アスペルガー障害は、自閉症スペクトラム障害（ASD）の一部で、知的な遅れはないものの、社会的なコミュニケーションや行動に特徴的な困難を伴う発達障害です。一方で言語発達は通常であることが多く、流暢に話すので、どんな点が苦手なのかがわかりにくいところがあります。
今回は、アスペルガー障害の主な特徴や職場でのコミュニケーション方法について解説します。
アスペルガーとはどんな障害？
アスペルガー障害は知的な遅れがないものの、主にコミュニケーションに困難を感じる発達障害の一つです。自閉症スペクトラム障害（ASD）の一部として分類されており、相手の立場に立って物事を考えることが難しいとされています。これは、感情や意図を読み取ることが困難であり、社会的な状況で適切な行動をとるのが難しいためです。
日本の社会環境は、アスペルガーの人にとって特に生きにくいところがあります。日本では、個性よりも集団に溶け込むことが重視される文化があるからです。学校教育では、個人の特性を伸ばすよりも、集団での調和や協調が重要視される傾向があります。そのため、アスペルガー障害者はその特性が目立ちやすく、学校生活や職場での人間関係において苦労することが多いです。
さらに、日本の社会では「忖度」という概念が深く根付いています。忖度とは、言葉を介さずに相手の気持ちや意図を推し量り、行動することを指します。つまり場の雰囲気を読むことができる人が評価され、出世しやすい社会構造があります。しかし、アスペルガーの人は、他者の感情や意図を読み取ることが難しいため、忖度を求められる状況で非常に困難を感じます。このような文化背景が、アスペルガーの人にとって生きにくい社会にしています。
職場においても、この文化的背景は影響を及ぼし、アスペルガーの人が適応するのは簡単ではないことがあります。しかし、適切な理解と支援があれば、彼らも職場でその才能を発揮し、貢献することができます。まず、アスペルガーの人が職場でどんな苦手さを感じることがあるのか見ていきましょう。
アスペルガーの人が職場で直面する課題とは？
アスペルガーの人が職場で直面する課題としては、次のようなものがあります。
・礼儀作法の欠如
基本的な礼儀作法や社会的なルールを自然に身につけることが難しいことがあります。挨拶やお礼を適切に行うタイミングを逃してしまったり、失礼と受け取られる言動を無意識にしてしまうことがあります。
・感覚過敏
音や光、匂いに対して通常の人以上に敏感です。職場の照明が明るすぎたり、周囲の雑音が気になったりすることで、集中力が削がれ、パフォーマンスに影響が出ることがあります。また、特定の匂いに対する敏感さから、不快感を感じることもあります。
・飲み会等の場の適応
社交の場である飲み会では、場の空気を読むことが難しいため、話に加わることができなかったり、逆に一人で話し続けてしまうことがあります。その結果、周囲とのコミュニケーションがうまくいかず、孤立してしまうことがあります。
・表情の乏しさ
アスペルガー傾向のある人は、表情を適切に作ることが難しいため、無表情に見られがちです。笑顔が必要な場面であっても表情に乏しく見えるため、周囲から機嫌が悪いと誤解されることがあります。
・体調不良
自律神経系やホルモン系が崩れやすいため、体調を崩しやすく、仕事を休むことが頻繁にあります。特に、緊張やストレスが続くと体調を崩しやすく、大事な仕事を欠勤してしまうこともあります。
アスペルガーの特性に適した業務や職場環境とは？
一般的にアスペルガーの人は、特定の環境や仕事においてはその才能を最大限に発揮することができますが、適応が難しい環境では苦労することが多いです。そのため本人の特性を活かせるような仕事を見つけることと適切な職場環境が非常に大切です。
仕事については、特定の分野に強い興味を持ち、深く探求することがあります。また、日常生活の中で一定のルーティンやパターンにこだわることが多く、変化を嫌うことがあります。そのため例えば、データ処理や緻密な作業を要求される職種は、アスペルガー障害者に適している場合が多いと言われています。
反対に、他人とのコミュニケーションが苦手だったり、会話の流れや相手の気持ちを理解するのが難しいことがあります。非言語的なコミュニケーション（ジェスチャー、表情、声のトーンなど）の理解や使用が苦手なので、人間関係が多く、内容に変化の多い仕事は適応が難しいことがあります。
アスペルガーの特性に適した職場環境は、パフォーマンスを引き出せるようにサポートすることができます。例えば、明確な指示が示されるとわかりやすいです。曖昧な指示や状況を察知する期待をされると難しいことがあります。状況に応じた対応を求められるよりも決まったルーチンやスケジュールがあり、騒音や過剰な刺激が少ない静かで安定した場所で業務できるとよいでしょう。
業務に関しては、チーム作業よりも個別に取り組むことができる作業が向いていると言われています。業務に関しては、明確なルールがあると取り組みやすいです。業務の一貫したルールや手順が明確になっていることや、業務の中で起こることが予測できると、安定的に対応することができます。
また、自分の特性を理解しそれに合った対処法を身につけたり、周りがそれを理解し、適切なサポートをすることで、と理解があれば、アスペルガー障害者もその才能を発揮し、職場で貢献することができるのです。職場のコミュニケーションで、気をつけるとよいコツについて見ていきましょう。
職場できるコミュニケーションのコツ
その1.明確で具体的な指示を出す
