障害者虐待、知らないと企業リスクに!本当に「指導、教育」ですか?

障害者虐待、知らないと企業リスクに!本当に「指導、教育」ですか?

2024年01月17日 | 障害者雇用に関する法律・制度

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企業には障害者雇用の義務があり、これには障害者の尊厳と自立を促進する役割が伴います。この障害者の尊厳について定めた法律が障害者虐待防止法です。障害者の権利擁護を目的としています。

企業は法律の趣旨を理解し、障害者虐待に関する責任とその具体的な行為を把握することが重要です。ここでは障害者虐待防止法の概要と企業の対応方法について紹介していきます。

障害者虐待防止法の概要

障害者虐待防止法は、障害者が自分の被害を伝えるのが難しい場合や自衛方法を知らないことによる虐待を防ぐための法律です。2011年に制定され、2012年より施行されています。

法律の主目的は、障害者の尊厳を守り、自立や社会参加を促進することです。法律は虐待行為の禁止だけでなく、障害者の権利擁護、虐待の予防や早期発見、障害者を支援する人々への支援策も定めています。

障害者虐待防止法の「障害者」とは、身体的、知的、精神的障害(発達障害を含む)、または日常生活や社会生活において継続的な制限を受ける心身の機能障害を持つ人々を指します。法律はこれらの障害の多様性を考慮し、これらの人々の権利保護と福祉向上を目指しています。

虐待防止は福祉機関のみならず、企業でも意識する必要があります。法律は「養護者による虐待」、「福祉施設職員による虐待」、そして「使用者(企業)による虐待」の防止を規定しています。

養護者は親族や家族を指し、施設職員には障害者支援施設やサービスに関わるスタッフが含まれます。企業における虐待には、事業主や上司、担当者、同僚などが関わる可能性があります。工場長、労務管理者、上司などの責任者だけでなく、人事担当者や同僚、障がい者と一緒に働くあらゆる社員、職員、スタッフが含まれることに注意が必要です。

企業での障害者虐待の状況

令和4年度に障害者虐待の通報・届出のあった事業所数は1,230事業所で、このうち虐待が認められた事業所数は430事業所でした。

出典:令和4年度使用者による障害者虐待の状況等(厚生労働省)

また、通報・届出の対象となった障害者数は1,433人、虐待が認められた障害者数は656人でした。

出典:令和4年度使用者による障害者虐待の状況等(厚生労働省)

虐待種別・障害種別障害者数は、次のとおりです。

出典:令和4年度使用者による障害者虐待の状況等(厚生労働省)

どんなことが虐待になるの?

虐待には、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待、経済的虐待があります。

1.身体的虐待
身体的虐待は、障害者の身体に直接的な傷害を与える行為を指します。これには、殴打、蹴打、熱物によるやけど、物を投げつけるなどの暴行が含まれます。また、障害者を無理やり拘束する行為も身体的虐待に含まれることがあります。身体的虐待は、障害者に肉体的な傷だけでなく、深刻な心理的トラウマをもたらす可能性があります。

2.性的虐待
性的虐待は、障害者に対する性的な行為、または性的な虐待を行うことを指します。これには、障害者への性的な接触、性的暴行、わいせつな行為や写真の撮影などが含まれます。性的虐待は、障害者の性的な自由と尊厳を侵害する重大な犯罪行為であり、深刻な心理的な影響を及ぼすことがあります。

3.ネグレクト(放任)
放任は、障害者に必要な食事や医療、介護などの基本的な生活支援を提供しないことを指します。これには、栄養不足や衛生状態の悪化、必要な医療や介護の欠如などが含まれます。放任は、障害者の健康や生活の質を著しく低下させる行為です。

4.心理的虐待
心理的虐待は、障害者に対する言葉の暴力や感情的な虐待、威嚇や脅迫など、心理的な苦痛を与える行為を指します。これには、侮辱、蔑視、無視、脅迫などが含まれます。心理的虐待は、障害者の自尊心や自信を低下させ、深刻な精神的なダメージを与えることがあります。

5.経済的虐待
経済的虐待は、障害者の財産を不正に使用、管理することや、経済的な搾取を行うことを指します。これには、障害者のお金や財産を無断で使う、経済的な依存状態を利用した搾取などが含まれます。経済的虐待は、障害者の経済的自立と安定を脅かす行為です。

