障害者雇用は「人」ではなく前提の問題だった|現場で判断が止まる理由

障害者雇用は「人」ではなく前提の問題だった|現場で判断が止まる理由

2026年01月1日 | 企業の障害者雇用

制度と現場のズレが整う 5日間メール講座

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障害者雇用がうまくいかないとき、つい「人の問題」「対応の仕方の問題」と考えてしまいがちです。けれど、現場を見ていると、原因はそれだけではないように感じる場面が少なくありません。
企業、教育、就労支援、福祉、行政―立場は違っても、「どう判断すればいいのか分からない」という感覚は、どこか似ています。
このコラムでは、人や制度を責めるのではなく、前提や設計、時間の置き方に目を向けながら、障害者雇用をめぐる現場の迷いを整理していきます。

「変える」よりも「考え直したい」

障害者雇用や多様性についての話は、いつの間にか「難しいもの」「特別なもの」、そして「どこかに正解がありそうなもの」として語られることが多くなっているように感じます。
企業の現場では、「制度はあるけれど、実際の判断で迷う」 「何が正解かわからず、動けなくなる」 そんな声をよく聞きます。
一方で、教育や就労支援、福祉、行政といった現場でも、立場は違えど、「これでいいのだろうか」「誰が判断すべきなのか分からない」と感じる場面は少なくありません。
現場ごとに状況は異なりますが、判断が止まるときの感覚や、個人の努力や善意に頼らざるを得なくなる構造は、どこか似ているようにも見えます。
だから私は、障害者雇用や多様性を「大きく変えよう」とする前に、まずは、前提や見方を少し置き直すことから始めたいと考えています。
新しい制度や劇的な改革の話ではなく、いま現場で当たり前のように置かれている前提を、 一度立ち止まって考え直してみる。
このコラムは、そんな小さな視点の整理から始めるためのものです。読んでいる方それぞれが、「これは自分の現場の話かもしれない」と感じながら読み進めてもらえたらと思っています。

計画通りにいかないキャリア

振り返ってみると、私自身のキャリアも、最初から明確な道筋が見えていたわけではありません。大学を卒業したあと、思い描いていたような形で社会に出られず、「この先、どこに向かって進めばいいのだろうか」と立ち止まる時間がありました。
そんな時期に通っていたビジネススクールで、キャリアや組織について学ぶ中で出会ったのが、スタンフォード大学のクランボルツ教授による「計画された偶発性理論」でした。
この理論では、個人のキャリアの多くは、あらかじめ計画された通りではなく、予想しない出来事や偶然の積み重ねによって形づくられるとされています。この考え方に触れたことで、計画通りに進まないことを、必ずしも「失敗」や「迷走」と捉えなくてもいいのではないか、と思えるようになりました。
大切なのは、完璧な計画を立てることよりも、その時々で目の前にある状況にどう向き合うか。起きている出来事を否定せず、そこから何を引き取っていくのか、という姿勢です。
この視点は、その後の仕事の進め方にも強く影響しています。あらかじめ正解を決めて現場に当てはめるのではなく、現場で起きていることを丁寧に見ながら、必要に応じて考え方や前提を調整していく。
だからこのコラムも、「成功した経験」や「うまくいく方法」を伝えるためのものではありません。計画通りにいかない現実の中で、どう考え、どう向き合ってきたのか。その背景を共有することから、話を進めていきたいと思っています。

教育・進路の現場|送り出す側の限界

私が最初に深く関わったのは、知的障害や発達障害のある人の教育や進路指導の現場でした。日々の支援や指導を通じて、「どうすれば社会につながっていけるのか」「働くという経験を、本人の力にしていけるのか」を考え続ける日々でした。
教育や進路指導の現場では、本人の特性に合わせた支援や準備を丁寧に重ね、企業実習を経て就職につながるケースも少なくありません。一つひとつの就職は、大きな成果でもあります。
けれど、その一方で、就職できたはずの人が、しばらくすると職場を離れ、また支援の現場に戻ってきてしまう――そんな場面にも何度も立ち会ってきました。
そのたびに感じていたのは、本人の努力や能力だけでは、この結果を説明しきれないという違和感です。支援が足りなかったのか、準備が不十分だったのか。そう自分たちを振り返ることは必要ですが、それだけでは見えてこないものがあるように思えました。
次第に見えてきたのは、就職後の結果は、「受け入れる側の前提や環境によって大きく左右されている」という現実でした。 職場の期待の置き方、役割の与え方、相談や判断の仕組みがあるかどうか。そうした要素が、本人の力を引き出すかどうかに、大きく影響していたのです。
送り出す側がどれだけ工夫を重ねても、受け入れる側の前提が整っていなければ、その努力は続きません。教育や進路指導の現場で感じていたこの限界感は、「本人の問題」ではなく、現場と現場のあいだにある構造の問題なのではないか。そう考えるようになったことが、その後の私の視点を大きく変えるきっかけになりました。

