障害者雇用を行う際には、雇用条件を提示する必要があります。雇用条件は、一般の雇用と同じように、雇用してから状況をみて変更するということは、かなり難しいことです。そのため、あらかじめいろいろな状況を想定して、障害者雇用を始めるときに、雇用条件を提示する必要があります。
特に、はじめて障害者雇用に取り組まれる企業の人事の方が悩むことの一つに、障害者の待遇があります。雇用する形態はどのようにしたらよいのか、給料の平均はどれくらいなのか・・・。一度決めると、それがもとに今後の雇用も進められますので、十分社内で検討することが必要です。今回は、現在雇用されている障害者の雇用条件についてみていきたいと思います。
障害者雇用の現状
厚生労働省では、5年に1度、障害者雇用実態調査を行っています。この障害者雇用実態調査では、民間企業の障害者の雇用の実態を把握し、今後の障害者の雇用施策の検討や立案に役立てることを目的に、事業所調査と個人調査の2種類の調査を、5年ごとに実施しています。
最新のものは、平成25(2013)年11月に実施されている「平成25年度障害者雇用実態調査」の結果で、厚生労働省から公表されています。
事業所の調査は、常用労働者5人以上を雇用する民営事業所のうち、無作為に抽出した約13,100事業所が対象となっています。個人調査は、事業所調査の対象事業所から半数を抽出し、それらの事業所に雇用されている身体障害者、知的障害者、精神障害者を対象に実施しています。
この障害者雇用実態調査の回収数は、事業所が8,673事業所(回収率66.0%)、個人が9,679人で、内訳は身体障害者7,507人(同62.4%)、知的障害者1,620人(同71.6%)、精神障害者552人(同52.6%)でした。
この障害者雇用実態調査では、障害別にまとめられていますので、それぞれの障害別に職業、雇用形態・労働時間、平均賃金を見ていきます。
身体障害者
障害者雇用実態調査における身体障害者とは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35 年法律第123号。以下「法」という。)に規定される身体障害者を指しています。原則として身体障害者手帳の交付を受けていることが前提ですが、身体障害者手帳の交付を受けていなくても、指定医又は産業医(内部障害者の場合は指定医に限る。)の診断により確認されている場合も含みます。
障害者雇用実態調査における障害の種類、程度の集計区分は次のとおりです。
身体障害者の職業
職業別にみると、事務的職業が31.7%と最も多く、次いで専門的、技術的職業(14.3%)、販売の職業(13.6%)の順に多くなっています。
身体障害者の雇用形態・労働時間
雇用形態別にみると、無期契約の正社員が48.1%、有期契約の正社員が7.8%、無期契約の正社員以外が6.5%、有期契約の正社員以外が37.3%、無回答が0.4%となっています。
また、概ね1ヶ月以上にわたり休職している身体障害者の割合は、2.7%となっています。週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)が81.8%と最も多く、次いで20 時間以上30 時間未満が12.0%となっています。
週所定労働時間別の月間総実労働時間の平均は、通常(30 時間以上)が159時間、20 時間以上30 時間未満の者が100 時間、20 時間未満の者が54 時間となっています。
身体障害者の平均賃金
身体障害者の1ヶ月の平均賃金は、22 万3 千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は21 万1 千円)となっています。
週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)の者が25 万1 千円、20 時間以上30 時間未満の者が10 万7 千円、20 時間未満の者が5 万9 千円となっています。
賃金の支払形態は、月給制が58.8%、日給制が4.8%、時給制が32.6%、その他が2.8%、無回答が1.0%となっています。
障害者となった時点別にみると、事業所の採用前が71.1%、採用後が27.1%、無回答が1.7%となっており、7割が障害者として採用されています。
知的障害者
障害者雇用実態調査では、知的障害者とは、法に規定される知的障害者を指しており、児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医又は障害者職業センターによって知的障害があると判定されていることを意味します。
また、重度知的障害者とは、以下の場合を指します。
- 療育手帳(愛の手帳等他の名称の場合も)で程度が「A」(「愛の手帳」の場合は「1 度」及び「2 度」)とされている。
- 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医から療育手帳の「A」に相当する判定書をもらっている。
- 障害者職業センターで重度知的障害者と判定されている。
知的障害者の職業
職業別にみると、生産工程従事者が25.6%と最も多く、次いで運輸・清掃・包装等従事者が21.9%と多くなっています。
知的障害者の雇用形態・労働時間
雇用形態別にみると、無期契約の正社員が16.9%、有期契約の正社員が1.9%であり、無期契約の正社員以外が26.5%、有期契約の正社員以外が54.8%となっています。また、概ね1ヶ月以上にわたり休職している知的障害者の割合は、0.7%となっています。
週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)が61.9%と最も多く、次いで20 時間以上30 時間未満が26.5%となっています。
週所定労働時間別の月間総実労働時間の平均は、通常(30 時間以上)が142時間、20 時間以上30 時間未満の者が110 時間、20 時間未満の者が45 時間となっています。
知的障害者の平均賃金
知的障害者の1ヶ月の平均賃金は、10 万8 千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は10 万6 千円)となっています。
週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)の者が13 万0 千円、20 時間以上30 時間未満の者が8 万7 千円、20 時間未満の者が3 万5 千円となっています。
なお、賃金の支払形態は、月給制が28.3%、日給制が4.9%、時給制が65.9%、その他が0.4%、無回答が0.4%となっています。
精神障害者
障害者雇用実態調査では、精神障害者は、法に規定される精神障害者を指しています。具体的には、以下に該当し、症状が安定し、就労可能な状態を指します。
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている以外の者であって、産業医、主治医等から統合失調症、そううつ病又はてんかんの診断を受けている者
精神障害者の職業
職業別にみると、事務的職業が32.5%と最も多く、次いでサービスの職業(15.1%)、生産工程従事者(12.9%)の順に多くなっています。