企業での虐待の具体例と対処法

報告された企業での虐待事例

企業(使用者)の虐待として報告されているのは、経済的虐待と心理的虐待が最も多くなっています。「令和4年度使用者による障害者虐待の状況等」では、次のような事例が報告されています。

事例1:身体的・心理的虐待が認められた事例

【通報・届出の概要】
・障害種別:知的障害
・就労形態:正社員
・事業所の規模:5人~29人
・業種:生活関連サービス業、娯楽業
・内容:相談支援事業所の相談支援専門員から市町村経由でなされた通報事案。所属の上司から、懐中電灯で頭を殴られたり、大きな声で叱られたりしたとして、市町村に相談があった。労働局は、職業安定部(公共職業安定所)を担当部署として調査を実施した。

事業主に事情聴取したところ、相談支援事業所の相談支援専門員からの通報内容をおおむね事実として認めた。所属の上司による身体的虐待及び心理的虐待が認められたため、公共職業安定所は、事業主に対し、障害者雇用促進法に基づき、定期的に面談の機会を設けるなどトラブルの早期発見のための仕組みを構築するなどの再発防止対策を講じるよう指導した。処理終了後、労働局は、都道府県に対して情報提供を行った。

事例2:身体的虐待が認められた事例

【通報・届出の概要】
・ 障害種別:知的障害
・就労形態:正社員
・事業所の規模:5人~29人
・業種:宿泊業、飲食サービス業
・内容:障害者の家族から市町村経由でなされた通報事案。所属の上司から、腕にガスバーナーなどを押し付けられてやけどを負わされたり、殴られたりするなどの暴力を受けているとして、市町村に相談があった。労働局は、労働基準部(労働基準監督署)及び職業安定部(公共職業安定所)を担当部署として調査を実施した。

労働基準監督署、公共職業安定所及び市町村が合同で事業所を訪問し、事業主及び行為者に事情聴取したところ、障害者の家族からの通報内容をおおむね事実として認めた。

所属の上司による身体的虐待が認められたため、公共職業安定所は、事業主に対し、障害者雇用促進法に基づき、労働者への研修を実施するなどの再発防止対策を講じるよう指導するとともに、市町村が、被虐待者の安全確保のために身柄を保護して、警察に情報提供したことを確認した。処理終了後、労働局は、都道府県に対して情報提供を行った。

事例3:性的虐待が認められた事例

【通報・届出の概要】
・障害種別:精神障害
・就労形態:正社員
・事業所の規模:5人未満
・業種:建設業
・内容:障害者本人からの届出事案。所属の上司から、髪を触られるなどの性的な言動を受けたり、繰り返し食事に誘われたりしたとして労働局に相談があったもの。

労働局は、雇用環境・均等部(室)を担当部署として、調査を実施した。雇用環境・均等部(室)が事業所を訪問し、事業主に事情聴取したところ、障害者本人からの届出内容をおおむね事実として認めた。

所属の上司による性的虐待が認められたため、雇用環境・均等部(室)は、事業主に対し、男女雇用機会均等法に基づき、セクシュアルハラスメントがあってはならないことの方針の明確化やその方針の労働者への周知・啓発、相談窓口の設置などの再発防止対策を講じるよう指導した。処理終了後、労働局は、都道府県に対して情報提供を行った。

事例4 心理的虐待が認められた事例

【通報・届出の概要】
・障害種別:その他
・就労形態:パート・アルバイト
・事業所の規模:50人~99人
・業種:農業、林業
・内容:障害者本人からの届出事案。同僚の業務を手伝ったところ、事業主から「勝手なことをするな、ボケ」「辞表を出せ」などといった暴言を吐かれたとして、労働局に相談があった。

労働局は、職業安定部(公共職業安定所)を担当部署として調査を実施した。公共職業安定所が事業所を訪問し、事業主に事情聴取したところ、障害者本人からの届出内容を事実として認めた。事業主による心理的虐待が認められたため、公共職業安定所は、事業主に対し、障害者雇用促進法に基づき、雇用する障害者に業務の指導を行う場合は丁寧な言い方で行うなどの再発防止対策を講じるよう指導した。処理終了後、労働局は都道府県に対して情報提供を行った。

事例5 心理的虐待・放置等による虐待が認められた事例

【通報・届出の概要】
・障害種別:知的障害、精神障害
・ 就労形態:パート・アルバイト
・事業所の規模:5人~29人
・業種:医療、福祉
・内容:匿名の通報者から市町村経由でなされた通報事案。事業主が、業務中に作業場から抜け出した障害者を保護せずに放置したり、ミスをした別の障害者を「何やってんだ」「ふざけるな」などと大声で罵ったりしたとして、市町村に相談があった。

