障害者の就労支援については、福祉と労働が連携を進めながら対応してきました。しかし、通勤や職場等における支援については、現時点において十分な対応ができていないとの指摘を受けてきています。
昨年の参院選では、れいわ新選組から重度障害のある舩後靖彦、木村英子両氏が初当選したときには、国会活動は歳費を受け取る経済活動と見なされ、訪問介護サービスの対象とならずに、当面は参院の予算で対応することになりました。これで注目を集めて議論が活発化するかと思われましたが、障害福祉サービス制度自体の見直しは先送りされることになりました。
しかし、昨年12月に開催された第94回労働政策審議会障害者雇用分科会では、この辺の議論がされてきましたので、どのような検討があったのか見ていきたいと思います。
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重度障害者就労の課題:経済活動(就労)で訪問介護サービスが利用できない
障害福祉サービス(訪問系サービス)とは?
「障害福祉サービス」は、介護の支援を受ける場合には「介護給付」、訓練等の支援を受ける場合は「訓練等給付」に位置づけられ、それぞれ、利用の際にはプロセスが異なります。サービスには期限のあるものと、期限のないものとがあります。有期限であっても、必要に応じて支給決定の更新(延長)は一定程度可能となっています。
障害福祉サービス(訪問系サービス)は基本は介護されるということを前提に作られていたため、通勤、営業活動等の経済活動に対する支援は対象外となっています。そのため重度障害のある舩後靖彦、木村英子両氏は、国会活動は歳費を受け取る経済活動と見なされ、訪問介護サービスの対象とならずに、当面は参院の予算で対応することになりました。
また、障害者雇用促進法に基づく納付金関係業務として、雇用管理のために必要な職場介助者や通勤を容易にするための通勤援助者の委嘱等を行う事業主に対して助成金を支給していますが、これは支給期間が限定されたものとなっています。
重度障害者等通勤対策助成金とは?
重度身体障害者、知的障害者、精神障害者または通勤が特に困難と認められる身体障害者(重度障害者等)を労働者として雇用する事業主が障害者の通勤を容易にするための措置を行わなければ、雇用の継続が困難であると認められる場合に、その費用の一部を助成するものです。
なお、対象障害者が雇用されて6ヶ月を超える期間が経過している場合には、やむをえないと認められる場合を除き、雇用の継続が図られており、すでに今まで通勤困難性に対する措置がなされていることから支給対象とはなりません。
なお、重度障害者等の通勤を容易にするための措置には、他にも次のような助成金が設けられています。
・重度障害者等用住宅の貸借助成金
・指導員の配置助成金
・住宅手当の支払い助成金
・通勤用バスの購入助成金
・通勤用バス運転従事者の委嘱助成金
・通勤援助者の委嘱助成金
詳細については、こちらをご覧ください。
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重度障害者等通勤対策助成金(独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構)
最近では、情報機器も発達していること、働き方が多様化していることなどを背景に、重度の障害者も働ける場が増えている中で、障害者がより働きやすい社会を目指すためには、働く際に必要となる介助などの支援の在り方は重大な課題となっています。
これに対応するため省内に設置された「障害者雇用・福祉連携強化プロジェクトチーム」にでは、障害者の就労支援に関する、雇用と福祉の一体的展開の推進にかんする諸課題の一つとして、「通勤や職場等における支援の在り方」についても総合的に対応策を検討しているとのことです。
現時点で検討されている事柄
・今後の障害者の就労支援全体の目指すべき姿を展望しながら、通勤や職場等における支援について、対応策を検討 する必要があるのではないか。
これに対しては、今後も障害者が「働くこと」を一層強力に支援していく必要があり、そのためにも引き続き雇用と福祉の一体的展開を推進し、切れ目のない就労支援を確立していくことが重要であると考えられています。また、後手に回っている 通勤や職場等における支援についても、雇用と福祉の一体的展開のもと、切れ目のない就労支援策として提供される ことを目指し、検討を深めていくべきだとしています。
