せっかく採用した精神障害や発達障害のある方が、早期に離職してしまう…。これは、多くの企業が抱える悩みの種です。しかし、原因を特定し、適切な対策を講じることで、定着率を大幅に向上させることができます。
今回は職場定着のために特に重要な4つのポイントを解説していきます。「支援」ではなく、組織の一員として共に成長していくための「マネジメント」という視点を持つことが、成功への鍵となります。
障害者雇用で職場定着を実現させるためのポイント
ポイント1:徹底的な準備をおこなう
早期離職の原因を「精神障害だから」「発達障害だから」と一括りにしてしまっていませんか? 採用前に十分な準備を怠ると、ミスマッチが起こりやすく、結果的に早期離職に繋がってしまう可能性が高まります。
採用活動を始める前に、まずは以下の2つの視点から自社の障害者雇用の受け入れ体制を見つめ直すことが大切です。
その1:組織としての準備
・経営層を含む全社的な障害者雇用への理解を深める。
・社内における障害者雇用の方針(採用人数、職種、キャリアパスなど)を明確にする。
・受け入れ体制(合理的配慮の提供、相談窓口の設置など)を整備する。
その2:採用プロセスの見直し
・求人票の内容を具体的に記載し、求める人物像を明確にする。
・書類選考や面接だけでなく、実習を通して業務適性を見極める機会を設ける。
・採用時の面談で、合理的配慮についてしっかりと話し合う。
採用前の入念な準備は、ミスマッチを防ぎ、入社後のスムーズなスタートに繋がります。
ポイント2:支援ではなくマネジメントをする
障害者雇用は「雇用」であり、組織に貢献し、共に成果を上げていくことが目的です。採用後は「特別な配慮」だけを提供するのではなく、組織の一員として、成果を出してもらうためのマネジメントが重要となります。
障害者雇用や採用を「支援」という枠組みではなく、「雇用」として組織に必要な業務を担う人材として考えることが大切です。しかし、一般の社員と同じ状況で求めると難しいこともあります。その場合には、障害特性や業務スキルなどに応じた配慮をすることが必要です。
業務がスムーズに進むような仕組みづくりとして、次のことができます。
・業務を細分化し、手順を明確にする。
・チェック体制を整備し、進捗状況を把握する。
・マニュアルやFAQを整備し、疑問点をすぐに解消できる環境を作る。
業務自体に関しての工夫は、次のことができます。
・情報伝達の方法を工夫する。(視覚的な資料の活用、口頭説明の補足など)
・タスク管理ツールを活用し、スケジュール管理を支援する。
・集中できる静かな作業スペースを提供する。
仕組み作りと業務の工夫によって、業務効率が向上し、より成果を上げやすい環境を作ることができます。
ポイント3:社内の理解促進を図る
障害者雇用を社内で上手に進めていくためには、社内の理解促進を図ることが必要です。特に最近では、精神障害や発達障害の雇用が増えています。精神や発達障害は見た目では、どのような配慮が必要なのかがわかりにくいことがあります。そのため障害者が安心して働ける環境を作るためには、社内全体の理解と協力が不可欠です。
社内の理解促進を図るためには、経営層や管理職への理解と一般社員向けの理解を図っていきます。
経営層・管理職への理解
・障害者雇用が企業にもたらすメリット(人材の多様化、企業イメージの向上、生産性の向上など)を伝える。
・障害者雇用の関連法規や助成金制度について説明する。
一般社員への理解
・精神障害や発達障害に関する正しい知識を提供する。(障害特性などを踏まえて、どのような接し方が望ましいのかがわかるようにする。)
・合理的配慮の必要性や重要性を説明する。
・障害者雇用は法律の遵守だけでなく、組織にとって必要なことを伝える。
・障害者雇用に関する自社の方針や取り組みを共有する。
厚生労働省が提供する「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」は、社内全体の理解を深める上で非常に有効なツールです。費用はかかりませんし、受講の方法も選択することができます。積極的に活用するとよいでしょう。また、養成講座を受講後には、ストラップなどのツールを活用し、理解促進を可視化することも効果的です。参考に示したヨコオさんでは、この養成講座を全社的な取り組みとして実施しています。
ポイント4:支援機関に頼りすぎない
障害者雇用では、外部の支援機関として、就労移行支援事業所やハローワークなどの支援機関を活用することができます。精神障害や発達障害に関しては、知識や経験がないからと対応を頼りきってしまう企業もありますが、雇用の責任は企業が担うものです。アドバイス的なサポートを受けるのはよいですが、業務に関するマネジメントや職場環境づくりは企業が行うものだと認識してください。
また、支援機関は障害者一人を中心に考えてのアドバイスになりがちです。障害者雇用はチームや部門で取り組むものであり、障害者だけでなくその周囲にいる社員にも受け入れられるものにしていく必要があります。どこかの部門や担当者が負担に感じるような体制では長期的な雇用に無理が生じてしまいます。
とはいえ、障害者雇用に携わっていると、企業が関わりにくい問題や課題が生じることもあります。例えば、障害者の生活にかかわること、金銭的な問題、家族のことなどです。企業では、このような個人的なことに直接的にかかわることは難しいので、このような面に関しては、支援機関の協力やサポートを受けるとよいでしょう。つまり、企業と支援機関の役割を明確に分担し、雇用に関することについては、企業がイニシアチブをとっていくことが重要です。
次のような役割分担をすることができます。
企業の役割
・職場におけるマネジメント
・業務の指導
・職場環境の整備
・採用活動
支援機関の役割
・生活面のサポート
・個人的な問題や課題に関するアドバイスや支援
・関係機関との連携
まとめ
精神障害や発達障害のある方の職場定着を成功させるには、「支援」ではなく「マネジメント」という視点が不可欠です。今回は、定着率を向上させるための4つのポイントを紹介しました。
1.徹底的な準備をおこなう:採用前に組織体制を整え、ミスマッチを防ぐことで、スムーズな職場適応を促進できます。
2.支援ではなくマネジメントをする:障害者雇用を「特別な配慮」として捉えるのではなく、業務を遂行しやすい環境を整え、組織の一員として活躍できる体制を構築することが重要です。
3.社内の理解促進を図る:経営層・管理職・一般社員に向けた適切な教育や研修を実施し、職場全体で障害者雇用を支える文化を醸成しましょう。
4.支援機関に頼りすぎない:企業と支援機関の役割を明確に分け、業務マネジメントは企業が主体となって担い、必要に応じて外部の支援を活用するバランスが求められます。
これらのポイントを実践することで、精神・発達障害のある社員が長期的に活躍できる環境を整え、企業にとっても持続可能な障害者雇用の実現が可能となります。
動画で解説
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