企業という現場|人はいつ力を発揮するのか

その後、私は「受け入れる側」として、企業での障害者雇用、そして特例子会社の立ち上げに関わることになりました。教育や支援の現場で感じていた違和感を、今度は企業という現場から確かめてみたいと思ったからです。
立ち上げ当初は、配慮やサポートを手厚く用意することが大切だと考えていました。困らないように、失敗しないように、先回りして整える。それ自体は間違いではありません。
けれど実際に現場を動かしていく中で、それだけでは人は動かない、ということもはっきりしてきました。配慮や善意が中心になりすぎると、仕事の意味や期待が曖昧になり、本人も周囲も、どう関わればよいのか分からなくなってしまうのです。
一方で、「この仕事を任せたい」「あなたの役割はここにある」と、期待や役割が明確に置かれたとき、人の表情や行動は大きく変わっていきました。
自分が必要とされていること、組織の一員として役割を持っていること。それを実感したときに、新しい業務に挑戦したり、自分から工夫や提案をしたりする姿が自然と生まれていったのです。
この経験を通して気づいたのは、障害者雇用は「特別な配慮の話」ではなく、組織として、人をどう位置づけ、どう扱うかの問題だということでした。誰かの善意や頑張りに委ねるのではなく、役割、期待、判断の仕組みをどう設計するか。それが結果を大きく左右します。
企業という現場は、そのことが分かりやすく表れる一つの例にすぎません。けれどここで見えてきた構造は、企業に限らず、人が集まり、働き、関係をつくるあらゆる現場に共通するものだと感じています。

研究と時間軸|成長は、すぐには見えない

現場での経験を重ねる中で、私は次第に、障害者雇用を「実務」だけでなく、研究の視点からも捉え直したいと考えるようになりました。現場で感じてきた違和感を、もう少し離れた場所から見つめ直すことで、見えてくるものがあるのではないかと思ったからです。
研究や調査に関わりながら、教育や進路に関する話題に触れる機会も増えました。その中で、あらためて考えさせられるのが、人の成長を「どの時点で、どう評価するのか」という問題です。
知的障害のある人の場合、高等部の卒業時点では、選択できる進路が限られて見えることが少なくありません。その状況だけを見ると、「できることが少ない」「選択肢がない」と受け取られてしまうこともあります。
けれど、それは本当に「可能性がない」という意味なのでしょうか。現場や研究を通じて感じてきたのは、多くの場合、そうではないということです。成長のスピードがゆっくりであること、力が発揮されるまでに時間がかかること。それだけで、見え方が大きく変わってしまっているのではないかと思うのです。
人の成長は、短い期間や、決められた区切りの中だけで測れるものではありません。にもかかわらず、「卒業時点」「就職時点」「一定期間後」といった限られたタイミングでの成果だけで判断してしまうと、その人がこれから積み重ねていく変化や可能性は、最初から見えないものになってしまいます。
短期的な成果や分かりやすい結果を求める視点は、制度や運用の上では必要な場面もあります。けれどそれだけで人を見てしまうと、知らないうちに、成長の途中にある人を急かし、評価してしまうことにもなりかねません。
・障害者雇用や人材育成を考えるとき、どの時間軸で人を見ているのか。
・その前提を問い直すことが、現場に余白を取り戻す一歩になるのではないか。
この視点は、当事者や家族にとっても、「今の状態だけで決めつけられていない」「急がされていない」と感じられる土台になると考えています。

問題は人ではなく、前提と設計にある

ここまで振り返ってみると、障害者雇用の現場で起きている戸惑いや行き詰まりは、必ずしも「人」の問題ではないことが見えてきます。
これは、障害者雇用に限った話ではありません。人材育成や組織づくりの場面でも、似たようなことが起きています。思うように育たない、成果が出ない、関係性がうまくいかない。
そうしたとき、個人の能力や意識に原因を求めてしまいがちですが、実際には、前提の置き方や設計の問題であることも少なくありません。
多様性そのものが難しいわけではありません。問題になりやすいのは、多様な人がいる状態を、どのように扱おうとしているのか、そして、どの時間軸で見ようとしているのかという点です。
短期的な成果を前提にすると、成長に時間がかかる人は、どうしても「合わない存在」として見えてしまうのではないかと感じています。
現場が疲弊してしまう背景には、善意や努力に頼りすぎている構造があります。「何とかしてあげたい」「自分が頑張らなければ」そうした思いが強いほど、判断の基準は曖昧になり、負担は特定の人に集中していきます。
本来必要なのは、誰かの頑張りに委ねることではなく、前提や判断の軸を、組織として共有できる形に整えることです。そうすることで、多様性は扱いにくいものではなく、組織の視野や選択肢を広げる要素として、少しずつ機能し始めます。
ここでようやく、「多様性を組織の力に変える」という考え方が、特別な理想論ではなく、前提と設計を見直した結果として、自然に立ち上がってくるものであることが見えてくると思うのです。

静かに、前提を更新していく

ここまで書いてきたことは、何かを大きく変えよう、新しい正解を示そう、という話ではありません。
障害者雇用や多様性をめぐる課題は、強い言葉や劇的な変化で解決できるものではなく、むしろ、日々の現場で当たり前のように置かれている前提を、静かに見直していくことから動き始めるのではないかと感じています。
・見方を少し変える。
・判断の前提を整理する。
・人の成長を見る時間の置き方を変える。
それだけで、これまで見えなかった選択肢が、確実に増えていく場面を、私はいくつも見てきました。
・誰かの努力や善意に頼りきるのではなく、現場として無理なく続けられる形を考えること。
・そして、人を急かさず、決めつけず、それぞれの時間軸を尊重しながら関わっていくこと。
このコラムで書いてきたことは、特定の立場の人に向けた答えではありません。企業、教育、支援、福祉、行政、そして当事者や家族を含め、それぞれの現場で、それぞれの文脈に引き取ってもらうための視点です。
・多様性をどう扱うか。
・人の成長をどの時間軸で見るのか。
・判断の前提を、どこに置くのか。
その一つひとつを、現場と一緒に考え続けていく。私はこれからも、そのプロセスに伴走する立場でありたいと思っています。

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