・通勤や職場等における支援とは、具体的にどのような目的で、どのようなことを行うものであるかなど、その中身、性格等を整理した上で、その提供の責任の所在と負担がどうあるべきか考え方を整理する必要があるのではないか。
通勤や職場等における支援については、個々の障害者の障害特性や就業場所等に応じたものが考えられるべきとしています。例えば、呼吸器等の調整や体位変換、 トイレ利用・昼食時の介助などの支援、書類の読み上げ・ページめくり・整理等の業務補助、就労支援機器(PC入力関 連機器等)の整備・操作・入力などです。
また、提供の責任等を整理するに当たっては、雇用か自営か、民間か公務員かなど、障害者の働き方も踏まえることが求められると考えられています。
・通勤や職場等における支援が必要な方はどの程度いるのか等実態把握をした上で、その実態を踏まえ、実際の支援の提 供に当たって、どの範囲までその支援の対象とするかなど、内容を整理する必要があるのではないか。
現在、常時介護を必要とする「重度訪問介護を利用している方」については、現在全国調査を行っているようです。今後、就労している方がどの程度いるのか、今は就労していなくても就労を希望している方がどの程度いるのか等の実態把握を行いながら、内容を整理していく必要があると考えられています。
なお、「重度障害者の在宅就業に関する調査研究」については、全国の重度訪問介護事業所を対象とした全数調査が行われており、調査内容は、以下のような点をについて行われています。
・重度訪問介護利用者数
・利用者の障害支援区分、障害の状況
・利用者の就労の有無、就労形態(企業等で雇用・自営や請負、通勤・在宅の別)
・就労希望、就労の際に必要な支援 等
アンケート調査結果(速報値)では、就労率 6.0%、就労希望率 5.4%となっていますが、3月に調査結果がまとまるようですので、その結果をまた見ていきたいと思います。
・「制度の谷間で働く機会を得られない、又は必要な支援等がないために継続して働くことができない等の障害者の置かれた現状」を打開し、障害者が希望や能力に応じて生き生きと活躍できる社会に近づけていくため、通勤や職場等における支援について早期に検討を進め、段階的に対応策を講じる必要があるのではないか。
これまでの検討を踏まえて、重度の障害がある方の通勤や職場等における支援において雇用施策と福祉施策が連携 して「制度の谷間」に対応していくため、意欲的な企業や自治体について、次の取組を令和2年度に実施する案が検討されたようです。
・障害者雇用納付金制度に基づく助成金の拡充を図ること
・ 自治体が必要と認める場合には、地域生活支援事業の新事業により各自治体が支援を行うこと
すでにさいたま市では、このような取り組みが行われています。
さいたま市は今年度、全国の自治体で初めて、勤務中の訪問介護サービス費用を市が支援する制度を試行的に導入しました。さいたま市は当初、国に規制緩和を要望していましたが、結論が先送りされたため、独自支援を決めています。今年度予算に298万円を計上し、在宅で勤務する重度障害者への訪問介護費用を全額負担することにしています。
このような取り組みが、それぞれの自治体で検討されていくと、障害者雇用の広がりがあるのではないかと思います。
まとめ
重度障害者の通勤や職場等における支援の在り方について、昨年12月に開催された第94回労働政策審議会障害者雇用分科会では、この辺の議論がされてきましたので、どのような検討があったのか見てきました。
れいわ新選組の重度障害のある舩後靖彦、木村英子両氏は、訪問介護サービスの対象とならずに、当面は参院の予算で対応することになり、議論が活発化するかと思われましたが、障害福祉サービス制度自体の見直しは先送りされることになりました。
しかし、少しずつ確実に広がっていっているように感じます。「重度障害者の在宅就業に関する調査研究」であがった就労率 6.0%、就労希望率 5.4%の声をどのように活かせるのかを見ていきたいと思います。
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