企業戦略としての障害者雇用 ボトルネックからみた業務最適化の実践事例

企業戦略としての障害者雇用 ボトルネックからみた業務最適化の実践事例

2024年01月19日 | 企業の障害者雇用

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企業の障害者雇用は法定雇用率を達成することは大切ですが、社会的責任だけでなく、企業の持続可能性や価値創造にも貢献するものとして注目されています。

ある中小企業が障害者雇用を通して、いかに企業の生産性と社会的価値を高めることができたか、「ザ・ゴール」で紹介されているTOC理論(制約条件の理論)のボトルネックの考え方から具体的な事例と共に解説していきます。

TOC理論(制約条件の理論)から障害者雇用を考える

アメリカで大ベストセラーとなった「ザ・ゴール」、著者のエリヤフ ゴールドラット氏は15年以上にわたって日本語版の出版を許可していませんでした。その理由は、1984年に本が出版された当時、日本の企業が非常に強く、アメリカが貿易戦争の対象としていたからです。著者は次のように述べていました。「日本人は部分的な改善においては世界でトップクラスです。しかし、この本の提唱する全体最適化の手法を日本人に教えると、彼らが強くなりすぎて世界経済が破綻する恐れがあります。」

一方で、この本は日本人にとって、全体最適化の考え方を強化するための指南書ともなっています。ちなみに著者は元物理学者で、物理学の知識を応用して工場の生産性を劇的に改善する方法を発見し、その方法を実現するソフトウェアも開発しました。しかし、この革新的な概念はすぐには広まらなかったため、著者は小説形式でこの概念を広めることにし、この本を執筆しました。複数の出版社に企画を持ち込んだものの、すべて断られ、「3000部も売れないだろう」と言われた出版社から出版したところ、大ベストセラーとなりました。この本の理論は後にTOC理論(制約条件の理論)と名付けられ、広く知られるようになりました。

TOC理論の鍵は、ボトルネックの特定と対応にあります。ボトルネックとは、瓶の首のように、全体の流れを妨げる要素のことです。例えば、一升瓶を逆さにしても、瓶の首が狭いためにお酒が一気に流れ出すことはありません。このように、あらゆるプロセスには、全体のプロセスの速度を決定するボトルネックが存在します。このような考え方から障害者雇用に取り組みはじめた企業を紹介したいと思います。

ザ・ゴール(著:エリヤフ ゴールドラット)

ザ・ゴール コミック版(著:エリヤフ ゴールドラット)

不良品が出ると見えないコストが大きくかかっていた

紹介する企業は、株式会社スタックス(神奈川県川崎市)さん。事業内容は、精密板金業(宇宙・航空関係、医療機器、通信機器、免震台脚(スウェイフット)等の部品製造加工)で、従業員は50人ほどの中小企業です。

精密板金、わかりやすく言うと金属加工をしている会社として、製造業の中でもサイズ的には小さなものを扱っています。具体的には、宇宙・航空関係の部品や医療機器、通信機器、免震台脚(スウェイフット)など、特殊なものを作っています。製品の大半のものはエンドユーザーが国であり、仕様はかなり厳しいものが要求されます。そのため出荷検査では人材をかなり厚めにあてていたそうです。

また、不良品が一度発生すると、お詫びと製品の差し替えで済まず、原因の究明と再発防止策の策定、さらにしばらくして、それらがきちんと機能しているかの確認もあり、かなりの大きな見えないコストが掛かっていました。

一般の製造業では製造ロットが何千個、何万個ということも珍しくありませんが、スタックスさんではワンロットでつくる数は、1個から数十個、数百個とそれほど多くありません。そのため極力全部を検査するような検査体制をとってはいるものの人員をそれほど割けるわけではなく、外観検査業務を専従にすることは難しい状況がありました。そのため1個1個検品と梱包の兼務体制をとっていました。しかし、検品して包むという工程の中で、どうしても見落としが発生することがでてきてしまいます。