精神障害者の雇用形態・労働時間
雇用形態別にみると、無期契約の正社員が32.0%、有期契約の正社員が8.8%、無期契約の正社員以外が11.1%、有期契約の正社員以外が47.8%、無回答が0.2%となっています。
また、概ね1ヶ月以上にわたり休職している精神障害者の割合は、7.0%となっています。身体や知的と比較すると、休職する割合は高くなっています。
週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)が68.9%と最も多く、次いで20 時間以上30 時間未満が26.2%となっています。
週所定労働時間別の月間総実労働時間の平均は、通常(30 時間以上)が128時間、20 時間以上30 時間未満の者が96 時間、20 時間未満の者が51 時間となっています。
精神障害者の平均賃金
精神障害者の1ヶ月の平均賃金は、15万9千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は15万4千円)となっています。
週所定労働時間別にみると、通常(30 時間以上)の者が19万6千円、20時間以上30時間未満の者が8万3千円、20時間未満の者が4万7千円となっています。
なお、賃金の支払形態は、月給制が44.0%、日給制が3.2%、時給制が51.7%、その他が0.5%、無回答が0.6%となっています。
障害者になった時点別にみると、事業所の採用前が76.9%、採用後が22.5%、無回答が0.6%となっています。
障害者雇用の雇用条件を決めるときにおさえておきたいポイント
障害者の雇用条件を決めるときに、他の会社ではどれくらいなのかと聞かれることがよくあります。その時に示すのが、今紹介した障害者雇用実態調査です。
しかし、企業によって障害者雇用のとらえ方は様々です。ダイバーシティを大切にしているある企業は、障害の有無にかかわらず、他の社員と同じこと(就業時間や能力)を望む企業もありますし、一方で、少し配慮を厚めにしながら、サポート的な業務を任せようと考える企業もあります。
当然、求める仕事内容が異なりますから、待遇、雇用条件は異なるでしょう。ですから、雇用条件を考える際には、ぜひ、自社の中で、どのような業務を任せるのか、障害者にどのような活躍を期待するのかを明確にしてから、雇用条件を検討してください。
また、決めた雇用条件は、雇用した障害者だけでなく、次に入ってくる障害者の雇用条件にもつながります。他の社員との兼ね合いなども考えて決めることが大切です。これには、障害者社員だけでなく、他の社員との兼ね合いもぜひ考えてください。
期待していた働きが得られないからといって、雇用条件、給与を下げることや雇用形態を変更することはかなり難しいことです。もし、期待以上の働きぶりが見られれば、後から雇用条件を上げることはできます。初めからハードルを上げて、こんなはずではなかった・・・というよりも、勤務条件や能力を見てから調整することもできるでしょう。
最低賃金で雇用される障害者が多い
今まで見てきたように、障害者雇用の雇用形態や賃金をみていると、週所定労働時間30時間程度の場合は、おおむね10万円程度となっており、時給換算すると最低賃金くらいの金額になります。
近年、最低賃金が毎年上昇していますので、厚生労働省や地域の労働局からの最低賃金に関するお知らせを見逃さないようにすることが大切です。
最低賃金とは
最低賃金は、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、雇用する事業主は最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。もし、最低賃金額より低い賃金を労使合意の上で定めても、それは法律により無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます。
最低賃金は、最低賃金審議会において、賃金の実態調査結果など各種統計資料を十分参考にしながら審議が行われ、労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力の3要素を考慮して、決定又は改定されます。最低賃金審議会は、厚生労働省に中央最低賃金審議会が、都道府県労働局に地方最低賃金審議会が置かれており、地域別最低賃金は、各地方最低賃金審議会の審議を経て、都道府県労働局長が決定又は改定することになっています。
労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとされています。
最低賃金の減額の特例許可制度
一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用することにより、雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、特定の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として、個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
対象となる労働者は、以下の労働者です。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
- 試の使用期間中の者
- 基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者
- 軽易な業務に従事する者
- 断続的労働に従事する者
許可申請書の提出先は事業場の所在地を管轄する労働基準監督署になります。
最低賃金の減額の特例許可を受ける際には、こちらを参考にしてください。
→ 最低賃金の減額の特例許可制度
出所:厚生労働省
動画での解説はこちらから
まとめ
障害者雇用の雇用条件についてみてきました。
身体障害の職業は、事務的なものが最も多く、次いで専門的、技術的な職業となっています。雇用形態は、正社員が約5割で最も高く、月給制が約6割でした。
知的障害の職業は、生産工程従事者が最も多く、次いで運輸、清掃、包装等となっています。雇用形態は、有期契約の正社員以外が約5割以上で最も多く、時給制が約7割でした。
精神障害の職業は、事務的職業が最も多く、次いでサービス、生産工程従事者となっています。雇用形態は、有期契約の正社員以外が約5割で、時給制が約5割でした。
この調査結果の労働時間と賃金をみると、知的や精神は最低賃金で雇用されている割合が高いことが推察されます。また、1か月以上の休職している割合は、精神が最も高くなっています。
企業によって障害者雇用の考え方は様々です。求める仕事内容に応じて、待遇、雇用条件は異なるでしょう。ですから、雇用条件を考える際には、ぜひ、自社の中で、どのような業務を任せるのかどのような活躍を期待するのかを明確にしてから、検討して、決めてください。
また、決めた雇用条件は、雇用した障害者だけでなく、次に入ってくる障害者の雇用条件にもつながります。他の社員との兼ね合いなども考えて決めることが大切です。
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