政府は、農業を障害者の雇用の場として生かす「農福連携」について、2024年度までに新たに取り組む拠点を3,000ヶ所に増やす計画があることを明らかにしました。
農福連携による障害者の就農促進プロジェクトは、ここ数年注目されてきています。農業分野での障害者の就労を支援し、障害者にとっての職域拡大や働くことでの収入拡大、農業にとっての担い手不足解消につなげ、地方の創生及び経済の成長に貢献するという一定の効果が見えてきたためだと思われます。
ここでは、農福連携の取り組み、また農業分野の障害者雇用の可能性について考えていきたいと思います。
農福連携で新たに3000ヶ所を計画
政府は、農業を障害者の雇用の場として生かす「農福連携」について、2024年度までに新たに取り組む拠点を3,000ヶ所に増やす計画があることを明らかにしました。障害者施設と農家をマッチングする仕組みを全国で構築したり、障害者に農業を教えるジョブコーチの育成、事例の情報発信などに力を入れていく予定です。
障害者や高齢者の社会参加につながる農福連携は、政府が描く「地域共生社会」と親和性が高く、農林業の深刻な人手不足を緩和する効果も見込めることもあり、幅広い関係者の期待を集めています。
【農福連携等推進ビジョン(案)の概要】
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障害者雇用の農業分野における現状と動向
農福連携とは
農福連携は、農業と福祉が連携し、障害者の農業分野での活躍を通じて、農業経営の発展とともに、障害者の⾃信や⽣きがいを創出し、社会参画を実現する取組のことです。年々⾼齢化している農業現場での貴重な働き⼿となることや、障害者の⽣活の質の向上等が期待されています。
農福連携は、いろいろな地域で展開されていて、これらが多様な効果を発揮されることが求められていますが、持続的に実施していくためには、農業経営が経済活動として運営されることが必要になります。
農福連携に関する障害者の就農促進プロジェクト
農福連携による障害者の就農促進プロジェクトは、ここ数年注目されてきています。農業分野での障害者の就労を支援し、障害者にとっての職域拡大や働くことでの収入拡大、農業にとっての担い手不足解消につなげ、地方の創生及び経済の成長に貢献するという一定の効果が見えてきたためだと思われます。
平成28年度からは、農福連携による障害者の就農促進プロジェクトが開始されており、障害者就労施設への農業に関する専門家の派遣や農福連携マルシェの開催等が開催されています。
これに加えて、ここ最近は、農業に取り組む障害者就労施設の好事例を収集し、セミナー等を開催する経費を補助する意識啓発に関わる事業や農業生産者と障害者就労施設による施設外就労とのマッチング支援にも力を注いでいます。都道府県取組状況からもその様子がうかがえます。
障害者が農業活動に携わる効果
障害者が農業活動に携わる効果はどのような点があるのでしょうか。
実際に農福連携に取り組んでいる施設では、「精神の状況がよくなった・改善した」と回答したところが57.3%、 「身体の状況がよくなった・改善した」と回答した施設は45.0%となっており、農業活動に従事することによって、身体面や精神面にプラスとなり、一般就労に向けた訓練にもつながると見ています。
また、障害者本人への効果を見ると、「就労訓練」のほか、「地域住民と交流ができるようになった」、「コミュニケーション向上」が上位にあがっています。
障害者雇用で農業分野は進むか
農業と障害者が働くことの相性は悪くないと言えるでしょう。そこで、障害者雇用として農業で雇用についても進むのかについて考えていきたいと思います。
特例子会社の立ち上げに関わり、新規事業開発をほとんどの期間携わってきた中で、農業はその一環として検討したことがありました。もう10年以上前のことになりますが、当時は様々な面を検討した結果、私が関わっていたところでは、難しいという結論に至りました。
まず、障害者雇用で雇用するときには、当然ですが、1年中仕事があることが必要です。時期によって仕事がある、しかしある時期は仕事がないということでは雇用が成り立ちません。1年中、何らかの農作業があり、農作物を一定量供給できるのは、かなり地域などが限定されるのではないかと思います。
また、農業ができるには、ある程度の郊外などの地域にならざるをえません。駅から数分などの場所で農業をすることは難しいでしょう。そうすると会社から別拠点をつくるか、かなり移動することが必要になります。仕事がないときには社内で仕事を・・・というわけにも行きません。
採算の面もあります。農業を行うには、自分たちで農地を借り入れるか購入する必要があります。また、そこで働くスタッフ(農業経験者が望ましく、農作物のことなどを考えるとシフト制も必要)、通勤の便が悪いところが多いのでその送迎、農作業をするのでシャワー室等を設置する・・・などを考えると、一般の障害者雇用よりもかなりイニシャルコストがかかります。このような点や他の面から検討した結果、私がいた会社では、当時は厳しいと判断しました。
しかし、今は、様々な支援制度なども整っているようですし、特例子会社で取り組んでいるところもありますので、少し状況は変わっているかもしれません。しかし、採算面でトントンにするには、6次産業化を図ったり、流通面でも工夫するなど、障害者が主に従事する農業以外のビジネスモデルの構築は不可欠になってくるでしょう。また、自社だけで取り組むことは難しく、地元農家や農協、行政とのネットワークも大切になってきます。
まとめ
農福連携による障害者の就農促進プロジェクトは、ここ数年注目されてきました。農業分野での障害者の就労を支援し、障害者にとっての職域拡大や働くことでの収入拡大、農業にとっての担い手不足解消につなげ、地方の創生及び経済の成長に貢献するという一定の効果が見えてきたためだと思われます。
しかし、障害者雇用にとって悩んでいる企業にとって、農業で障害者雇用の可能性について考えてみると、取り組める企業もあるでしょうが、ほとんどの企業はかなり難しいのではないかと感じています。実際に、農福連携に取り組んでいるところの多くは、A型事業所、B型事業所の福祉施設がほとんどです。
障害者雇用の事業だけで収益をトントンにするためには、障害者が働く労働力に見合う対価だけで回すことはかなり難しいと思います。私は障害者雇用に携わっている企業を数多く見学したり、ヒアリングさせてもらいましたが、成功している企業はそれなりのビジネスモデルを持っていると感じています。農業に取り組んでいるある特例子会社でも、農業に関連するものの別の収益モデルを持っていました。
企業として障害者雇用を農業分野で進めるには、いろいろと難しいことがあることをお伝えしてきましたが、農福連携の場が広がることはとてもいいことだと思っています。福祉施設で農福連携を取り組むことによって、就労訓練から企業就労につながったり、地域との交流を通して障害者理解が深まればよいと感じます。
農福連携に関する資料
農福連携に関する調査や報告書
平成 30 年度農福連携における実態把握に向けた調査検討委託事業
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