ジョブコーチには、3種類のジョブコーチがあります。地域障害者職業センターの職員である配置型ジョブコーチ、社会福祉法人やNPO等に所属する訪問型ジョブコーチ、企業に在籍していて、職場内の企業在籍型ジョブコーチです。
外部から来てもらうジョブコーチは、この3つのなかの配置型ジョブコーチと訪問型ジョブコーチになります。職場で配置型ジョブコーチや訪問型ジョブコーチによる支援を活用する時期や支援内容について見ていきます。
ジョブコーチ支援を行なうベストなタイミングとは
ジョブコーチ支援は、支援を継続するものではなく、だんだんと支援回数を減らしてフェードアウトしていき、最終的には企業内の無理のない範囲で、職場内の上司や同僚によるナチュラルサポートを受けながら、障害者が安定して働くことを目指すものです。
そのため、ジョブコーチ支援は、対象障害者に対して、職場適応のための課題解決を図りながら、2つのプロセスの支援を行ないます。1つ目は、企業内の支援体制の構築に向けた障害者本人を対象にした支援を行うプロセス、2つ目はジョブコーチの支援から企業主体の日常的な支援・指導体制を行なうものです。
1つ目は障害者本人が業務を行えるようになるための集中支援期間、2つ目はナチュラルサポートに移行するプロセスである移行支援期に分けることができます。
ジョブコーチを行なう期間
一般的にジョブコーチが入る標準的な支援期間は2ヶ月~4ヶ月となっています。また、訪問型ジョブコーチは、職場適応援助促進助成金の関係上、最長1年8か月まで(精神障害者は2年8か月)までとし、職場適応のための課題解決を図り、支援体制を整える集中支援期と企業でナチュラルサポートができる体制を整える移行支援期(あわせて最長8か月)およびフォローアップ期(最長1年)が設定されています。
精神障害者については、必要に応じて通常のフォローアップ期間の後に、状況の確認等を行うための追加のフォローアップ期間を設定できるものとされており、職場定着が難しい場合でも状況に応じて、ある程度は調整できるようになっています。
ジョブコーチを行なうタイミング
雇用する前
雇用前にジョブコーチが活用される場合は、次のようなタイミングがあります。
・雇用前に障害者に適した職務内容等を見極めるとき
・職場環境になじむためには雇用前から雇用後にかけて、長期的な支援が必要なとき
※ 障害者委託訓練(障害者の態様に応じた多様な委託訓練)との併用はできません。
雇用されるとき
雇用されるときにジョブコーチが活用される場合は、次のようなタイミングがあります。
・福祉機関や学校等で職場実習を実施し雇用が決まったが、雇用後においてもしばらくは継続した支援が必要なとき
・雇用は決まったが、企業に障害者雇用の経験がなく、不安があるため支援が必要なとき
※ トライアル雇用との併用が可能です。
雇用したあと
雇用したあとにジョブコーチが活用される場合は、次のようなタイミングがあります。
・支援機関がフォローアップを行う中で、更に支援が必要なとき
・今まで就業支援を受けたことがないが、障害者や企業等から支援が必要と判断されたとき
ジョブコーチによる支援内容
1日のスケジュールを把握する
1日の流れを把握することを「職務分析」といいます。ジョブコーチが、企業に入ってまずおこなうことは、支援障害者の職務内容を確認することです。その職務について、いつ、何のために、何をどのようにするかを分析していきます。
このように、その職場の職務内容を分析することによって、障害者にできる可能性のある職務を再構成したり、調整することが可能となります。この職務分析は、タイムスケジュールを作成する上でも活用します。
出所:就業支援ハンドブック
各業務の課題分析を行なう
ある業務ができない場合、その業務を構成している行動を一連のステップとして考え、どのステップでつまずいているのか、その行動を細かく分けて分析することを課題分析といいます。
これは料理でいえば、レシピに相当します。例えば、目玉焼きを作るという行動をするときにどのような手順が考えられるでしょうか。
「目玉焼きを作る」という一言で表される行動も、次のように細かいステップに分けることができます。
1.卵はあらかじめ室温に馴染ませておき、割って器に入れる。
2.ガスコンロに点火する。
3.ガスコンロにフライパンを乗せる。
4.フライパンをよく温める。(煙が出るくらい)