一方で、製品の傷や異常だけをチェックする人がほしいものの、業務のボリュームはそれほど必要ありません。新たに人員を増やして毎日おこなうほどの量はないものの、かといってまとめておこなうと顧客の納期にかかわるし、そもそも見落としをなくす目的でおこなうので片手間でおこなうこともできない。そんな中で、このボトルネックを解決するために何かできないかと考えていたところ、障害者の短時間雇用の実習受け入れをすることになりました。

求めている業務内容と障害特性のマッチング

短時間で雇用から始まった社員は発達障害で、ちょっとした変化にとても敏感な特性があります。普通だと何十個も同じ製品を見ていると、目が慣れてきてしまうことがあります。初見で見ればNGとわかるときでも、ずーっと長い時間見ているとそれを見分けづらいときがでてきてしまうものです。

この検品業務には、発達障害の変化があるものに対して我慢ができないという特性が活かされています。また、決められたことをきっちりすることへのこだわりから、繰り返しの作業でも飽きずに続けられることができます。発達障害の気づきたくなくても気づいてしまう特性や精緻なことへのこだわりの部分が業務とピッタリとマッチしています。

もちろんいい面もありますが、時には悪い面が出るときもあります。少し座る位置が変わっただけ、わずか1メートルほどの席替えでもパニックになることがありました。また、「NGの製品を見つける」という役割はしっかり果たしてくれるものの、はじめはその報告がありませんでした。発達障害の社員からすると「報告するとは言われてなかったので・・・。」ということだったようです。

一緒に働き発達障害の特性を理解していくうちに、このようなことを気が利かないと感じるのか、指示しなかったこちらが悪いと考えるのかによって、マネジメントの方法は違ったものになってきます。スタックスさんでは、このような状況が出るたびに指示の仕方を工夫して、NG見つけたら誰々に報告するというように調整していきました。

業務内容に関しては期待通りの働きがある一方で、障害特性が強くでてしまいコミュニケーションに関しては難しいこともあるそうです。事前に聞いていて、十分わかっていて採用しているものの、コミュニケーショントラブルも何回か発生したり、コミュニケーションが不得意な人同士(障害者同士)がぶつかってしまうこともあり、難しさを感じることもあります。能力や特性が発揮できる一面がある一方で、それが逆の面に作用してしまうこともあり、適切な配慮やバランスを見ることも大切です。

はじめは乗り気ではなく実習からはじまった

障害者雇用をはじめたきっかけは、経営トップが「社会貢献したい」との強い思いから、障害者の就労体験の受け入れをしたことでした。当初は、障害者が仕事をすることに懐疑的や否定的なところもあり、業務に何か影響があっては困ると感じていたそうです。そこで、一番問題がない作業として、すでに検品が終わっている製品の再検査、再検品をおこなってもらうことを体験実習で行ないました。

業務に支障がなければいいと思ってはじめた体験実習でしたが、ある実習生が品質管理上の基準ではNGに当たるものを見つけました。「検査、検品した中にこんなのが入っていました」と、製品にはできない部品を1個持ってきてくれました。このことから、このような能力があること、そして仕事に対する成果があることを実感して、障害者雇用の可能性を感じたそうです。そこで短時間から雇用することがスタートしました。

TOCから障害者雇用について考えてみる

障害者雇用は法律遵守、社会貢献などのコンテクストから語られることが多いですが、障害者を本当の意味で戦力にできている企業では、経営の基本、雇用の基本がしっかりと踏襲されています。

障害者雇用と言うと、真っ先に「どんな配慮が必要なのか」と聞かれることがありますが、考えるべき点はそこではなく、「組織にどんなニーズや課題があるのか」という点です。そして、それに必要な人材を雇用するという視点が必要です。

