障害者雇用制度はそのものは知っていても、実務の場面でこれはどうなんだろうと判断に迷うことがあるかもしれません。とくに最近では、法定雇用率の引き上げや制度改正も相次ぎ、最新情報を正確に押さえておく必要性が高まっています。
今回は、企業で障害者雇用に携わる担当者の方が知っておきたい「法定雇用率とは何か?」を軸に、「障害者手帳」や「算定対象者」の基礎知識といった、制度の“基本のキ”を丁寧に、そして実務にすぐに活かせる視点で解説していきます。
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法定雇用率とは|制度の目的と現在の数値
制度の背景:「誰もが働ける社会」をつくるための国の仕組み
法定雇用率とは、企業などの事業主が雇用すべき障害者の割合を国が定めたもので、「障害のある人も、そうでない人も、等しく働く機会を持てる社会」を実現するための制度です。
障害者の雇用は、企業の善意やCSRに委ねられるものではなく、国が制度として義務づける「労働政策」の一環です。雇用の場面において“社会的排除”を防ぐ仕組みとして位置づけられており、国際的にも障害者の社会参加を保障する流れと合致しています。
現在の法定雇用率:2024年4月から「2.5%」に引き上げ
2024年4月から、民間企業における法定雇用率は2.5%となりました。これは、常時雇用する労働者が100人いる場合、2.5人以上の障害者を雇用する必要があることを意味します。
今後も段階的な引き上げが予定されており、2026年7月からは2.7%になることが決まっています。雇用の義務だけでなく、組織としてどのように戦略的に対応していくかが、今後の大きなポイントとなっています。
雇用率未達成時の場合、どうなる?
法定雇用率を達成していない企業には、次のような措置が取られます。
1.障害者雇用納付金制度
1人あたり月額50,000円の納付が必要になります。
2.行政指導
ハローワークや労働局から、障害者雇用計画の作成・提出を求められることがあります。
3.企業名公表
一定期間にわたり達成していない場合、厚生労働省のホームページなどで企業名が公表されることがあります。これは企業イメージへの影響も大きく、広報・採用活動などにマイナスとなることもあります。
障害者雇用は「義務」であり「社会的責任」でもありますが、最近では人材としての活用についての意識が高まり、「組織戦略」へとその位置づけが進化しています。法定雇用率を単なる数字としてとらえるのではなく、その背景や本質的な意味を理解しながら、実効性のある取り組みへとつなげていくことができます。
「障害者」の定義とカウントの考え方
法定雇用率の算定において「障害者」としてカウントできるのは、基本的に障害者手帳を所持している人です。
・身体障害者手帳を持つ人
・療育手帳(知的障害者に交付)を持つ人
・精神障害者保健福祉手帳を持つ人
これらの手帳の交付を受けていることが、原則としてカウントの前提条件となります。したがって、障害があると申告されていても、手帳を持っていなければ雇用率には反映されません。
雇用率のカウントは、週あたりの勤務時間によってカウントが異なります。障害者が雇用率にカウントされるには、原則として週20時間以上の労働時間が必要です。しかし、最近では精神障害の雇用が進み、週20時間以内であれば働きたいというニーズも増えたことから、20時間未満の労働時間であっても、条件によってはカウントできるようになっています。
また、 重度の身体障害者・知的障害者は、週30時間以上の勤務で1人で2人分としてカウントできます。これは、重度の障害を持つ方の雇用促進を図るために設けられた措置です。
なお、精神障害者の手帳は期限が2年となっています。期限の切れた障害者手帳は、雇用率にカウントすることができないので、注意が必要です。
ここがポイント、障害者雇用を正確に進めるために
ハローワークへの報告が必要
障害者を雇用していることを企業はハローワークに報告することが求められています。その情報をきちんと報告しなければ、法定雇用率の達成には反映されません。
特に以下の2つは注意が必要です。
・障害者雇用状況報告書(毎年6月提出)
障害者雇用状況報告書は、企業が障害者の雇用状況を毎年国に報告するための制度です。これは障害者の雇用を社会全体で支えるための“しくみ”の要として位置づけられています。
