最近の大学生は多くの学生がインターンシップを経験しています。しかし、そのインターンシップの中身は千差万別で、数日で終わる仕事体験や、目的が不明瞭な活動もあるようです。せっかくインターンシップを経験したものの「働く意欲がなくなってしまった」「このまま社会に出るのが不安」という声も耳にします。
この記事ではインターンシップの現場や三省合意されたインターンシップのルール、障害者雇用にどのように活かせるのかを見ていきます。
大学生のインターンシップの現状
株式会社ディスコが調査した 2023 年 3 月卒業予定の全国の大学 3 年生のアンケート結果によると、インターンシップを経験する割合は9割に上っています。
出典:インターンシップ特別調査(株式会社ディスコ)
インターンシップの参加形式は「オンラインのみ」で開催されたものへの参加が 7 割強を占め(74.4%)、「対面のみ」が約 2 割(19.3%)となっており、両方を組み合わせたものへの参加は 6.2%と少数でした。
また、インターンシップのプログラムは「講義・座学」が多くなっています。「グループワーク」はオンライン形式が最も多く(80.5%)、続いて「社員との座談会」は対面型でおこなわれています(66.2%)。「仕事体験」を伴うものや「職場見学」を含むものは対面型で行われていました。
参加日数は、オンライン、対面、両方の組み合わせをみても、半日から1日の短期プログラムが 6 割強を占めており、5 日間以上のプログラムは最も多い対面型でも約 1 割(11.9%)となっていました。
出典:インターンシップ特別調査(株式会社ディスコ)
なお、インターンシップの参加前後で、その企業への就職志望度がどう変化したかについてみると、インターンシップ参加前は「この企業に就職したい」という希望を示した学生は 4 分の 1 程度でしたが(25.4%)、参加後は 46.1%と大きくポイントをあげています。
出典:インターンシップ特別調査(株式会社ディスコ)
また、インターンシップ参加後にその企業に就職したいと感じた理由を尋ねたところ、最も多かった 「事業内容に興味が湧いた」(69.9%)、「職場の雰囲気がよかった」(60.7%)となっています。オンラインでの実施のところが多かったものの、社員との接点ができたり、 社員同士の会話などから社内の雰囲気を判断する機会もあったようで、インターンシップが企業を選ぶ大きな要素になっていることがわかります。
出典:インターンシップ特別調査(株式会社ディスコ)
なぜ、企業でインターンシップが取り入れられているのか
時代が目まぐるしく変化する中で、情報化やグローバル化など急激な社会的変化の中で、デジタル技術を活用しながら、多様な人々の想像力や創造力を融合して、様々な社会課題を解決し、価値を創造していく社会への移行が進んできています。
特に求められているのは、定められた手続を効率的にこなしていくにとどまらず、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかを考え、主体的に自らの能力を引き出し、自分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくことです。
産業の構造が変化し、国際経済秩序の変化など、変化の激しいVUCA時代(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の先を見通せない予測不可能なありさま・時代を示す用語)の中で、企業はイノベーションの創出を目指して、多様な人材を必要としています。
また、働き方や働く環境が変化していく中で、働き手には、自ら課題を発見し解決していく能力や、自主的に学び続ける力を求めるとともに、自律的なキャリア形成を期待する傾向が高まっています。
企業が大卒者に期待する能力として、「課題設定・解決能力」「論理的思考力」「想像力」「傾聴力」「発信力」などがあげられています。
出典:採用と大学改革への期待に関するアンケート結果(経団連)
このような変化の中で、企業では多様な人材を求める観点から、採用・雇用の多様化・複線化を進めています。職種別・コース別採用やジョブ型雇用に見られるように、専門人材・即戦力を重視する傾向が高まりつつあります。
一方で、新入社員が3年以内に退職してしまう割合は3割という結果が出ています。また離職の理由としてあげられるものは、「仕事内容」「待遇」「人間関係」などがあげられています。
特に仕事内容が離職理由になる理由の一つは、期待と実情のギャップが大きいことがあげられます。仕事を続けるうえで、新卒社員に仕事に対するやりがいを感じてもらうことは重要な要素です。入社説明会や先輩社員から聞く話では、会社のよい面ばかりを強調する傾向にあります。しかし、実際に入社する話が違う状況や、想像していたものと違うとなると、このままここで働いていいのか・・・と考えるきっかけになりかねません。
現在の若い人たちは、社会の変化を冷静に見ています。経営環境の変化が激しい中で、今までであれば定年まで勤め上げる企業や業種とされていたところでも業績が悪化したり、早期退職を募ったり、リストラを始めたりするニュースを見ることも珍しくなりました。ITやAIの進化でほとんどの仕事が機械に置き換わるという話を聞く中で、仕事に対するやりがいや成長することに大きな関心をもっています。しかし、今までの採用では限界もありました。このような中で学生が早い段階から主体的に自らのキャリア形成について考えることや体験することが求められています。
このような中でインターンシップは、社会に出るための体験として大きな役割を果たしています。一方で、多くの学生がインターンシップを経験していますが、インターンシップの内容は様々です。せっかくインターンシップをしてもいかにも形式だけの仕事体験や、目的が不明瞭なものであると、逆に働く意欲がなくなったり、社会に出ることを不安に感じさせてしまうこともあるようです。