アスペルガーは、曖昧な指示を理解するのが難しいことがあります。そのため、タスクや期待される結果を具体的に伝えることが重要です。
曖昧な指示を避けるようにしましょう。例えば「時間があったらやっておいて」という指示は避け、「明日の午後5時までにこのレポートを完成させてください」のように具体的な期限と内容を伝えます。
業務では、具体的なタスクを出します。「このデータを整理してください」ではなく、「このデータベースのA列のデータを、B列のデータと照合して不一致がないか確認し、結果を報告してください」のように具体的な作業内容を示します。
期待される結果を明示します。「レポートを作成して」と指示する際には、「表紙を付けて、3つのセクションに分けて、最後に結論を含める」と具体的な形式や内容を伝えます。
その2.ビジネスマナーや社会人のルールを教える
アスペルガー障害者にとって、礼儀作法や社会的なルールを自然に身につけるのは難しいことがあります。挨拶やお礼、謝罪のタイミングは、具体的に教えることが有効なときがあります。飲み会などがあるときには、どのような流れや場の雰囲気なのかを伝えたり、期待される行動について説明することで、安心感を与えることができます。
例えば、挨拶ができていないときには、 毎朝「おはようございます」と声をかけるように促し、自然にできるようになるまで練習することができるかもしれません。お礼と謝罪のタイミングが掴めていないようであれば、上司や同僚から何かをしてもらったときには「ありがとうございます」と言うことやそのタイミングを教え、ミスをしたときには「申し訳ありませんでした」と言う練習をすることができます。
シチュエーションが思い浮かばないと、イメージできない場合には、具体的なシナリオを用意することも有効的です。例えば、「上司が出張のお土産を渡してくれたときには、笑顔で『ありがとうございます』と言いましょう」という具体的な状況を設定して練習できるかもしれません。
その3.定期的なフィードバックを行う
定期的なミーティングを設定し、フィードバックを行うことも大切です。具体的に何が良かったのか、どんな点を工夫してほしいのかを具体的に示します。
例えば、新しいキャンペーンの計画を担当することになったアスペルガー症候群の社員がいて、毎週1回、進捗確認のための定例ミーティングを設定しているかもしれません。そのときには、次のようなフィードバックができます。
「今週のプレゼンテーション資料はとてもよくできていました。特に、データの視覚化が明確でした。」
「ただし、データ収集の部分で少し遅れがあったので、来週はデータ収集を早めに始めてみてください。」
具体的な成果と改善点をバランスよくフィードバックすることで、次の週に向けて何を改善すべきかが明確になります。
また、何か課題があるならば、それを解決する方法も具体的に示すことができます。日常業務でデータ入力作業を担当している社員には、次のようなフィードバックと提案ができるかもしれません。
「今週のデータ入力は非常に正確で、エラーがほとんどありませんでした。素晴らしい仕事です。」
「ただ、データの入力速度が少し遅いので、次回からはショートカットキーを使う練習をしてみましょう。」
このようなフィードバックにより、社員は自分の強みを理解しつつ、改善点にも具体的に取り組むことができます。
個人の仕事では成果を出しやすくても、他のメンバーと協力しながら進めるときに課題があるときには、次のようなフィードバックができます。
「チームミーティングでのアイデアの提供は非常に役立ちました。特に、新しいマーケティング戦略の提案が良かったです。」
「次回のミーティングでは、他のメンバーの意見をもう少し聞いてから、自分のアイデアを提案すると、より良い協力が得られると思います。」
このように、フィードバックを定期的に行うことは、アスペルガーの人は評価を伝えることで仕事に自信を持つことができますし、効果的に進める方法などがある場合には、具体的なアドバイスすることで改善ができます。定期的なフィードバックは、仕事の質を高めるだけでなく、安心感や信頼関係の構築にも寄与します。
まとめ
アスペルガー障害は、知的な能力に遅れがない一方で、社会的なコミュニケーションや行動に特徴的な困難を抱えるという特徴があります。職場で能力を発揮するためには、適性に合った業務や職場環境、理解と支援が不可欠です。特に職場のコミュニケーションや接し方では、次の3つのコツを取り入れることで、アスペルガーの特性に対応し、円滑なコミュニケーションを促進することができます。
・明確で具体的な指示を出す
曖昧な指示ではなく、具体的なタスクと期限を設定し、期待される結果を明示することで、アスペルガーの人も業務に自信を持って取り組むことができます。
・ビジネスマナーや社会人のルールを教える
礼儀作法や社会的なルールを具体的に教えることで、アスペルガーの人が職場でのコミュニケーションに安心感を持ち、適切な行動を取ることができます。
・定期的なフィードバックを行う
定期的なミーティングを通じて、具体的な成果と改善点をフィードバックすることで、アスペルガーの人が自分の強みを理解し、効果的に業務を進めるためのアドバイスを受けることができます。
これらのポイントを実践することで、アスペルガーの人が特性を活かし、職場で貢献することができる環境を整えることができます。理解とサポートをもって接することが、共に働く上での重要なステップとなります。
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