報告の対象となるのは、毎年6月1日時点の雇用状況です。この時点に在籍している全労働者と障害者の人数をもとに、障害者雇用率を算定し、その内容を所轄のハローワークへ提出します。正確に記載されていないと、雇用率未達成扱いになることがあります。
・障害者の雇入れ・離職時の届け出
障害者を雇用した場合、または退職した場合には、企業はハローワークに対して所定の届出を行う必要があります。これは障害者雇用促進法に基づくもので、雇用率算定や助成金申請、行政支援の対象になるための前提となる重要な手続きとなります。
現場の実情や従業員情報との連携をとり、カウント漏れや退職していたのにカウントしていたなどの状況を発生させないように気をつける必要があります。
人事部門と現場が連携していないと、「定着」しない
障害者雇用は制度上の対応は整っていても、現場の受け入れ体制が伴っていないと、早期離職や不安定な就労につながるケースもあります。
・「どのような配慮が必要か」が共有されていない
・配属部署で障害への理解が浅い
・業務設計が本人に合っていない
これらの問題は、制度では解決できません。制度対応は“入口”にすぎず、定着・活躍を支える“仕組み”があってこそ、実効性のある障害者雇用になります。
障害者雇用を「法定雇用率を満たすための義務」としてだけ捉えていると、形だけの雇用にとどまってしまうので、注意が必要です。
制度を活かして組織を強くするには?
障害者雇用は法律で決められている制度であるものの、「制度だからやらなければならないこと」と捉えるか、「組織にとって必要なこと」と捉えるか──この意識の違いが、障害者雇用の質と成果を大きく左右します。
制度は“きっかけ”にすぎません。本当に企業に力をもたらす障害者雇用とは、制度の枠内でやるべきことをこなすだけでなく、人材戦略の一部として位置づけることにあります。
制度対応で止まる企業と、戦略的に活用する企業の違い
制度に合わせて障害者を雇い、報告書を提出するだけでは、企業側の「負担感」ばかりが残りやすくなります。一方、次のような視点を持っている企業は、制度をチャンスに変えています。
・障害者の特性を活かした業務の再設計
・チームでの働き方やマネジメントの見直し
・職場内コミュニケーションの改善
・採用や人材育成における多様性の推進
これらは、障害者に限らず、組織全体の“働きやすさ”や“生産性”を高める効果を生んでいます。
障害者雇用は、D&Iや人的資本経営の基盤にもなる
近年注目される「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」や「人的資本経営」において、障害者雇用は極めて重要な位置を占めています。企業の社会的責任(CSR)だけでなく、「どのような組織文化をつくっているか」が、採用力やブランド力にも直結してきています。
また、障害者雇用の取り組みは、マネジメントスキルや組織対応力の強化にもつながります。特性に合わせた関わり方を学ぶことは、他の多様な人材(若者、シニア、外国人等)との関係性の質を高めることにも繋がります。
制度を“活用”する視点を持つことが大切
障害者雇用は、制度によって「取り組むこと」が義務づけられている分野です。だからこそ、多くの企業では、「どうやって基準を満たすか」「どうやって納付金を回避するか」という“制度対応”の視点からスタートします。
しかし、実際の職場では、制度だけでは解決できないことが数多くあります。障害のある方が、現場で本当に力を発揮できるようになるためには、業務の設計やチームの受け入れ体制、継続的な関わりの工夫が必要です。そして、そのプロセスを通して得られるのは、障害者雇用の枠を超えた組織の成長力です。
制度は、あくまで“スタートライン”。 そこからどう進むかは、企業の意思と工夫にかかっています。
障害者雇用では、法制度、人事制度、社内の理解、社外の連携など、知識と判断が必要になります。障害者雇用を実践的に体系的に学びたい人のためのオンライン講座があります。
「法制度に合わせた社内整備を早く整えたい」
「どのような人材を採用して、職場で活かすとよいのか?」
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