専門性の高い業務で異能人材の活躍を創出 オムロンの障害者雇用

専門性の高い業務で異能人財を活躍する機会を創出するオムロンの障害者雇用の取り組み~後編~

2023年10月5日 | 企業の障害者雇用

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障害者雇用率が上がっていく中で、障害者が活躍できる場をどのように創出すればよいのかに悩んでいる企業が多くいます。障害者雇用の中で先駆的な雇用をしてきたオムロンさんでも、新たな障害者雇用の取り組みがスタートしました。それは、令和3年度から開始している「異能人財採用プロジェクト」です。「コミュニケーション能力よりも技術力」をうたい、対人スキルは重要視しない方法で採用していきます。応募者は2~3週間のインターンシップに参加し、業務への適性があるかをお互いに確認する仕組みです。

オムロンでは、特例子会社制度が始まる以前からオムロン太陽株式会社を創設して、障害者雇用に取り組んできた歴史があります。なぜ、今ここで新たな取り組みをはじめたのか、これからの障害者雇用をどのように考えているのか、特例子会社オムロン京都太陽株式会社の前社長で、現在はオムロン本体のグローバル人財総務本部でD&Iに取り組み、障がい者雇用システムアドバイザーをされている宮地功様からお話をお聞きしました。

前編では、オムロンさんの今まで取り組んでこられた障害者雇用の歴史や経緯についてお聞きしてきました。後編では、「異能人財の採用プロジェクト」を進めるにあたった経緯や現状についてお聞きします。

異能人財の採用プロジェクトのきっかけ

Q:異能人財の採用プロジェクトとして力を入れてこられているのは、背景として、今まで身体障害者の方の採用が中心になってきたので、もう少し違った窓口設けようということなのでしょうか。

A:もともとオムロンでは企業理念として「社会課題を解決する」というものがありました。このような理念から考えると、今社会課題になっているのは精神、発達障害の方が働きにくい状況になっているということです。このような状況に対して、障害特性に対してハードルの高い状態でいいのか…という点が一つありました。

また、障害者雇用に関しては2017年に長期ビジョンを策定していますが、そのときに課題感としてあったことは、一つは特例子会社に頼らないで雇用していくということでした。今まで以上に他の営業やスタッフ人材のところで障害者を増やそうということ、もう一つは社会課題でもある精神、発達障害者の雇用を増やそうということです。この二つの課題を解決していく方策として、精神、発達障害者の声を拡大する方策の中の一つが異能人材の発掘でした。

Q:他の特例子会社さんの状況と比べると、特例子会社に頼っているという印象は受けないのですが、オムロンさんの中では障害者雇用は特例中心になっているという認識がお有りだったのでしょうか。

A:オムロンでは、将来のビジョンとして、グループ内各社が単独で法定雇用率を率をキープできるような会社にしたいという思いがありました。
でも、長期ビジョンを考え始めた2017年の時に、実はかなり危機感があったのです。それはオムロンという会社は、外部からもかなり障害者雇用に対して高い評価をされていて、実際に現在でも3%を超える雇用率があります。また、特例子会社のオムロン太陽、オムロン京都太陽をはじめ障害者雇用の先駆者と言われているところもあり、経営陣や多くの社員はオムロンは障害者雇用で進んでいる企業だと思っていました。

しかし、10年先を見た時には全くハッピーじゃない、危ないというのがわかってきたんです。その一つは、先程の社会課題に対応できていない、もっと言うと、将来その課題に対応しようとした時に、精神・発達障害者の雇用ノウハウに関しては逆に遅れてる方じゃないかということがありました。

また、もう一つは、オムロン本体もかなり歴史があるので、働いている障害者の方の層が身体障害者のシニア層が多いんです。創業期に働きはじめた人たちがほとんど定年になってくる時期になっていきます。それで、この先をシミュレーションしていくと、今の採用数ではどんどん雇用率が下がっていくことが想定されることがわかりました。また、関係企業が20社ほどある中で、障害者雇用率を達成できている企業が半分ほどでした。このような実態も含めて、もう一度方針を立てて考えていく必要があると感じました。

Q:プロジェクトはどのような形で進められたのですか。

A:メンバーは、特例子会社の方からは、オムロン太陽、オムロン京都太陽の社長とマネージャー、そして当時はオムロン本体には今のようなD&Iの部門はなかったのですが、人事部門にいた障害者雇用の担当者です。そして、プロジェクトの責任者は、人財戦略の責任者であるグローバル人財総務本部長でした。障害者雇用の「将来を考えるプロジェクト」として、半年間、今後どうあるべきなのかという点を検討して、ビジョンを作成してきました。

私自身もいろいろ課題に感じるところもありました。あのときは、社内的にあまり理解が進んでいなかったので、まずは2030年までの雇用率がどれぐらい変化していくかをシミュレーションしてみることにしました。そして、実際にシミュレーションしてみると、現在の採用数のままでいくと、どんどん下がっていくということが明確になりました。それで、プロジェクトを作りましょうということになったんです。