そこで、令和4年に文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合意による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(3者合意)が出され、大学生等のキャリア形成支援の取組が類型化されるとともに、一定の基準を満たしたインターンシップで企業が得た学生情報が広報活動や採用選考活動に使用できるよう見直しが行われています。
インターンシップの種類と特徴
大学生等のキャリア形成支援の取組は、次のように類型化されています。
タイプ1:オープン・カンパニー(インターンシップではない)
主な目的は、個社や業界に関する情報提供・PRとなり、企業・就職情報会社や大学キャリアセンターが主催するイベントや説明会です。参加期間は単日で、就業体験はありません。実施時期は、学士・修士・博士課程の全期間(年次不問)となっています。
タイプ2:キャリア教育(インターンシップではない)
働くことへの理解を深めるための教育の一環として行われ、大学等が主導する授業・産学協働プログラム(正課・正課外を問わない)や 企業がCSRとして実施するプログラムとして行われます。
働く体験は任意で、参加期間は授業・プログラムによって異なる。実施時期は、学士・修士・博士課程の全期間(年次不問)となっています。企業主催の場合は、時間帯やオン
ラインの活用等などの学業両立に配慮することが求められています。
タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ
就業体験を通じて、学生にとっては自らの能力の見極め、企業にとっては学生の評価材料の取得を目的とするインターンシップです。
企業が単独で開催したり、大学等が企業等と連携して実施する、適性・汎用的能力ないしは専門性を重視したプログラムが必要で、参加期間は汎用的能力活用型は短期(5日間以上)、専門活用型は長期(2週間以上)となっています。
実施時期は、学業との両立の観点から、学部3年・4年または修士1年・2年の長期休暇期間(夏休み、冬休み、入試休み・春休み)」となっていますが、大学正課や博士課程は、長期休暇に限定されません。
就業体験として、参加期間の半分以上は職場での就業体験(テレワークも可)を実施し、就業体験では、職場の社員が学生を指導し、インターンシップのフィードバックをおこないます。
タイプ4:汎用的能力・専門活用型インターンシップ
就業体験を通じて、学生にとっては自らの能力の見極め、企業にとっては学生の評価材料の取得を目的とするインターンシップです。
ジョブ型研究インターンシップとして自然科学分野の博士課程学生を対象に文科省・経団連が共同で試行しており、 高度な専門性を重視した修士課程学生向けインターンシップ(仮称)になる見込みです。
参加期間は、ジョブ型研究インターンシップは長期(2カ月以上)が想定されており、高度な専門性を重視した修士課程学生向けのインターンシップとして検討中です。
インターンシップで得た情報を広報や採用活動に活かせる
タイプ1~4は学生のキャリア形成支援に係る取組であって、採用活動ではありません。しかし、一定の基準を満たすインターンシップでは取得した学生情報を、広報活動・採用選考活動の開始時期以降に限り、活用することができます。
一定の基準とは、次のことを示します。
・就業体験要件(実施期間の半分を超える日数を就業体験に充当)
・指導要件(職場の社員が学生を指導し、学生にフィードバックを行う)
・実施期間要件(汎用能力活用型は5日間以上。専門活用型は2週間以上)
・実施時期要件(卒業・修了前年度以降の長期休暇期間中)
・情報開示要件(学生情報を活用する旨等を募集要項等に明示)
参考:令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります
インターンシップと障害者雇用
近年、障害者雇用でもインターンシップを取り入れる企業が増えてきています。もともと障害者雇用では、特別支援学校や就労支援機関から知的障害や精神障害の採用として企業に送り出すときには「企業実習」を行なっていました。この場合は、採用を目的とすることが多く見られていましたが(体験目的の場合も一部あり)、最近のインターンシップでは適性を見るために活用することも多いようです。IT企業などを中心に実施されています。
また、大学でのインターンシップがこのような形で活用できることを考えると、大学新卒の障害者の採用に活用することもできます。障害者雇用の大学新卒の採用は外資系企業や一部の大企業などが行っていますが、それほど一般的には行われていません。
「大学に障害者の学生がいるの?」と思われるかもしれませんが、障害者差別解消法の合理的配慮が2014年(平成16年)に行政機関などを中心に適用され(民間企業の義務化は、2024年から)、国立大学等では障害学生支援室を開設するなどして、すでに大学の中では障害のある学生たちの支援がおこなわれています。
障害のある学生たちも増えており、大学生だけでも3万人以上在籍しています。何らかの障害があるので配慮は必要なことはあるかもしれませんが、大学入学試験をクリアし、大学の講義を受けるなど大学生活を送ることができるポテンシャルがあります。
そのため一般の障害者枠での雇用とは、少し違った視点での雇用を考えることができるかもしれません。また、インターンシップという形で何ができるのかをお互いに確認しやすくなることもあり、今後、障害のある大学生の採用を本格的に検討する企業も増えていくと思われます。
人的資本経営が企業で導入されるようになり、人材としてどのように組織で活躍できるようにしていくのかが問われる時代になりました。障害者雇用の取り組みについても雇用率を中心に考えていたものから、人材として活躍してもらう方向に舵を向けようとしている企業も増えつつあります。今までの障害者雇用で限界を感じることがあるならば、少し大きな枠組みの中から考えることが必要になっていると言えるでしょう。
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