制約理論(Theory of Constraints, TOC)とボトルネックの考え方は、組織の効率と生産性を向上させるための重要な概念となっています。ボトルネックはシステムやプロセス内で最も効率性や生産性が低い部分を指します。これは、流れを妨げる要素であり、全体の効率に影響を与えるものです。障害者雇用が難しい、障害者が働ける業務はないと考えるのであれば、まず、組織の中でボトルネックになっているものを考えてみるとよいでしょう。

TOCの中で、ボトルネックは制約として特定されるものです。このボトルネック(制約)を特定し、改善することで、全体のシステムやプロセスの流れと効率が改善されていきます。TOCはボトルネックを最適化することにより、全体のパフォーマンスを向上させることを目指すものです。これらの概念を適用すると、組織はシステムの流れを改善し、全体のパフォーマンスを最適化することが可能になります。

補足:制約理論(Theory of Constraints, TOC)の基本

制約理論(Theory of Constraints, TOC)は、組織やシステムの性能を向上させるために、制約条件に焦点を当てる管理哲学で、組織のニーズや課題を見つけるのに役立ちます。この理論は、以下の基本的な考え方に基づいています。

制約条件の特定: TOCでは、まず組織やシステムのパフォーマンスを制限している「制約条件」を特定します。これは、物理的な制約(例えば、機械のキャパシティ)や政策的な制約(例えば、ルールや手順)など、さまざまな形態が考えられます。

制約条件に焦点を当てる: 制約条件を特定したら、その条件に焦点を当て、全体のシステムの流れを改善する方法を探ります。このステップでは、その制約条件をどのように最大限活用するか、または制約を取り除くために何ができるかを考えます。

全体の視点を持つ: TOCは、個々のプロセスや部門ではなく、全体のシステムを最適化することを目指します。一部のプロセスを改善しても、システム全体が改善されなければ意味がありません。

継続的な改善: 制約条件が取り除かれたり、変更されたりすると、新たな制約が現れる可能性があります。したがって、TOCは継続的な改善プロセスとして機能し、常にシステム全体の最適化を目指します。

ザ・ゴール(著:エリヤフ ゴールドラット)

ザ・ゴール コミック版(著:エリヤフ ゴールドラット)

まとめ

企業戦略としての障害者雇用は、単なる社会的責任の達成を超えて、組織の持続可能性や価値創造に寄与する重要な要素となっています。しかし、障害者を雇用する、障害者の業務をなんとか作り出そうとしている企業には、このような視点や考え方ができていません。

このように障害者雇用が難しいと考える企業に参考にしてほしいのは、TOC理論(制約条件の理論)を活用した障害者雇用の事例です。TOC理論は、システム内のボトルネック、つまり効率性や生産性が低い部分を特定し、改善することで全体のパフォーマンスを向上させることを目的とします。障害者雇用においても、この理論を活用することで、特定の業務に最適な人材を見つけ出し、組織全体の効率性を高めることが可能です。

今回の株式会社スタックスさんは、精密板金業において品質管理が重要なボトルネックでした。発達障害の特性を持つ従業員が、その精緻な注意力を活かし、品質管理業務において高い成果を上げています。障害者雇用を特定の業務におけるボトルネックを解消する新たな機会を提供するものとして捉えるのであれば、本業に貢献する障害者雇用を実現することができます。

重要なのは、障害者雇用を単なる法律遵守や社会貢献の枠組みではなく、組織に必要なニーズや課題を解決するための戦略的アプローチとして捉えることです。障害者雇用は、特定の業務における独自の能力と特性を活かすことで、組織全体のパフォーマンス向上に寄与できます。

参考

障害者の短時間雇用を成功させるための考え方、取り組み方~スタックス(川崎)の事例 前編~

障害者の短時間雇用を成功させるための考え方、取り組み方~スタックス(川崎)の事例 後編~

障害者雇用の採用において、企業実習を行うメリットとは?

異能の人材を発掘、キャリアアップする特例子会社デジタルハーツプラス(前編)

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