労働局は、職業安定部(公共職業安定所)を担当部署として、市町村と合同で調査を実施した。事業主に事情聴取したところ、匿名の通報者からの通報内容をおおむね事実として認めた。

事業主による心理的虐待及び放置等による虐待が認められたため、公共職業安定所は、事業主に対し、虐待の定義等を説明の上、障害者雇用促進法に基づき、他の労働者への指導・啓発や相談窓口の設置などの再発防止対策を講じるよう指導した。処理終了後、労働局は、都道府県に対して情報提供を行った。

事例6 経済的虐待が認められた事例

【通報・届出の概要】
・障害種別:知的障害
・就労形態:パート・アルバイト
・事業所の規模:5人~29人
・業種:医療、福祉
・内容:労働基準監督署が臨検監督において発見した事案。

福祉の業務について最低賃金の減額特例許可を受けていた障害者を、当該許可で認められた業務とは異なる医療に関わる業務に従事させていたもの。
※ 減額特例とは、一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの特定の労働者について、使用者が都道府県労働局⾧の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められる制度。

労働基準監督署が監督指導を実施し、障害者の勤務実態等を確認した。最低賃金の減額特例許可において認められた業務以外の業務に従事させる場合、最低賃金以上の賃金の支払いが必要であるところ、複数の障害者に対して、当該許可において認められた業務とは異なる業務に従事させているにもかかわらず、最低賃金未満の賃金を支払っていた事実が認められた。

事業主による経済的虐待が認められたため、労働基準監督署は、事業主に対し、最低賃金法に基づき、地域別最低賃金額との差額を支払うよう指導した。処理終了後、労働局は都道府県に対して情報提供を行った。

企業ができる対応策

厚生労働省から発表されているほどの虐待はないものの、企業で発生しやすい虐待には次のようなものがあります。

・ネグレクト
仕事を与えない、意図的に無視する、放置する、住み込みで食事を提供することになっているにもかかわらず食事を与えないなど、健康や安全への配慮を怠ることなど。

・心理的虐待
脅迫する、怒鳴る、悪口を言う、拒絶的な反応を示す、他の社員と違った差別的な扱いをする、意図的に恥をかかせるなど。

・経済的虐待
障害者に賃金を支払わない、賃金額が最低賃金に満たない、強制的に通帳を管理する、本人の了解を得ずに現金を引き出すなど。

気をつけたい点は、虐待が発生しているときに、虐待をしている人(虐待者)、虐待を受けている人(被虐待者)に自覚があるとは限らないということです。ときには、虐待をしている人が「指導、しつけ、教育」という名のもとに虐待を行っている場合があります。

また、虐待を受けている人が、障害の特性から自分の受けている行為が虐待だと認識することが難しい場合もあります。そのためこのような状況がおかしい、虐待だと気づくような社員教育を行っておくことが大切です。研修では、障害者の人権、障害特性に応じた対応方法、虐待行為の定義と報告手順などを学べるようにしておくとよいでしょう。

さらに障害者虐待を未然に防ぐため、研修の実施の他にも、苦情処理体制の整備、不利益取扱いの禁止などの措置が求められます。苦情処理体制では、障害者やその家族が安心して相談できる窓口を設置し、迅速かつ適切な対応を行うことが重要です。

虐待発見時の対応として、事業所所在地の市町村または都道府県の障害者虐待対応窓口に連絡することが、以下のように規定されています。

出典:使用者による障害者虐待をなくそう(厚生労働省)

しかし、外部に連絡することはハードルが高いかもしれません。まずは、組織内の上司や部門長に相談したり、相談窓口を利用するとよいでしょう。

企業が障害者虐待防止法を理解し、適切な対応を行うことは、障害者雇用の促進だけでなく、企業文化の向上にも寄与します。障害者の尊厳と権利を保護する重要な役割を担い、法律を遵守することにより、誰にでも働きやすい職場をつくることにも繋がります。

参考

障害者の給与でよく聞く最低賃金とは?法律、減額特例許可制度を解説

令和5年障害者雇用状況の集計結果からみた今後の障害者雇用とは

異能の人材を発掘、キャリアアップする特例子会社デジタルハーツプラス

企業が知っておくべき障害者虐待防止法の基本と対応方法

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