障害者雇用の理解に必要な体制づくりと風土づくり

Q:社内の理解が進んでいないというところは、どのような点なのでしょうか。お話を聞いていると、そのようには感じられないのですが…。

A:そうですね、一般的な障害者雇用やその合理的配慮のところは進んでいるかもしれません。まぁ、求めるレベルがちょっと高いのかもしれないのですが、例えば200人ほどの社員はグループ各社で雇用されていますが、グループ会社の中でも雇用している会社としていない会社がはっきり分かれていたんです。そこで、雇用の進んでいないグループ会社に話しに行くと、障害者雇用はオムロン太陽や京都太陽で対応してくれればいいのではないかという意見を聞くこともありました。グループの中でも雇用ができていない会社では、自分ごとに捉えられていなかったんです。

このような点と、精神発達障害者の雇用が社会課題であるものの、今の採用方法ではなかなか雇用が難しいという点があり、その辺も含めて変えていくことが求められていると感じました。ですので、その差を埋めていくために体制づくりと風土づくりを全社的に広げることをはじめました。

発達障害の方が活躍する特例子会社を見学したときに、能力がとても高い方がいて、働き方を工夫しながらその能力を発揮して活躍しているのを見ることで、このような取り組みをしていきたいと感じました。また、オムロンの主力事業である制御機器事業の技術開発本部長の理解もあり、一度やってみようということになりました。

異能人財としては、今、一人採用しています。21年に一人採用して、22 年は募集しましたが該当者がいませんでした。今年も採用活動を行う予定です。こちらの異能人財採用では、障害者を雇用するという人数を取ることが目的ではなく、ITやAIなどの分野で能力を持つ人財を採用しようとしています。ある分野ですごく能力があるものの、発達障害の特性ゆえに働ききれていない人をインターンシップで見極めて採用し、嘱託社員として働いて能力が発揮できることを確認した上で正社員登用していくというプロセスで進めています。

私たちも発達障害の雇用に関しては、まだいろいろなノウハウを持ってるわけではないので、 職場の成長と環境づくりなどを含めて、インターンシップをしながら丁寧に見極める時間を設け、お互いに合意できれば正社員登用という形になっていくイメージですね。

また、精神・発達障害者の採用として、先程の異能人財という飛び抜けた能力までではないものの、ある一定の能力がクリアできた方も嘱託社員で採用しています。イメージでいうと、異能人財の次のレイヤーぐらいに当たるようなレベルです。例えば、ソフトウェアのデバッグがすごく優れているとか、いろいろな基幹システムを作っていますけれど、その周辺のアプリケーションソフトが得意ですなどの要件に当たるような人財の採用ですね。そういう枠で入った方も有期期間をクリアして、3人が正社員になっています。

異能人財プロジェクトの取り組みからわかったこと

Q:いろいろな取組をしての手応えや反応はいかがですか。

A:そうですね、今は大学や就労移行支援事業所などの全国の支援機関にも声をかけて、そこから応募してもらっています。大学にある障害者支援室ともお話をさせてもらっていますが、とても好評です。このような人財はたくさんいるということを耳にする機会は多いのですが、これまでの取り組みでは夏休みにインターンシップを実施していたのでスケジュール的に合わないこともありました。募集期間なども含めて、もう少し長期スパンで考える必要性を感じています。

また、技術部門はもちろんですが、技術部門以外でも「こういう能力の高い人を求めます」というのを出していきながら、期間限定ではなく通年でずっとオープンにしていき、そういう人材がいれば、都度連絡をしてくださいという募集をしていく必要があるのかなとも思います。優秀な人材を短期間で集めようとするのはなかなか難しいところがありますので。

2年間で大学10校くらいに直接ヒアリングした中では関心のあるところが多く、障害者支援室も良いのですが、 ゼミの先生の方がマッチングをよくわかっていることもあることを体感しています。そうすると、そういう研究室やゼミの先生とのつながりも必要になってきますし、オムロンが求める技術者のイメージを一時的にではなく長期的に示していくことによって、3年生や修士1年生など、すぐに就職をという年限でなくても問い合わせを受けられるようにしておくことが必要かなと感じています。

こういう学生ならこういう進路も有りだなと見てもらったり、卒業前に一度実習に来てもらったりするなどの長期的な取り組みをしていかないと、異能人財はなかなか集まりづらいのかもしれないというのが、これまでに取り組んできた中で感じていることです。

異能人財はいくつかの新聞でも記事にしていただきましたが、紹介されている社員は面接でもほとんどしゃべれないくらいコミュニケーションが苦手でした。そんな状況を見ていたので、こちらではリモートワークがいいのかなと思っていましたが、本人は毎日会社に行きたいという希望があり、少し驚きました。一般的な話はあまり得意ではないのですが、技術者同士の話ははずんで仕事に関する会話は困ることはありません。一方でマルチ的なジョブが苦手なので、メールやチャットベースで仕事するよりも指導者と一対一で仕事をするのが合っているようです。メールだと、上司からのものだけでなく、社内のお知らせなどもどんどんきます。それを放っておいていいものなのか、すぐに対応しなければいいのかわからないので悩むそうで、会社にいると、すぐに聞ける人が近くにいると彼の場合は安心するようです。