5.フライパンに油を薄くしき、温める。
6.油もよく温まったら火を弱火にする。
7.フライパンに1で割った卵をそっと入れる。
8.フライパンに蓋をする。
9.1分加熱する。
10.黄身の表面に白い膜が張ったら火を止める。
11.フライ返しで目玉焼きをすくい皿に盛り、お好みで塩、コショウをふる。
「目玉焼きをうまく焼けない」という事実だけをみるのではなく、どの時点で躓いてしまうのか、1~11のステップの中の何が難しいのかを障害者の行動を観察し、特定します。これができると、その躓いているステップを集中的に反復練習したり、別の方法を工夫したりすることで、「目玉焼きをつくる」ことができるようになります。
例えば、5で「油を薄くしき」とありますが、この油の量がわからなくて躓いているようであれば、スプーン1杯と追加で記入することもできるでしょう。また、黄身が固くなりすぎていれば、9でタイマーを使って時間を測るという工夫も考えられます。この課題分析は、作業手順書を作成する際にも役立ちます。
このステップの分け方は、細かく分ければよいというわけでもありません。当然、手順は短くて理解できるのであれば、コンパクトのほうがよいです。しかし、どこかで躓いているのであれば、障害者の理解度に合わせて、いくつかのステップを統合したり、さらに細かいステップに分けることができます。
このようなステップを分けるときに考えておきたいポイントは、1人でそのステップが書かれているマニュアルを見て、行動できるという点です。いつも誰かが確認をする必要があるならば、一緒に働く人の負担感は増えてしまうでしょう。ある程度慣れたときに、1人で業務をこなせるようなものをイメージして作ります。
働く環境を整える(構造化)
行動を起こす合図や目印があったとしても、それがあいまいなものであったり、認識できないものであれば、意味がありません。行動するためのきっかけがはっきりわかるように、環境を視覚的に分かりやすく整理したり、明示することを「環境の構造化」といいます。
例えば、学校の時間割表は、環境の構造化の1つです。時間割を見ると、何曜日の何時間目に、何をするのか一目で分かるようになっているので、クラスの生徒たちがまとまって行動することができます。
代表的な環境の構造化には、時間の構造化、場所の構造化、方法の構造化があります。具体的に見ていきましょう。
時間の構造化
月間予定表や1日のタイムスケジュールを示すことによって、いつ、何をすればよいのかが明確になります。障害の特性によっては、スケジュールの見通しがたたないと不安で落ち着けなかったり、気が散ったりすることがありますので、事前に予定を示すことによって、仕事に集中する体制を整えることができます。
出所:就業支援ハンドブック
場所の構造化
清掃と言っても、どの場所から清掃していくのかで、迷ってしまう人たちもいます。ある事業所の一室を清掃するときに、ゾーンによって掃除する方向を変えることにより効率的であることがわかりました。そのため、各ゾーンを色分けし、ゾーン毎に掃除方向を明示しました。
出所:就業支援ハンドブック
方法の構造化
作業手順書、器具操作マニュアルは、それぞれの働く場所によって使い勝手が異なります。場合によっては貼り付けて掲示することもできますが、全ての場所で掲示することができるわけでもありません。
そんなときには、持ち歩きながらマニュアルを確認する方法をとることができます。
出所:就業支援ハンドブック
働く環境を整える(本人向け)
本人の疲れをコントロールする
ストレスをコントロールすることは難しいことですが、疲れをコントロールすることで間接的にストレスをコントロールすることができます。
障害特性の1つとして、とても疲れやすい人がいますが、疲れがピークに達する前に対応することで、必要以上のストレスを抱え込まないですむことができます。そのためには、勤務日数、勤務時間、仕事内容を調整することができるでしょう。
例えば、精神障害があり疲労しやすいのであれば、1日フルタイムで働くよりも、1日数時間からはじめるとよいでしょう。はじめに頑張りすぎることによって、あとから影響が出てくることが少なくありません。また、誰でも慣れない環境は緊張するものですから、少し余裕があるくらいの勤務時間や仕事内容からはじめることができます。
