的な特徴を紹介します。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHDの特徴と症状
・不注意
物事に集中するのが難しく、細部に気を配ることができない。忘れ物やミスが多い。
・多動性
静かにしていることが難しく、常に動き回ったり、そわそわしたりする。
・衝動性
順番を待つのが苦手で、他人の話を遮ったり、突発的な行動を取る。
ADHDの日常生活や仕事への影響
・仕事
締め切りを守るのが難しく、複数のタスクを同時に処理するのに苦労する。
・日常生活
忘れ物が多く、計画通りに物事を進めるのが難しいため、生活の秩序を保つのが難しい。
自閉症スペクトラム障害(ASD)
ASDの特徴と症状
・社会的コミュニケーション:
他人との交流や会話が難しく、非言語的なコミュニケーション(視線、表情など)も理解しにくい。
・興味や行動の限定
限定された興味や活動に強くこだわり、ルーティンを好む。環境の変化に対する適応が難しい。
・感覚過敏
音や光、触感などに対して過敏に反応することがある。
ASDの日常生活や仕事への影響
・仕事
チームでのコミュニケーションが難しく、予測不能な事態に対処するのが苦手。
・日常生活
ルーティンの変更に強いストレスを感じ、社会的な場面での適応が難しい。
学習障害(LD)
LDの特徴と症状
・読み書きの困難
文字の読み取りや書くことが難しい。ディスレクシア(読字障害)が代表的。
・計算の困難
数字の理解や計算に困難を抱える。ディスカリキュリア(算数障害)が代表的。
・書字の困難
文字を上手く書けない、書く速度が遅い。ディスグラフィア(書字障害)が代表的。
LDの日常生活や仕事への影響
・仕事
書類作成や数字の処理が必要な業務に困難を感じる。
・日常生活
学習や勉強が苦手で、特定の技能を習得するのに時間がかかる。
発達障害がもたらす影響
発達障害は、日常生活や仕事に多大な影響を及ぼす可能性があります。例えば、時間管理が難しく、締め切りを守ることができない場合や、職場でのコミュニケーションに困難を抱える場合などが挙げられます。また、感覚過敏や特定の行動へのこだわりが日常生活の質を低下させることもあります。
しかし、適切な支援や対処法を取り入れることで、発達障害を持つ人々も社会で十分に活躍することが可能です。自己理解を深め、周囲の理解と協力を得ることで、より豊かな生活を送るための第一歩を踏み出すことができます。
子どもの頃と大人になってからの診断の違い
発達障害は、子どもの頃に診断されるケースと大人になってから診断されるケースで、診断のプロセスや影響が異なります。それぞれの特徴と診断の難しさを探ります。
子どもの頃に診断されるケースの特徴
子どもの頃に発達障害がわかるケースは、乳幼児健診や幼稚園や学校、家庭での観察により発見されることが多いです。次のような特徴に気づくことが多いようです。
・学習の遅れや困難: 読み書きや計算が他の子どもよりも遅れている。
・社会的なスキルの不足: 他の子どもと遊ぶのが難しい、コミュニケーションがうまくいかない。
・行動の異常: 多動や衝動的な行動、繰り返し同じことをするなど。
乳幼児健診で発達に関するチェックポイントとしては、次のような点があります。
1.言語発達の遅れ
年齢に応じた言葉の発達が見られるか。
単語の使用や二語文の形成が遅れていないか。
2. 社会的相互作用の質
視線の合い方や微笑み返しの頻度。
他の子どもや大人との関わり方に違和感がないか。
3. 遊び方や興味の特性
おもちゃや物に対する興味が偏っていないか。
同じ遊びを繰り返し行うか。
4. 身体的発達の遅れ
歩行、座る、立ち上がるなどの運動発達が年齢相応か。
5. 感覚の反応
音や光、触感に対して過剰に反応するか。
感覚的な刺激に対する無関心や過敏がないか。
6. 行動の規則性と予測可能性
日常生活のルーティンに強いこだわりがあるか。
環境の変化に対する強い抵抗が見られるか。
7. 自己刺激行動
手をひらひらさせる、体を揺らすなどの反復的な動きが見られるか。
8. 模倣の能力
他人の行動や表情を模倣できるか。
9. 共同注意の発達
指さしや目線で他人と物を共有する行動ができるか。
10. 問題解決能力
年齢に応じた問題解決や課題に取り組む能力が発達しているか。
これらのチェックポイントは、乳幼児健診の際に発達障害の可能性を早期に発見するための指標となります。ただし、発達障害の特性は個々の子どもによって異なるため、総合的に観察することが重要です。
大人になってから診断されるケースの特徴
発達障害の特性があっても、勉強の遅れや困難さが見られなかったり、適応しやすい環境にいることで、子どもの頃から学校や家庭での困難や違和感を感じつつも、明確に診断されることがなかったりすることがあります。
一方で、社会人となり学校とは違う環境の中で、社会生活や職場での人間関係の困難が目立つようになることがあります。例えば、コミュニケーションのズレや誤解が生じやすく職場でのトラブルが増えたり、それらが元になりうつ病や不安障害などの精神疾患の診断を受ける過程で、発達障害が背景にあることが判明するなどです。
