精神障害者雇用で迷いが生じる背景には、企業努力だけでは解決できない制度構造があります。
精神障害者雇用の現場では、
「等級と実際の働き方が一致しない」
「更新のたびに雇用が不安定になる」
といった声が多く聞かれます。
こうした違和感は、企業側の理解不足だけで起きているのでしょうか。
近年の医師向け調査では、精神障害者保健福祉手帳の判定について半数以上の医師が「診断書だけでは判断が難しい」と感じていることが示されています。
これは企業実務にとって、非常に重要な示唆を含んでいます。
医師でさえ「生活機能の評価」に迷っている
精神障害者手帳の等級判定では、「日常生活や社会生活への制限の程度」を記載する必要があります。しかし、外来診療の中で、実際の生活状況や働き方を正確に把握することは容易ではありません。
調査では、多くの医師が
・患者や家族からの要望で診断書を作成した経験がある
・逆に必要と判断しても取得を拒否された経験がある
と回答しています。
つまり制度の現場では、客観的な状態評価が難しいグレー領域が存在しているということです。
手帳所持者は増加し、地域差も大きい
精神障害者手帳の所持者数は増加傾向にあり、現在は約80人に1人が所持している計算になります。また地域によって所持率に大きな差があることも報告されています。
これは企業にとって、精神障害者雇用が「特別なテーマ」ではなく、日常的に向き合うテーマになっていることを意味します。
等級は「働ける・働けない」を直接示すものではない
ここで重要なのは、手帳の等級は就労能力そのものを示す指標ではないという点です。制度が見ているのは生活機能や社会生活への影響の程度です。
一方、企業が見ているのは、業務遂行力、職場適応、チームとの協働可能性といった仕事の観点です。つまり、制度の評価軸と企業の評価軸は異なっています。
このズレが、採用や配置、配慮判断の難しさを生む背景の一つになっています。
更新や等級変動が雇用リスクになる構造
精神障害は症状の変動性が大きく、状態が安定すると等級が変わる、あるいは更新が認められないこともあります。
その結果、
・本人は働ける状態である
・企業としても戦力になっている
・しかし制度上は雇用率算定対象から外れる
といった状況が生じることがあります。
これは企業側にとって、雇用継続の判断を難しくする要因となります。
企業に必要なのは「制度理解」ではなく判断設計
精神障害者雇用が難しく感じられる背景には、制度の複雑さだけでなく社内の判断ラインが整理されていないことがあります。
・どの情報をもとに配置を決めるのか
・配慮の範囲をどう定義するのか
・状態変化時の判断主体は誰か
こうした点が曖昧なままでは、現場対応が属人化し、判断が停滞しやすくなります。
手帳はあくまで一つの参考情報です。そして、最終的に就労可能性を判断するのは企業組織です。
業務設計や期待値共有を含めた組織としての判断設計が整うことで、精神障害者雇用は安定して進みやすくなります。精神障害者雇用の難しさは、制度理解の不足だけで起きているわけではありません。
多くの場合、
・判断基準が曖昧
・配慮の範囲が属人化
・状態変化時の対応ラインが不明確
といった組織側の判断設計の未整備が背景にあります。
判断ラインが整理されないまま精神障害者雇用を進めると、現場ごとの対応のばらつきや期待値のズレが広がり、結果として配置ミスマッチや早期離職につながることも少なくありません。
オンライン講座「実務実践コース」では、精神障害者雇用を進めるうえで現場が迷いやすい判断ポイントを整理し、属人化しない対応の進め方を具体的に解説しています。
参考
精神障害者を雇用するときに知っておきたい主治医の意見書の取扱い方法
精神2級は重い?精神障害者手帳の2級・3級の違いと採用の考え方
医師932人に聞いた精神障害者保健福祉手帳の診断書における課題(日経メディカル)


























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