【参考】
発達障害もつ人をIT分野で採用…オムロン、中核業務で(読売新聞2022/09/01)

発達障害による独創性や集中力を生かす「ニューロダイバーシティ」 眠れる人材活躍へ(産経新聞2023/8/11)

今後の障害者雇用の取り組みと目指すこと

Q:今後、オムロンさんとしては、どのような障害者雇用に取り組まれる予定ですか。

A:そうですね、長期ビジョンに合わせながら、特例子会社から一般の会社での雇用を増やしていくこと、そして、精神・発達障害、特に発達障害の雇用を拡大していくという方向で進めていきます。それからグループ全体平均として、少なくとも雇用率3%以上は2030年に向けてもキープしていくことを目指しています。また、今は国内での取り組みが中心ですが、グローバルでもこのような考え方で推進していくつもりです。

また、オムロンの総合職としては、今の人事処遇制度では専門職やエキスパート、スペシャリストがありますが、その前提にはやはりマネジメントスキルが必要になっています。でも、異能人財のようなこの世の中の最先端を行くプログラミング能力があるならば、みんなにマネジメントスキルを求めるのではなく、得意な分野で活躍してもらい、それをいかに処遇していける制度を作っていけるのかを考えていくことが求められていると感じています。

異能人財の採用はこれからもどんどん増やしていきますし、トップスキルじゃなくてもセカンドスキルをどのように発揮してもらうか、また発達障害の採用を増やしていく予定なので、今は試験運用という形で行っていますが、制度面の整備も必要になるだろうと思います。

障害者雇用は多様さを受け入れる風土づくりの機会になる

Q:宮地さんご自身は、障害者雇用に直接関わられるようになって、今までと何か変わったことなどお有りですか。

A:そうですね、直接障害者雇用に関わる前は、一般的に世間が感じることと同じだったと思います。オムロン京都太陽のように補助具などを活用して、一般の雇用とほぼ変わらない形で活躍していることもありますが、やはり何らかの制限があるというようなイメージが強かったです。でも、今、障害者雇用に関わってきて感じるのは、障害者雇用は障害者雇用だけの文脈ではないと思っています。人事の基本のようなところがある感じですね。

私が入社した1980年代は、大学を卒業したら何色にも染まらずに真っ白で来てくれと、会社で教育をして会社のカラーにしてして、みんな同じ仕事ができるようにしますという、いわゆるThe昭和の製造業でした。だけど、ビジネスモデルもどんどん変わり、どこの企業でもイノベーションや多様な人財が活躍ができるようにすることが求められています。

この多様さを受け入れる風土を作るきっかけになるのが、障害者雇用を推進することなのかなと感じます。そういう意味では、まず発達障害だったり、いろいろな障害のある方が一緒に働いている組織風土や制度からはじまり、どんどん他のところにも広がっていっていくのではないかと。これはもう障害者だけじゃなくて、ジェンダーやグローバルもそうですし、様々な人が一緒になって受け入れたり、仕事のやり方も変わっていく事への起爆剤になっていくといいなと思います。

実は、異能人財の活躍に関する活動をオムロンだけでなく地域と連携しながら進めようとしています。今、京都地区の企業と情報交換などを一緒に進めているところです。京都は大学も多いですし、独立系の企業も多いので、一緒に何かをチャレンジしていきやすい環境だと思います。

他の企業でもそうかもしれませんが、オムロンでは精神・発達障害の社員が40数名ほどグループ内にいますが、実は新卒あるいはキャリア採用で最初から障害がわかって入社した人は少ないです。半分以上は、一般採用で入ったもののやはり合わなくて障害がわかったり、発達障害の診断を受けたりというケースが見られます。でも、途中でこのような状況になると、なかなかうまくいかないことが多いと感じます。

受け入れ側が理解できていなかったり、そもそもそういう認識をしていないために本人に合わないような仕事の方法を求めてしまったりして、本人が余計に孤立させてしまうような状況が起こりがちです。もし、入社時に障害が分かっていれば、それなりの準備をして働きやすくできますし、周囲も理解して本人の持ってる能力が発揮されることも多いと思います。

これからの障害者雇用で必要なのは、どのような人が求められているのかということを明確にして、必要な人を採用していくということです。これは障害の有無にかかわらず、求められていくことだと考えています。ジョブと必要な要件を明確にして、それを明示する。そして、それに合う人を採用していく。本人もその求められている能力が自分にはあるとアピールしてもらうという採用方法が求められると思います。

そこで、我々が提示した要件と本当に能力がマッチングしてるかどうかは、インターンシップなどを通して少し時間をかけながら見ていく、その後の有期採用でしっかりと把握して、正社員に登用していくというステップが最適なのです。とりあえず採用してこの人に合う仕事をどこからか切り出してくるという方法や考え方は、ちょっと障害者雇用においては難しいと思いますね。

まとめ

企業での障害者雇用が進み、障害者枠で働きたいと希望する障害者の層が変化しています。また、発達障害を含め多様な能力や特性がある人も増えつつあり、その能力をどのように業務で活躍できるのかを考えている企業も増えています。そうした中で、オムロンさんの取り組みは、これからも注目していきたいと感じました。

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