また、自己理解の深化や人生の転機(結婚、管理職への昇進、転職、親になることなど)がきっかけとなることも見られます。
チーム管理の難しさから発達障害がわかったケースもあります。ある管理職の方は、チームメンバーとのコミュニケーションがうまくいかず、指示が伝わらないことが頻発しました。そして、メンバー間のトラブル解決がうまくできず、部下からの不満が溜まっていってしまいました。コミュニケーションのズレや社会的なやり取りの難しさから、発達障害の可能性が指摘され、専門機関での診断を受けたところ、ASD(自閉スペクトラム症)と診断されました。
別の人は、大きなプロジェクトを任された際に、ストレスに対する過敏反応が強くなり、パニック状態に陥ることが増えました。また、些細なトラブルや変化に対して過度に反応し、業務に集中できないことが多くなりました。精神科医の診断を受けた結果、感覚過敏を伴うASDと診断されました。
日常生活の中で発達障害がわかるケースの事例としては、結婚や親になるなどの変化がきっかけとなり、家庭内でのコミュニケーションにおける難しさを感じ、診断に至ったケースもあります。
ある方は、結婚後、パートナーとの日常的なコミュニケーションで頻繁に誤解や対立が生じるようになりました。特に感情を読み取ることが難しく、パートナーの気持ちに対して共感することがうまくできませんでした。カウンセリングを受けた結果、自閉スペクトラム症(ASD)と診断されました。ASDの特性が、非言語的なコミュニケーションの理解に影響を与えていたことがわかりました。
子どもの発達問題をきっかけに自身の発達障害を知るということもあります。子どもが発達障害と診断され、親も自身の過去の行動や特性を振り返る機会があり、親も子どもと似た特性や行動パターンがあることに気づくというケースです。
また、家事や育児において、複数のタスクを同時にこなすことが難しく、優先順位をつけるのに苦労しました。時間管理ができず、常に混乱状態に陥ってしまい、パートナーの勧めで専門家に相談し、ADHDと診断されるようなケースもあります。
大人になってから発達障害と診断される背景
大人になってから発達障害と診断されることが増えている背景には、社会的要因と個人的要因の両方が関与しています。
社会的要因
・働き方の多様化や職場環境の変化
現代の職場は、かつてに比べて多様な働き方が求められるようになっています。リモートワークやフレックスタイム制の導入により、個々の働き方が大きく変化しています。このような環境では、自分自身の特性や困難が顕在化しやすくなっています。
例えば、リモートワークでは自己管理能力が求められるため、注意欠陥や時間管理の難しさが明らかになることがあります。環境の変化の中でチームワークや多様なコミュニケーションスキルが求められるため、社会的スキルの不足が問題となることもあります。
・社会の認識と理解の進展
発達障害に対する社会の認識と理解が進んだことも、大人になってからの診断が増える一因です。メディアや教育機関による情報提供が進み、発達障害についての知識が広まったことで、多くの人が自身の特性に気づくようになりました。
テレビやインターネットなどのメディアの情報発信により、発達障害に関する知識が広がっています。また、学校や職場でも研修やセミナーを通じて、発達障害への理解が深まっています。
個人的要因
・自己理解の深化と自己評価の変化
大人になると、自分自身の特性や行動パターンについてより深く理解する機会が増えます。自己理解が深まることで、自分の困難に気づき、診断を受ける動機となります。
自己啓発や心理学への関心が高まり、自分の行動や思考パターンを自己分析するようになり、自分で気づいて診断を受けるケースもあります。また、職場や家庭でのフィードバックを受けることで、自分の特性に気づくことがあります。
・人生の転機が引き金となるケース
人生の大きな転機(結婚、管理職への昇進、転職、親になることなど)が、発達障害の診断を受けるきっかけとなることもあります。新しい役割や環境に直面することで、これまで隠れていた症状が顕在化することがあります。
例えば、結婚してパートナーとの共同生活で、自分の特性や行動パターンが浮き彫りになることや、転職して新しい職場での業務や人間関係に適応する中で、困難を感じることが増えるようになる人もいます。親になり子育てを通じて、自分の注意欠陥や多動性、社交の困難さがわかるというケースもあります。
これらの要因が重なり合い、大人になってから発達障害と診断されるケースが増加しています。
診断のメリットと課題
発達障害の診断を受けることには、多くのメリットがありますが、一方で課題も存在します。
診断を受けることのメリット
・自己理解の向上と適切なサポートの確保
診断を受けることで、自分自身の特性や行動パターンについて深く理解することができます。これにより、日常生活や仕事での困難に対して適切な対処法を見つける手助けとなります。
メリットとしてあげられる点は、「自己理解」です。診断を通じて、自分の強みや弱みを客観的に把握することができます。また、発達障害がわかることでその対応方法が周囲の人に理解してもらいやすくなるため、家族や友人、職場からの「サポート」が得られやすくなります。