はじめに決めた勤務時間や仕事内容を続ける必要はありません。本人と相談しながら、勤務時間や仕事内容は柔軟に対応することができますので、スモールステップでステップアップすることを考えていくとよいでしょう。
仕事へのモチベーションを維持する
仕事をし始めたばかりのときは、障害者本人も一生懸命に取り組んでいますし、職場の人たちの関心も高く、何かと声をかけてもらったすることで、障害者自身が自分の存在意義を感じることは少なくありません。
しかし、業務が定着してくると、仕事をはじめたばかりのときに比べると、周囲の人の関心度も低くなることがあるでしょう。特に、1人で行なう清掃業務は、日常的に人との接触が少なく、フィードバックがないとモチベーションが低下してしまうことは珍しくありません。
このような場合には、1日に数回(昼食前や休憩の前など)に、仕事の進捗状況を担当者に報告することをルール化したり、仕事内容についてチェックする仕組みをつくることができます。大切なポイントは、継続できるような仕組み化にすることと、「報告─フィードバック」をすることがモチベーションの維持に必要であることを理解することです。
また、「褒められること」によってモチベーションをあげることを習慣化すると、褒められない、注目されないと手抜きしてしまったりすることにつながりますので、仕事の意義を本人に伝えていくことが大切です。
働く環境を整える(職場向け)
職場の中でナチュラルサポートを行なうためには、企業や周囲で働いている人に障害特性と働き続けるための仕組みづくりが大切になってきます。
障害特性を伝える
障害特性を伝えることは、障害者個々人の個別性もあり、正確に伝えたとしても、受け取る側によって受け止め方は様々です。職場の人たちが受け入れやすい状況や、効果的なタイミングを図ることが求められます。
そのときには、ある程度のイメージが伝わるような事例だったり、適切な対応法が連想できるような説明が理想的でしょう。職場の社風や雰囲気、働く人たちの知識、興味関心、思考パターンなどのバックグラウンドに合わせて説明することによって、受け入れ方が変わってくることも少なくありません。
働き続ける仕組みづくりを行なう
ジョブコーチは障害者の職場定着を支える仕組みを作っていきますが、形式だけ引き継ぎ、考え方を引き継がないと仕組みは形骸化してしまうことがよく見られます。そして、担当者の方がかわってしまい、どうしてそれを行っているのかの意図や背景が分からなくなると、「どうしてこんな面倒なことをしているのか。ムダなことはやめてしまおう。」ということになりかねません。
ある精神障害者は、分からないことがあっても質問できず、周囲から孤立し被害的になり休職してしまった経験がありました。復職するときに、この精神障害者をサポートする仕組みとして、定期的に上司に報告することを決めました。それは、本人が作業のできばえを確認できることが安心感につながり、また、評価されることでモチベーションの維持につながったからです。
どうして障害者には仕事の区切りごとに「報告する」というルールが必要なのか、障害者にとっての報告することの意味などを企業や周囲で働いている人に理解してもらうことが必要になります。
動画の解説はこちらから
まとめ
障害者が職場で安定的に働くためには、障害者が働きやすくするのと同時に、職場の環境を整える必要があります。これらを整えるために、ジョブコーチ支援は活用できる1つの方法です。
しかし、職場のことを本当によく知っているのは職場の従業員の方です。ジョブコーチは、あくまでも外部の人間で、職場の限定的な部分を限定された時間でしか見ることができません。ジョブコーチを上手に活用しながら、でもジョブコーチに任せっきりにするのはではなく、それぞれの職場で障害者が活躍できる環境や仕組みづくりをしていただきたいと思います。
また、今回はジョブコーチが行なう支援内容として紹介してきました。ここでのスケジュールの提示やマニュアルの作成方法、業務の指示の出し方等は、一緒に働く上司や同僚の方が意識することにより、職場にいる障害者の方の働きやすさが劇的に変わることも少なくありません。日々のマネジメントにも活かしていただきたいと思います。
参考
企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修とはどんなもの
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