テレワークは、健常者はもちろんですが障害者にとっても障害や疾病の特性等に応じて活躍できる環境の中で能力を発揮する働き方の一つとして注目されています。例えば、通勤が困難な障害者でも、パソコンやインターネット等を活用して在宅で勤務するという機会は、障害者の能力に応じた働き方の可能性や就労機会を広げるものとなります。
厚生労働省では、平成28~29年度にモデル事業として、テレワークを活用して障害者を在宅雇用した会社における課題やノウハウを収集し、新たに障害者の在宅雇用を導入するためのガイドブックを作成したり、雇用した会社から障害者のテレワークを活用した在宅雇用のノウハウを収集してきました。
ここでは、テレワークはどのようなものか、障害者雇用をテレワークで進めることのメリット、業務の切り出し方のポイントについて見ていきます。
テレワークとは
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用して、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方のことです。職場に出勤しないで自宅で仕事を行う在宅勤務はもちろんですが、顧客先、移動中、出張先のホテル、交通機関の車内、喫茶店などで仕事を行うモバイルワークや自社専用のサテライトオフィスや共同利用型のコワーキングスペースなどを利用する働き方も含まれます。
テレワークで障害者雇用を進めることは、これまで働くことのできなかった障害者の雇用機会が増えることにより、企業にとっては多様な働き方や障害者雇用の推進になりますし、障害者にとっては能力を発揮する就労の機会が増えることになります。
また、今後、企業では労働力人口減少による人手不足にも対応していく必要があります。このようなテレワークでの働き方を検討し、会社全体の業務を見直したり、業務を標準化することで、企業全体の生産性が向上することが期待できます。そして、オフィス整備や拡張などの費用も抑えることができます。
テレワークで行う業務と切り出し方のポイント
障害者がテレワークで携わっている業務としては、文書、データ等の入力に加え、情報収集、調査、Webサイトのデザイン・制作等があります。でも、テレワークで行う業務と言われても、なかなかすぐに思い浮かばないかもしれません。
社内でテレワークの業務を切り出すには、まず業務を分類して考えてみるとよいでしょう。一番行いやすいものは、現状のままでテレワーク可能な業務です。現在、障害者がテレワークで携わっている例であげたものを中心に、データの集積・加工、資料の作成、企画などの思考する業務なども含まれます。
これが一通り出すことができたら、現状ではテレワークが難しい業務も出してみます。現状ではテレワークが難しい業務としては、機密情報を扱う業務やお客様との対面の業務、向上での作業が必要な業務などが含まれます。
業務を切り出すときのポイントとしては、現状での業務の切り出し部分を中心に考えるのではなく、どのようにしたらよりたくさんの業務の切り出せるかを考えながら行うことです。もしかしたら、はじめは難しいと思うかもしれない業務でも、いずれ雇用する障害者の業務能力が高まり、スピードやスキルもあがっていきます。そのような時に、今は難しいと思っていたことができるかもしれません。また、業務の幅が広がることにより仕事の幅が増えて、障害者のモチベーションアップにもつながる可能性もあります。
他に業務を切り出す視点としては、誰かに行ってもらったらありがたい業務、今できていない業務でも本当は取り組んだほうがよいもの、やらなければならないけれど手がつけられていない業務を切り出しましょう。外部委託しているような業務なども含めてください。
テレワークで重度障害者を雇用
データ入力やホームページ制作を手掛ける「クオールアシスト」(東京)は移動困難な重度障害者ら40人以上を、在宅勤務の社員として雇用しています。
三重県四日市市の田辺千晴さん(21)は小学校のときに交通事故に遭い、首から下が動かなくなった。特別支援学校を卒業後、障害者向けIT講座で描画ソフトの使い方を学び、17年3月に入社した。フルタイムではがきやポスターのデザインをしている。
赤外線操作システムを利用し視線でパソコンを自在に動かす。同僚とは音声会議システムでつながる。入社3年目に入った田辺さんは「働くことで自分に自信が付いた」と目を輝かせる。週末は球技ボッチャの練習や大会で忙しく、毎日が充実しているという。
クオールアシストとは
クオールアシストは、親会社である調剤薬局大手のクオールが行ってきた障害者雇用活動をより積極的に発展させるため、2009年クオール株式会社の特例子会社として設立されました。テレワークを通して、物理的移動困難な重度身体障害者に雇用の機会を増やすことにも積極的に取り組んでいます。障害者雇用といっても、単なる社会貢献ではなく、社員たちの強みを引き出す工夫がされており、経営的にも利益を出しているそうです。
アシストは、いくつかの工夫をすることで、目の前に社員がいなくても就業と組織運営を実現させています。業務進捗は、個別確認やグループミーティングを定期的に開催することで、参加状況や議事録から確認することができます。また、雇用管理は、在宅社員間の横のコミュニケーションを重視し、個の活動と組織的活動を実施することにより、帰属意識や社員間の仲間意識がうまれ、それが組織を生成する基盤になっているそうです。
業務評価に関しては、重度障害者の場合、身体的機能により稼働能力に大きな差がでてしまうため、成果評価を極力抑え、積極的な業務参加や提案などを行ったことなどでの「行動評価」を重視しています。本人評価・会社評価・業務グループリーダー評価などを加味し、評価が会社主導になり過ぎないように、できるだけ実務者からの意見を取り入れるように工夫しているそうです。
在宅勤務の環境整備としては、在宅社員全員に業務専用パソコンと公衆回線を使用した仮想私設通信網(Virtual PrivateNetwork)回線、社内専用インフラ、Web 会議システムの各アクセス権限を付与しています。在宅勤務で気にされる面としてセキュリティがあげられますが、セキュリティ教育は在宅社員に行うとともに、介助者である家族へもセキュリティ対策への理解を得るようにしているそうです。例えば、業務中の社員の室内に入るときなどの注意点や災害避難時のパソコン機器などの取り扱い方法について事前に説明し、協力を依頼しています。
このような取り組みが評価されて、KAIKA Awards 2017では、KAIKA賞を受賞しています。
まとめ
テレワークという働き方が増えています。そして、障害者雇用の中でもこの流れが見られます。ここでは、テレワークはどのようなものか、障害者雇用をテレワークで進めることのメリット、業務の切り出し方のポイントについて見てきました。
障害者雇用でテレワークに取り組むことは、これまで働くことのできなかった障害者の雇用機会が増えることにより、企業にとっては多様な働き方や障害者雇用の推進になりますし、障害者にとっては能力を発揮する就労の機会が増えることになります。
今までの働き方は、同じ職場で組織メンバーが一緒に仕事をするということが一般的でした。このような働き方は、意思疎通が図りやすく連携して仕事を進めるには適していました。しかし、ITや便利なツールがたくさんでてきています。目の前に社員がいなくても組織的に仕事ができることは十分可能になってきています。
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