「対処法や治療法の選択肢が広がる」という点もあります。発達障害と診断されることで、専門的な支援や治療の選択肢が広がります。これにより、より適切な対処法を見つけ、生活の質を向上させることができるかもしれません。
専門的支援としては、カウンセリングやコーチングを通じて、日常生活や職場での対処法を学ぶことができます。薬物療法や行動療法などにより、症状に合わせた適切な治療法を選択することもできます。
診断を受けることの課題
一方で、発達障害の診断を受けることで、社会的なスティグマや偏見に直面することがあります。これにより、診断を受けることに対する抵抗感が生じることがあります。
例えば、発達障害に対する誤解や偏見により、職場や社会での評価が下がることを恐れたり、発達障害に対する不正確なイメージや偏見、差別的な態度に直面したりすることがあるかもしれません。
また、発達障害の診断を受けるには、専門的な診断を行う医師や施設へのアクセスが必要となりますが、専門の医師や医療機関が限られているため、診断を受けるまでの待ち時間が長くなることがあります。診断や治療には費用がかかるため、経済的な負担が発生するという点もあります。
それでも発達障害の診断を受けることは、自己理解を深め、適切な支援や対処法を得るための重要なステップとなることが多いようです。診断を受けることで、発達障害と共に生きるための具体的な方法を見つけ、生活の質を向上させることが可能となります。また、周囲からの理解やサポートを受けられやすくなることが多いです。
発達障害と共に生きるためのアプローチ
発達障害は、現在の医療では治すことは難しいとされています。そのため発達障害と共に生きていくことが必要となります。これには個人でできること、職場などで配慮してもらうことがあります。
個人でできることは、日常生活の工夫やサポートツールの活用です。発達障害の特性に合わせて、日常生活に工夫を凝らし、さまざまなサポートツールを活用することで、生活の質を向上させることができます。
日常生活に一定のルーティンを設けることで、予測可能性を高め、不安やストレスを軽減することができるでしょう。例えば、毎朝の準備や就寝前の習慣を決めます。
タスク管理には、リストやカレンダーアプリを利用できます。ToDoリストアプリやカレンダーアプリで日々のタスクや予定を管理することで、忘れたり、スケジュール管理ができないといった状況を防ぐことができます。
特定のニーズに応じたツールを使用することで、日常生活の困難を軽減することもできます。ノイズキャンセリングヘッドホンで集中力を高めたり、タイマーで時間を管理するとよいでしょう。また、ストレスを軽減するためのリラクゼーション法や運動を取り入れることも有効的な方法です。
職場では合理的配慮を示すことが義務となっていますが、そのためには自分から配慮してほしいことを申し出る必要があります。どのような困難さがあり、サポートを必要としているのかを説明できるように準備することが重要です。
発達障害の人が働きやすい環境を整えるために、次のような合理的配慮を示している職場があります。
・業務環境の調整
静かな作業スペースや個別の作業ブースなど、集中しやすい環境を整える。
・柔軟な勤務形態
通勤ラッシュが苦手な人のために始業時間を柔軟に調整したり、リモートワークやフレックスタイムの導入により、各自の特性に合わせた働き方を支援する。
・明確な指示とフィードバック
具体的で分かりやすい指示を出し、定期的なフィードバックを提供することで、業務の効率と理解度を高める。タスクを細分化して明確に伝える、定期的な進捗確認を行う。
動画で解説
まとめ
発達障害と診断されるのは、子どもの時期が多くなっています。しかし発達障害が軽度である場合、子どもの頃に発達障害に気付かれないまま過ごすこともあります。大人になってから発達障害がわかるタイミングは、就職や結婚、家族をもつなどの過程で仕事や対人関係がうまくいかなくなるときです。それまでに何らかの違和感や生きづらさがあり、それを自覚したり、周囲の人から指摘されてわかることがあります。また、発達障害に気づかないままうつ病や対人恐怖症、不安障害などを発症してしまい、それがきっかけで発見される人もいます。
大人になってから発達障害と診断されるケースが増えている背景には、社会的要因として、働き方の多様化や職場環境の変化、社会の発達障害認識と理解が進んでいることがあげられます。また、個人的要因としては、自己理解の深化と自己評価の変化、人生の転機(結婚、管理職への昇進、転職、親になること)などが影響しています。
発達障害を自分で認識することは、自己理解を深め、生活の質を向上させるための重要なステップとなります。診断を受けることで、自分自身の特性を理解し、日常生活や仕事での困難に対処する方法を見つけることができるからです。また、周囲からの理解と協力を得やすくなります。
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